あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

神語り・・・水分神<2>

ご登場いただくミクマリカミさまは、古事記でも初期に登場する神様。
水神さんと呼ばれ、稲作文化の日本人には非常に身近な神様です。



神語り・・・水分神<2>






とぽぽぽぽ・・・

殺生丸の持つ杯に、金色の酒が満ちた。
杯から淡い金色の光がこぼれでる。

「殺生丸様・・・金色の目を持つ、誇り高き狗神の一族よ。
 これはミクマリカミさまの天界の神酒でございます。
 金色の光は、いのちの光。めぐる光。どうぞ、お召しくださいませ」

真っ白の狩衣と狐の面を付けた男が、殺生丸に恭しく頭を下げた。




「・・・子は好きじゃ」

そういったミクマリカミはりんの頭をくりくりと撫で、
殺生丸にりんとの一時を請うた。

「少し、共に時を過ごしても良いか?」と。

あまりにわくわくしているりんの顔を見た殺生丸はあきらめたようにため息をつき、
「好きにするがいい」と言って、社の中に腰を下ろした。

「せ、殺生丸さま、よろしいので・・・?」

オロオロする邪見を一瞥すると、殺生丸は目を閉じた。
恐らく、害はないのだろう、主が許すということは。
・・・だが、神は気まぐれだ。
邪見はごくり、と喉を鳴らした。

「ねえ、ミクマリカミさま、どうして体が光ってるの?」

ミクマリカミはりんの頭をくりくりと撫でる。

「式を出そう」

ミクマリカミが袖を一振りすると金色の光る粉が舞い散り、
社は建てられた時の状態に一変した。
清々しい檜の香りが漂い、黒くくすんだ板の間は一瞬で白木に変わる。
りんの横には美しい朱塗りの雪洞(ぼんぼり)が一対ならび、
周囲は真新しい御簾がぐるりと囲んでいる。
雪洞に照らされた天井は極彩色の奉納画で埋まっていて、
部屋の隅には藤色の美しい衣が掛かった几帳まであった。

りんはこんなに美しいしつらえを見たのは初めてで、
「うわぁ」と思わず声を挙げた。

「ミクマリカミさま、お久しゅうございます」

几帳の後ろから狐の面をかぶった男が出てきた。
真っ白の狩衣を着ている。
殺生丸は視線だけを動かして男を見る。

・・・この世のものではない。式神。

「あっ、もしかして、お社にあったお狐さま?!」

りんが、声をあげる。
男の面に、見覚えがある。
あの古びた社で転がっていた、あの置物の狐の顔だ。

「ええ、そうでございます。お会い出来て嬉しゅうございます」

「わぁ、はじめまして、りんっていいます」

「・・・久しいな、ナギよ」

「お待ち申し上げておりました。ミクマリカミさま・・・」

ナギはミクマリカミにひれ伏した。

「ナギよ、殺生丸殿に神酒を振る舞ってくれぬか」

「はい、畏まりましてございます」

ナギはゆるゆると立ち上がり、神殿から三宝に乗った瓶子と杯を殺生丸へ運ぶ。

はらはらとしながら見守っていた邪見の目の前で、
殺生丸は差し出された三宝から、ゆったりと杯を受け取った。

とぽぽぽぽ・・・

殺生丸の持つ杯に、金色の酒が満ちた。
杯から淡い金色の光がこぼれでる。

「殺生丸様・・・金色の目を持つ、誇り高き狗神の一族よ。
 これはミクマリカミさまの天界の神酒でございます。
 金色の光は、いのちの光。めぐる光。どうぞ、お召しくだされ」

