殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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領主さまに献上する馬が決まり、上機嫌でほくほく顔の長者さまとご子息から、
「どうぞどうぞ、せっかくですから兄妹水入らずでお過ごしください」
と、厩舎からあやめのいる離れに通された伊織は、
あやめのピンピンした顔を見ると、肩を落として、呆れたように大きなため息をついた。
「・・・やっぱりな・・・。 まったく、こんなことじゃないかと思ってたよ・・・」
「伊織兄ちゃん、すごい!! 直垂、似合ってる!お武家さまみた~い!!」
嬉しそうな声を上げたあやめは、にっこり笑って、
「見習いから職人へ昇格、おめでとう、伊織兄ちゃん!!」
と言った。
子供だけが見る景色<6>
「伊織兄ちゃんも食べなよ、このお茶菓子美味しいんだから!
ほらほら、りんちゃんも!」
「お前・・・元気だなあ・・・。悪阻が聞いて呆れるよ」
呆れた顔で伊織があやめに言い、りんは思わず笑ってしまった。
先程、遠い存在に感じてしまうくらいに大人に見えた伊織は、
三人だけになってしまえば、穏やかで優しい、いつも通りのあやめの兄だった。
あやめが「伊織兄ちゃん、カッコいいじゃないの~!」と、伊織の正装姿をほめると、
伊織は照れくさかったのだろう、りんが朝見た、困ったような顔をした。
「まったく、あやめは、長者さまになっても相変わらずだな。
・・・まあでも、何というか、安心したよ」
出された茶菓子をぱくぱく食べながら喋るあやめを見て、ため息をついて伊織はそう言った。
りんも微笑んで、うなずく。
臥せっている姿より、よほどこちらの方がいいに決まっている。
あやめと伊織とりんは、まるで昔、畑仕事の合間に一息着いたときのように話をした。
あやめのここでの暮らしの話になり、
りんの住む村で最近起きた出来事の話になり、
あやめの両親や、弟妹の話になった。
伊織とあやめと、三人で過ごす時間は、まるで昔に戻ったようで、
りんは嬉しい気持ちを、かみしめるように、過ごした。
ぽんぽんと喋るあやめに、穏やかな伊織が答え、りんが相づちを打つ。
あやめがもうすぐ母親になることなど、信じられないくらいに、
そこにある空気は昔のままで、帰る時間が近づいてきても、
りんはそれに気づかぬ振りをしたかった。
あやめは、もう、長者さまの暮らしをしている。
りんが会いたいと思っても、そうそう会えるはずはない。
子供が産まれれば、なおのことだろう。
それでも、あれもこれもと、お互いに話したいことを喋るうちに、
りんの気持ちに反して、楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまった。
きっと、あやめも、同じ気持ちだったに違いない。
窓から西日が差し込むころ、
「表に、お帰りの準備が整いましてございます」
と、端女の声が外から聞こえると、
あやめは、泣きそうな顔をして黙り込んでしまった。
「・・・ありがとうございます。ただいま参ります」
大人の声で答えたのは伊織で、あやめとりんはお互いを見つめ合ったまま、
また、涙ぐんでしまう。
「・・・そんな泣きそうな顔をするな、あやめ。
お前はもうすぐお母さんになるんだろう?
しっかりしなくちゃ、だめだぞ」
「・・・伊織兄ちゃん」
伊織は、優しい目をして、あやめの頭をぽんぽんと撫でる。
「まあ、今日のあの感じからすると、俺がここの長者さまから呼び出されることも、
度々ありそうだし、その時にはまた、りんを一緒に連れてきてやるよ。
だから、そんな生き別れみたいな顔をするな」
そう言って、伊織はりんを見て、にっこりと微笑んだ。
「・・・ほんとに?!」
「・・・ほんとう?!」
二人の大きな声が重なった。
伊織が目を細めて頷くと、
廊下に控えていた端女が驚くくらいの、少女たちの嬉しそうな歓声が響いた。
「・・・あやめちゃん、元気でよかった」
長者さまから、重そうな米やら野菜やらの土産をどっさり貰い、
丁重に礼を言って、りんと伊織は、隣村を出た。
ぽくぽくと馬は進み、りんの住む村への峠に差し掛かったあたりで、
りんは伊織を見上げて言った。
「・・・あやめちゃんの元気な顔を見て、伊織さんも、ほっとしたでしょう?」
伊織は困ったように微笑んだ。
「そうだなあ、でも、りんがたくさん用意してくれた薬草は無駄になっちゃったな。
忙しいのに、楓さまも手を尽くしてくれたんだろう?
悪かったなあ・・・」
「ううん、これから悪阻が酷くなった時のためにちゃんと渡してきたし、
何より、あやめちゃんが元気なのが一番だもの」
伊織は前を向いたまま、可笑しそうにくすくす笑った。
「あいつ、本当に変わらないよなぁ」
「うん、ほんと」
りんも、一緒になって、くすくす笑った。
馬に乗ることにも、体が慣れてきたのだろう。
朝、りんの住む村を出るときに襲ってきた不安や、
胸を締め付けられるような懐かしさは、もう感じなかった。
大きな生き物の背に乗ることに変わりはないが、
やはり阿吽と村長の馬とでは、乗り心地が全然違った。
阿吽は口こそきけないものの、りんの言葉が分かるし、
どんなことがあっても、りんを振り落としたりすることはないだろう。
だが、馬は違う。
当然ながら言葉は通じないし、
伊織が言うには、驚くと人を振り落とすこともあるのだという。
「疲れないか? 俺に寄りかかってくれて構わないよ」
馬上で伊織は何度かそう言ったが、りんは微笑んで首を振った。
この体制で伊織に寄りかかると、また胸の中にすっぽりと埋まってしまう。
りんが何の躊躇いもなく全身を預けて甘えられるのは、やはりただ一人だ。
揺れる馬の背の上で伊織に寄りかからないように、
上半身に力を入れた体勢を保つのはけっこう骨が折れて、
帰り着く頃には絶対に体が痛くなっているだろうなあ、と、りんは思った。
村をでて、一刻ほどたったときである。
「・・・ん?」
・・・ぽつり、と、何かがりんの頬に当たり、
それに気がついたりんは空を見て、あっ、と声をあげた。
それに気がついた伊織は、すっと表情を引き締め、
「ごめん、少し走るよ、りん」
と言った。
見る見るうちに空が暗くなり、叩きつけるような激しい雨が降り出したのは、
まもなくのことだった。
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