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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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ならば尋ねる、それ以外に方法があったのか、と。

  

 


 

 


 

 


――― あれは、哀れな娘だった。

 


 

 


人の身に生まれながら、人に疎まれ、生きる場所すら失っていた。

 


私と出会ったあの日。

たとえ天生牙で命を救ったとしても、あのまま私が捨て置けば、娘は数日のうちに死んだだろう。

 

無垢な魂で、妖である私に笑いかけ、疑うこともなく私の後についてきた。

人里へ戻す方法は、なかったわけではない。
新たな人里へ連れて行き、置き去りにでもすればよかった。
娘が人里を恋しがれば、私は迷わずにそうしただろう。


だが、あの娘自身が、戻ることを拒んだのだ。 

頑ななまでに、私の傍から離れようとはしなかった。

 


無垢な魂に真っ直ぐに慕われ、疑いもなく私に手を伸ばす。
その手を拒まなかったのは、当初は気まぐれであったのやもしれぬ。

だが、時を経るうちに、伸ばされるその手はどうしようもないほどに愛おしいものへと変わった。

その手がなければ、もはや、安らぐことはできぬほどに。


・・・その手を離すことが、恐ろしくなるほどに。

 


 


奈落との闘いがおわり、四魂の玉が消え、己の生きる道を選べるよう娘を人里に戻してからも、
私は、私に伸ばすあの手を求めずにはいられなかった。


愚かしいと自嘲しながらも、手放せなかったのは、私の方だ。
人里に残されて「寂しい」と泣くあの娘の涙を、何よりも甘く感じていた、私の方だ。

 

 


・・・すべて、覚えている。

 


幼かった頃のお前も、一緒に生きていきたいと泣いたお前も。
妻となって、子を授かった時の嬉しそうな顔も、時に怒って膨れていた頬も、すべてだ。


 

 

 

忘れられるはずはない。

私には忘却の力が、ない。


・・・だから、少しでも長く、共にありたかった。

 

お前の姿を美しいまま留め、もはや人とはいえぬ存在にした後も、私はそう願い続けてきた。

・・・願わずには、いられなかった。

 

それが、叶わぬ願いであったとしても。

 


 

 

 


 


――― 私たちの子供の子供が、一人前になった頃だっただろうか。

 

りんは、人里に降りたい、かつての仲間に会いたいと、私に願い出ることがなくなった。

 


・・・共に戦った人間たちが皆、その寿命を終えたのだ。

 

私がりんに与えた、春の女神の首飾り。

あの女神の涙は、りんの姿を春の盛りのままに留めた。

仲間のいる人里に降りれば、りんは、否が応でも思い知らされたはずだ。


・・・もう自分は人間とはいえぬ、と。


年老いていく仲間たちの中でたった一人、りんは美しい娘の姿のまま。

人里の何も知らぬ人間どもから見れば、老いることのないりんは、妖にしか見えなかっただろう。
たとえ、りんがどんなに無力であっても、だ。

共に戦った仲間が死にゆけば、りんの事情を知る者はいない。
その偏見は尚更だったのだろう。

 ――― いつしか、りんは人里へ降りることをやめてしまった。

 


・・・りんを人ならざる者にしたのは、私だ。 愛しさゆえに。


りんを、妖にすることはできなかった。

人が妖となれば、魂のありようが変わる。 

りんも、人間であることを望んだ。

りんが、りんのままでいるには、他にどうしようもなかった。


 
少女の姿のままのりんは、それでも屈託なく、微笑んだ。

  


「いいんだよ、殺生丸さま。そんな顔しないで。 私には、殺生丸さまがいるんだから」

  


 

 


・・・・いつ頃からだろう。

 


 

 


りんは、私と共にいるとき以外は、うつろに空を眺めている時間が増えた。


様々な力を使って姿を留めはしても、その器に宿るは、人の魂だ。

本来なら、生きているはずのない年齢の。


魂は、ゆっくりと限界に近づいている。

 


分かっていた。

  


りんに、そうあることを望んだのは、私だ。

  


「・・・辛くは、ないか」

  


私がそう尋ねたのは、りんを妻としてこの腕に抱いてから100年以上は経った頃だ。

りんがどう答えるかなど、知り尽くしている。

それでも、尋ねずにはいられなかった。

・・・辛くはないか、と。
 
 
 
 
  「 りんは、幸せだよ。・・・とても。  どうしたの、そんなこと聞くなんて」

 

 


微笑んだ、りんの表情。

 


 りんは、もう・・・気が付いている。

もう、残されている時間は少ないのだ、と。

 


  


「どうしたの、殺生丸さま。・・・りんは、大丈夫なのに」

 


 

 


――― そう言わせているのは、私だと思った。

 


 

 


 

 ・・・どうしようもなかった。


人ではない存在にしてまでも、どうしてもりんを手放したくはなかった。


りんも、それを望んだ。

 


他にどのような方法があったというのだ。

 


 

 


 

 


 

 


りんの魂に、軋みが生じたのは、それから数年後のことだ。

 

 


りんは、一日のほとんどを、うつらうつらと寝て過ごすようになった。

美しい娘の姿のままで、しどけない姿のままで。

 

ふと目を覚ましては、寄り添う私を見上げて、儚げに微笑んだ。

 


 

 


「ごめんなさい、殺生丸さま・・・なんだか、ぼんやり・・・眠くて」

 


 

 


 
どれだけ器を美しく保ったとて、限りのない命はない。

命の中心にある魂にもまた、限りがある。


妖の魂と、人の魂は、違うのだ。

 


受け入れられる時間(とき)の容量が、違うのだ。

 


 


人の魂の脆さを、私は痛切に思い知らされることとなった。

 


 

 


 

 

 


――― 深い深い、絶望の中で。

 


 

 


 

 


 

 


 

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