殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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――――― ちゃぷん
熱い湯で絞った布で、りんは殺生丸の体を清めていく。
怪我人や病人の世話は、もともと、りんの得意分野だ。
・・・だけど、殺生丸が相手だからだろうか。
どうしても、いつものように、手際よくできない。
殺生丸が死んでしまうかもしれない、という恐怖は去ったはずなのに、胸のドキドキは収まらない。
体を拭いている間、この手の震えが殺生丸さまに伝わりませんように、と、何度思ったことか。
きっと、妖力で傷を塞いだのだろう。
さっきまで血が滴っていたはずなのに、滑らかな殺生丸の体には、もう傷一つ無かった。
その理屈を不思議には思うけれど、ほっとしたのも事実だ。
体中にこびりついていた血を拭いては、布を盥の中のお湯で洗う。
そうやって全身を拭き清められ、清潔な小袖に着替えて閨の中で目を閉じている殺生丸は、もう、いつも通り
横になっているようにしか見えない。
りんはようやく、ほっと一息ついた。
―――――ちゃぷん
最後にもう一度、顔を拭いてあげよう。
絞った温かい布で、目を閉じたままの殺生丸の頬に、そっと触れる。
その感触に、大妖はうっすらと目を開けた。
金色の瞳が、優しくりんを見上げる。
「・・・・・」
頬、おでこ、顎、耳。
温かな湯で絞った布が、殺生丸の顔を、そっと優しく撫でていく。
「・・・きれいになったよ、殺生丸さま」
さっきまで深い切り傷があった頬は、実は、触れられるとほんの少しだけ痛い。
だが、殺生丸がそんなことを口にするはずもない。
「・・・・大丈夫・・・?」
おずおずとそう尋ねるりんは、燭台の明かりに照らされているせいか、妙に顔が赤い。
殺生丸と目が合うと、どぎまぎしたように、慌てて目を伏せてしまった。
もともと、この閨は、夫婦となった殺生丸とりんが共に眠りにつく場所だ。
屋敷の中の一番奥にあり、さらに外から内側が見えぬように薄布を張り巡らしているから、薄暗い。
むろん燭台はあるが、二人がこの中で睦み合う時は、りんの願いで明かりは灯さない。
明かりなど灯さずとも、妖の目にはすべてが見えているのだが、明るいとりんが恥ずかしいらしい。
けれど、全身血だらけの殺生丸の体を綺麗に清めるには、明かりが必要だった。
だから今日は、枕元の燭台に明かりを灯して、ボロボロになった小袖を脱がしたり、寝返りを手伝ったりしながら、
りんは殺生丸の身体の隅々を清めたのだ。
人里にいるときから病人の世話はしていたから、こういうことは慣れているつもりだった。
寝たきりの病人や怪我人の体を拭き清めたり、清潔な着物に着替えさせたり、食事を食べさせたりするのは、
楓から教わった医術の基本中の基本だ。
人里で暮らした日々で、どれだけこういう仕事をこなしてきたか分からない。
・・・それなのに、りんは、先ほどからどうしても胸の中のドキドキが収まらない。
それも、仕方ないのかもしれない。
先ほど着替えさせる時に見た殺生丸の裸体が、りんの目に焼き付いて離れないのだ。
思えば、りんがこんな無防備な姿の殺生丸を目にしたのは、初めてだ。
いつも暗がりの中でしか触れあわないから、裸体をまじまじと見たことなど、なかった。
均整のとれた、長い腕や足。 思った以上に筋肉質な、広い背中。
抱きしめられたら絶対に逃げられない、滑らかな広い胸。
毒を含んでいても、りんには甘い、手と指・・・。
この屋敷に一緒に住むようになって、あの体にりんはどれだけ愛撫されて溶かされたか分からない。
閨での睦み事は、思い出すだけでも体の芯が溶けそうになって、りんは赤くなってしまう。
あの体にいつも、気を失うほどに何度も何度も、愛されていたのだ。
(やだ・・・こんな時に、何考えてるの、あたし・・・)
はっとして、殺生丸を見ると、金色の瞳が笑いを含んでこちらを見返していた。
「・・・どうした」
その言葉に、まるで思っていたことを見透かされていたような気がして、りんは言葉に詰まった。
