<?xml version="1.0" encoding="UTF-8" ?>
<rss version="2.0" xmlns:blogChannel="http://backend.userland.com/blogChannelModule" >
  <channel>
  <title>あやかしとむすめ</title>
  <link>https://mioyanoko.ichi-matsu.net/</link>
  <atom10:link xmlns:atom10="http://www.w3.org/2005/Atom" rel="self" type="application/rss+xml" href="https://mioyanoko.ichi-matsu.net/RSS/" />
  <description>殺りん話を、とりとめもなく・・・　                   こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式ＦＡＮサイトです。</description>
  <lastBuildDate>Fri, 08 Jul 2016 00:14:53 GMT</lastBuildDate>
  <language>ja</language>
  <copyright>© Ninja Tools Inc.</copyright>
  <atom10:link xmlns:atom10="http://www.w3.org/2005/Atom" rel="hub" href="http://pubsubhubbub.appspot.com/" />

    <item>
    <title>目次</title>
    <description>
    <![CDATA[<div style="text-align: center;"><strong><img style="width: 200px; height: 40px; vertical-align: middle; border: 0px solid;" alt="lXLXqiPc.jpg" src="//mioyanoko.ichi-matsu.net/Img/1265955658/" /><br />
<br />
小説目次</strong><br />
<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/233/" target="_self">原作編</a><br />
<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/249/" target="_self">原作終了後</a><br />
&nbsp;&nbsp;<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/194/" target="_self">新婚編</a>#%E:183%#<br />
&nbsp;<br />
<a title="" href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/322/" target="_blank">輪廻転生編</a><br />
&nbsp;&nbsp;<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/179/" target="_self">番外編</a><br />
<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/139/">動画リンク</a><br />
<br />
&nbsp;&nbsp;&nbsp; &nbsp;&nbsp;</div>
<div style="text-align: center;">&nbsp; &nbsp; &nbsp;</div>]]>
    </description>
    <category>小説</category>
    <link>https://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/33/</link>
    <pubDate>Tue, 31 Dec 2019 16:01:01 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mioyanoko.ichi-matsu.net://entry/33</guid>
  </item>
    <item>
    <title>星の湖</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>&nbsp;</p><br />
<p>すやすやとした寝息を立てる体温の高い愛しい生き物は、完全に寝入ったようだ。<br />
りんは、つきたてのお餅のようなぷっくりとした頬を、つん、とつついた。<br />
頬をつつかれても、ぴくりとも動かない。ぐっすりと寝入った証拠だ。</p><br />
<p>「ふふ･･･おやすみ」</p><br />
<p>りんは、末の子の頬をそっと撫でて微笑むと、ゆっくりと体を起こした。<br />
そばに置いてあった夜着を羽織ると、そっと寝床を後にして立ち上がる。<br />
扉をあけると、ひんやりとした夜風が頬を撫でた。<br />
廊下には乳母が控えている。</p><br />
<p>「ありがとう。あとはお願いね」<br />
「かしこまりまして」</p><br />
<p>深々と頭を下げて、それから乳母はりんを見上げて微笑んだ。</p><br />
<p>「やはり、母上さまでなければ寝付いてくださいませぬな」</p><br />
<p>りんは、乳母の言葉に思わずくすりと笑った。<br />
今年で２つになる男児は甘えたで、特にりんに懐いている。<br />
他の身の回りの世話は乳母でもしぶしぶ言うことを聞くが、寝るときだけはりんが傍で添い寝をしなければ寝てくれない。「母上さまと一緒に寝たい」と足元に水たまりができるほどに泣く。そんな殺生丸似の末っ子が、りんはたまらなく可愛く愛おしい。<br />
けれど、夫婦の閨を空にするわけにもいかず、りんは末の子を寝かしつけてから、毎晩廊下を渡り、夫婦の寝室に戻るのだ。人間であるりんが寝る時間に合わせて、律儀で優しい夫は、必ず閨で待っていてくれる。</p><br />
<p>･･･とはいえ、ここ数日は一人寝の夜が続いていた。</p><br />
<p>「殺生丸さまは？」<br />
「いまだ、御戻りになられませぬ」<br />
「･･･そっか」</p><br />
<p>りんは、夜着の胸元を寄せた。<br />
殺生丸は、ここ数日戻っていない。<br />
この世には、殺生丸にしか果たせぬ役割があるらしい。<br />
殺生丸はりんに詳しく語りはしないけれど、殺生丸が担う役割は他の誰にも成しえない、この世の理（ことわり）の一部であることは、りんも理解している。りんには手伝いようのない分野で、無事に帰ってくることを祈るしかできない。<br />
<br />
庭の夜香木の花が、ふわりと香った。<br />
夜はひんやりとした風が通るが、季節は本格的な夏に入ろうとしている。</p><br />
<p>「りんさま、今宵は七夕（しちせき）でございます」<br />
「あ･･･そうかぁ。もう、そんな季節なんだね」</p><br />
<p>りんは、夜空を見上げて目を細めた。<br />
今日は、雲一つない星空だ。遠く、細い細い三日月が浮かんでいる。<br />
あの三日月が山に落ちたら、夜空は天の川に覆い尽くされるだろう。<br />
それはそれは美しい、星々の大河だ。</p><br />
<p>「･･･今宵はきっと、お戻りになられましょう」</p><br />
<p>乳母が、やさしい声でそう言った。<br />
りんは、微笑んで頷く。</p><br />
<p>「･･･そうだね」</p><br />
<p>この屋敷の者たちは、皆、知っている。<br />
ここの主がどれだけ、愛しい人間の妻を大切にしているかを。</p><br />
<p>「･･･ありがとう。じゃあ、向こうに戻るね。子どもたちをお願い」<br />
「はい、お任せ下さいませ」</p><br />
<p>乳母を残し、りんは渡り廊下を歩む。<br />
ひんやりとした夜風が心地よい。</p><br />
<p>こんな時、りんは待つしかない。<br />
殺生丸は、この世で唯一、天生牙に選ばれた存在なのだ。<br />
そんな夫の事をとても誇らしく思う。<br />
昔と違い、りんの周りはずいぶんと賑やかになった。<br />
そんな中で、子供たちと一緒に愛しい夫の帰りを待つのは、楽しみでもある。<br />
昔はもっと切ない気持ちで、夜空を見上げていたものだ。<br />
<br />
満点の星空を見上げて、りんは子どもの頃へと思いを遡らせる。<br />
そして、こつん、と幸せな記憶にぶつかり、りんの頬は思わずゆるんでしまった。</p><br />
<p>あれは、いつだっただろう。</p><br />
<p>楓の村に預けられて間もない頃だったと思う。<br />
殺生丸と邪見と共に阿吽に乗って、たまたま人間たちの街道にさしかかったことがあった。<br />
街道筋は縁日で、多くの店が並び、子どもも大人も皆、楽しそうに歩いていた。<br />
そんな光景を見て、りんは思わず無邪気に口に出してしまったのだ。<br />
「わあ！りんも殺生丸さまと一緒に、ああいう所を歩いてみたいなあ」と。<br />
当然のごとく邪見から叱責されたが、りんも子どもながらに分かっていた。<br />
あんなところに殺生丸さまが降り立てば、大騒ぎになってしまう、と。<br />
殺生丸は妖怪の中の妖怪。<br />
縁日で楽しめるのは、人間だからこそなのだ。<br />
まあ、祭りの縁日の中には、まれに人間を狙う妖怪も交じっていることはあるにはあるが、殺生丸がそんな下賤な真似をするはずがない。りんとて、それを分らぬような道理のわからぬ子どもではない。</p><br />
