殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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さいごの花火<2>
「あのね、殺生丸様・・・」
人里より少し離れた、丘の上にある草原。
大妖は大きな切株に腰掛け、娘は側に座って大妖を見上げていた。
少し離れて、双頭の龍が寝そべっている。
夕日に照らされて赤く染まった娘の頬は、優しく緩やかな弧を描く。
「あのね、次はね、夜に会いに来て欲しいの」
「・・・夜?」
「うん・・・だめ?」
真剣な表情で娘は顔を傾け、大妖を見上げる。
「・・・構わぬが」
娘の表情が、ぱっと明るくなる。
「ありがとう!!」
えへへ、と娘は嬉しさを滲ませて微笑む。
大妖は娘の変わらぬ笑顔を目を細めて見た。
まだ娘と言うより幼子という印象が強いものの、
共に旅をしていた頃に比べると、背が伸び、髪が伸び、手足が伸びた。
ふっくら丸々としていた輪郭が、ほんのり細くなった。
十五夜の満月の日に会いに来るという約束は一度も違えたことはない。
月の満ちる度でも、りんが健やかならばそれでよい。
殺生丸が確かめるべきはそれだけだ。
が、りんは違う。
毎夜、月を眺め、満ちるのを心待ちにして過ごす。
りんは満月の日に向かって日々を暮らしているといってもいい。
自然、殺生丸は一月分のりんの話を聞くことになる。
最近はかごめとかいう犬夜叉の伴侶が戻ってきた話が多い。
微に入り細に入り話すりんの人里の話は、殺生丸には理解出来ないことも多い。
最近はもっぱらりんの話すままに任せ、殺生丸はただ健やかなりんの匂いを、
心ゆくまで近くに感じているだけとも言える。
むしろ話し相手としては邪見の方が向いているかも知れない。
今日は珍しい熱冷ましの薬草を手土産として持ってきた。
邪見は、りんが殺生丸と話をしている間にあの老巫女へ薬草を届けると申し出た。
恐らく、りんの居ないところで、りんがちゃんと村に馴染んでいるのか、
りんからの話だけでは分からないことをあの老巫女に聞いているのだろう。
邪見は邪見なりに、りんが気に掛かっているらしい。
「夜ならば、邪見を迎えに行かせる」
「邪見さまを?」
「・・・一人でここまで来るのは危険だろう」
りんは、あっ、と初めて気が付いた顔をした。
ばつの悪そうな顔をして、上目遣いに殺生丸を見る。
「ごめんなさい・・・」
殺生丸は、人里から少し離れた場所へ会いに来る。
殺生丸のような大妖怪が、人里まで会いに来てくれるということが、
どれだけ希少なことなのかは、りんは邪見から散々言い聞かされてきた。
それと同時に、やはり「人間」という存在を殺生丸が避けていることも。
だから、会いに来てくれるのは、この丘の上の草原なのだ。
登れば村が見渡せるこの草原は、村からたいした距離では無いが、
りんが夜道を一人で歩いてくるのは危険ということなのだろう。
「りん、邪見さまにもお願いするね。ごめんなさい、心配させちゃって」
殺生丸は手を伸ばし、りんの髪を一房すくう。
「・・・伸びたな」
「ほんと?」
りんは目を見開いた。
殺生丸が自分からりんに触れることは、あまりない。
「殺生丸さまがこの前くれた櫛で、毎日といてるからかなぁ?」
りんは嬉しそうに微笑む。
「・・・」
恐らく関係はあるまいと思いながらも、りんが笑顔であるならそれでいいとも思う。
昔の、四方八方に跳ねて飛んでいたりんの髪の毛もそれなりに可愛いものだったが。
するするとした感触は心地よかったが、毛先が指先から滑り落ちると、
殺生丸はその手をりんの頭にふわりと載せ、別れを告げる。
「・・・そろそろ戻れ。日が暮れる」
「はい・・・」
りんの表情が、微かに曇る。
