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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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崖の上より人里を望む

りんちゃんが殺生丸と行動を共にしてしばらくたった頃。
殺生丸は一度もりんちゃんを人里へ返そうと思わなかったのか・・・?
という疑問から。
多分、一度くらいは思ったんじゃないのかな、冥界編でのいきさつからして。




崖の上より人里を望む


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「あ・・・!」

りんは、阿吽の背から眼下に広がる城下町を見て、思わず声をあげた。

深い木立を抜け、切り立ったがけの淵を歩いていく危険な道行。
りんは殺生丸に阿吽の背に乗ることを命じられ、りんはご機嫌でその命に添うた。
阿吽に乗るのは好きだ。
阿吽も、この人間の娘を乗せることが好きである。
邪見はこの手綱を持つのは我が使命、とばかりに先にゆく。

最も、この道行の行き着く先はこの者達には分からない。
知っているのは、一番前を行く、銀色の大妖怪のみ。


りんが思わず声をあげたのは、崖の淵に沿って一刻ほど進んでからだった。
それまで死角になっていたがけの下が急にひらけ、
その下に小さな城と城壁、その周囲を取り囲むようにして城下町がみえたのだった。

殺生丸は、普段人間の里には近づかない。
りんは少なくとも、邪見からそう聞いていた。
以前は、目的地に行くためなら人間の戦だろうが何だろうが、
構わず前進あるのみで、そのために侍どもの勢力図がどんどん変わったものだ、と。
「今はどうして人里を避けてるの?」と聞くと、
「ま、お前がおるからじゃろ」と邪見はため息まじりに答えた。
「殺生丸さまの深いお考えは、わしにも分からんわい」と。

邪見は当初、りんを人里へ返すよう何度か殺生丸へ進言したものの、
主には足蹴にされるばかりで受け入れられず、
今ではこの娘の世話をすることが日々の仕事になってしまっている。
当初こそ不本意極まりなかったのだが、いつの間にやらこの娘に情が移ってしまった。
もはや、人里においてくるなど考えられない。
このような城下町の近くまで来たことは邪見にとっても意外だった。

「大きな町だねえ・・・」

りんは目を細めて、眼下を見下ろした。
細く高く、城下町よりたくさんの煙が上がっている。
人里ではそろそろ夕餉の支度に取りかかる時間帯だ。
煮炊きしている煙なのだろう。

りんは、囲炉裏に向かう母の後ろ姿を思い出して涙ぐんだ。

りん、もう少しお待ちね、お粥ができるから・・・
ほらりん、あぶないだろう?火に近づいちゃだめだよ、じっとして・・・
さあ、あーんしてごらん・・・
おいしいかい、りん・・・

夜な夜な夢に出てくる、失った家族はみんな幸せそうに笑っている。
お父もお母も、兄も。

もう、いない。

「・・・りん」

思わず殺生丸の方を向くと、金色の目がりんを見ていた。
思わず、ぽろり、と涙がこぼれる。

「人里へ戻りたいか、りん」

りんは目を見開いて、顔を横に振った。
殺生丸はりんに近づき、頬の涙を人差し指ですくった。

「では、なぜ泣く?」

「あの煙見てたら・・・おっかあのことを思い出したの。
 最近、よく夢にみるんだ。
 夜盗に襲われる前の、みんなが元気だった頃の夢」

「・・・」

「不思議だね、あの村にいた頃は泣くことも出来なかったのに」

りんは照れたようにえへへ、と笑った。

「ありがとう、殺生丸さま」

りんのまなざしと、殺生丸の琥珀色のまなざしが絡み合う。

皆が元気だった頃の夢・・・?
それだけではないはずだ。

殺生丸の脳裏に浮かぶのは、夢に泣くりんの寝顔。

最近、りんは毎晩夢にうなされて泣く。
泣きながら飛び起きたこともあった。
がたがたと歯の根も合わぬほど震えたり、声を出さずにひとしきり泣いて、
また眠りにつく。
人間のことはよく分からないが、それでもりんの生い立ちから考えるに、
恐らく夜盗どもに襲われた頃のことを夢に見ていることくらいは殺生丸にも分かる。

人里へ戻した方がいいのではないか・・・?

邪見の進言は足蹴にしてきたものの、そういった考えが無かったわけではない。
りんが人の輪の中で暮らすことを望むのならそれを叶えるのもひとつの手かもしれぬ。
一度、りんの思いを確かめておくか・・・

そう思い、大妖はわざと、人里近くを通りかかった。

「りん、夜起きて邪見さまと殺生丸さまの姿が見えるとね、安心するんだ」

「まあ、殺生丸さまがいらっしゃれば心配は無用じゃな」

「そうだねー、邪見さまだけだとちょっと怖いけど」

「なっなんじゃとー!!」

「あ、でも阿吽がいてくれれば大丈夫かな」

憤慨する邪見を見ながらりんは笑った。

「うそうそ!りん、邪見さまも頼りにしてるよ」

「あったり前じゃ!!」

・・・お前が夜な夜な夢を見て泣いていることにも気が付かぬ従僕など頼りにするな。

殺生丸は軽くため息をついて前を向いた。

「・・・いくぞ」

「はは!」
「はぁ~い!」

人里に残したとてこの娘が幸せである保証はない。

悪夢にうなされたりんが飛び起きて己を視界に認めた後、
ほぅ、と安心したように息をついて、また眠りにつくのも知っている。


・・・この殺生丸がしばらくは保証してやる。


殺生丸は人里へ背を向け、進路を変えた。



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