<p>ところが次の日、殺生丸はりんの願いをいとも簡単に叶えてしまった。</p><br />
<p>一時的に姿を人間へと変え、りんを街道筋の縁日へと連れ出してくれたのだった。<br />
あの時のなんとも面映ゆい心地を、りんは忘れることはないだろう。<br />
道行く女たちは皆、惚けたように殺生丸を見つめて立ち止まったものだ。<br />
それほどに、人間の姿になった殺生丸は、まあ一言で言えば美男子だった。<br />
人間の姿になっても目立ってしまうことに違いはなかったわけだが、一目見て妖怪だと気が付いたものはいなかったに違いない。童だったりんと殺生丸は、年の離れた兄と妹のようにも親子のようにも見えていたことだろう。<br />
それにしても、殺生丸がりんと縁日に行くために人間の姿になると知った時の、犬夜叉の顔は本当に見ものだった。今でもありありと思い出せて、りんは思わずくすくすと笑った。<br />
飴を買ったり団子を食べたりしながら、殺生丸と共に道を歩き、店を覗いてまわる。<br />
あまりに楽しくてうれしくて、はしゃぎすぎたりんは最後は疲れ切って、子供らしく殺生丸の背で寝てしまった。今、思い出してもほっこりとする幸せな思い出だ。</p><br />
<p>けれど同時に、りんは思い知ってしまったのだ。<br />
殺生丸は、りんの願いならどのような願いでも叶えてしまう。<br />
りんが望むものは、必ず。<br />
あれ以来、りんは望みや願いを口にするときは、慎重にならざるを得なくなった。<br />
普通の子どもならば、ありえないことではあるが、それほどに自分は特別なのだと自覚したものだ。</p><br />
<p>今宵は、七夕（しちせき）だ。<br />
これも、りんが幼かったころに口にしてしまった願いがある。<br />
大人になった今ならば、あんな道理の分からぬことは言わなかっただろうと思うのだが。</p><br />
<p>「七夕（しちせき）はね、バラバラに暮らしている織姫と彦星が一年に一度、逢える日なんだって。<br />
　天の川を渡って逢いにいくんだよ。だからね、晴れた星空の下でなければ、逢えないの。<br />
　その日に雨が降ると、天の川を渡れなくて、会えなくなっちゃうの。<br />
　だから七夕の雨は、涙の雨で『催涙雨（さいるいう）』っていうんだって。<br />
　大好きなのに、一年にたった一回しか逢えないなんて、辛いよね･･･」</p><br />
<p>いつもはただ、りんの話を聞いているだけの殺生丸が、あの時は珍しくりんに尋ねたのだった。</p><br />
<p>「･･･りん。お前なら、どうする」</p><br />
<p>りんは、答えた。<br />
答えてしまった、というべきか。</p><br />
<p>「うーん･･･りんだったら、七夕の夜には、どんなことがあっても逢いに行くな。<br />
　それくらい、特別な日なんだもの。雨が降ってても、逢いに行くと思う。<br />
　だって、その日を逃したらまた一年間、逢えないんだよ。　そんなの悲しい。<br />
　だから、雨が降っても道が見えなくても、どんなことがあっても絶対に逢いに行くの。<br />
　好きだったら、それくらい出来ると思うんだけどなあ･･･」</p><br />
<p>殺生丸さまは、こういうことは絶対に忘れない。<br />
りんが望んだことは、必ず叶えてしまう。</p><br />
<p>大人になった今なら、分かる。<br />
人は皆、色んな事情を抱えて生きているものだ。<br />
逢いたくても、逢いにいけない恋人たちは、それこそ星の数ほどいるに違いない。<br />
りんだって、同じだ。<br />
殺生丸が今どこで何をしているのかは、りんには分らないし、手伝うことすらできない。</p><br />
<p>･･･けれど、ここで帰ってくるのを待つことはできる。</p><br />
<p>幾重もの薄い幄に覆われた、二人の閨。<br />
帳をかきわけて、りんはするりと夜具へと滑り込む。<br />
柔らかな絹の夜具に身を横たえ、大きく息を吸い込むと、ほんのりと殺生丸の香りがした。<br />
愛しい想いに浸りながら、一人でそっと目を閉じる。</p><br />
<p>空に傾く三日月は、あと一刻ほどで山に姿を隠すだろう。<br />
本当の闇夜の中でこそ、満天の星の光は輝く。<br />
夜空にまぶしいほどに散らばった光は、青い湖に落ちてまたたくだろう。</p><br />
<p>その頃、愛しい夫（ひと）はかならず戻ってくるはずだ。<br />
今宵は、七夕だから。</p><br />
<p>そして、閨に寝ているりんに口づける。<br />
褥から手を引かれて、りんは夜空へ連れ出されるに違いない。</p><br />
<p>昨年の七夕には、眩しいほどの星空を飛んだ。<br />
その前年の七夕に、「来年は星空を一緒に飛びたいな」とりんが言ったからだ。<br />
眼下には、青く静まり返った湖があった。<br />
空の星が群青色の湖面に映り、上にも下にも星が瞬いていて、夢のようにきれいだった。<br />
殺生丸の腕の中では、ついつい、りんは子供に戻ってしまう。<br />
あまりの美しさに感動していたりんは、また昨年も、無邪気な子供のように思わず口に出して言ってしまったのだ。<br />
<br />
「次は、あの星の光る湖の上を歩いてみたい」と。</p><br />
<p>だから、きっと今年の七夕は、あの星の輝く群青の湖面を歩くに違いないのだ。<br />
殺生丸さまは、どうやってもりんの願い事は叶えてしまうのだから。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>うとうとと瞼が落ちた頃、耳朶にやわらかな唇が触れて、低い声が流れ込んだ。</p><br />
<p>「･･･りん」</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>―――― 今年は、星の湖を歩きたいのではなかったか？</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>――――― ･･･おかえりなさい、殺生丸さま</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>―――――――&nbsp; 大好きよ、殺生丸さま･･･</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>りんは、手を伸ばす。</p><br />
<p>愛しい君の、願いを叶えるために。</p><br />
<p>りんの願いを叶えたい、という願いを、叶えるために。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;<img alt="" src="//mioyanoko.ichi-matsu.net/File/5c20e3e0.jpeg" /> <a title="" href="//mioyanoko.ichi-matsu.net/File/54a857f1.jpeg" target="_blank"></a></p><br />
<p>&nbsp;<br />
イラスト　時子さま　<a href="http://www.pixiv.net/jump.php?http%3A%2F%2Fpsychopomp.jp" target="_blank">http://psychopomp.jp</a></p>]]>
    </description>
    <category>小説</category>
    <link>https://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/338/</link>
    <pubDate>Fri, 08 Jul 2016 11:14:53 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mioyanoko.ichi-matsu.net://entry/338</guid>
  </item>
    <item>
    <title>ご連絡</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>昔のブログは削除することにしました。<br />
作品は残します。<br />
<br />
<br />
<br />
</p>]]>
    </description>
    <category>ブログ</category>
    <link>https://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/337/</link>
    <pubDate>Tue, 29 Dec 2015 14:49:55 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mioyanoko.ichi-matsu.net://entry/337</guid>
  </item>
    <item>
    <title>すべてのものは、我に帰す</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>「―――― 殺生丸さま」</p><br />
<p>なぜかは分からんかった。<br />
ただ、ただ、涙が溢れて止まらんかった。</p><br />
<p>何もかもが、消えていった。<br />
今まで必死に生きてきた人生の、何もかもが。</p><br />
<p>ワシは、ようやく己のいるべき場所を思い出したのだった。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><h2>すべてのものは我に帰す</h2><p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>・・・まったく、不思議なもんじゃのう。</p><br />
