忍者ブログ

あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

神成りとむすめ<11>



 

「・・・りん・・・?」

 


驚きに見開かれた金色の眼差し。

けれど、その名を呼んでから、大妖はその差異に気付いた。

よく、似ている。 
似ているが、目の前にいるのは、りんではない。

 


殺生丸は目を細めて、目の前に立つ女神を見上げた。
女神は微笑み、銚子を差し出す。


「・・・・御一献、いかがです? 殺生丸さま」

 

りんによく似たその笑顔は、ほんの少しだけ、緊張している。

 

 

 

 

 

 

 


神成りとむすめ<11>


拍手[62回]

 

 

 

 

 

 


「――― いや」


女神を注視したまま、殺生丸が低い声で酒を断ると、女神は銚子を持ったまま、殺生丸に近づいてきた。柔らかな春色の重ね衣が、ゆらゆらと揺れる。

「お会いしとうございました。先ほどから、どちらにいらっしゃるのかと探していたのです」

そう言う女神の衣から、ふわり、と優しい春の香りがした。その香りに、殺生丸は思わず目を細める。りんの香りとは、違う。あの娘は、もっと明るい、陽向の匂いを纏っている。この春の香りは、先ほどの女神たちとは全然違う。柔らかで優しい、春そのものの香りだ。
纏っている衣(きぬ)も髪を結い上げたその姿も、まったくりんとは違う。それなのに、なんと似ていることだろう。信じられない思いで、殺生丸は胡床に腰掛けたまま、女神を見上げていた。

1e09db0a.jpg































「・・・殺生丸さま」

声も驚くほど似ている。
神酒に酔っているせいなのだろうか。殺生丸は、思わず目の前の女神を抱き寄せたい衝動に駆られた。りんが華やかな衣装を纏い、髪を結い上げたら、きっとこの女神と瓜二つに違いない。
初めて殺生丸を受け入れた夜の、りんの艶やかな姿を思い出す。思わず伸びそうになった己の腕を、かろうじて理性で押しとどめた。目の前の女神は、りんではない。

(・・・・件が言っていたのは、この女神か・・・)

件には、きっとこの女神の姿が見えていたに違いない。殺生丸は思わず女神から視線を逸らして、杯を持っていない方の手で、口を覆った。件が、己のこの悩ましい葛藤も見透かしていたのだとしたら、さすがに腹が立つ。眉間に、深いしわが寄った。

「あの・・・殺生丸さま」

遠慮がちな女神の声に、殺生丸は鉄面皮のまま、思わずそっぽを向いた。酔いが醒めやらぬ今の己にとって、りんに似すぎている女神の姿は、あまりに目に毒だ。目にしているだけで、有無を言わさず抱き寄せてしまいそうになる。

「私は、伯耆の国の土地神、佐保姫ともうします」

伯耆の国、という女神の言葉に、殺生丸はぴくりと動いた。りんを連れていったあの妖の里は、伯耆の国にある。佐保姫は、あの医王の里に住むものたちの、産土神(うぶすながみ)ということになるだろう。となれば、殺生丸にとっても無関係ではない。

「――― 伯耆の土地神が、私に何用だ」

分かっているのに、必要以上に冷たい声が出てしまった。どうも、うまく己が制御できない。殺生丸の凍りつくような声に、佐保姫は萎縮した声で、それでも決心したように、言葉を紡いだ。

「殺生丸さまに、お願いが・・・あるのです」

「――― 願い?」

殺生丸が佐保姫の方を向くと、佐保姫は途方に暮れたような表情をしていた。結った髪に挿された、桜の花が風に揺れている。

「どうか、わたくしの神使をお返しくださいませ、殺生丸さま」

「・・・・・・・・。」

殺生丸は無言のまま、片眉を上げた。思い当たる節が、ない。今のところ、殺生丸の神使は、あの件だけである。件から、身の上話は・・・闘牙王との馴れ初めは、あの神成りの道を抜けてから、聞いた。
殺生丸が聞いた話では、件(くだん)は闘牙王に救われたのちに、初めて神使として出雲へ随行するようになったと言っていた。それまでは、先見の力を欲する妖たちから命を狙われていた、と。命を救ってくれた闘牙王に恩返しをするために、神使になったのだ、と。

