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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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神成りとむすめ<5>


神無月・・・・現在の旧暦十月。

旧暦の十月七日から七日間、大国主神(オオクニヌシノカミ)を祀る出雲大社には、全国から
八百万(やおよろず)の神々が集い、この世の目に見えぬ縁を結ぶという神議りが執り行われる。

神無月(かんなづき)とは、神さまが出雲へ行って社を留守にされる月、という意味だが、
出雲では逆に、全国津々浦々から神々が集まることから、これを神在月(かみありづき)という。













神成りとむすめ<5>

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――――秋。

さわやかな風の吹く、実りの季節である。

りんは大きく背伸びをして、朝焼けに照らされた野菜畑を見渡した。

( さぁーて。 今日は、菊菜と・・・すり下ろした蕪にしようかなぁ・・・ )

人里で暮らしていたときと同じように、りんは朝起きると、お屋敷の前に広がる畑へ、
野菜や薬草を摘みにいく。
いつも人里で食べていたように、朝のお粥に、刻んだ野菜を入れるためだ。
朝一番の畑で粥に入れる野菜を選ぶのは、人里で暮らしていた頃からのりんの日課である。

朝起きて、体に入れたいと感じる野菜で、自分の体のどの部分が調子が良いか悪いか分かる。
今日は、あっさりとした蕪と、出始めたばかりの香り高い菊菜が食べたい。
きっと、昨日の晩に食べた、イノシシの味噌焼き肉が、胃の腑に負担をかけたのだろう。
香ばしい味噌焼き肉はとても美味しかったのだが、いつもあっさりとしたものを食べ慣れている
りんにとっては、かなり重ためのごちそうであったことに間違いはない。
蕪も菊菜も、共に、胃の腑の働きを助ける野菜だ。
楓から学んだ知恵は、りんの中にしっかりと息づいている。

薬草畑の隣に広がる棚田には、朝露を乗せた稲穂が朝日を受けて黄金色に輝いている。
ここ数日で急に涼しくなった朝の風に、黄金色の稲穂がさわさわと音を立てて靡いていく。

あと十日ほどで、この田圃は稲刈りだ。
刈り取ったばかりの白米は柔らかくて甘くて、塩おむすびにするとほっぺたが落ちそうに美味しい。
妖の里で、人里と同じように塩おむすびを食べられるとは思っていなかったから、
この里に来て、初めてこの光景を見たとき、りんはすごく嬉しかった。

お屋敷の水屋からは、お味噌汁のいい匂いと、炭火の香ばしい匂いが漂ってくる。
今日の朝餉には、お魚の焼き物がつくらしい。
きゅうぅ、とお腹が鳴った。

りんは、野菜の入った竹篭を地面に置くと、人里にいた頃と同じように、
登ってくる朝日に向かって手を合わせ、そっと目を閉じた。

( ・・・・殺生丸さまが、無事にお勤めを終えられますように・・・ )

この願いが届きますようにと、りんはこの里にきてから、毎朝、朝日に向かって祈っている。

 

 


「それでは・・・」

りんは、笑顔でぐるりと皆を見渡す。

「いっただっきまーーーす!」

りんが手を合わせてそう言うと、邪見と、りんの身の回りのお手伝いをしてくれている、
小梅(こうめ)と小竹(こたけ)の二人が、同じように声を揃えて言った。

「いっただっきまーーーーす!!!」

この「 いただきます 」の時に、嬉しそうに震えている小梅と小竹のしっぽを見て、くすくすと
笑うのが、最近のりんの、ささやかな楽しみである。
朝餉のお膳に並ぶ熱いほうじ茶と、ふわりと漂う季節の野菜粥の香りが、りんの心を健やかに
してくれる。

小梅と小竹は、双子の女の子で、七宝によく似た小狐の半妖だ。
見た目は人間で言う7~8歳くらいで、よく動く可愛い狐の耳と、ふさふさとしたしっぽを
持っている。
七宝より背は高いが、精神年齢はりんが感じる限り、七宝とさして変わらないように思う。
七宝や犬夜叉と同じで、食べるものは人間とよく似ているから、りんはいつも彼女たちと一緒に
食事をとる。
ちなみに、昨日食べたイノシシ肉の味噌焼きは、彼女たち自慢の得意料理だ。