<p>あの日を境に、まるで体の中の細胞がすべて入れ替わってしもうたような気がする。<br />
自分のことも、ワシ、なんて呼ぶようになってなあ。<br />
言っておくが、ワシ、などという一人称は、いまだかつて一度も使ったことはなかったんじゃぞ。<br />
ごくごく普通の会社員じゃったのじゃからな。当然、一人称は「私（わたし）」じゃった。<br />
なのに、今では「ワシ」が一番しっくりくるのだから、ほんに、不思議なもんじゃ。</p><br />
<p>あの日までワシは、とある大手の製薬企業に勤めておった。</p><br />
<p>といっても、実のところ薬にはあまり詳しくはない。<br />
ワシの所属は、入社から一貫して総務部じゃったからの。<br />
定年まであと２年というところになって、ようやく秘書室長になった。<br />
まあ、順調な会社員人生じゃったように思っておったわ。</p><br />
<p>そう、あの日までは、の。</p><br />
<p>その日は、秘書室は天地がひっくり返ったかのような忙しさじゃった。<br />
なにせ突然、明日から会社の名前が変わってしまうことになったのじゃ。</p><br />
<p>我社に降りかかった災難は、Ｍ＆Ａじゃ。<br />
攻撃的買収、とも言う。<br />
ある日突然、会社の株式を２／３以上を買い占められて経営権を他社に奪われ、経営陣は刷新されてしまう。<br />
いわゆる『乗っ取り』というヤツじゃな。</p><br />
<p>うちの会社は、一族経営の１００年近い歴史がある老舗企業じゃった。<br />
じゃが、このＭ＆Ａで一夜にして経営陣が変わり、社名まで変わることになってしもうた。<br />
まあ、会社設立以来のハプニングじゃったわけじゃ。</p><br />
<p>我が社がこんなことになってしまったのにはいくつか理由がある。<br />
一つは、名の通った『一部上場企業』になるために、資金に困っていたわけでもないのに無駄に株を上場してしまったこと。<br />
○ントリーみたいに非上場にしておけば、こんなことにはならなかったのにのう。<br />
あとは、経営陣の後継者問題じゃ。この後継者問題は、実に厄介じゃった。<br />
一族経営じゃから、どうしても相続争いの様相を呈してしまうんじゃな。<br />
良識ある社員がどれだけいても、自分の首と引き換えに経営陣を止める正義漢はおらんわい。<br />
結局、歯止めのきかなくなった役員同士で骨肉の親族争いがくり広げられてしもうた。<br />
買収に裏切りなんぞまだ可愛いもんで、口封じで命を落としたものもいるらしい。真実は闇の中じゃ。</p><br />
<p>そして間の悪いことに、これが週刊誌にすっぱ抜かれてしもうた。<br />
おかげで我が社の株は急激に下落し、これが以前からＭ＆Ａを狙っておった奴らにとっては、決め手になってしまった。<br />
それもまあ、一言で言ってしまえば経営者一族の中に、優秀な後継者がおらんかったわけじゃ。<br />
やすやすとＭ＆Ａを許してしまったことが、その証明じゃのう。</p><br />
<p>一社員のワシだって、会社が株を上場しておる以上、こういうことはリスクとして認識しておかねばならんはずじゃったのじゃ。じゃが、世間で騒がれるＭ＆Ａのニュースをいつも他人事のように見ておった。</p><br />
<p>ああ、じゃが、こんなことが本当に我が身に降りかかろうとは。<br />
しかも、しかもじゃぞ。<br />
念願の秘書室長に任命されて、たったの三日で！</p><br />
<p>新しいＣＥＯとやらがやってくるというので、秘書課のワシらは朝からてんてこまいじゃった。<br />
経営陣が刷新されるというのに、買収される側のこちらには全く相手方の人事資料が降りてこない。いったい誰が新しい上司になるのか、検討もつかん。<br />
嘘か本当かも分からん噂話によると、新しいＣＥＯは外国人というじゃないか。<br />
いつぞやの缶コーヒーのＣＭが脳裏にちらついたが、わしゃ英語は苦手なんじゃ。<br />
英語だけじゃない。とにかく、外国語はからっきしダメ。<br />
秘書課の中で何とか生き残ってこれたのは、取引先がすべて国内で完結する会社だったからじゃぞ。<br />
あとはお得意の、ゴマすりとお偉いさんの行動の先読みじゃ。<br />
言葉に出さずとも、上司の一挙一動ですべてを察する。これぞ、秘書の神髄よ。<br />
じゃがのう、これが外国人となると話は別じゃ。<br />
彼らは必要以上にハッキリとものを言わんと伝わらん。これが、奥ゆかしい日本人との違いじゃな。<br />
それ以前に英会話なんて、どう足掻いても、今更無理じゃわい。<br />
定年間近のワシにそんなことを求められても困る！<br />
じゃが、じゃが、せっかく室長まで登りつめたこの地位がなくなるのはもっと困る！！</p><br />
<p>いっそ、意地悪してＣＥＯを退陣させてしまうというのはどうじゃ。<br />
かつて、派閥争いの時にはワシは先頭をきってその争いに参加したもんじゃがのう。外国人ＣＥＯには通じるかのう。むしろ、こっちが辞めさせられたりするかもしれん。<br />
いつも見とれていた秘書課の新入社員の美脚も、全く目に入らん。<br />
いったい、ワシは今後どういう路線でこの会社で生きていけばいいんじゃ。</p><br />
<p>あああああ、困ったわい。<br />
わしがモンモンと今後の社内人事について頭を巡らせている間にも、ホールには経営権譲渡の調印式の準備が整っていく。</p><br />
<p>ああ・・・むこうで干からびたワカメみたいになっている現ＣＥＯ奈落さまの姿が見える。<br />
ずいぶん悪どいことにも平気で手を染める人じゃったが、今回ばかりはお手上げのようじゃな。</p><br />
<p>奈落さまは、自分の分身のような社員を見つけては経営陣へ引き上げようとしていたが、結局、選ばれた社員は全員その才能を潰されてしもうた。あの社員たちは哀れじゃったのう・・・。<br />
会長のお孫さんの桔梗さまにもずいぶん付きまとっておったが、結局こっぴどく振られたという話じゃったし。<br />
だいたい、そんなことをしておるからＭ＆Ａなんちゅう事態を引き起こしてしまったんじゃ。自業自得じゃの。<br />
ああしかし、ワシも退職したあとはもう一回再雇用して貰おうなんて思っておったんじゃがのう・・・。なんせ、ワシには家族がおらん。仕事にすべてを捧げて、嫁も貰わずじまいじゃった。<br />
仕事がなくなったら、ワシはどうやって毎日を過ごしたらいいんじゃ。</p><br />
<p>ああ、いつの間にか、ホールに調印式の準備が整ったようじゃ。</p><br />
<p>買収側の経営陣が入場してきたらしい。<br />
ワシは会場の後ろにおったので人だかりで見えなんだが、前の方にいる女子社員の全員が、なぜか息をのんだ。<br />
何やら、張りつめた空気が伝わってくる。</p><br />
<p>これが新しいＣＥＯのオーラっちゅうやつか？<br />
干からびたワカメのような現ＣＥＯの奈落さまが、あんぐりと口をあけているのが見える。</p><br />
<p>ちょいと、前へ割り込んで新しいＣＥＯを見てみるかの。<br />
ワシは小さくて細いゆえ、こういう時は便利じゃ。おなごにはモテんがの。</p><br />
<p>黒尽くめのスーツに身を包んだ二人のボディガードに先導されて、新しいＣＥＯが入ってくる。<br />
ようやくＣＥＯが見えそうになったところで、女子社員たちが前へ前へと出てきてまた前が見えなくなってしもうた。<br />
さながら込み合ったバスの車内のような会場の中を、ワシは更に前へ前へとすり抜けてゆく。</p><br />
<p>途中、割れるような拍手と女子社員の悲鳴のような歓声が沸いた。<br />
会場に異様な興奮した空気が満ちておる。どうやら、あっさりと調印が済んでしまったらしい。　</p><br />
<p>しかし、変じゃなあ。Ｍ＆Ａにずいぶんと憤慨しておった社員もおったようじゃがのう。<br />
この場にはもはや、そんな空気は微塵もない。</p><br />
<p>そして、なんじゃ？<br />
女子社員が全員、アイドルのコンサートに来ているような表情になっておるが。</p><br />
<p>最前列まで近づいたところで、急に人の密度が濃くなって、ワシは押しつぶされそうになってきた。<br />
どうしたどうした、皆。<br />
なんでそんなに前に詰め寄っておるんじゃ。</p><br />
<p>その時、ヴン、とマイクの入る音がした。</p><br />
<p>「私は、新しいＣＥＯの秘書のアリュウともうします。ＣＥＯはまだ日本語に不慣れでございますので、社員の皆さまへの挨拶を、代読させていただきます」</p><br />
<p>えっ！！<br />
ワシは激しい衝撃に、言葉を失った。<br />
ＣＥＯの秘書？！秘書業務はもしかして、これから乗っ取り側の秘書が努めるのか？！<br />
ワ、ワ、ワシの立場はどうなるんじゃ！！秘書室長の地位は！？<br />
あ、でも、外国語が分からんかったら、秘書なんて無理なのか・・・。<br />
アリュウって、変な名前じゃの。外国人か？！くっそー、人の仕事を取りおって！！！</p><br />
<p>ワシは怒りにまかせて渾身の力で、人混みをかき分けて再前列に躍り出た。<br />
さっきの黒尽くめのボディーガードがマイクを持って喋っておる。<br />
あいつが、アリュウとかいう秘書か。<br />
二人おったが、二人とも秘書か？　ワシはギロリと二人の黒尽くめを見比べて、あり？と思った。<br />
なんじゃ。二人ともソックリじゃないか。双子か？　双子で秘書だなんて、変わっとるの。見た目は日本人みたいじゃが、英語ペラペラなんかのう。くっそー、若いのう。</p><br />
<p>その時、じゃ。</p><br />
<p>ワシは、何やら強烈に冷たい目線に睨みつけられている気配に気が付いた。<br />
なんじゃろう。<br />
背筋が凍るような眼差しじゃが、な、な、何じゃろう。怖い。ものすごく、怖い。</p><br />
