殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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神だという闘牙王が、私に聞きたいこととは、何だろう。
闘牙王は、相撲をとっている子供たちを目を細めて見ながら、言った。
「・・・実はな、医王。 私は、人間の姫を愛してしまった。今、姫は私の子を宿している。 腹の中にいるのは恐らく、息子だ」
「・・・闘牙王・・・本当か・・・?」
私は、驚いて闘牙王を見上げた。
・・・ということは、生まれてくる子供は半妖だということだ。
私と冬久の間に生まれた二人の子供も半妖なのだろうが、今現在は、三つ目というだけで人間とさほど変わらない。
その理由は二つだ。
一つは、私が元々、人間から生まれた妖であるということ。
そして、二つ目に、病魔が見えたり病の直し方が分かる、ということ以外、私はほとんど力を持たぬ妖だからだ。
私は妖の中では、とても妖力の弱い部類に入るのだろう。 詠月も柚月も、私と同じだ。
・・・・だが、闘牙王は違う。
闘牙王ほどの強い妖力を持った血が、人間と混ざってしまったら、一体どうなってしまうことか・・・。
私には、簡単に想像がついた。
顔がこわばり、心が冷えていくのを感じていた。
「・・・お前の血は、強すぎる。押さえる何かがなければ、その子は血に支配され、 心を失った獣になってしまうぞ」
私の言葉に、闘牙王はうなずいた。
「・・・やはり、そうか。 一族には古くからそういう話が伝わっていたのだが、お前の見立てが欲しかったのだ。
お前の目は、確かだからな」
闘牙王は微笑むと、私の頭にぽん、と手を乗せた。
「大丈夫だ。 私の血を抑える手はずは、ちゃんと整えている。 私とて生まれてくる子供に、そんな人生は歩んで欲しくない
からな。 ・・・・・心配はいらんよ」
「・・・そうか」
闘牙王が大丈夫だというなら、きっと大丈夫なのだろう。
私は、ホッとした。
それにしても、私が闘牙王の個人的な話を聞くのは、初めてではないだろうか。
興味がでてきた私は、闘牙王に聞いてみた。
「闘牙王は、その半妖が初めての子供なのか? お前ほどの妖なら、ずいぶん長く生きてきたのだろう?」
私がそう聞くと、闘牙王は困ったように笑って、人間の姫は、実は二人目の妻だ、と言った。
一人目の妻は同じ狗妖怪で、実に気ままな性格の奥方らしい。
人間を愛した闘牙王のことも、久しぶりに面白そうな出来事がおきたと、笑って眺めているという。
「・・・・ずいぶんと器の大きな奥方なのだな」
私がそう言うと、闘牙王は、ははは、あれには私もかなわん、と苦笑した。
そして、その奥方には、恐ろしく強い息子が、すでに一人いるのだと言う。
「気位の高い息子でなぁ・・・。 初めてできる弟が半妖だということは、殺生丸にはどうしても許せんらしい。 あいつが弟を
いじめはせんかと、私の今一番の心配事は、それかもしれぬなぁ・・・」
そういって、困ったように首の後ろをさする闘牙王は、何だか普通の父親で、私は思わず声を立てて笑ってしまった。
「それならば、その人間の姫と半妖は、この里に連れてきてやればいい。 ここには人間に悪さをできるような強い妖は
いないし、私と冬久以外にも、人間とつがいになって暮らしている妖怪がたくさんいる。 半妖も、たくさん生まれているぞ。
最近では、生まれた子供の為に、人間の食べ物を妖怪が畑で育てているくらいだ」
笑いながら冗談で言った私の言葉に、闘牙王は目を輝かせた。
「・・・そうか!その手があったな!!」
闘牙王が嬉しそうにそう言ったとき、後ろから、冬久が足の悪い妖に肩を貸しながら歩いてきた。
「おーい、医王、患者さんだよ・・・おお、これは、闘牙王どのではないか!!」
「おお、久しいな、冬久!可愛い子供たちを授かったなぁ!!」
人間と妖怪のくせに、この二人は妙に仲がいい。
私が妖の怪我を見てやっている間に、闘牙王と冬久はあれこれと相談を始め、あっと言う間に、その闘牙王の妻という
人間の姫と生まれてくる半妖の子供が住む屋敷をどこに建てるかまで決めてしまった。
「いや、良かった。 十六夜も、妖の子供を人間の世界で育てるのは辛かろうと、心配していたのだ。 ここならば、私も
安心して十六夜を連れてこれる。 腕の良い医師さまもいることだしな」
闘牙王の言葉に、冬久がうんうんとうなずく。
「いや、私にもよく分かりますぞ、闘牙王どの。 あの公家の世界というところは、人間でも実に住みにくいのだ。 妖の子供を
産んだとなると、それはそれは冷たい仕打ちを受けるに決まっている。 ここならば、その姫も御子も、のびのびと
暮らせましょう」
どこまでも明るい顔をした二人の男を見上げて、私は呆れたようにため息をついた。
「・・・まったく、闘牙王も冬久も楽観的だな。 確かに、この里にいるのは人に害をなさない弱い妖ばかりだ。 だけど、強い妖が
攻めてきたら、その姫と子供を守るすべは無いんだぞ? 現に、この間だって妖命丸をよこせと、二つ首の大蛇が襲ってきた
じゃないか。 あの時は、湯治に来ていたカラス天狗が追い払ってくれたから助かったけど・・・」
私の言葉を聞いて、闘牙王は、空を見上げ楽しそうに言った。
「よし、それならば、私の力の限り、複雑で強い結界を張るとしよう」
「・・・結界?!」
私は目を見開いた。
