殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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夜明けの最初の一秒<1>
夜の空を飛ぶのは、久しぶりだった。
人里に預けられてからというもの、殺生丸は、いつも昼間にしか会いに来なかったから。
空を飛ぶ殺生丸に抱えられたまま、闇の中に輝く、星を眺めた。
月の光と星の瞬きが、言葉にできないくらい美しい。
さっきまで大雨が降っていたことが嘘のようだった。
「・・・伊織さん、一人残してきて、大丈夫だったのかな・・・」
りんがぽそりと言うと、殺生丸が静かに答える。
「犬夜叉が近くまで来ていた。・・・それに、あのあたりにはもう獣はおらぬ」
りんは旅していた頃、邪見が自慢げに、
殺生丸さまがお通りになった後には、残った妖気を恐れて妖も獣も近づけんのじゃ、と、
言っていたのを思い出す。
それに、犬夜叉が近くまで来ているのなら、
きっと狼の血の臭いをたどって、伊織を見つけてくれるだろう。
りんが無事なことも、伊織から聞けるに違いない。
「ありがとう・・・殺生丸さま・・・助けてくれて」
りんが殺生丸の顔を見上げて言うと、殺生丸はちらりとりんを見て、
「・・・当然だ」
と言った。
殺生丸が降り立ったのはりんの住む村ではなく、霧の漂う森だった。
月の光を含んだ白いもやが、殺生丸とりんを包んだ。
先ほどまで月の光ではっきりとしていた視界が、急に淡くぼやけたものになっていく。
地面に降りて歩きだした殺生丸は、相変わらずりんを抱えたまま、
濃い霧の中を迷い無く前へ進んでいく。
「・・・殺生丸さま、ここは、どこ?」
「・・・霧の館だ。私の乳母が住んでいる」
「殺生丸さまの、乳母さま・・・?!」
りんは目を見開く。
300年以上は生きているという殺生丸さまのその乳母さまは、いったいいくつなんだろう。
楓さまみたいなお婆ちゃんなんだろうか。
「霧の館には湯殿がある。そこで血を洗い流すがいい」
殺生丸に言われて、りんは改めて、かびかびになった顔や髪の毛を恐る恐るさわってみる。
考えてみれば、頭から狼の血を浴びたのだ。
鼻のきく殺生丸が血まみれのりんを腕の中に抱えているのは、
さぞかし苦痛だったことだろう。
りんはあわてて、殺生丸の腕から逃れようと、じたばたした。
「せ、殺生丸さま、降りる、降りるから!りん、自分で歩くよ!」
だが、殺生丸の腕は、ぴくりとも動かない。
りんがこわごわ殺生丸を見上げると、目元だけで微かに笑った殺生丸は、
「・・・大人しくしていろ」
と言った。
りんが思わずどきっとした時、殺生丸が立ち止まった。
逃れられぬ腕の中で正面を見ると、まるで社にあるような石の灯篭が二つ、
柔らかい光をぼんやりと放っていた。
「・・・入り口?」
りんは、殺生丸の顔を見上げる。
応えはなく、りんは殺生丸の視線をそのまま追った。
その灯篭の向こうには、ぼんやりと石畳が続いているのが見える。
やがて、霧の向こうからその石畳の上を、
ゆるゆると十二単を纏った一人の女性が歩いてきた。
正式な十二単など見たこともないりんは、その美しさに思わず目を見張る。
まるで、絵草子の中のかぐや姫のようだと、りんは思った。
ただ一つ、流れる絹糸のような髪の毛が、殺生丸と同じ白銀であることをのぞいて。
目元以外を隠した豪奢な檜扇の向こうから、くすりと笑う気配がした。
落ち着いた、大人の女性の柔らかい声がする。
「お久しゅうございますこと、殺生丸さま」
「・・・この娘を頼む」
「・・・仕方のない親子ですわねぇ・・・」
檜扇のむこうで、クスクス笑いが聞こえ、りんはゆっくりと殺生丸の腕から降ろされる。
「私の乳母の霧姫だ。・・・ついて行け」