この双子の半妖は、りんがこの里に住むにあたり里から選び抜かれた下仕えだそうで、
りんの生活のすべてにおいて、実に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。

闘牙王の代に、この里に用意された 「お館さまの屋敷」 に誰かが住むようになったのは
初めてのことらしく、この小梅と小竹の張り切りようは、それはすごいものだった。
楓から、自分のことは自分でできるようにと育てられたりんにとっては、そもそも自分の生活に
下仕えがいることが考えられないことであり、まずはこの小梅と小竹と家事の折り合いをつける
ところから、りんの妖の里暮らしは始まったといってもいい。


今朝の薬草粥に合わせ、りんに出されているのは岩魚の塩焼き。
邪見に出されている付け合わせは、大好物のイモリの干物。
小梅と小竹に出されている付け合わせは、彼らの妖力の源となる、妖命樹の実のお漬け物。

お膳の上に並ぶ食事は微妙に違えども、まるで、人里にいたときのように当たり前に、
一つ屋根の下で、りんは彼らと共にご飯を食べる。

ちなみに、朝粥に入れる野菜を朝一番に取りに行く権利は、りんがこの家に住み始めた初日に、
台所争いの中で小梅と小竹から必死に勝ち取ったもので、結局それ以外の基本的な食事の支度は、
彼女たちに死守されてしまった。

「りん、けっこう料理は得意なんだけどなあ・・・」
と残念そうに言うと、小梅と小竹は心底驚いた顔をして
「この里を守って下さっているお館さまの奥様に、そのようなことはさせられませんっっ!!」
と、声を揃えて言った。

きっと里の者は皆、この屋敷に住むのは深窓のお姫様だと想定していたに違いない。
りんの為の部屋に用意していた調度品は、寝るときに長い髪を納めるための髪箱や、
高貴な女性が姿を隠すための几帳、部屋でくつろぐ時に寄りかかる脇息など、
まさに宮中の姫君のために誂えられたようなものが多かった。
いまだに、りんはこの部屋が自分には場違いな気がして、どうも落ち着かない。
里人たちが、宮中の姫君のような奥方が来ることを期待していたのだとしたら、
りんは何だか申し訳ないような気持ちになるのだが、どうひっくり返っても、
今更、りんが深窓の姫君になぞなれるはずもなく、りんはやはり、りんである。

食事にしても、上げ膳据え膳にどうしても馴染めないりんは、
「 お館さまと共に食事を取るなど、とんでもございません!」
と言っていた小梅と小竹に、
「 りん、一人でご飯食べるの、嫌なの。 寂しいんだもん 」
と宣言し、なかば強引に彼女たちと一緒にお膳を並べることにしてしまった。

食事は、大勢で食べた方が絶対に美味しい、というりんの強硬な意見に、
小梅と小竹がなかば言いくるめられたかたちになったが、十日たった現在では、
小梅も小竹も邪見も、まるで家族のようにお膳の前で共に手を合わせるようになった。

最初の数日は 「 まったく、付き合ってられんっ!」 などと、ぶちぶち言っていた邪見も、
今ではまんざらでもない顔をして三つの指で器用に箸を使っているし、
美味しそうに頬張っている3人を見ていると、りんは本当に幸せな気持ちになるのだ。

そんなりんにやっと慣れてきたのか、
小梅と小竹も、ここ数日は台所に立ちたがるりんを止めなくなった。

 

・・・りんがここに住まうようになって、十日。

人里での暮らしと違うのは、今までりんがやっていた、洗濯や料理や身の回りのことを
甲斐甲斐しく手伝ってくれる小梅と小竹がいるということと、りんの行くところには必ず
邪見がくっついてくるということ。
そして、やたら豪華な調度品の用意された、楓の小屋の何倍もの広さのどっしりとした
茅葺きの家(なんと、温泉付きだ)に住んでいる、ということくらいだろうか。

りんが家の中で始終大人しくしているはずもなく、日中は人里にいた頃と同じように
畑の収穫を手伝ったり、この里の皆と一緒に製薬の作業に関わったりしている。
そういう意味では、りんの生活は、あまり変わっていない。

