殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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「―――― おお、殺生丸さま、美しゅうございますなあ・・・」
茜色に染まった朝焼けの空高く、輝く銀色の白尾に掴まった侍従が、しわがれた声でそうつぶやいた。
年老いた侍従の声は、風の音に紛れて、銀色の妖の耳に届く。
「・・・・・・」
「りんが見れば、さぞかし喜ぶことでしょうなぁ・・・」
数百年まえであれば、このような言葉を発しようものなら、侍従は蹴落とされて大空に舞ったに違いない。
だがそういえば、もう何年も、そういう扱いを受けていない。
・・・いつ頃からだろう。
あれは、人頭杖が重くて重くてたまらなくなった頃からだろうか。
最近では、寝たきりになった侍従が 「 殺生丸さまと共に空を飛びとうございます」などとワガママを言うと、時たまこうやって空に連れ出してくれるようにもなった。
殺生丸さまはずいぶん丸くなられた、などと出来損ないの年老いた侍従は笑う。
「殺生丸さま、りんへの土産は何にいたしましょうや」
「・・・・・・」
「新しい着物など、ご用意いたしましょうかの」
「―――――― 邪見」
「はい」
「 邪見よ・・・りんは、もうおらぬ」
白濁した侍従の大きな目が、とまどったように見開かれた。
ゆらゆらと視線が揺らぎ、主の視線を受け止めてようやく、侍従は我に返った。
「・・・・ああ・・・そうで・・・そうでございましたな」
顔の半分ほどもある目がくしゃりと閉じられると、大粒の涙が空を舞う。
「申し訳ありませぬ・・・」
ぽろ、ぽろ、ぽろ。 ぽろ、ぽろ。
「そうでありましたな・・・りんはもう、おらぬ。 おいたわしや・・・・殺生丸さま」
「・・・・・・鬱陶しい、泣くな」
「申し訳ありませぬ・・・」
「・・・・邪見」
「は」
―――― おまえも、もうすぐ、逝くのか
―――― はい
―――――― 申し訳ございません 殺生丸さま
言葉にせずとも、伝わる。
不出来な侍従は、主が無口なことを知っている。
・・・時は、過ぎる。残酷に、容赦なく。
美しい深紅の朝焼けも、この神のように美しい大妖には何の価値もない。
太陽が、ただ昇ることを繰り返しているだけ。
ただ、それだけのことだ。
りんがそれを愛でるからこそ、殺生丸には価値があった。
・・・だが、年老いた侍従の願いを少しばかり叶えてやるくらいなら、付き合ってやらなくもない。
最近は、そう思う。
「・・・・」
「・・・殺生丸さまは、お優しくなられましたな・・・」
白尾に掴まっていることすら危うい侍従は、泣きながら目を細めて笑う。
侍従には、主が白尾の形を変えて、年老いた自分が大空に落ちたりしないように、気を使ってくれているのがわかる。
かつて主が、愛する人間の娘にそうしていたように。
「ありがとうございますじゃ・・・」
「・・・・・・」
「・・・殺生丸さま」
「何だ」
「ワシは・・・りんの言っておったことを、信じてみようと思うておりまする」
「・・・なんのことだ」
「また・・・お側に参りまする。 生まれ変わっても、また」
「・・・・・・」
「・・・お許しいただけますでしょうや?」
銀色の長い髪が風をはらんで、ざあ、と靡いた。
主の表情は、背を向けられた侍従には見えない。
「・・・くだらん。 母上の元に戻るぞ」
侍従は白尾の中で目を細めて笑い、はい、と答えた。
ほろほろと、また涙がこぼれて大空に溶けた。
―――――― 言葉になどせずとも。
――――――――― 許す、という言葉が、侍従には聞こえた気がした。