みるみる、顔が赤くなっていくのが、自分でもわかった。
「・・・な、何でも、ないっ! せっ・・・殺生丸さま、もう、大丈夫!?」
声が、上擦ってしまった。
りんは慌てて、顔を見られないように殺生丸に背を向けた。
側に置いてあったお湯の盥で、じゃぶじゃぶと乱暴に布を洗う。
どうしよう、ドキドキする。 何か、喋ろう。
「あ、あの、殺生丸さまは一体、どこに行ってたの? どうして、こんな怪我を、し・・・」
言いかけて、りんは、言葉を途切らせてしまった。
殺生丸が、りんの袖を後ろから、くいくい、と掴んで引っ張っている。
まるで、拗ねた子供が母親の気を引いているように。
「・・・りん、こちらを向いてくれ。 私は、動けない」
「・・・・」
「・・・おまえの顔が、見えない」
「・・・・・・は、はい・・・」
まるで・・・りんに甘えてるみたい・・・。
殺生丸から、こういうことを言われたのは初めてで、なんだか、胸の中がきゅん、とした。
布は盥に沈めたまま、りんがおずおずと閨に向き直ると、殺生丸はりんの顔を見上げて、満足そうに目を細めた。
・・・何だか本当に、甘えてる子供みたい。
・・・だけど、何か変。 殺生丸さまって、こういうことを言う人だったっけ。
りんは何だか、不安になってしまう。
「・・・あの・・・殺生丸さま・・・もしかして、その・・・どこか悪いの・・・?」
大真面目な顔でそう聞いたりんに、殺生丸は明らかにむっとした表情をした。
「・・・体が動かないと言っている」
「あの、それは、分かってるんだけど・・・」
何だか、変。 殺生丸さまはいつもほとんど喋らないのに、今日はとても言葉が多い気がする。
でも、うまく言えない。
「・・・あの、殺生丸さま、いつもそんなこと、りんに言わないでしょう・・・? 何だか、いつもと違う気がして・・・」
「・・・・おかしいか?」
「えっ」
思わぬ言葉に、りんは息をのんだ。
殺生丸は怪我をしていない方の手で前髪をかき上げ、金色の目を閉じて、ため息をつくように言った。
「・・・・久しぶりに、死にかけた」
「死にかけたって・・・殺生丸さま、どこに行ってたの・・・?」
「 母上にけしかけられて、父上が決して手を出してはならぬと言っていた、十束剣に手を出した。だが、私は剣を目前にしながらも、最後の最後で手を引いた。 あのまま突き進めば、あるいはあの剣を手に入れられたかもしれぬ。 ・・・腕と足が一本づつ無くなっていただろうがな 」
あまりに物騒な話に、りんはこくり、と息をのむ。
「・・・あの剣を手に入れられなかったことが口惜しくなかったかと言われれば、嘘になる。
だが、本当に腕を失うかもしれぬと思った時、おまえの顔が浮かんだ。 今の私にとっては、お前を抱ける腕の方が大事だ。・・・ゆえに、私は剣から身を引いた。久しぶりに死にかけたことで、私にとって真に大切なのは何か、改めて気が付かされた。・・・それだけのことだ。おまえが私をいつもと違うと感じるなら、それが原因だろう」
「殺生丸、さま・・・」
殺生丸さまが、こんなに言葉を紡いでくれている。りんを想ってくれている。
りんは、自分が、光り輝く小さな奇跡のかたまりでできているような気持ちになる。
涙が、滲んだ。
「・・・そう言えば、初めてお前に会った時も、私は情けない姿をしていたな」
そう言って、僅かに苦笑した殺生丸に、りんは泣き笑いで、くすり、と笑う。
「あの時、殺生丸さまが怪我してなかったら、りんは殺生丸さまに会えなかったんでしょう・・・? 」
そう言いながら、りんは殺生丸の胸に顔を埋めた。
いつも閨で、そうしているように、そっと体を横たえて寄り添う。
そうすることが、一番、自然な気がした。
殺生丸さまの一番、近くにいる。 りんが一番、安心できる場所。
殺生丸さまにとっても、りんがそうであればいい。
「 ・・・ふふ。 殺生丸さまが怪我してて・・・よかった」
りんは泣きそうになりながら、くしゃり、と笑った。
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