ナギはうやうやしく頭を下げる。

「せ、殺生丸さま」

不安なのだろう、邪見がぎゅう、と殺生丸の袖を握りしめている。
邪見の様子を一顧だにせず、殺生丸は杯に目を落とす。
芳醇な香りがたちのぼり、鼻腔をくすぐる。

「・・・」

殺生丸は無言で杯を口に運ぶ。
口に含むと酒はとろりと冷たく、喉を滑り落ちてゆく。

その瞬間、流れ込むのは、水の精、巡る命の流れ。
この世の法則、永遠の時間をすごす者の息づかい。

殺生丸は目を見開いた。

・・・流れ込んできたのは、神の世界。

金色の光がめぐり、体に妖力が漲るのを感じる。

「・・・礼のつもりか」

「満足していただけたかの?あまり下界で口にすることはないはずじゃ」

ミクマリカミはりんに向き合うと、とろけるような微笑を浮かべた。

「かわゆいの、人の子。りん。わらわは子が好きでの」

「ねえ、ミクマリカミさま、どうして光っているの?」

りんはよほど気になるらしく、同じ問いをした。

「この体か?この体はの、そこの中じゃ」

ミクマリカミは神殿の中の神棚を指さした。

「開けてみるがよいよ、りん」

「え、神棚を?!・・・いいの? ばちあたらない?」

ほほほ、とミクマリカミは笑って「よいよい」と言った。
りんはおずおずと神棚をあけると、そこに巻物が一つ置いてあった。

「開いてみるがよい」

りんはそうっと巻物をとると床に置いて、コロコロと開いてみた。

「あ・・・!!ミクマリカミさま?!」

巻物には一人の天女が描かれていた。
光り輝く天女は、まさに目の前にいる、ミクマリカミさまで。

「どうして?!」

「ずいぶん昔のことじゃ。どれくらい昔か覚えておらぬ。
 昔からわらわは人の子が好きでの。
 よくここから川の流れにのって遊ぶ人の子を眺めておった。
 ある日、その中の一人が溺れてしもうての」

「えぇっ・・・大丈夫だったの?」

「わらわは水を司る力を持っておるからの。川から人の子一人救うなど、訳もない事じゃ」

「よかったぁ」

「その人の子は、しばらくして絵師になった」

「絵師?絵を描く人のこと?」

「そうじゃ。そして、わらわの為に小さな社を造り、その巻物を納めたのじゃ」

「そうだったんだ・・・」

「なかなか美しく描かれておろう?」

「・・・うん、とっても綺麗」

りんはにこにこと笑い、ミクマリカミも微笑んだ。

「わらわも、気に入った。だからそれを寄り代としてこの姿になった。
 だがの、一つ欠点があっての・・・」

「え?」

「この光輝く姿は目立ちすぎての・・・濃い霧で覆わねば地上に降りられぬ」

「うん、すっごく光ってるもんね・・・」

「一度、そのまま降りてきたらずいぶん騒がれてしもうての。
 人の子を眺めるどころではなくなってしもうたのじゃ」

「そうだろうね・・・」

「次に霧に隠れて降りてきた時には、社が恐ろしく立派になっておったわ。
 まったく、美しい形代をとったとたん、人間とは分かりやすいものじゃな」

ミクマリカミは、ほほほ、と笑う。

「それが、このお社なの?」

「そうじゃ。あのナギも、社の凪の木より掘り出されてこの社に納められた式じゃ」

「そうだったんだ・・・。ミクマリカミさまは、ずっとここにはいないの?」

「・・・」

ミクマリカミはちょっと寂しそうに笑う。

「わらわは水を司る神じゃ。一時にも一処にも留まれぬ」

「どうして?」

ミクマリカミは、つん、とりんの額をつついた。

「わらわは、りん、そなたの中にも居るのじゃぞ」

「りんの中・・・?」

「人の体は半分以上が水なのじゃぞ?」

「・・・ええ~!!本当に?」

大きな目を更に大きくして驚くりんを、ミクマリカミは愛おしそうに撫でた。

「そうじゃ。雨を降らせ、川に流し、湖に溜め、木や草やヒトや獣や、生きとし生けるものに、
「水を分け配る」のがわらわのつとめ。故に、わらわは巡らねばならぬ。一処には留まれぬ。
 ・・・留まりたい、と感じるときもある。
 じゃがの、わらわが留まると、必ずどこかに歪みがでてしまうのじゃ」