「私には、神使は一匹しかおらぬ。あなたの神使を預かった記憶は無いが」

低い声でそう答えた殺生丸に、佐保姫は困ったように微笑んだ。そんな表情は、ほんの少し、りんより大人びて見える。

「お預けしたのは、先代の闘牙王さまでございます。ご子息の殺生丸さまが狗神になられた暁には、返してくださるというお約束でございました。・・・殺生丸さまは、小さな香炉に住む翁を存じませぬか?」

佐保姫の言葉に、殺生丸の金色の瞳が、やや見開かれた。

「・・・時巡りの翁か」

殺生丸の言葉に、佐保姫はやっと緊張がほぐれたらしく、嬉しそうにふわりと微笑んだ。

「 やはり、御存じでしたか。あれの本当の名は、「弐ノ舞」というのです。殺生丸さまが出雲へ参られたということは、あれは無事にお役目を果たしたのですね」

嬉しそうにそう言う佐保姫の表情は、あまりにりんに似ている。殺生丸は軽くため息をついて、佐保姫の表情から視線を逸らした。

「 あの香炉なら、我が母が住む天空の城にある。 私にはもはや必要のないものだ。返してほしいのなら、お返ししよう」

殺生丸は、ゆらり、と胡床から立ち上がる。立ち上がってみると、佐保姫が思ったよりも華奢で小さいことに気がついた。

それにしても、目の毒だ。思わず見つめてしまいそうになるし、何よりも、一刻も早くりんをこの腕の中に抱きたくなってしまう。佐保姫から視線をそらせたまま、殺生丸は低い声で言った。

「私はもう、出雲を発つ。時巡りの香炉は、使いを出して、あなたの社まで届けさせよう。・・・それで、よろしいか」

すでに背を向けた殺生丸に、佐保姫は慌てて言った。

「 そ、それと、もう一つ・・・!」

「・・・・・?」

いつの間にか、殺生丸の片方の袖を、佐保姫がぎゅっと握っている。振り向くと、必死な顔で、佐保姫が殺生丸を見上げていた。感情を押し殺した金色の瞳が、女神の表情に捕らわれる。


・・・・いつだったか。
りんがまだ幼い頃、こうやって袖を掴んではなさないことがあった。「 行かないで、殺生丸さま」 と。あれは、人里に預けて間もない頃だったように思う。あの頃のりんは、頬のふくふくとした、ずいぶんと可愛らしい童だった。大きな目に涙を溜めて、それがこぼれ落ちないように必死になっていた。「行かないで」と言葉に出した後に、我慢できなくなって、結局、あの娘はぽろぽろと泣いた。「恐れ多いっ!殺生丸さまの袖を放さんか、りんっ!」と賢しらに言う邪見に妙に腹が立って、思い切り足蹴りしたのを覚えている。

あの娘の未来を考えて人里に戻したものの、そうやってりんが寂しがり、私を引き留めて泣くのが、不思議と心地よかったのは確かだ。己のことをあんなにまっすぐに慕い、求めるものなど、数百年生きてきても、ただ一人としていなかった。

(何かに必要とされる心地よさを私に教えたのは、りんかもしれぬな・・・)

必死な顔つきの佐保姫を、無表情で眺めながら、この男はそんなことを考えている。

「こちらに参る途中、わたくしはもう一人の神使とはぐれてしまったのです」

「もう一人の神使・・・」

酔った頭でぼんやりと繰り返した殺生丸に向かって、佐保姫は必死の表情で、こくりと頷いた。

「 出雲へ参る途中、私の乗った車が、地より湧き出る魍魎たちとぶつかってしまったのです。そして、御者を勤めていたわたくしの神使は、車から落ちてしまいました。 場所はちょうど、闘牙王さまの結界の上でございます」