<p>なにやら、頭上からその気配は感じるんじゃが、今ワシは最前線にいるわけじゃから、壇上にいるのは新しいCEOとこの二人の秘書だけのはず。</p><br />
<p>どこからともなく押し寄せてくる恐怖と緊張で、まるで接着剤で固められたように、ワシの体は動かなくなってしもうた。ぎぎぎ、と音がしそうな程にカチコチになった首を、持ち上げる。</p><br />
<p>ピカピカに磨かれた革靴が目に入った。<br />
黒尽くめの秘書のじゃない。これは多分、CEOのものじゃ。<br />
この光沢はそんじょそこらの靴屋では絶対に手に入らん。Jon Jobbか、Edward Greenじゃなかろうか。<br />
そして、この品の良いグレーのスーツ！素材の良さが、触らずとも分かる。これはおおかた、仕立ても含めて２００万は下るまい。ダテに秘書室長やっておらんぞ。ワシは目だけは肥えておるわい。</p><br />
<p>そして、ワシの目に飛び込んできたのは、後ろで一つくくりにされた、長い長いプラチナブロンド。</p><br />
<p>「え・・・？」</p><br />
<p>女性・・・ではないはずじゃが。<br />
ぐぎぎ、とカチコチの首をあげて、CEOの顔を見る。</p><br />
<p>「――――&nbsp; ！！！！」</p><br />
<p>その玲瓏な眼差し。<br />
まるで天上の神々のような、この世のものとも思われぬ美貌。</p><br />
<p>相変わらず、秘書のアリュウが挨拶を代読している。<br />
だが、そんなものはワシの耳には届かなかった。<br />
なぜだか分からんが、涙があふれてくる。<br />
手が震え、足が震える。</p><br />
<p>「･･･せ･･･殺生丸さま･･････！」</p><br />
<p>ワシは、一瞬で、すべてを理解した。<br />
ワシは･･･ワシは。</p><br />
<p>周囲の喧噪も、すべてが聞こえなくなった。<br />
そして静寂の中で、頭の中に低い声が聞こえた。</p><br />
<p>「―――― 行くぞ、邪見」</p><br />
<p>すべてがスローモーションに見えた。<br />
全身が、喜びに震えておった。</p><br />
<p>ワシは、ワシは―――――― この人の、従者じゃった！！！</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>「――― せ･･･殺生丸さまぁぁぁ！！！」</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>ワシは叫び、壇上のＣＥＯへ駆け寄った。<br />
ああ、自分が止められない。<br />
両手を広げて、ジャンプ。</p><br />
<p>――― あ、なんじゃろう。</p><br />
<p>この、見たことのある風景。<br />
これって、デジャヴっていうやつじゃないか？</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>「ぐえぇっ！！」</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>・・・ワシは、容赦なく、踏みつぶされた。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>――― あんな失態を犯したにも関わらず、ワシは今、退職までのわずかな日々を、秘書室長として過ごしている。</p><br />
<p>新しい部下となった阿龍（アリュウ）と吽龍（ウンリュウ）は、あの阿吽であることは、もう言うまでもあるまい。阿吽は、なんと阿と吽それぞれが人型をとれるまでに、龍としての格を上げたらしい。<br />
まあ、もともとは一匹じゃったわけじゃし、人型になってもあんまり二人が離れることはできんらしいがの。<br />
もともと、龍は格が上がれは「龍神」という神にもなれる存在じゃ。<br />
途中で老衰で死んでしまい、妖怪から人間に生まれ変わったワシとは大違いじゃの。<br />
今では、日本語が喋れないという設定のＣＥＯの代わりに大活躍じゃわい。<br />
殺生丸さまは、相変わらず無口でいらっしゃられるからの。</p><br />
<p>ワシの任期も残り半年となった。<br />
退職したら、ワシは昔のように殺生丸さまのお側で、できる限りのことをさせて貰いたいと思うておる。<br />
隠居のような、隠居でないような、へんな気分じゃがの。<br />
殺生丸さまは昔から人使いが荒いからのう。覚悟が必要じゃの。</p><br />
<p>さて、あとは『りん』が見つかれば、すべてが元通りというわけじゃ。<br />
殺生丸さまが、わざわざ人間界へ身を置いておられるのは、すべてがその為じゃろうしの。</p><br />
<p>我らはすべて、殺生丸さまに帰す。</p><br />
<p>たとえ、輪廻の輪を超えたとしても、じゃ。</p><br />
<p>なあ、これこそが、従者のつとめであろう？<br />
そうは思わんか？</p><br />
<p style="text-align: center;"><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/233/" target="_self">原作編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/249/" target="_self">原作終了後編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/194/" target="_self">新婚編</a>へ<br />
<a title="" href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/322/" target="_blank">輪廻転生編</a>へ<br />
&nbsp;<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/139/">動画リンク</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/" target="_self">ＭＥＮＵ</a>へ</p>]]>
    </description>
    <category>小説</category>
    <link>https://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/336/</link>
    <pubDate>Fri, 04 Dec 2015 14:28:22 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mioyanoko.ichi-matsu.net://entry/336</guid>
  </item>
    <item>
    <title>信じる以外に、私に何ができようか</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>―――― 夜。</p><br />
<p>ガス灯の揺らめく街に、その酒場はあった。<br />
店内の喧噪が窓から街路までもれてくるほどに、中は賑やかである。<br />
流行りの煉瓦作りの壁にもたれ掛かった男と、襟を粋に抜いた着物姿の女が向かい合って何かを話していた。<br />
洋装に帽子を深く被った男は、今はやりの新聞記者のような風体だが、帽子から流れる一つ括りの後ろ髪は、珍しい銀色である。だが、欧米人が行き交うこの街では、さして珍しい髪色でもない。<br />
対して、女は見るからにこの街の粋な女風であった。流行の縞の着物を芸者風に着こなし、結い上げた黒髪が、抜けるように白いうなじを引き立たせている。側を通り過ぎる男たちが、何度もちらりちらりと振り返ってゆくほどに、その女は美しい。<br />
<br />
だが、男を見上げる女の表情は明らかに腹立たしげで、そんな女に男は困りきったように帽子の上から頭をがりがりとかいていた。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><h2>信じる以外に、私に何ができようか</h2><p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>「・・・で、おめえの親父は、結局おまえには何も言わずに立ち去った、ってか」<br />
<br />
男は、ため息混じりにそう言った。女の頬がぶっすりとふくらむ。<br />
<br />
「ええ。宮に戻られたのも数百年ぶりでございます。それなのに・・・」<br />
<br />
粋な芸者ふうの着こなしをしていても、正面から見ると、案外女の顔は幼い。１６歳かそこらの少女のものだ。頬を膨らすと、幼顔が丸くなってますます幼く見える。ほんの少しつり上がった、黒目がちの大きな瞳がいらだちを隠さずに、きっと男を睨んだ。<br />
<br />
「おばあさまのお話では、父上はこの地上のことをよく存じているとのことでございました。ですから、ずっとこちらで暮らしていらっしゃる叔父上ならば何かご存じかと思ったのですけれど。ほんっとーーーに、叔父上は何もご存じありませんの？父上はガス灯を間近で見てきたような話しぶりだったそうでございますわよ？ガス灯がある街は限られておりますわ。ここ横浜か、新橋、銀座、浅草」<br />
<br />
ずい、と一歩踏み出して、女は男に詰め寄った。<br />
<br />
「ですが、国外の人間が多いとなると、さらに限られますわ。我ら一族のような銀髪がさして珍しくないとなると、外国人の多い、ここ横浜」<br />
<br />
「あのなあ・・・」<br />
<br />
うんざりしたように、男は頭上を仰いだ。そのガス灯が、柔らかな光で闇を照らしている。<br />
<br />
