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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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医王の里<5>



私が問うと、美しい金色の目を細め、奥方はゆるりと里を見渡した。
冬の雪の様な真っ白な肌に、椿のつぼみのような朱の唇。
美しいという表現では足りぬほどの神々しさをたたえたまま、闘牙王の奥方は、ゆっくりと口を開いた。

「・・・・・闘牙王が残した結界は数多くあるが、もっとも強力で複雑な結界がここだったのじゃ。
 それゆえ、何か珍しいものでもあるのだろうかと思って来てみたのだ。 ・・・・・・暇つぶしにな」

そう言って面白そうに里を眺めているその姿は、夫を偲ぶというふうでもなく、昔聞いた、闘牙王の話を思い出しながら、
この美しい奥方は、きっと本当に暇つぶしに来たのだろうと、私は思った。

「・・・ここにある珍しいものといえば、妖命丸という私どもの作る薬くらいでしょう。
 闘牙王がこんなに複雑で強い結界を張ったのは、 ここで人間の姫との間に出来た半妖の子供を育てるつもりだったから
  です。 奥方は、その半妖の子がどうなったか・・・ご存じありませんか。  闘牙王から頼まれて我らは屋敷を建て、
 姫と御子がやってくるのを待っていたのです」

私の問いかけは、もしかしたら、奥方の気分を害すかもしれないと思ったが、私は、闘牙王の人間の妻と半妖の子供のことが
ずっと気になって仕方が無かったので、聞かずにはいられなかった。
奥方は、ふふん、と笑って、「知らぬ」と言った。

「無事生まれ、母親と共に生き延びたと、噂には聞いているがな。  実際に見て確かめたわけではないし、二人が今も
 息災かどうかは分からん。 そやつらを見つけだして、この里まで案内するほど、私には親切ではないぞ」

「・・・そう、ですか」

今、その人間の姫と生まれ落ちた半妖は、一体どうしているのだろう。
私には変わり者で優しい岩井がいたから幸せな子供時代を送れたが、冬久が言うように、暮らしにくい人間の世界で、辛い思いをしていないといいのだが。
私の顔が曇ったのをみて、美しい奥方は、ゆったりと里を見渡した。

「・・・確かに、あやつがここで子を育てたいと思った理由も分かる。 あいつは一人目の子が出来たときも、母である私なぞより
 ずっと子煩悩だったからな。 今、外の人界は、荒れに荒れておる。 最近では、人間どもの残した怨念を喰い、妖も邪悪な
 力を増してきているからな。 半端な妖では、人界で生き抜くのは難しいだろうよ。 竜骨精との戦いで傷を負い、自分の死が
 近いことに気がついたあの男は、この里の結界が綻ぶことを恐れて、私にこの結界を託して逝きおった。 闘牙王は、
 よほど、この里を守りたかったのだな。 ・・・まあ、そんな訳で、そなた達は知らなかっただろうが、 今、この里の結界は、
 私がこの力で維持している」

「そう・・・だったのですか」 

私は、驚いてしまった。
人間の妻の住処を守るための結界を、妖怪の妻に任せていたなんて。 闘牙王は、よほどこの妖の妻を信頼しているのだろう。
・・・あまり面倒見がいいとは言えないが。

驚いている私の目の前で、奥方はふわりと浮き上がった。

「・・・医王とやら。 その妖命丸とやらの噂は、兼ねてより聞いている。  その薬を作れるのはこの里だけで、そなたの医仙の
 力の賜だということもな。 闘牙王亡き後、西国を預かる私としては、この里を他の妖怪に受け渡すわけにはいかぬ。
 大きな戦が起きれば、戦局を動かす駒になってしまうからな。  この後も私がこの里の結界は守ってやるから、その妖命丸は
 年に一度、出来上がった半分を私の天空の宮まで納めに来い。 ・・・守ってやるのだから、代償は必要だろう?」

「・・・はい」

私はうなずいた。
この里の結界が無くなったら、私たちのこの里は、あっという間に恐ろしい妖たちに喰い尽くされてしまうだろう。
それほどまでに、外界は荒れている。 救いを求め、この里を覆う結界を越えてやってくるものたちから、その話は聞いていた。
守られる代償として妖命丸を納めることは、今のところ問題無い。
毎年、秋に出来上がる薬の半分をこの奥方に納めたところで、 この里の妖命樹はどんどん増えていて、治療に必要な分は充分残るのだ。

白尾を靡かせ空に浮いた奥方は、この里の一番高い岡の上にある、大きな屋敷を見ていた。
・・・主のいない、人間の姫と半妖の子供が住むはずだった屋敷だ。

「・・・まあ、気位の高い我らの一族とて、まれに半妖は生まれる。  闘牙王のような変わり者がいないわけではないからな。
 また、いつ、そなたたちの用意した屋敷が必要になるか分からん。  あの屋敷はいつでも使えるようにしておけ、医王とやら。
 ・・・よいな」