楓のおかげもあって村にはずいぶん馴染んだし、充実した楽しい毎日を送っている。
だが、りんの根底には殺生丸と共に過ごした日々がある。
何度も命を救われ、死に別れた家族以外で初めて自分を大切にしてくれたひと。
少しでも、一緒にいたい。
・・・本当は、満月の日だけなんて、寂しい。
その思いは変わらず、短い逢瀬の別れはいつも切ない。
また、次の満月へ向けた日々が始まる。
りんは、先ほど殺生丸から取り付けた約束を思いだし、少し気持ちが軽やかになった。
次に、会いに来てくれるときは・・・。
「ありがとう、殺生丸様。邪見様にお願いしてくるね!」
りんは元気に立ち上がると、村へ向かって駆けだした。
途中、何度か立ち止まって振り返り、大きく手を振りながら。
(夜に会いに来て、か・・・)
殺生丸は小さくなっていくりんの姿を丘の上から眺めていた。
(・・・まだまだ幼い。無防備なことだ)
りんの姿が木立に隠れて見えなくなると、小さくため息をついて空を仰いだ。
りんが、愛おしい。
誰にはばかることもなく、そう思う。
殺生丸は、「りん」という命を愛おしんでいる。
たったひとつ、殺生丸が愛おしい命。
たったひとつ、守りたいと思う命。
たったひとつ、失いたくないと思う命。
・・・もう二度と、天生牙で救えぬ命。
満月の度に、成長する姿を見るのは安堵であり、
そしてそれと共に、一抹の焦燥にも似た感覚を殺生丸にもたらした。
一月ごとでも、人間は恐ろしく早く成長する。
共に旅をしていた頃には、分からなかった感覚だった。
そのように急がなくともよい、と思う。
されど、たとえ急がずとも日々変化するのが人間としてのりんの命ならば、
満月の日にしか会わないというのは、ひどく莫迦莫迦しい約束事に思えた。
だが、殺生丸は人間としてのりんの成長のために十五夜にしか訪れない。
・・・すべては、りんのために。
・・・いつの日か、りんが選べるようになるまで。
あかね色の空を見上げた大妖の銀色の髪が、夕焼け色に染まる。
母親譲りの絶世の美貌は、小さく二度目のため息をついた。
りんは村へ向かって走っていた。
楓の小屋が見えると、一旦立ち止まって、息を整える。
いつものように邪見に小言を言われないように、
慣れない手つきで着物の襟を正して髪も整える。
殺生丸さまから賜った着物を着る以上、
「みっともないのは許せん」というのが邪見の言い分である。
もっとも、何が「みっともない」のか、
りんが分かるようになったのはつい最近のことだが。
小屋の扉の前で、声をかけた。
「楓さま、りんです」
中から、朗らかな楓の声がする。
「ああ、りん、お帰り。邪見よ、主がお帰りじゃぞ」
りんがガラリと木の扉を開けると、楓に入れてもらったお茶をすすっている邪見がいた。
「なんじゃ、ずいぶん早かったの」
「邪見さま、薬草ありがとうね。これで産月を安心して迎えられるお母さんが増えるの。
きっとみんな、喜ぶよ」
りんがにこにこして言うと、邪見はかすかに赤くなって慌てて立ち上がる。
「な、なにもここの人間どもの為ではないわい。
こないだのように、お前が熱を出した時に
殺生丸様のご機嫌が悪くなるのを見越してじゃ!!」
照れて怒っている邪見を見て、りんはくすりと笑う。
「うん、でもりん一人じゃこんなにたくさんの熱冷ましの薬草は使いきれないから、
皆にも使わせてもらうね」
「わ、わかっとるならよいわ!馳走になったな、楓」
邪見は湯呑みをおくと、人頭杖を抱えて小屋を出ていく。
りんは小屋の中の楓を振り返り、笑顔で「そこまで送ってきます」というと、邪見を追いかけた。
「邪見さま、待って」
りんは邪見に追いつくと、小さな妖怪に並んで歩く。
「なんじゃ、りん」
「近くまで、送ってく」
りんの少し大人びた笑顔を見て、邪見は照れ隠しに、ふん、と言った。