「父上の結界だと・・・?」

ぼんやりと酔っていた頭が、急に冴えてくるのを感じた。それはつまり、医王の里だろう。里には、りんを残してきている。

「 闘牙王さまから、真に助けを求めているものだけがあの結界を越えることができる、と聞いたことがございます。 彼は落ちながら、闘牙王さまの結界に飲み込まれてしまいました。よほど、恐ろしかったのでしょう、可哀想に・・・。闘牙王さまの作られた結界は、とてもとても、強固なのです。それゆえ、あの結界の向こう側には、土地神のわたくしとて入ることができませぬ。どうか、あれを・・・案摩を、わたくしの元へお返し願いませぬでしょうか」

もはや、佐保姫の目には涙が浮かんでいる。
殺生丸は金色の目を細めて、握りしめられた己の袖を見た。今、この袖をつかんで涙を浮かべている佐保姫は、恐らく、己よりずっと長い時を生きているに違いない。 狗神となった殺生丸には、わかる。彼女は、季節を司る力を持つ女神なのだ、と。
そして、殺生丸と違い、この佐保姫は生き神ではない。りんとは違い、永遠にこの少女の姿のまま。だから、「神」という存在に「長い時を生きている」という表現はおかしいのかもしれない。が、何にせよ、そのような存在である佐保姫が、りんと瓜二つというのは何ともいえない心持ちがした。

「殺生丸さま・・・・」

佐保姫の大きな瞳から、ぽろり、と大粒の涙がこぼれ出す。殺生丸は、その金色の目をわずかに見開いた。佐保姫のこぼす涙は、虹色の光を放つ石・・・宝珠となって、二人の足下にころころと転がっていく。

「 お願いいたします・・・あの案摩は、地の精霊なのです。 わたくしから離れ、住み慣れた社の土地から離れては、姿を保つことが出来ぬかもしれません。消えてしまうかも・・・しれません・・・」

ぽろぽろと、佐保姫の春色の衣の上を、光る宝珠が転がっていく。
「神」である存在が、泣いている。
たかが神使という存在を案じ、心を痛めて。

「・・・・・」

殺生丸は、そっと手を伸ばして、佐保姫の頬を流れる涙をぬぐった。手のひらで、涙は柔らかな光を放つ石へと変わる。

「―――泣かれるな、佐保姫」

佐保姫の瞳が大きく見開かれる。先ほどの声音とは全く違う、低いけれど柔らかな優しい声音。
この妖は、こんな声を出すこともできるのか。

「その顔で、泣かれるな」

瞬間、ふわり、と佐保姫は己の目線が高くなったのを感じた。

「・・・!」

いつの間にか、佐保姫は殺生丸に抱えあげられている。そのまま、ふわりと宙へ浮く。

「殺生丸さま?」

「・・・・・・父の残した結界の里へ、参ります」


花びらが舞う空の上を、殺生丸は女神を抱えて飛んでいく。きっと佐保姫は空を飛べぬ神なのだろう。佐保姫が、鎧の一部を必死に掴んでいるのがわかった。空を飛ぶのは、怖いとみえる。りんとの僅かな差異に、殺生丸は目を細めた。
陽向の匂いを纏うあの娘なら、こんな花吹雪の空の下を飛んでいけばきっと、空へ向かって無邪気にその腕を伸ばすに違いない。あれは、私に全幅の信頼を寄せている。空の上で怖がることなど、ありはしない。
下を見ると、神庭で神々が思うままに宴を楽しんでいる姿が見える、それは、殺生丸が初めて体験した、出雲の神議り・・・神々の世界。
秋津島を支えているという神々は、思ったよりも個性豊かで感情的で、殺生丸さえ恐れるような力を持っているくせに、皆、どこか短所があった。
されど、今はその神々の不完全さを、自然に思える己がいる。
この世界に完全なものなど、何一つない。神とて、万能ではないのだ。それが自然なのだと、神となって初めて知った。
そして、どの神も皆、驚くほどに、この国に巡る命を愛していた。自分たちとは違う、限りある命を。
「愛する」など、己にはずっと無用の感情だと思っていた。かつては、己にそういう感情があることすら、理解していなかったのかもしれぬ。