りんは、ミクマリカミの優しい顔を見て言った。

「・・・大切な、お役目なんだね」

ミクマリカミはふわふわと金色の光を漂わせながら、微笑んでりんを撫でた。
そして、そのまま殺生丸へ向き直る。

「殺生丸どの、そなたは気付いておられるのだな。
 昨夜の雨はもうじきこの地の限りを超え、ここは大地に呑み込まれる」

「・・・」

殺生丸は無表情で持っていた杯をコトリ、と三宝へ置いた。
りんは、ミクマリカミの言う意味が分からず、首をかしげた。

「?」

「そ、それは、どういうことなので・・・?」

邪見が恐る恐るミクマリカミに聞く。

「この社は、もうじき水に耐えられなくなった土に流されよう」

「そ、そんな!!早う、ここから離れねば・・・!」

慌てふためく邪見に殺生丸は一声「黙れ」といい、邪見はぴたり、と動きを止めた。

「天地の動きはわらわには止められぬ。
 この社が流されれば、わらわも寄り代を失い、この姿も失う。」

微笑むミクマリカミから、ふわりと金色の光が舞う。

「わらわを慕ってくれたあの村が流されてしもうたのも、
 この社があとわずかで水と土に崩されるのも、
 大きく長き流れのひとつなのじゃ。
 あの村も欲を出して上流で川の流れを変えようなど思わねば
 こんなことにはならなかったのにの」

心なしか寂しそうな表情のミクマリカミは、小さく表情を揺らした。

「・・・わらわには止められなんだ。
 そして、今から起きる大地の変化に力をかすのもまた、わらわの役目じゃ。
 ・・・じゃがせめて、ナギだけでもわらわの式として救いたかった」

「ミクマリカミさま、ナギはどこまでも付いてまいります」

ナギは床でミクマリカミに頭を下げた。

「殺生丸どの」

ミクマリカミから声を掛けられて、殺生丸は視線だけをミクマリカミに向けた。

「その酒は、差し上げる。妖には万能の薬となるはずじゃ。そこにおる、小さな妖怪殿にもな」

突然の女神の微笑みを向けられて邪見は声もでず、慌てて床に平伏する。

「人の子、りんよ、人は愚かしく悲しき生き物でもあるが、
 神でも心動かされるほど強くまばゆい生き物でもある。
 わらわは人の子が好きじゃ。どれだけ見ても、見飽きぬし、愛おしい」

「ミクマリカミさま・・・」

りんは、ミクマリカミの衣をきゅっと握った。

りんの握ったところから、ふわふわと光の粉が舞う。

「ミクマリカミさま、たくさんのことを教えてくれてありがとう。
 りんに、優しくしてくれて、ありがとう。
 ミクマリカミさま、おっかあみたいだった」

りんはかすかに顔を傾けて聞いた。

「・・・また、会える?」

ミクマリカミは少し寂しげに微笑んだ。

「この社が流され、寄り代が無くなれば、この姿では居られぬ。
 ゆえに、人であるそなたには分からぬかもしれぬの。
 ・・・じゃが、わらわは水の神。そなたの中にも巡って居る。
 そなたの心ひとつじゃ。会いたいと思う心は、伝わるゆえ」

ミクマリカミは両手でりんの頬を愛おしそうにきゅっと挟んだ。

「さらばじゃ、りん」

外から、濃霧が流れ込み、りんの頬から優しい手が離れた。

「ありがとう、ミクマリカミさま!!またね!!」

りんは白い視界のなかで力一杯叫んだ。

「ありがとう!!」



ミクマリカミが去ると、見る間に霧は晴れていった。
残るは、元のままの荒れ果てた社。
転がっていた置物の中から、神狐の置物だけが消えていた。

「行っちゃったね・・・」

りんは、ぽそりと呟いた。
あんなに誰かに撫でてもらったのは、本当に久しぶりだった。
最後の優しい手のひらの感触を思い出して、頬へ手を当ててみる。
・・・きっと、また会える。
そう、思えた。