りんは目を見開いた。
・・・一体、この人はいくつなんだろう。
美しい目元は、どうみてもりんより数歳年上にしか見えない。
妖とは、なんて長生きなんだろうか。
「霧姫・・・さま」
りんは殺生丸から霧姫に向き直ると、礼儀正しく腰を折って頭を下げた。
「あ、あの、りんと申します。・・・ご迷惑をお掛けいたします」
殺生丸さまがりんを託すということは、
きっと霧姫さまのことを殺生丸さまはとても信頼しているのだろうと、りんは思った。
何より今、血の臭いで殺生丸に不愉快な思いをさせているのだと思うと、
りんは申し訳なくて身の置き場が無かったし、
湯殿で体に付いた血を洗い落とせるなら、早く落としてしまいたい。
クスクスと笑いながら銀色の髪なびかせて、
十二単の霧姫は歩いてきた方へゆるりと向き直る。
「・・・どうぞ、人間のお姫さま」
「す、すみません、りん、お姫さまなんかじゃ」
あわててりんがそう言いかけると、
鮮やかな衣から真っ白な指が伸びてきて、りんのくちびるに触れた。
「そんなことを仰ってはいけませんわ。・・・ご自覚がありませんのね」
殺生丸の小さなため息が聞こえた。
「・・・霧姫。 私から、後で話す」
まあ、と霧姫は言うと、またクスクスと笑った。
「・・・本当に、困った親子ですこと・・・。
それではりんさま、どうぞこちらへ。
殺生丸さまには、御酒のご用意をしておりますゆえ、ごゆるりと」
そういうと、霧姫はゆるゆると石畳を前へ進み、りんは殺生丸を振り返った。
「・・・行ってきます、殺生丸さま」
りんがそういうと殺生丸はかすかにうなずき、それを見てりんは霧姫の後を追った。
石畳はしばらく続き、周囲はずっと霧に包まれたままで、
りんには一体ここがどんな場所なのかもよくわからなかった。
ただ、とても広いお屋敷なんだなあ、と漠然と思う。
りんは、目の前の美しい霧姫の髪の毛に思わず見とれてしまう。
きっと殺生丸さまと同じように、触れると冷たくてつるつるで、気持ちいいに違いない。
先ほど、檜扇の陰から、ちらりと頬に走った妖の模様が見えた。
殺生丸さまのご母堂さまの頬にもあった、同じ模様だ。
きっと、霧姫さまは、殺生丸さまと同じ一族なんだろうと、ぼんやり思う。
「・・・殺生丸さまは、お優しい?」
突然、霧姫に尋ねられて、りんは我に返った。
「・・・はい、とても。
あの、霧姫さまは、小さい頃の殺生丸さまをご存知なんですよね」
りんが後ろからそう言うと、霧姫はくすり、と笑う。
「ああ見えて殺生丸さまは、小さい頃は姫君のように可愛らしかったのですよ。
・・・そりゃあもう、ずいぶんと凶暴でしたけど。
殺生丸さまほどの妖力の赤子ですと、お相手するのも一苦労でしたわ」
面白がっているようなその言い草に、思わずつられてくすくすと笑ってしまった。
今でも、見とれてしまうほど美しいのだ。
小さな頃は、どれだけ可愛らしかっただろう。
りんがそんなことを考えていると知ったら、殺生丸さまはきっと憮然とするに違いない。
そう思うと、また、くすくすと笑ってしまった。
やがて、霧姫の行く先に、ぼんやりとした明かりを灯した建物が見えてきた。
白木作りの、まるでどこかの社のような建物だ。
壁に作られた格子の窓から、白い湯気ががふわふわと漂っていた。
きっと、ここが湯殿なのだろう。
入り口に、童女が二人、控えていた。
二人とも霧姫と同じ白銀の髪の毛で、
眉の上で切りそろえられた前髪に、肩の上でぱっつりと切り落とされた髪型をしている。
その金色の目は、人間のものではない。
けれど、人間の子供と同じようなきらきらした目で、りんを物珍しそうに見つめていた。
「朝凪、夕凪、この人間の姫さまを湯殿へお通しなさい」
「畏まりましたっ」
朝凪・夕凪と呼ばれた童女は、霧姫に一礼すると、その扉を開けた。