闘牙王と違い、奥方には私と対等な目線で関わろうという姿勢は一切無い。

空の上から一方的にそう言うと、私の返事を待たずに空へと身を翻し、闘牙王より幾分柔らかな体躯の狗に変化すると、
大空へ駆け上がり結界へと消えていった。






※※※※








それから、毎年、秋になると天空の宮城からの使者がくるようになって、 私は約束通り、出来上がった妖命丸の半分を
闘牙王の奥方に納めるようになった。
遣わされた空を駆ける妖に乗って、巨大な天空の宮城まで妖命丸を納めに行くのは、私の、年に一度の楽しみになった。
奥方の住む宮の大きいことと言ったら、私の住む里がいくつ入るのか分からない位だ。
通される使者の間は毎年違って、その部屋の中にある様々な飾りを見ているだけでも、数日が過ぎてしまいそうなほどだった。

私は天空の宮に行く度に、闘牙王のもう一人の息子はどこにいるのだろうと、屋敷の中をうろうろと探してみた。

・・・だが一度も、殺生丸という息子に会うことはできなかった。

もしも闘牙王に似ているのなら、一度会ってみたかった。
あの優しい瞳は、息子に受け継がれているのだろうか。
こんなに広い屋敷なのだから会えなくても仕方がないか、と残念に思っていたが、使者の話によると、殺生丸という息子は
闘牙王の残した刀を探して旅に出ていて、この天空の宮にはいないのだという。

奥方とは年に一度、謁見の際に、少しだけ言葉を交わしたが、相変わらず

「つまらん、暇だ。 医王よ、何か面白い話はないのか?」

と言っていて、私は、里で見聞きした話や、里に住む妖たちの話を、いくつか話して聞かせた。
私の里が結界に守られているためか、私が口べただからなのか、奥方はいつも私の話を聞いて最後には必ず、

「・・・相変わらず、そなたの里は平和だの。・・・・つまらん」

と、ため息まじりに言った。
「あれには、私もかなわん」と苦笑していた闘牙王を思い出して、私はくすくすと笑った。

奥方の言いつけ通り、人間の妻と半妖の為に里に作った屋敷はしっかりと手入れだけはしていたが、この屋敷が必要だと
言われることはついぞ無いままだった。


詠月と柚月は、闘牙王の言った通り私の医仙の才を受け継いでおり、私と同じように病魔が見える医師へと成長してくれた。

・・・妖の永い命を子供たちに引き継ぎ、人間と同じように年齢を重ねるようになると、時の経つのは急に早くなるらしい。
冬久の頭に、ずいぶん白髪が増えたものだと思っていたら、私の頭にも、同じように白いものが混じり始めた。

・・・私の心の臓から、黒い陰が滲み出てきたのは、そんな頃だった。

二人の子供たちは、私の身体から黒い影が染み出しているのを見つけると、それこそ必死に治療法が無いかと手を尽くして
くれたが、私にはこの陰が岩井とおなじ、決して消えぬ陰だと分かっていた。

・・・私の見立てでは、もって、あと一ヶ月。

「・・・私はずいぶん長く生きたからな。 心の臓が、もう持たなくなったんだろう」

・・・私がそう言うと、冬久は一瞬顔を歪め、涙を浮かべたが、それからは、ずっと、ずっと、片時も離れず、私の傍にいてくれた。
寝たきりになった私は、白髪混じりの冬久を、何度か晩年の岩井と間違えた。
岩井と間違うたびに、冬久は優しく微笑んで、私の額に口づけた。
・・・・・・冬久は、本当に本当に、優しかった。


冬久に会うことができて、本当によかった。
冬久の妻になることができて、本当に嬉しかった。
詠月と柚月を産むことができて、本当に幸せだった。

・・・あの日、勇気をだして、木の上から冬久に声を掛けて、本当によかった。
・・・・・・私を、魂だけになっても、冬久の傍にいさせて欲しい。

私がそう言うと、冬久は、微笑んだまま、私の枕元で静かに泣いた。

「・・・待っててくれ、イノ。 僕が傍に行くまで」

そう、言いながら。



死期を悟ってから、一か月後。
私は、冬久と詠月と柚月、そして里の者たちに見守られ、長い生を終えた。



・・・・・・永くて、とても、幸せな一生だったと思う
 

・・・・・・・・私が、魂となった冬久に再び会うことが出来たのは、それから5年後だ










エピローグ








・・・・・・ねえ、ねえ、ふゆひさ

・・・・・・どうした、いの


・・・やっと、にんげんの、ひめがきたよ

・・・ほんとうだ


・・・そばにいるのは、すごいあやかしだ

・・・ほんとうだ、すごいあやかしだね


・・・・・しあわせそうだね

・・・・・ほんとだ



・・・・ふふふ、よかったね

・・・・ふゆひさのつくったおやしき、やっとやくにたったね

・・・・・・・ほんとだね、いの



・・・ああ、いの・・・

・・・・ほら、また、にしのほうで、くるしんでいるこえがするよ

・・・・ほんとうだ、ふゆひさ、むかえにいってあげよう

・・・・・・・そうだね、たすけてあげなくちゃ

・・・・・おやまへおいで くすしのさとへ

・・・・・なおしてあげよう そなたのきずを



・・・・・・・・われらは こだま

・・・・・・・・・ひかりとなって みちびこう

・・・・・・・・・・・・おやまへおいで くすしのさとへ






医王の里・・・終


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