殺生丸は右手でつかんでいた瓶子を、おもむろに邪見へ向けて放った。

「あわわわわ、せっ殺生丸さま!こ、これは・・・どうすればよろしいので・・・?」

床に落ちる寸前で拾った邪見は冷や汗をかきながら、
自身の半分ほどある瓶子を抱えて殺生丸を見上げた。

「・・・阿吽にでも括りつけておけ」

そう言うと、神棚に背を向け扉から出ていってしまう。

「あ、お待ちください、殺生丸さま!!こら、りん、なにしとるんじゃっ!
 行くぞ!!ここは危ない!!」

「はぁ~い!!」

ぱたぱたと、二つの小さな足が銀色の妖怪を追いかけていく。

殺生丸はふわりと空へ向いて飛んでゆき、りんと邪見は急いで阿吽に乗り、追いかけた。
空へ向けて高みに上ると、みるみるうちに社は小さくなってゆく。

りんは風にあおられる髪を押さえて、社の方を振り返った。


その、一拍後。


あたりにすさまじい轟音が鳴り響いた。
大地がきしみ、木が裂け、山が崩れる。


逃げ切れなかった何頭かの鹿が土砂に呑み込まれていくのが見えた。
りんは、近くにあった水害の村があっというまに土砂に飲み込まれていくのをみて、
震えが這い上ってくるのを感じた。

「怖い・・・」

太刀打ちできない力。
これが、神様の力。

「邪見さまが言っていた「恐ろしい力」って、こういうことだったんだね・・・」

邪見は冷や汗をかきながら先ほどの出来事を信じられない思いで振り返る。
そもそも、神と出会って無事にすんだというだけでも重畳。

「恐ろしや・・・」

りんを可愛いと言ったあの美しい姿は、恐らくあの神の和魂(にぎみたま)。
そして、自然と一体化したこの荒々しい姿は荒魂(あらみたま)なのか。
どちらもあのミクマリカミの姿。
この力そのものが神という存在なのだ。

まったく、肝が冷えたわい・・・

邪見はごくり、と喉を鳴らした。



静かな殺生丸の声が、りんの耳に届く。

「りん」

りんは、その青ざめた顔を殺生丸へ向ける。

「・・・怖いのか」

殺生丸は無表情だ。
大自然の脅威も、そよ風にくらいしか感じていないように。

・・・でも、りんは気づく。
殺生丸さまは、りんの細かい変化を敏感に感じ取る。
ミクマリカミさまみたいに、たくさん撫でてはくれないけど。

りんは、ほにゃ、と笑った。
眼下から響いてくる地響きがやっぱり少し怖くて、情けない顔になった。

「・・・殺生丸さまがいてくれるから、大丈夫だよ」

震えながら情けない顔で笑うりんを殺生丸はしばらく見つめていたが、
何を思ったのか、近づくと、ひょいと片手であうんから抱き上げた。

「え゛?!」

見たことのない殺生丸の行動に、邪見は腰が抜けそうなほど驚き、
人頭杖を落としそうになってあわてて持ち直した。
りんは目をぱちくりして目の前の殺生丸を見つめた。

「ゆくぞ」

視線だけ邪見に向けて言うと、りんを抱いたまま目指す方向へ飛び始めた。


りんが恐れているのは神の威。
人の子には、あがらえぬ脅威。


・・・だが、私がいるのに怯える必要がどこにある。


そう思ったとき、殺生丸はりんを抱き上げていた。
何のためらいもなく。

りんは殺生丸を見上げる。

「殺生丸さま・・・?」

力強い腕にしっかりと抱かれているから、天空でも怖くはない。
殺生丸のひんやりと冷たい鎧と、白い柔らかい白尾が頬に触れる。
考えてみれば、殺生丸にこうやって腕で抱かれたのは、天生牙で救われて以来だ。

えへへ、とりんは笑った。

いつも、少しでも一緒にいたいと願っている殺生丸さまがこんなに近くにいる。
りんには、それが純粋に嬉しかった。


銀色の大妖怪は空を駆ける。
あまりに小さな温もりを抱いて。


こわばったりんの手足が柔らかくほどけ、
小鳥のさえずりのようなおしゃべりがはじまるまで、あと少し。






※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


言い訳なあとがき。


殺生丸様は男の神様がりんちゃんを撫でくり撫でくりしてたら、
多分、速攻で取り返してたと思われる。
女神さまだったから、まあいいか、と。

そんでもって、ドラクエ的にいうと、

「りんは撫でられると喜ぶ」を覚えた!!

うふふふふ。
どんどん、撫でてあげてくださいませ、殺生丸様。

そして、お互いホイミな関係になるがいいよ!!゚.+:(´艸`o)゚.+:

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