殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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「・・・逝くのじゃな」
「・・・ああ。後を、頼む」
「――― つまらなくなるな」
わらわがそう呟くと、あやつは面白そうに血の滲んだ口角を上げた。
「――― 私は、楽しかったぞ。そなたがいてくれて、楽しかった。すまんな、最後まで面倒を掛ける」
「・・・馬鹿もの。 少しは残される身にもなってみろ。」
わらわが怒ると、傷だらけの頬が、少しだけ疲れたように笑った。
「・・・すまん」
「・・・ほんに、良いのじゃな」
「ああ・・・・・・もう、思い残すことは、何もない―――――― 」
下界で炎に包まれ、ボロボロになっていたくせに、微笑みながら、あの男はわらわの胸の中で、息絶えた。
ほんに、嘘ばかり言いおって。
何が思い残すことはない、じゃ。
本当は後のことが気にかかって仕方がなかったくせに。
まったく、あんな心配性で子煩悩な妖はみたことがない。
あやつの残した二本の牙はそれぞれの息子に受け継がれた。
あやつらしい小細工を残したままで。
鉄砕牙は、あの危うげな半妖の犬夜叉に。
天生牙は、未だ「大切なもの」を知らぬ殺生丸に。
すべて、あやつがこの世を去ってからのこと。
いったい、闘牙は、どこまで先を見通していたのだ。
・・・殺生丸が人間の娘を愛することも、闘牙は見越していたのだろうかの。
変なところがよく似た親子だからの。
己と同じ轍を踏んで、殺生丸が人間を愛してしまった時のことも、あいつは考えておったのやもしれぬ。
そう、闘牙が一番よく分かっておったはずじゃ。
人間を愛してしまったが最後、共に過ごせるのは、ほんの瞬きするほどの間であること。
・・・死に別れた後は一人、癒えぬ孤独に苦しみながら生きるしかないことも。
あやつの場合は計算が狂って、自分の方が先に逝ってしまいおったが。
そして殺生丸の手に、慈悲の刀が残された。
さあ、それをどう使う、殺生丸よ。
父上の声が、聞こえるかえ?
娘はもう、この世にはおらぬ。
されど、そなたは分かっているはずだ。
あの娘は、そなたに言い残したであろう。
永い永い輪廻のその向こうに、また出会える未来があることを。
――― だが、その未来は、果てしなく遠いのう。
しかし、そなたはそこへ向かって生きるしかあるまい。
どんなに孤独であろうとも、そなたは歩み続けるしかないのじゃ。
・・・・天生牙を泣かせるでないぞ。
天生牙を手にしたそなたにしか成せぬことは、地上には山のようにあろう。
人間たちの怨唆の声に満ちた下界は、悪霊のるつぼのようじゃ。
天生牙に宿る、父上の言の葉に耳をすませ。
そうして天生牙と共にあの小娘を待ち続けることでしか、そなたの魂は救われまい。
生まれ変わったばかりの娘の命、魑魅魍魎どもに喰われぬよう、せいぜい神々の手のひらの上で働くのじゃな。
数世紀も待ちわびた娘の笑顔を思えば、何のことはなかろう。
天生牙も働きがいがあろうて。
この世のすべては、神々の手の上じゃ。
・・・のう、殺生丸よ。