殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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――――・・・夜も更けてまいりましたわ
さあ、今宵は古い古い「月光」のお話をいたしましょうね
この世とあの世が分かれて、まだ間もない頃・・・遠い遠い、昔のお話でございます――――・・・・
・・・この世には、けして混じり合うことのない二つの世界がございます
光と闇 清と邪 生と死・・・・・
陽があれば陰があり、陰があるからこそ陽がある
わたくしたちの住む世界は、その陰陽の均衡の上に成り立っているのでございます
・・・・けして交わることのない陰陽の二つの世界
・・・・・・けれど、それらも境界線ではわずかに交わることがあるのです
例えて言うなれば・・・・光と闇が入り交じる夕闇の訪れは”逢魔が時 ”
”賽の河原”に”黄泉比良坂”に”三途の川”・・・様々な名で呼ばれる、”この世とあの世のあわい”
肉体を失ってなお、この世にとどまり続ける霊や魂たち・・・・
形はなけれども、そこここに宿る神や精霊・・・・
これらは、まだ世界が混沌としていた頃・・・神の世の名残なのでございます
――――― 今宵は、その神代(かみよ)のお話でございます
遠い遠い昔、夜空に月はなく、夜は光の届かぬ真の闇の世界でございました
太陽が落ちるとそこは、冥界に繋がる深い深い闇
この世に再び太陽が昇り朝がくるまで、夜は黄泉の悪鬼たちが支配しておりました
高天原から下界をご覧になった神々は、お悩みになられました
この国は、本来は八百万の神々が治めるべき豊かな国
このように夜な夜な悪鬼がさまようようでは、清らかな神々が豊芦原の中つ国に降り立つことすら出来ぬ、と
そこで、神々は夜の世界に一つの光を送りこまれたのでございます
夜の闇をあまねく照らし、黄泉を遠ざける光・・・・それは、月の光でございました
――――― 夜の月を治めしは、月読命<ツクヨミ>さま
そのお姿は月の化身のごとく
白銀の御髪、淡き金色の涼やかなまなざし、まさに月の光のような静謐で尊いお姿・・・
高天原をしろしめす天照<アマテラス>さまを姉に持たれ、
海原をしろすめす須佐之男<スサノオ>さまを弟に持たれ、
父イザナギさまからは、そなたは月の光を持ちて夜の世界をしろしめせと命を受けられた、尊い神様でございます
八百万の神々にとって、高天原の神々の決定は絶対にございます
月読命さまは、夜の世界を光で照らし、闇を退け、神々が世を支配できるようになさるのがお役目にございました
・・・・しかし、いかがでございましょう?
わたくしたちが見る月光は、静謐で美しくはありまするが、闇を退けているほどでもございませぬ
夜の世界を照らす姿もゆらゆらと移りゆき、その姿を見せぬ夜すらございます
月光とは、とても曖昧な光だとは思われませぬか・・・?
なぜなのでございましょう・・・・?
