
殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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『はじまりの森』の殺生丸さまの目線。 
傷ついて動けない、誇り高い獣。 
必死に介抱しようとする人間の娘。 
呱呱(ここ)の声 
・・・なぜ私の後を追うのか、と疑問に思わなかったといえば嘘になる。 
ただ、あの娘が私の後を追うのは、至極当然のような気もした。 
あの娘を助けたこと、あれが人間どもの言う「情け」であったかというとそうでもない。 
己の中にそういう人間じみた感情は無いからだ。 
・・・初めてだっただけだ。 
驚いた、というほどのことでもないが、珍しくはあった。 
あのような脆く弱いものが、己の身もかえりみずに私を助けようとしたことが。 
私の強大な妖力を前にして、逃げださぬものは少ない。 
あの日、私が森の中で気が付いたとき、そばにいたのはあの娘だけだった。 
・・・森には私の気配を恐れて獣一匹おらぬと言うのに。 
私は近づいてくるりんを威嚇したが、あの娘は怯まなかった。 
介抱のつもりか、私に水をかけおった。 
甲斐甲斐しく、何度も食べ物を運んでくる。 
口に合わぬ、よけいな真似をするな、と突き放しても、 
毎日めげずに何かしら持ってきて、私の様子を伺っていた。 
・・・。 
あのような傷を受けて動けなくなったのは、初めてだった。 
天生牙が私を助け、守り、犬夜叉から遠ざけたのは分かっていたが、 
それを私の誇りが許せなかった。 
・・・屈辱だった。 
父上の刀に負けたことで、己の力が父上に全く届いていないことを思い知らされた。 
このような屈辱的な姿、何人たりとも見ることを許さぬ。 
常の私なら、そう思ったことだろう。 
目を開けたときにそばにいた、触れれば一瞬で死に至る、か弱い人間の娘。 
・・・許せぬ、とも思えなかった。 
邪魔なら、消せばよい。 
私にとって人間とはそういう存在だった。 
だが、真剣な目をして私の容態を案じるこの娘を何度も見ているうちに、 
私の中にぽつりと何かが生まれた。 
か弱く、脆く、口のきけないむすめ。 
このような脆いものが私を救おうなど。 
・・・・愚かしいにも程がある。
それでもある日、娘の顔が殴られて腫れていたときには、
なんともいえぬ気持ちがした。 
こんな感情をもったのは、初めてだった。 
人間どものことなど、分からぬ。 
だが、このようなか弱い娘が殴られるのか。 
・・・もしや、私に食べさせようとしている魚のせいか・・・? 
見れば、持ってくる食い物が小さな子供でも簡単にとれそうな山菜に変わった。 
どちらにしても手をつけぬのに。 
・・・愚かな娘だ。 
「顔の傷はどうした」 
そう問うた後、口を利けぬことに気が付き、 
「言いたくなければべつによい」 
といった。 
・・・あの娘は笑った。 
なぜ喜ぶのか私には分からなかった。 
様子を聞いただけだ。 
・・・。 
後日、口の利けるようになったりんは私に何度も礼を言った。 
「ありがとう、殺生丸様。りんのこと心配してくれて」と。 
「りん、嬉しかったんだよ、あのとき」と。 
朴仙翁の言ったとおり、私の心は人間とは違う。 
たとえ死ぬ間際でも、恐らく心は冷えたまま。 
確かに、犬夜叉やその仲間のように感情に振り回され、 
取り乱したりすることはなかろう。 
・・・だが、それは感情が無いわけではない。 
あの娘が狼に殺されているのを見たとき、 
静かな心で、私はあのぽつりと生まれた感情を思った。 
手折られる前の花のような笑顔だった。 
土にまみれ、生気を失った小さな屍。 
この道を、どのような思いであの娘は私をめがけて駆け、逃げてきたのだろう。 
試してみるか、と思った。 
あの世より魂を呼び戻す、癒しの天生牙。 
この刀を使ってみようなど思ったことなどただの一度も無かった。 
だが、あの娘の笑顔が浮かんだ。 
殴られて腫れた顔で、嬉しそうに微笑んだ娘の顔が。 
・・・笑っているのが、あの娘には相応しい気がした。 
天生牙を抜くとあの世の使いどもが見えた。 
娘の体にまとわりつくそれらを、一太刀で切り捨て、 
か細い肩に手をかけ、抱き起こした。 
木の枝のように軽い。 
痩せて、決して肉付きの良いとはいえぬ体は、 
この娘の生活がどのようなものかを物語っていた。 
・・・とくん、 
娘の心の臓が動き始めたとき、私は思わず息をのんだ。 
さあっと娘の頬に赤みがさし、眠りから覚めるように目を開けた。 
先ほどまで死んでいたとは到底思えぬしっかりとした足取りで、 
娘は立ち上がった。 
黒い瞳は、まっすぐに私を見ていた。 
・・・天生牙よ・・・私に人間を助けさせたか・・・ 
狼の臭い、人間の血の臭い、それにあの半妖の臭いが風にのって届く。 
私は踵を返し、阿吽を残してきた草原へと足を向けた。 
・・・あの娘が、迷い無く私を追う足音が聞こえる。 
なぜ私の後を追うのか、と疑問に思わなかったといえば嘘になる。 
ただ、あの娘が私の後を追うのは、至極当然のような気もした。 
・・・そして、付いてくるなら好きにしろ、と思った。 
あの健やかな笑顔が、私のそばで咲かせられるのならば。 
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