「ここ２００年、あいつの名前はとんと耳にしてねえよ。人間からも、妖怪からもな。あんな派手な奴がどうやって雲隠れしてんのか、俺が知りたいくらいだぜ。俺だって、こう見えても人間に紛れるのは結構苦労してんだぞ。銀髪だけじゃねえ、耳もあるしな。同じ半妖でも外見はりんにそっくりなおまえには、この苦労は分からねぇと思うけどよ」<br />
<br />
そう言われて、女は着物の袖を広げて己の姿を見下ろした。確かに、傍目からは、女は人間にしか見えまい。だが、顔は幼く見えてもこの女は齢数百年を超える半妖だ。<br />
女は、目の前の困りきった表情の男を見上げた。この男は、父の異母弟。彼女の叔父にあたる。彼も、女と同じ半妖である。<br />
白銀の髪にかくれた耳が、ひょこひょこと動いているのが、帽子の上から分かる。知らぬ者が見れば、その帽子の下に小動物でも飼っているのではないかと思うだろう。<br />
<br />
「・・・叔父上は、父上と違って姿形を変えることはできませぬものね。まあ、わたくしも変化は出来ませぬが」<br />
<br />
女の言葉に、男はため息をついて肩を落とした。<br />
<br />
「あのなあ・・・。生粋の妖怪でもそんなことができる奴は少ねぇんだぞ。人型をとれる妖怪なんて、ほんの一部なんだぜ。俺も、おまえみてぇに見た目は人間そのもの、力は妖怪そのもの、なんて半妖に生まれたかったぜ。そしたらこんなに苦労しなくてすんだのによ」<br />
<br />
男は苦笑した。女は、男にとっては姪に当たる。<br />
この姪が生まれた頃のことを思い出すと、どうしようもないほどの郷愁にかられてしまう。それはもう数百年も前の話だ。仲間がいて、愛しく大切な存在が、いつも隣にいた。失ったことを思い出すのが耐えがたいほどに辛かったのは、いつくらいまでだっただろうか。尖った石が川の流れの中で磨耗し、やがてすべらかな小石になるように、伴侶を失った孤独と悲しみは、何度も繰り返し訪れる中で、数百年をかけて少しだけ彼に優しくなった。<br />
どうあっても、共に過ごした時を、あの温もりを、忘れることはできない。ならば、その孤独と悲しみは、生きている限り付き合っていくしかないのだ。<br />
そう思えるようになったのは、いつだっただろうか。<br />
犬夜叉には、どうしても目にしたい光景がある。<br />
かごめは、５００年先の世界から彼に会いに来てくれたと言っていた。<br />
その５００年まで、あと少し。・・・あと少しなのだ。</p><br />
<p>つい十数年前のことだ。<br />
鎖国していたこの国に、外国人が蒸気船でやってきた。<br />
その外国人の洋装をたまたま目にして、犬夜叉は目を見開いた。<br />
船で働く彼らのーーー水兵の服装が、出会った頃のかごめが来ていた「制服」と酷似していたのだ。<br />
着物しかなかったこの国の服装が、変わりつつある。<br />
人間たちの街の中には、かごめの世界で見たことのある洋服がちらほらと現れ始めた。<br />
洋服を着ているのはまだ外国人ばかりだったが、これは、今まで過ごしてきた数百年の間で初めてのことだ。<br />
犬夜叉は戦慄した。近づきつつあるのだ。かごめの生まれ育った時代が。</p><br />
<p>――― もう一度、かごめに会えるのか・・・？</p><br />
<p>そう、思った。<br />
たとえ会えたとしても、彼女に接触するわけにはいかないだろう。<br />
そんなことをすれば、過去へと繋がるすべてが崩れてしまうかもしれない。<br />
言葉を、交わすことすら叶わないだろう。<br />
それでも、遠目からでもいい。・・・かごめに、逢いたい。<br />
今まで抱き続けた、たった一つの望み。</p><br />
<p>心は、揺れた。<br />
けれど、彼は今、緋色の着物を脱ぎ人間たちに紛れて暮らしている。外国人の多い、この街で。<br />
この想いの深さと苦しさを、姪に分かってほしいとは言わないが、半妖の身で人間の中に紛れる大変さだけでも察してほしいとは思う。<br />
犬夜叉は苦笑しながら、むくれた表情の姪を見下ろした。りんにそっくりな姪。<br />
りんを失ったあと、殺生丸が突然姿を消してしまったと、この姪から聞いたのは、もう数百年前になるだろうか。<br />
犬夜叉には、何となく分かる。血のつながりは半分だけだが、殺生丸とは妙なところで不器用さが似ている自覚がある。<br />
<br />
「あいつが、あの空に浮かんだ城まで帰ってきたのに、お前に会わずに出ていっちまったのは・・・まだお前の顔を見るのが辛いからなんだろうな。あいつは、そんなこと口には出さねえだろうけどよ」<br />
<br />
「分かっておりますわ。わたくしは、母上に瓜二つですもの。父上にとっては目にするのも辛い存在なんでしょうよ」<br />
<br />
ぶすっとした表情で、姪は肯定した。<br />
<br />
「だからって、数百年も会ってくれないなんて、どうかしてますわ。わたくしは母上ではありません。実の父と娘ですのに・・・」<br />
<br />
最後は、少し語尾が揺れた。<br />
<br />
「父上の「時」は、母上が居なくなってから止まってしまっているのです。いえ、父上自身が止めておしまいになったのだわ」<br />
<br />
犬夜叉は、がりがりと頭をかく。<br />
<br />
「おい・・・泣くなよ」<br />
<br />
「長子の努めと思い、我ら一族の血をひくものの世話をあれこれ焼いてきましたけど、肝心の父上から拝謁もお言葉も賜われないのでは、この身が報われません」<br />
<br />
「拝謁にお言葉・・・なぁ」<br />
<br />
犬夜叉はくるりと目を回す。父親に会うのはそんな大層なもんだろうか。犬夜叉には相変わらずこの感覚は理解できない。<br />
<br />
「父上に会えたら、ご相談したいことが山のようにあったのです。叔父上だってお気づきになられているでしょう？最近、妖の力が弱まってきてることに」<br />
<br />
「ああ・・・まあな」<br />
<br />
「我らの一族とて、無関係ではありません。狗の血が薄いものたちにはもう、妖の姿が見えなくなりつつあります」<br />
<br />
「みたいだな。だからって、どうしようもねえんだよなあ・・・俺ができることなんて、たかが知れてる」<br />
<br />
犬夜叉は、街の向こうの闇に目をやった。<br />
大昔は、永遠に光り続ける灯りなどなかった。蝋燭に灯した明かりは風が吹けばあっと言う間に消えたし、夜の闇の中では、圧倒的に人間よりも妖の方が強かったのだ。<br />
だが、この世界の均衡は変わりつつある。それは、犬夜叉も肌で感じている。<br />
この街でもそうだ。このガス灯のせいで、街の闇に住み着いていた小さな妖たちは力を失い、消えてしまった。<br />
この国の中で、力の淘汰が始まっているのだ。それも、軍配は人間側にあるらしい。<br />
<br />
「まあ・・・俺みたいな中途半端な存在には、何が理由なのかとかハッキリしたことは分からねえ。けどよ、人間と妖怪がやり合うなんて、もうそんな時代じゃなくなった、ってことじゃねえのか？」<br />
<br />
「・・・複雑な気持ちがいたします。わたくしも、半妖ですから。しかし、父上には何か深いお考えがあるのではないでしょうか。だから、下界で姿を消してしまわれ・・・」<br />
<br />
難しい顔をして眉を寄せた姪のおでこを、犬夜叉はぴん、と弾いた。<br />
<br />
「いたっっ！」<br />
<br />
きっと睨んだ姪のほっぺたを、ぎゅう、と延ばす。<br />
<br />
「な、なにほなはるのですかっ」<br />
<br />
涙目になった姪を見ながら、犬夜叉は久しぶりに声をあげて笑った。<br />
<br />
「ははは。おまえは真面目すぎんだよ。そんな難しいことばっかり考えてねえで、良い男の一人や二人、そろそろ見つけたらどうだ？そしたら、お前の親父や俺がこんなバカみたいなことをやってる気持ちも少しは分かるってもんだ」<br />
<br />
「まぁぁっ！！！いくら叔父上とはいえ、許せませんわっ！！わたくしが一番気にしていることを！！！」<br />
<br />
赤くなった頬を押さえながら、姪は叫ぶ。<br />
そばを歩いている男たちが、ちらちらとこちらを振り返った。<br />
この姪っ子の唯一の弱点だ。彼女は、まだ恋をしたことがない。<br />
犬夜叉は声をあげて笑った。以前より大人びた犬夜叉の表情に、ガス灯の光が優しく落ちる。<br />
<br />
「りんは１５歳でおまえを産んだんだぞ？ おまえも一族の子供のことばっか考えてねえで、自分の幸せも考えろよ。ああ、あとさ、いい加減やめてくんねぇかな、その「叔父上」っての。背中がムズムズすらぁ」<br />
<br />
頬を赤くした姪っ子は、ぷいっと横を向く。<br />
<br />
「犬夜叉さまを「叔父上」と呼びなさいというのは、母上の言いつけでしたのよ。これだけはやめるわけには参りません！」<br />
<br />
つん、と横を向いた姪に苦笑すると、犬夜叉は姪の向こうに懐かしい景色を見る。かつて、こうやって、下らぬことを言い合える仲間がいた。<br />
もう帰れない、あの頃。<br />
<br />
「・・・・あのさ」<br />
<br />
「なんですっ」<br />
<br />
若干切れ気味に見上げた姪は、どこか遠くを見ている叔父の表情に、ドキリとする。<br />
この叔父は、こんな表情をする人だっただろうか。<br />
<br />
「・・・信じて待つ以外に、どうしようもねえんじゃねえのかな・・・あいつもさ」<br />
<br />
「信じて・・・待つ？」<br />
<br />
「俺は、待ってるんだ。あと１００年くらいしたら・・・多分、武蔵野の神社にかごめが生まれるはずなんだ。それを、待ってる」<br />
<br />
「かごめさまが・・・？」<br />
<br />
「ああ。かごめは今から１００年先の未来に生まれて、５００年前のあの時代に来てくれたんだ。だから、この先の未来には、俺と出会う前のかごめがいるはずなんだ」<br />