里に住む者たちはりんがこの里にやってきた初めの数日こそ、小梅や小竹と同じ反応を示していた。
この里を結界で守ってくれている大妖の奥方に野良仕事をさせるなど、とんでもない、と。

だが、里の者が想定していた深窓の姫君・・・お館さまの奥方は、里人の遠慮をよそに、
平気な顔で畑や田圃の中に入ってきては、襷を掛けて元気にくるくると働き、よく笑う。
作業の手際も要領も、実にいい。
むしろ、毎日一緒に手伝わされる邪見の方が、りんに叱られてばかりである。

「 ・・・・あーっ! 抜いちゃダメだよ、邪見様! それ、まだ実がついてないじゃない! 」
「 うるさいわいっっ!!そんなの、分かるかーーーっ!!」
「 あ~あ、もう・・・これ、一つの株にちょっとしか実が成らないのにー!」
「 やっかましいわいっ! ワシは畑仕事なんてしたことないんじゃぞーっ 」
「 それ、偉そうに言うことじゃないよ、邪見さま・・・」
「 ええい、それじゃあ、どれを収穫すればいいんじゃっ」
「 もう、邪見さまって本当に手が掛かるなあ・・・。 こんなの、子供でも知ってるよ?」
「 な、なんじゃとーっ」

・・・とまあ、狭い村の中でこんな会話が響けば、おおよそ、奥方の人となりは知れようというものだ。
りんは、そもそも、権力者の奥方にふさわしい立ち居振る舞いも言葉遣いも、学んでいない。
言ってみれば、普通の年頃の娘でしかないのだ。
最初こそ、りんが畑に手伝いに来たことに恐縮していた里の者も、作業が終わる頃には、
元気にくるくると働く屈託のない娘と、すっかり笑顔で打ち解けてしまう。

そうなるとむしろ、どうして殺生丸のような大妖が、りんのような何の変哲もない少女を
奥方に選んだのか、というところに、里の者の興味は集まった。
さすがに、りん本人にそれを聞くのははばかられ、その質問は邪見に寄せられることが
多かったが、邪見もそれに対しては、うまい答えを見つけることができず、
その一点のみにおいて、里の者はりんを特別視した。
・・・何故かはよく分からぬが、あれほどの大妖が何より大切に想う女人なのだ、と。

 

・・・りんは、菊菜の独特の香りと、優しい蕪の味がする熱い粥を口へ運ぶ。

「 あぁ、美味し~い。 菊菜がいい香りだねー」

にっこり笑って三人に向かってそう言うと、邪見がトカゲのしっぽをカリカリと齧りながら言った。

「 りん、今日も医王庵へ治療を手伝いに行くのか?」

「 うん。 今日は柚月さまと一緒に、痛み止めの薬を煎じる約束をしてるの」

りんがお粥をすすりながらそう言うと、邪見はふむ、と頷いた。
この里に来てからは里長(サトオサ)である三つ目の兄妹・・・詠月と柚月がりんの師となって、
医術や製薬の知識を授けてくれている。

「 では、ワシも行く。  お前に何かあったら、殺生丸さまに顔向けできぬからの」

邪見の言葉に、りんはくすりと笑って頷いた。
この里に来てから、邪見はりんが行くところには必ずついてくる。
きっと、慣れるまでは目を離すなと殺生丸から言い含められているのだろう。
それゆえ、邪見はりんにつきあって慣れない畑仕事などをするはめになるわけだが、
りんは不器用な邪見にあれこれと口では文句を言いながらも、始終、嬉しそうにしていた。
今まで何年も、ずっと離れて暮らしていたのだ。
邪見がそばにいると、りんには、あの頃に戻ったのだという実感が湧いた。
自分は今、幼い頃と同じように邪見さまと一緒に殺生丸さまが戻ってくるのを待っているのだ、と。

美味しそうに野菜の粥を啜っていた小梅が、邪見の言葉で何かを思い出したように顔を上げる。

「 ・・・そう言えば、りんさま。
 今朝、空を飛んでいたカラス天狗から聞いたのですが、昨夜遅く、ひどい怪我を負って、
 里の結界を越えて来た妖がいるそうですよ」

「 え、ほんと?」

りんは目を丸くした。













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