(だが・・・)

大妖は思う。
すでに私は、「愛する」という感情を知っている、と。
りんという一つの命に触れることで、私の世界は急激に広がった。その広さに戸惑い、思わず恐れを抱いてしまうほどに。
きっと私はこの先、今まで知ることのなかった悲しみや絶望をも、味わうことになるのだろう。りんという命を知ったがために、だ。

けれど、たとえそうだとしても―――――――・・・。

私はやはり、どうしようもなく、愛しているのだ。
りん、という命を。
その命がまた巡るならば、その命のために、この世界を守らねばならぬと思うほどに。

これはもう、崇拝に近いものかもしれない。
狗神という「神」になった私が、りんの命を、己の命よりも尊く感じているのだ。
私は、りんの中に「神」を見ているのかもしれない・・・。

 

現世(うつしよ)へ繋がる門へと空を飛びながら、殺生丸は、ふ、とわずかに微笑んだ。

(・・・・そして、今から私は、初めてりんのところへ「帰る」のか・・・)

今までは、「会いに行く」だった。
あの娘が元気に笑っていれば、それで十分だった。
それ以上を望んではならぬ、と己を戒めもしていた。

だが、これからは違う。

あれは・・・りんは、私と生きることを選んだ。
それならば、私もそれに応えねばならぬ。

私は、りんの元へと帰るのだ。
りんは、私の精神の拠(よりどころ)だ。
私の世界の中心に、あの娘が芯となって存在している。

私が還る場所は、そこしかない。



神議りの主催者であるという大国主(オオクニヌシ)の邸を越えると、殺生丸はゆるゆると高度を下げた。花霞の向こうに、大きな鳥居が見える。現世(うつしよ)の出雲へ繋がる、神門である。

件が、帰る時には声を掛けろと言っていた。きっと、まだ己に言っていない先見(=予言)があるに違いない。本当に食えぬやつだ、と、殺生丸は苦々しく思う。

出雲の神門の前に、佐保姫を抱えたままふわりと降り立つと、門前に見えた光景に、殺生丸は頭を抱えたくなった。

「まあ、まあ、これは・・・」

ふわりとその腕から降ろされた佐保姫が、驚きの声をあげる。

「 あなたは、確か・・・闘牙王さまと奥方さまがお連れになっていた・・・」

「 お久しゅうございます、佐保姫さま。今年は、殺生丸さまの神使として参りました」

件がニコニコとして頭を下げる。殺生丸に神様初心者講座をしていた時とは大違いの、やたら嬉しそうな笑顔である。七日前は妙に畏まった態度でいたくせに。
そんな件の姿に、戸惑うような顔で微笑みながら、佐保姫が殺生丸を振り向く。

「それにしても、誂えたようにぴったりですわね、殺生丸さま・・・」

殺生丸が頭を抱え、佐保姫が戸惑うもの、無理はない。件は、風で空を飛ぶという佐保姫の車に、牛車の牛のようにピッタリ納まっていた。

「 これは、殺生丸さまのご提案ですの?」

戸惑いながらそう聞いた佐保姫に、殺生丸は軽く顔を振る。

「貴様・・・」

思わず低い声を出した殺生丸に、件はにこやかに言う。

「さあ、お乗りくださいませ、二柱の神よ。医王の里まで、私がご案内いたしましょう。私の足とこの風ノ車の力を合わせたら、里までは一刻もかかりませぬ。いや、私、昔から一度、車というものを引いてみたかったのです」

明らかに主を無視している神使の言葉に、佐保姫は件と殺生丸を交互に見て言った。

「あの・・・本当に? よろしいのですか? わたくしは有り難いのですけれど・・・」

どう見ても確信犯の件に、すまなそうに礼を言う佐保姫を見ていると、殺生丸は怒るに怒れない。文句を言いたいことが、山ほどある。

・・・・やはり供は、邪見一人でいい。

大妖は苦虫を噛みつぶしたような顔で、そう思った。

 

 

 

 

 


<12>へ 

PR

comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]