<br />
穏やかに、こんなことを話せるようになった自分に、犬夜叉は心の中で苦笑する。昔の自分だったら、こうはいかなかっただろう。絶対に、他人に触れてほしくはない、心の奥底のみっともない願い。<br />
けれど、今はもうそれが、自分の唯一の存在意義になってしまった。<br />
そう自覚したのは、火鼠の皮衣に腕を通さなくなった時だろうか。<br />
妖怪と人間が戦うような世の中ではなくなってきている。それは、犬夜叉にとっては優しくも残酷な、自分の存在意義を問う時代の始まりでもある。<br />
<br />
「・・・たとえかごめに逢えたとしても、話しかけたら、歴史が狂っちまうかもれねえ。だからただ、遠くから見てるくらいしかできねえだろうよ。それでも俺は・・・かごめに一目逢いたい」<br />
<br />
「叔父上・・・」<br />
<br />
信じられないものを目にしたような表情の姪っ子に、犬夜叉はもう一度、ぴん、とおでこを弾いた。<br />
<br />
「――― っ！」<br />
<br />
「だから、おめえも恋をしてみろよ。そしたら、分かるって。こういう、バカみたいなことをやるヤツの気持ちがよ」<br />
<br />
こんどは何も言い返さずに、姪は下を向いてしまった。<br />
少しつり上がった大きな黒い目に溜まった涙が、ぽたり、と落ちる音がする。<br />
犬夜叉は夜空を見上げて、目を細める。<br />
<br />
「・・・・殺生丸も、りんを待ってるような気がするんだ。それが、りんの生まれ変わりなのか、そんなことは俺には分からねえけどよ。「また逢える」って信じること以外に、できることってねえんだよな・・・」<br />
<br />
「・・・父上は、辛くは・・・ないのでしょうか・・・。叔父上は、辛くは・・・ありませんか」<br />
<br />
やっとの思いでそう聞いた姪に、犬夜叉は優しく笑う。</p><br />
<p>「・・・それが、俺たちにとっての「人間を好きになる」ってことなんだろうぜ」</p><br />
<p>ガス灯の柔らかい光の下で、光る蝶が舞い、金色の燐粉を散らしていた。<br />
その下を、シルクハットの男性が数人、通り抜けていく。<br />
この妖蝶も、もう人には見えていないらしい。</p><br />
<p>彼らの逢瀬の時が満ちるまで、あと、少し―――――･･･ 。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>・・・信じる以外に、私に何ができようか</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p style="text-align: center;"><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/233/" target="_self">原作編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/249/" target="_self">原作終了後編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/194/" target="_self">新婚編</a>へ<br />
<a title="" href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/322/" target="_blank">輪廻転生編</a>へ<br />
&nbsp;<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/139/">動画リンク</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/" target="_self">ＭＥＮＵ</a>へ<br />
<br />
<br />
<br />
</p>]]>
    </description>
    <category>小説</category>
    <link>https://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/335/</link>
    <pubDate>Fri, 06 Nov 2015 04:24:42 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mioyanoko.ichi-matsu.net://entry/335</guid>
  </item>
    <item>
    <title>たとえ、愚かといわれても</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>月のない漆黒の夜空に、浮かぶ淡い光が、二つ。</p><br />
<p>地上からは分からないが、それは二匹の巨大な狗である。<br />
びょうびょうと吹きすさぶ夜風に、白銀の毛がなびく。</p><br />
<p>「見よ、殺生丸」</p><br />
<p>「・・・・」</p><br />
<p>「闇がずいぶん明るくなったと思わぬか」</p><br />
<p>「・・・」</p><br />
<p>二匹の巨大な狗は、空を駆ける。<br />
駆けて駆けて、白い雲の中へと姿を消した。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
</p><h2>たとえ、愚かといわれても</h2><p><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
ゆったりと謁見の間の椅子に腰掛けたご母堂は、肩にかかった銀髪を払うと、扇の奥で忌々しげに溜息をついた。<br />
<br />
「まったく、あれでは妖の力が衰えるはずじゃ。話には伝え聞いておったが、あれほどまでに地上の闇が明るくなっておるとは思わなんだ」<br />
<br />
眉間にしわを寄せたまま、ご母堂は不愉快そうに息子を見上げる。<br />
めずらしく不機嫌さを露わにした母の言葉にも、殺生丸は感情の読めぬ表情で遠くを見ている。<br />
<br />
「あれは、何じゃ。節度もなく煌々と闇を照らしおって」<br />
<br />
「――― あれは、ガス灯だ」<br />
<br />
殺生丸の言葉に、ご母堂は意外そうに目を開く。<br />
<br />
「ほう、そなた見知っておるのか」<br />
<br />
「・・・下界にいれば、嫌が応にも耳に入る」<br />
<br />
殺生丸の言葉に、ご母堂は深く息を吐いた。<br />
<br />
「昔であれば、尾の一振りで人間の住む町ごと一網打尽にしてくれるところじゃがの。・・・そろそろ、我らも潮時かの」<br />
<br />
潮時、などという母には似合わぬ言葉に、殺生丸はわずかに表情を動かしたが、そのまま、静かにご母堂の御前に広がる敷地へと目を移した。<br />
母の御前の緩やかな段になったその広場には、多くの見張りの配下が控えている。<br />
殺生丸が寄りつきもしないこの城に、配下として仕える妖の数がどれほどいるだろう。<br />
殺生丸は知ろうとしたことすらない。この母も、己の城でありながらも、そういうことにはあまり興味がないように見える。<br />
だが二人とも、己の血をひく一族がどこに生きついているかは、匂いでわかっている。<br />
もう、狗の血をひく一族は、天上のみではない。<br />
りんとの間に生まれた子供たちの子孫は、下界の、ご母堂が嘆いたあのガス灯のそばに息づいている。<br />
<br />
――― 近年、この国の人間はすさまじい進歩を遂げた。<br />
夜の闇が、もはや妖たちの支配するところでは無くなるほどに。<br />
<br />
殺生丸とて、天神地祇（あめつちのかみがみ）に対する畏れを無くし、次第に傲慢になっていく人間たちに対し、忌々しいものを感じてはいる。だが、だからといって人間たちの進歩を阻むべく、彼らを攻撃するような意志はない。あんなことを言っても、ご母堂とてそれは同じだろう。<br />
地上に、己の血をひく一族がいるかぎり。<br />
<br />
「・・・地上の妖の数は、一昔前に比べれば激減した」<br />
<br />
そう言いながら、殺生丸は目線を落とした。城の下を透かして見るように。<br />
<br />
「さもあろうよ、面白くもない。あんなものが闇を照らしては、妖の力が半減してもおかしゅうはないわ。闇への畏れこそが、多くの妖の力の源なのじゃからな。まったく、いつの間にこんなことになっておったのじゃ」<br />
<br />
不愉快そうにそう言い、ご母堂はジロリと息子を睨んだ。<br />
<br />
「誰かのせいで、この城にはわらわの孫やら曾孫やら玄孫やらが数え切れぬほど増えたからの。相手に忙しゅうて忙しゅうて、この１００年は地上を見る暇も無かったわ。だいたい、そなたがここを訪れるのはどれくらいぶりじゃと思うておる。１００年ではきかぬぞ」<br />
<br />
「・・・」<br />
<br />
殺生丸は、そしらぬ顔でそっぽを向いた。<br />
この線で攻められると、殺生丸には勝ち目がない。</p><br />
<p>りんがこの世を去った後、殺生丸はその痛みに耐えかねるように、子供たちの元を去ってしまった。<br />
りんの面影の残る子供たちは、愛おしくも、当時の殺生丸には目にすることすら辛かった。<br />
子供たちの多くが、父が忽然と姿を消してしまったことに驚いたが、彼らは戸惑いながらも半妖なりに考え、皆で話し合い、己の生きる道を選んでいった。<br />
そして、半妖の中でも妖の力の強いものは、妖として生きるべく、ご母堂の元へと身を寄せたのである。<br />
<br />
元々、殺生丸たち狗の一族は、妖としては群を抜いた妖力の持ち主ではあるが、繁殖力は弱く子が少ない。殺生丸とりんの子供の中には、限りなく妖怪に近い子供もいたことから、ご母堂も一族の長として思うところがあったのだろう。<br />