実は、邪見にとって、村の中でりんが一緒に歩いてくれるのは心強い。
というのも、この前、邪見は村の中を一人で歩いていて、
悪童たちに「河童がいる」と大騒ぎされたのだ。
腹が立つことこの上なかったが、村にりんがいる以上、
人頭杖を使うわけにもいかず、悔し涙をのんだばかりである。
りんと楓とかごめ、それと法師夫婦の説明により、
邪見に対する「河童」疑いは晴れたものの、
「尻子玉を取られるぞ~!」
という忌々しい悪童たちの声は、今も邪見の耳にこびりついている。
ちなみに、犬夜叉は木の上でげらげら笑っていた。
「あのね、邪見さま、お願いがあるんだ」
思い出して歯ぎしりしていた邪見はりんの声で我に返った。
「お願いじゃと?」
「うん。今度、殺生丸さまに、夜に来てもらうようにお願いしたの」
「夜にか?なんでまた」
りんは嬉しそうに、うふふ、と笑う。
「それは、まだ秘密」
「なんじゃ、気色悪いの」
りんは邪見の正面に回り込み、手を合わせた。
「お願い、邪見さま。だから、夜、楓さまの小屋まで迎えに来てほしいの」
「ワシにか?!」
「うん、お願い!!」
りんは、ぺこりと頭をさげた。
「殺生丸様がそう仰せなら仕方ないがの・・・」
邪見はかりかりと頭をかいた。
(まあ、夜ならあのクソガキどももおらんか)
どのような状況であれ、殺生丸の命令なら従わざるを得ないのだ。
「日が暮れたら、いつでも出られるように準備しておけよ」
ため息まじりで言うと、りんは嬉しそうに、
「うん!」
と、笑った。
邪見を村の端まで送り楓の小屋に戻ると、犬夜叉とかごめが来ていた。
囲炉裏からは美味しそうな鳥鍋の匂いがしている。
「おかえり、りんちゃん」
鍋から灰汁をとりながら、かごめがりんを笑顔で迎えた。
「かごめさま!いらしてたんですか」
りんは嬉しそうにかごめの側に寄る。
かごめは今でこそ近くに犬夜叉と新居を構えているが、
戻ってきた当時は、楓とりんと三人川の字になって寝た仲だ。
りんにとっては姉のようなもので、りんはかごめが大好きである。
「ええ、犬夜叉が鴨を捕まえたの。一緒に食べようと思ってね」
鍋の中にはささがきのゴボウと葱がたくさん入り、
その間に薄く切られた鴨肉が良い色に火が通っていた。
現代から来たかごめのつくる料理は、とても美味しい。
「わあ、美味しそう!」
りんは鍋の中をのぞき込むと嬉しそうに笑い、
てきぱきと、薄暗くなり始めた小屋の中に火を灯した。
犬夜叉は、なんとなく居心地が悪そうにしている。
殺生丸の匂いが、りんから漂うのだろう。
己の心配していることが、正直な犬夜叉は、隠せない。
理由を知っている楓は苦笑しながら、りんに尋ねた。
「りんよ、殺生丸殿はどうだったか?」
「はい!次は、夜に来てくれるそうです」
りんは嬉しそうに微笑んだ。
かごめは朗らかなりんの表情を見て、ほっとした。
花火の件は、もともとかごめの発案と言っても良い。
首尾良く事が運んでくれるか、気に掛かっていたのだ。
鴨鍋は、その口実である。
「・・・あんまり、遅くならないように帰ってこいよ」
犬夜叉がぼそぼそといい、りんはひだまりのような笑顔で「はい」と応えた。
続く
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言い訳なあとがき。
アニメ最終話を迎え、ようやく原作終了後へ頭が切り替わったせいか、
なんだかやたら状況説明の多い文体に・・・(汗
読みにくかったら、申し訳ありません(-_-;)
短いストーリーにするつもりだったのに、
なんだか長くなってしまいました。
お付き合い頂けたら、嬉しいです(*´・ω・`)ノ
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