――――― それも仕方のないことなのでございます
月読命さまは夜の世界へおもむき、そこである姫に出会われたのでございます
――――― 月読命が出会われたのは、冥界の主の娘・・・闇姫さま
そのお姿はまさに、闇の中で光る宝玉のごとし
輝く漆黒の髪、金剛石の煌めく瞳、真白な肌は磨き抜かれた真珠のよう・・・
闇姫さまは、月読命さまがそれまで出会われたどんな女神さまよりもお美しかった
そしてまた、ずっと闇の世界でお育ちになられた闇姫さまにとっても、月読命さまのお姿は、それはそれは眩いものだったので
ございます
・・・月読命さまと闇姫さまは、互いに一目で、恋に落ちてしまわれました
そして月読命さまは、空に月をのせることすら忘れてしまうほどに、闇姫さまと愛し合われたのでございます
・・・・・恋とは、まこと恐ろしき力を秘めているものにございます
天上から参られた尊い神ですら、その力にあがらうことは叶いませんでした
されど、月読命さまにとって、父・イザナギさまの命は絶対にございます
いつまでも闇姫さまと睦みあい、この世の夜を闇のままにしておくわけにも参りませぬ
夜に光をもたらすというこのお役目は、誰ぞに変わってもらうことのできぬ類のもの
月を操れるのは、この世で月読命さまだけが成しうる神業だったのでございます
・・・・月読命さまは、深くお悩みになられました
実は、闇でお育ちになられた闇姫さまは、闇の中でのみ存在しうる姫君さまだったのでございます
星々のような淡い光ならまだしも、強い光の中では、そのお姿を保つことができませぬ
照らすものに影さえ作る月の光は、闇でお育ちになられた闇姫さまには強すぎる光でございました
・・・けれど、このまま夜空に月を乗せずにいれば、お父上であられるイザナギさまをはじめ、高天原の神々のお怒りを
かうのは火を見るより明らかでございます
・・・己の使命と闇姫さまとの狭間でお悩みになられる月読命さまに、闇姫さまは仰せになられました
――――― 愛しい愛しい我が君よ
わたくしには構わず、どうぞ空へ昇り、お役目どおり夜空に月を浮かべて下さいませ
黄泉の鬼たちには、月の光の届かぬ冥界から外へは出ぬようにと、父とわたくしから言い聞かせます
さすれば、夜の世界は高天原の神々が治められる穏やかな世界となりましょう
これで、あなたさまが高天原の神々から罰せられることもありますまい
・・・けれど、どうかひとつだけお約束下さいませ
せめて、月に一度・・・
空から降りて、わたくしの元へ、通ってきては下さいませぬか
あなたさまが夜空でわたくしを想うて下さるように・・・わたくしも、闇の奥で愛しい我が君を想い続けましょう
月に一度、あなたさまがお越し下さるのを待ちながら、永遠に・・・・・
・・・こうして、月読命さまと闇姫さまは互いを想いつつも、分かれてお暮らしになられることとなったのです
月読命さまは約束通り、月に一度だけ夜空から地上に降りられ、闇姫さまの元へお通いになられました
けれど、離れておればおるだけ、闇姫さまを愛しく想う気持ちは募るばかり・・・心は寂しさに揺れ動くばかり・・・
ですから、月の姿は月読命さまのお心にあわせて、大きくなったり小さくなったり、ゆらゆらと揺れ動くのだそうにございます
そして、月読命さまが闇姫さまのもとに通われるその夜は、月が空に上らぬ「朔」という闇夜になったそうにございます
――――― さて、何百年ほど後のことか・・・
月読命さまと闇姫さまの間には、御子がお生まれになりました
その存在は、まさに、光と闇のあわい
・・・そう、御子は、妖として生を受けられたのでございます
月読命さまも闇姫さまも、たった一人の御子を、それはそれは慈しんでお育てになられました
闇であり、光であり、生であり、死であり、そのすべてに愛された妖・・・
「闇月の君」と呼ばれたその御方は、ご両親のお姿を受け継ぎ、額には月の文様、頬には闇の主の印、そして比類無き
美しさを誇ったそうにございます
そして時折、長い尾を持つ真白な狗に姿を変えることがあったそうにございます・・・・
・・・・月の光が美しきは、そばに闇ありてこそ
・・・・・・月読命さまの月の光が夜の闇に甘く溶けるのは、御子である妖さまと、闇姫さまを想うお気持ちゆえなのでございます
――――― お分かりになりましたか?
この 『 闇月の君 』 こそ、我ら、狗一族の始祖でいらっしゃるのです
遡れば神の系譜へと辿りつく血筋、それが我ら一族の誇りであり、力の源なのでございます
まあ、殺生丸さま・・・
そんなに目をお擦りになられて・・・・
もう、眠うなられたのでございますか?
・・・・
・・・まあ、わたくしの話がつまらぬ、と?
ふふ、まだ殺生丸さまに恋のお話は早うございましたわね・・・
さあ、今宵はもうお休みなさいませ
夜も更けましてございます
――――― 今宵はきっと、いい夢が見れましてよ・・・・・
乳母の寝物語・・・・・終