一族の半妖たちの庇護者となって、世代を重ねる子供達を育ててきた。<br />
　<br />
逆に、限りなく人間に近い子供たちは、妖力がものをいう世界で生きるよりも、人間たちと共に大地の上で土と共に生きることを選んだ。妖力のないものは、妖力がものをいう天上では、どうしても弱い立場に立たされてしまう。<br />
けれど、地上に降りれば必然と、人間たちよりは半妖の方が様々な分野で能力が高く、彼らは彼らで人とうまく交わっていった。<br />
<br />
子供たちは父親に似ず結束力が強く、天と地に分かれても互いに互いを思いやり、助け合って生きてきた。<br />
そういうところは母親に似たのだろう。<br />
地上で暮らす兄妹たちの間に妖の血の濃い赤子が生まれれば、天上で引き取り育て、天上に人間に近いものが生まれれば逆に地上へ預けたりして、子供たちは殺生丸の預かり知らぬところで互いに補い、助け合って生きてきたのである。<br />
<br />
ただ、人間の血の繁殖力ばかりは、ご母堂の想像を越えていた。<br />
天上の城に暮らす子供たちは、次から次へと子を産み、増えた。<br />
その子供たちをすべて保護下においたご母堂の身辺の煩雑さは、殺生丸には想像を絶するものがある。あっという間に１００年くらい過ぎ去ってもおかしくはない。この責任をどうとる、と言われれば殺生丸は言葉もないが、反面、その煩雑な賑やかさは闘牙王がこの城にいた頃に似ていて、ご母堂は不思議な心地よさの中で、退屈しない数百年を過ごした。<br />
<br />
ご母堂は、扇の奥で苦笑する。<br />
<br />
「・・・・のう、殺生丸よ。人間は、強（こわ）いの。我らの一族は滅多に増えぬはずが、りんの血が混ざっただけで、この有様じゃ。減る数よりも増える数の方が圧倒的に多い。もう、わらわにはそなたの血を引いた子が何人この城にいるかすらわからん。人間と我らが一対一では負けるはずもないが、人間と妖、種と種の争いとなれば、どうであろうな」</p><br />
<p>ご母堂の言葉に、殺生丸は地上の人間たちを思う。<br />
<br />
２０００年以上、島国から出ることなく穏やかに暮らしていたこの国の人間たちは、最近、海の向こうからやってきた外つ国の影響を受けて、大きくその在り方を変えた。　着物を変え、戦うすべを変え、ついこの前までは考えられぬことだが、地上を蒸気の力で鉄の車が走るようになった。<br />
そして、かつて人里だった場所にはガス灯が灯るようになった。<br />
最近では、雷の力を制御することも覚え、人力では到底動かせなかったものを、動かすようになっている。そのうち、空を飛びまわりだしてもおかしくない、とすら思う。<br />
<br />
ヒトという生き物は短い命のくせに恐ろしい勢いで変化し進化するのだ、ということを、殺生丸は改めて思い知った。ここ千年を思い返してみても、こんな急激な変化はなかったように思うが、人間たちはたった数十年で、その変化を受け入れて、更に前に進もうとしている。<br />
<br />
（人間は、強（こわ）い・・・か）<br />
<br />
そして、久しぶりにこの城を訪れた、その理由を思う。<br />
それは確かにご母堂の言う、潮時、ということなのかもしれなかった。<br />
<br />
「・・・最近、地上の人間たちに明らかな変異が見て取れる」<br />
<br />
「変異じゃと？」<br />
<br />
怪訝な表情を浮かべたご母堂に、殺生丸は静かに向かい合う。<br />
<br />
「・・・人間たちに、妖が見えるものが、ほとんどいなくなった。我らのように人型をとれる妖は別だが、雑多な妖に至っては、人間たちから目の前を素通りされている。・・・それと関係があるかは分からぬが、妖の方も妖力が衰え、己の姿形を保てぬようになったものが増えている」<br />
<br />
ご母堂は、玉座の上で溜息をついた。<br />
<br />
「そなたの長子が嘆いておったわ。先日、地上で暮らす一族の中に獣の耳を持つ赤子が生まれたと噂で聞いたのでな、引き取りに下界まで降りたのだそうだ。人間とは姿形の違う半妖は、地上では生きにくかろう、とな。あやつは内も外もりんに似て優しいからの。で、どうなったと思う、殺生丸」<br />
<br />
「・・・・・」<br />
<br />
殺生丸は、黙した。見目も、その性格も、あまりに妻の面影を残した長子。<br />
<br />
「その生んだ母親がの、赤子を見て、獣の耳なんぞどこにあるのじゃ、と申したそうな」<br />
<br />
「・・・！」<br />
<br />
殺生丸は、目を見開いた。<br />
<br />
「我らの姿形は、妖気の結晶ともいうべきものじゃ。そなたの長子には、その赤子に明らかに妖気漂う狗の耳が見えたそうじゃ。だが、地上で生きているそなたの血を引いた親には、その妖気すら見えておらなんだ。我らの血を引くものが、じゃぞ？」<br />
<br />
ご母堂は、扇の奥で溜息をつく。<br />
<br />
「話を聞いたときには、何かの間違いであろうと思うた。だが、そなたの話を聞けば、辻褄があう。我らの血をひく一族ですら、そうなのだ。普通の人間であれば、なおのことであろうな。・・・妖は、人間たちに認識されぬ存在になりつつある」<br />
<br />
「・・・・」<br />
<br />
殺生丸は、渋い表情で頷いた。ご母堂も、ため息をこぼす。<br />
<br />
「・・・これは、そのガス灯とやらのせいだけではあるまい。この世界の理（ことわり）が変わりつつあるのであろ。外つ国でも、似たような話はきいたことがある。彼の国では人間という種族が台頭すると同時に「エルフ」という精霊の種族が消えていなくなったそうだ。彼らは、自分の意志でこの中津国から常世へと姿を消したのだそうだがな」<br />
<br />
殺生丸は渋い表情のまま、地上の人間たちを思う。<br />
人間たちは、文明の進化により力を得ている。<br />
それに比べ、妖たちはどうであろう。<br />
退化はあっても進化は望むべくもない。<br />
数百年前であれば、人間たちはただただ、妖の前に畏れおののくばかりだったはずだ。母が言うように、それは、人間たちの闇への畏れこそが妖に力を与えていたからなのだろう。<br />
・・・だが今、その畏れが、人間から消えつつあるのだ。<br />
<br />
「我ら妖は、人間の知り得る理（ことわり）の外の存在じゃ。いわば、不思議の存在じゃな。我らのように神に近い存在もあれば、姿形のない精霊にちかい妖もおる。我らがなぜそうあるかは、人間には永遠に分からぬ。解き明かすこともできぬ。それは、神々の領域だからの。・・・じゃがの、わらわもそなたの子らと接してきてわかったことがある。人間は、その理（ことわり）が何なのかを、限りなく追求する生き物じゃ。そう考えれば、人間たちに我らが見えなくなっている理由もわからなくはない」<br />
<br />
「・・・どういうことだ」<br />
<br />
「人間たちは、境界線を引いたのじゃ。ここから先は、知らぬ、とな。ひとたび人間たちが境界線を引いてしてしまえば、そのあわいに存在していた妖は、人間たちの領域には「いないはずのモノ」になってしまう。そこに存在していても、人間たちがそれを認識できぬようになる。人間は己自身に呪をかけたわけじゃ。あるはずのないモノは見えぬ、目に見えぬモノはそこあるはずがない、とな」<br />
<br />
「・・・呪（しゅ）、か」<br />
<br />
人間という種族は、短い命を繋ぎ、先祖の記憶を文字にして蓄える。<br />
それは連鎖する「知識」という鎖となって人間という種全体に呪をかける。<br />
急激に文明が進んだことで、より強い呪がかかり、人間たち全体の意識が変化したのだ。<br />
強（こわ）い呪だ。<br />
つい、この間まで見えていたものが見えなくなってしまうほどの。<br />
<br />
「・・・殺生丸よ」<br />
<br />
ご母堂はすらりと立ち上がると、その美しいかんばせに苦笑を浮かべた。<br />
<br />
「そなたがここへ訪れたのも、決定的な「何か」があったのではないのかえ？」<br />
<br />
殺生丸は、小さく息をはいた。<br />
<br />
「・・・東国の豹猫一族が、一族を引き連れて幽界へ姿を消した」<br />
<br />
「ほう、あの闘牙と敵対しておった、あの一族か」<br />
<br />
ご母堂は懐かしそうに目を細めた。<br />
あの四兄妹の長姫の名は、冬嵐といっただろうか。<br />
<br />
「・・・一族を、守るためだと言っていた」<br />
<br />
「そなたに、別れの挨拶に来たか。律儀なことよの」<br />
<br />
ご母堂は猫のように笑い、殺生丸は、眉間にしわを寄せる。<br />
<br />
「・・・」<br />
<br />
冬嵐は去り際に、「次は幽界で心おきなく、どちらが上か力比べをいたしましょう、殺生丸さま」と言った。<br />
現世（うつしよ）で妖の力が弱まりつつある今、一族を率いて幽界へ身を移すのは、妖としてはまっとうな選択なのだろう。<br />
ご母堂の言った「エルフ」のように。あちらへいってしまえば、もはや、妖の力が衰えることはない。どんなに力の弱い妖でも、千載の時を生きることができよう。<br />
ただし、この世とあの世の境を越えることは、もう、二度とできない。<br />
それができるのは、殺生丸のみだ。あの世とこの世をつなぐ刀を持った。<br />
<br />
「―― 母上は」<br />
<br />
一族をどうするなさるつもりだ、と聞こうとした瞬間、殺生丸は自分に向かって投げられた何かをパシリとつかんだ。<br />
ジャラリ、と音を立てて手から下がったそれは、闇の光を放つ宝玉。<br />
<br />
「・・・・冥道石」<br />
<br />
ご母堂は皮肉げに笑う。<br />
<br />
「また、父上にどうするべきか聞きに参るか？」<br />
<br />