結界とは、目に見えない隔たりのことだと、大昔、岩井に教えてもらったことがある。
そこに存在しているのに、触れることも、通り抜けることもできぬ壁のようなものだ、と。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、闘牙王。 ここへ訪ねてくる患者は、どうなるんだ?!」
慌てた私を見て、闘牙王は、またくすりと笑う。
「そうだな、それでは病を患っているもの、怪我で体を損なっているもの、 そして、助けを求めているものだけ、その結界は
通り抜けられるようにしよう」
・・・・本当に、複雑な結界だ。
そんなことが、本当にできるんだろうか。
私があっけにとられている間に、闘牙王はふわりと空へ浮き上がった。
「・・・これが、狗神の持つ力だ。見ていろ、医王」
空から、闘牙王の低い呪文のような言葉が聞こえたかと思うと、周囲の森に、四方から大きな大きな膜が張っていくのが
分かった。 やがて、大きな大きな膜は、天上でつながって、里をすっぽりと覆うと、弾けるように光を放って空に溶けた。
「・・・・できたぞ! 我ながら、今までで一番出来の良い結界だ」
闘牙王は嬉しそうにそう言うと、ふわりと、私たちの前に降りてきた。
「医王と冬久、そなた達は結界から自由に出入りできるようにしてあるから、 誰かを結界から出してやるときは、面倒だが
連れていってやってくれ。 この里を外敵から守るには、これ以上は結界を緩められんのでな」
そう言いながら、闘牙王は満足そうに里をぐるりと見渡す。
「本当に、いい里だ。・・・ここならば、半妖も育てやすかろう」
「・・・闘牙王は、その人間の姫と一緒にここに住まないのか?」
私がそう聞くと、闘牙王はにっこりと笑って言った。
「そうだな、できることなら、私もそうしたい。 けれど、私にはこの秋津島を守るという狗神としての役目もあるのでな。
ここにずっと留まるという訳にはいくまい。 現に私は今、悪霊と化した、竜骨精という妖と戦っている。 あの妖のせいで、
秋津島の東は、ずいぶん荒れているんだ。 これ以上、奴を放っておくわけにもいかないからな」
遠くを見る闘牙王の目が、一瞬、ギラリと光った。 その瞳はまさしく、戦う獣と同じ眼。
命を懸けて闘うことを、本能的に喜びと感じるものの眼だ。
私は背筋が冷えた。 ・・・私たちには優しい闘牙王も、本性はやはり、その名のごとく闘神であるのだろう。
「・・・分かった。 人間の姫と生まれてくる子供のことは、私たちにまかせておけ。 病気や怪我に関しては全く心配無用だし、
半妖としての生き方も、私たちならその子に教えてやることもできよう。 それから、この妖命丸を持って行け。 きっと、
傷にもよく効くはずだから。 ・・・闘牙王は、これから闘いに行くのだろう?」
私がそう言い、懐に入っていた妖命丸を幾粒か手渡すと、闘牙王は眼を細めて微笑んだ。
「・・・ありがとう、医王、冬久。 そなたたちなら、私も安心して、姫と子を任せることができる」
「ご安心めされよ、闘牙王どの。 ここには妖も人間も、半妖も同じように暮らしている。 奥方と御子がいらっしゃるのを、
お待ちしておりますぞ。 よーし、さっそく今日から皆で手分けして、家造りに取りかかるとしよう! ここには妖と夫婦になった
人間の大工もいるのだからな!」
冬久が朗らかにそう言い、私もうなずいた。
「では頼む、医王、冬久」
闘牙王はそう言うと、二つに分かれた白尾を靡かせ、ふわりと浮きあがり大空へと身を翻した。
・・・結界へ消える直前、心からの笑顔を浮かべて振り返った闘牙王の顔は、未だに私の記憶の中から消えない。
・・・闘牙王は、二度とこの里を訪れることは無かった。
冬久が張り切って作り上げた闘牙王の屋敷は、主のいないまま、数年が過ぎ・・・
・・・私たちは、闘牙王が竜骨精との激闘の末、命を落としたことを伝え聞いたのだった。
闘牙王の残してくれた結界は、私たちを邪悪な妖から隠し、されど救いを求めるものは受け入れ、結局のところ私たちを
完璧に守ってくれた。
妖と人間の奇妙に同居するこの里では、それぞれが得意なことを生業として、皆、共に助け合って生きてきた。
あの頃、あんなに平和な里は、きっと人里にも無かっただろう。
私と冬久の間に生まれた二人も、そんな中ですくすくと元気に成長した。
・・・ある日のことだ。
子供たちと一緒に、薬を作っていた私の前に、空から、とてつもない妖気を纏った美しい女人が舞い降りてきた。
なびく白銀の髪、金色の眼。
白い豪奢な毛皮を纏う姿を見て、私は、すぐに闘牙王の妖怪の妻だと気がついた。
「ほう、そなたが医王か」
向こうは私のことを知っていたらしく、美しい瞳で面白そうに笑った。
「・・・闘牙王の、奥方さま・・・ですか」
私がそう聞くと、美しい妖怪は、艶やかに笑ってこう答えた。
「・・・残念ながら、今は未亡人だ」
子供たちは、奥方の持つあまりに桁違いな妖気に圧倒されて、三つの眼を見開いてぽかんとしている。
・・・闘牙王の妻が、一体この里に、何の用だろう。
私が子供たちに「お客様だから、あっちで遊んでおいで」というと、子供たちは奥方を気にしながらも、ぱたぱたと
走っていった。
「今日は、どのような用向きで?」
私が奥方に聞くと、奥方はふふん、と艶やかに笑った。
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