中から、温泉の匂いのする湯気が、ふわりと流れ出た。
「ありがとうございます、霧姫さま」
りんは霧姫にぺこりと頭を下げて礼を言うと、
霧姫は少女のようににっこり笑って、ひらひらと手を振った。
りんは二人の童女に促されて、扉の中へ進み、草履を脱いで、板の間に上がる。
床から檜のいい匂いがして、
りんはこんな血まみれの体で建物に入ることを、申し訳なく思った。
「姫さま、どうぞ、こちらへ」
促されて廊下を歩きながら、りんは、そっと童女たちに言った。
「あ、あのね、ごめんなさい、りん、お姫さまなんかじゃないの。
だから、そんなに気を使わないで」
それでも、童女たちのきりりとした動きはまったく乱れはない。
聞こえているのだろうかとりんが思ったとき、広い部屋にでた。
「こちらでお召し物をお脱ぎ下さいませ」
「私たちが湯浴みのお手伝いをいたします」
童女たちが揃ってそう言うと、りんは真っ赤になって慌てた。
怪我をしているわけでもないし、身動きに不自由があるわけでもないのに、
湯殿で汚れを落とすのに、人の手を借りる必要など、あるはずがない。
「ま、まさか!一人で大丈夫ですっ!!」
りんがそう言うと、二人は途端に悲しそうな顔をした。
「それでは・・・」
「我らの仕事がなくなってしまいます・・・」
あまりにしゅんとした二人を見て、りんは申し訳ないことをしたような気分になった。
見た目は、りんよりずいぶん若い子供の姿である。
まるでやりたかったお手伝いを取り上げられた子供のような表情をして、
りんを見上げてくる。
思わず、ため息をついた。
まるで、何かを手伝ってもらわないといけないような気分になってきてしまう。
(仕方ないなぁ・・・二人共、女の子だし、りんが恥ずかしいのを我慢すればいいかぁ)
「・・・わかりました、じゃあ、少しだけ手伝っていただけますか?」
りんが仕方なくそういうと、童女はそっくりな笑顔を浮かべて、
「ありがとうございます!」
と言った。
湯殿の扉を開けると、目の前が見えなくなるくらいの白い湯気が溢れ出した。
簀の子を敷き詰めた広い部屋の奥に、豪奢な檜風呂があって、
そこに注ぎ口からお湯がどんどん流れ込んでいた。
あふれるお湯が、簀の子の下を通り、どこかへ流れ出ているのだろう。
簀の子の下からも、湯気が立ち上っている。
りんがこんな豪奢な檜風呂につかるのは、当然のことながら初めてで、
本物のお殿様やお姫様がこういう湯殿を使っているのだろうなと、ぼんやり思う。
「さあ、姫さま、お掛け下さい」
「湯をお掛けいたしましょう」
朝凪と夕凪は、風呂桶を抱えて嬉しそうに言う。
「あの、りんは、本当にお姫さまじゃないの。
だから、せめて名前で呼んで下さい。・・・落ち着かないから」
りんがそう言いながら胡床(こしょう=椅子)に腰掛けると、
朝凪が抱えていた風呂桶から、肩にゆるゆると湯を掛けてくれた。
柔らかくて熱すぎないお湯で、とても気持ちがいい。
りんが思わずため息をつくと、朝凪が嬉しそうに「いかがです?」と聞いた。
「気持ちいい・・・りんなんかが入っても、本当によかったのかなぁ・・・」
りんの言葉に、朝凪と夕凪が声を揃えて言った。
「何を仰られます、200年ぶりのお客様ですのに!」
「200年!?」
りんが驚いて思わず大きな声を出すと、
新しく汲んできた風呂桶を抱えて、夕凪が答える。
「こちらに湯浴みにいらっしゃるお方は、滅多におりませぬ。
それゆえ、私たちにとっては、大切な姫さまなのでございます」
「・・・どういうこと・・・ですか?」
りんが唖然としていると、朝凪が次の湯を掛けながら、
「さあ、体も髪も洗ってしまいましょう!」
と、楽しそうに言った。
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