殺生丸は、ぐっと言葉に詰まる。一度、りんに求婚する前に、殺生丸はりんに何といっていいかわからず、父上の墓参りをした。　黙って持ち出したことを、いまだに母は根に持っているらしい。<br />
<br />
「・・・必要ない」<br />
<br />
投げ返した冥道石は、放射線を描いてご母堂の手に収まった。<br />
<br />
「私は、地上で生きる。・・・人間たちの中で、りんを待つ」<br />
<br />
そうでなければ、りんを見つけられないかもしれない。<br />
昔のように澄み切った大気の中であれば、りんの匂いはどんなに離れていても分かっただろう。だが、人間たちが急速に集まりつつある街の中は、匂いが凝り、昔のようにりんの匂いを追えない。<br />
<br />
殺生丸の中に、予感のようなものがある。<br />
運命の歯車が合う予感がする。<br />
もうすぐ、かもしれない。<br />
<br />
・・・りんの魂が、生まれ変わるのは。<br />
<br />
「そうかえ。ほんに、そなたは変わったの」<br />
<br />
ご母堂は、また、猫のように笑った。<br />
<br />
「わらわも、このままここで生きる。この宮は結界の中ゆえ、たとえ人間どもが空を飛び回るようになってもここへは来れぬしな。それに、この宮にいるそなたの子供らも、わらわが幽界に赴くなど承知せぬだろうしの」<br />
<br />
ご母堂は、ふと良いことを思いついたように笑う。<br />
<br />
「ああ、そうじゃ。そなたがまた下界に屋敷を構えるなら、わらわが地上に遊びにゆくのも悪くない。そこにりんも居るなら尚更じゃ。人間に化けて遊んでみるのも楽しかろ。幽界なんぞ、下界よりつまらぬわ」<br />
<br />
シャラリ、と冥道石を首にかけながら、ご母堂はきびすを返す。</p><br />
<p>「・・・小娘を見つけたら、わらわにも教えるのじゃぞ、殺生丸」</p><br />
<p>ご母堂の言葉を背に受けて、殺生丸はふわりと浮いた。<br />
見張りの妖を眼下に眺めながら、城から飛び立つ。</p><br />
<p>りんがこの世を去ってから、人間とは、距離を置いて生きてきた。<br />
人間のことなど、何も知らぬ。</p><br />
<p>りんの為に学ぶことは多そうだ、と思い、殺生丸はわずかに苦笑した。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>私は、地上で生きる。りんの為に。</p><br />
<p>―――― たとえ、愚かといわれても。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
</p><br />
<p style="text-align: center;"><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/233/" target="_self">原作編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/249/" target="_self">原作終了後編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/194/" target="_self">新婚編</a>へ<br />
<a title="" href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/322/" target="_blank">輪廻転生編</a>へ<br />
&nbsp;<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/139/">動画リンク</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/" target="_self">ＭＥＮＵ</a>へ<br />
<br />
<br />
</p>]]>
    </description>
    <category>小説</category>
    <link>https://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/334/</link>
    <pubDate>Fri, 30 Oct 2015 16:55:12 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mioyanoko.ichi-matsu.net://entry/334</guid>
  </item>
    <item>
    <title>神はそれを知らずとも</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>――― 今は昔。</p><br />
<p>あまたの偶然とあまたの必然で、狗の妖と人間の幼いむすめが出会った。<br />
二人は愛し合い、多くの子を産み育てた。</p><br />
<p>二人はどの子も等しく愛し、慈しみ、共に生きた。<br />
半妖、と呼ばれた子供たちには、妖に限りなく近い子もいれば、人間に限りなく近い子もいた。</p><br />
<p>やがて人間のむすめがこの世を去り、妖は独り残された哀しみのあまり、姿を消してしまった。</p><br />
<p>そして子供たちは、それぞれにふさわしい生き方を選んだ。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>これは、大地の上で、人間と生きることを選んだ二人の子供たちの、遠い末の話。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><h3>神はそれを知らずとも</h3><p>&nbsp;<br />
<br />
<br />
<br />
</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>武士（もののふ）たちが日の本を二分した戦を起こしたのは、さて、どれほど前のことか。<br />
その戦が終わったと同時に、この秋津島から戦国と呼ばれた時代が終わりを迎えた。<br />
<br />
不思議な井戸のある武蔵野は江戸と呼ばれるようになり、征夷大将軍が在（ましま）して、ゆるやかに、ゆるやかに、秋津島には穏やかな時が訪れつつあった。</p><br />
<p>されど、やはり闇はまだ世界の半分を支配し、そこには多くの妖たちが住み着いていた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
そんな、ある夜のこと。</p><br />
<p>人里を見下ろす山の頂上近く、冷ややかな月明かりの下で一人の娘が夜露に濡れてうずくまっていた。</p><br />
<p>足を痛めたのだろう、足をさすりながら途方に暮れた顔をして、娘はただただ、星空を見上げていた。<br />
息が少しだけ白い、初秋の夜更けであった。</p><br />
<p>「困ったなぁ・・・」</p><br />
<p>結い上げた黒髪に触れると表面がしっとりと夜露を含んでいて、濡れた指先から寒さが染み込んでくる。<br />
座り込んだ山肌からもしんしんと冷気が伝わってきて、娘は体を微かに震わせた。<br />
震える指先で簪を抜き、髪をほぐして下ろす。気休めかもしれないが、その方が少しは首元が暖かい。<br />
初秋とはいえ、夜が更けると山の気温はかなり低くなる。<br />
さほど高い山ではないが、ここは頂上に近く、風も強い。<br />
山で体温が奪われれば、天候によっては夏でも凍え死ぬことはある。</p><br />
<p>家には、夕刻には帰ると伝えてきた。<br />
嫁入り直前の娘が山から帰ってこないのだから、今頃、大騒ぎになっているに違いない。</p><br />
<p>娘の座り込んだ場所からは、山裾に広がる里の灯りが見える。<br />
だが、「 助けて 」と叫んだところで、声が届く距離ではない。</p><br />
<p>「ついてないなあ、もう・・・」</p><br />
<p>足首は赤く腫れ上がってきている。<br />
立つことが出来たとしても、とても山中を歩けるとは思えない。<br />
幸い、行き先は伝えてきたから、明日の朝には兄か弟が助けに来てくれるだろう、と思う。<br />
寒さに耐えながら、ここで夜が明けるのを待つしかなかった。</p><br />
<p>「まあ、死んだりはしないから大丈夫だと思うけど」</p><br />
<p>確信を持って、娘は呟く。<br />
寒い。足が痛い。でもきっと、明日の朝には足の腫れも直っているだろうし、どんなに寒くても娘は今まで風邪をひいたこともなければ霜焼け一つできたこともない。<br />
体が異常なまでに丈夫なことだけが、自分の取り柄だ。<br />
今回の嫁入りの話も、それが決め手だった。<br />
きっと、強い子を産めるだろうから、と。</p><br />
<p>「・・・・・・跡継ぎ・・・かぁ」</p><br />
<p>娘は、ため息をつく。<br />
そもそも、この縁談は娘にとっては心躍るものではないのだ。<br />
しかし世間では、こういう嫁入りを「玉の輿」と言うんだそうだ。</p><br />
<p>娘は、お城の若君の側室に、と望まれている。<br />
若君の本妻は男子を四人産んだが、ことごとく皆、体が弱かった。<br />
四人のうち三人はすでに亡くなり、たった一人残った末の男の子も頻繁に熱を出し、何度も死にかけているという。<br />
強い男の子を跡継ぎにと望む声は多く、それが、娘が側室にと望まれた理由だ。<br />
<br />
・・・けれどそれは、男の子を産まなければ娘には何の価値もないということだ。<br />
運良く男の子を授かったところで、本妻から良く思われるはずもはないだろうし、それを思うと娘はとても気が重くなる。<br />
聞けば、京の公家から嫁入りしたという本妻は、ずいぶんと気位が高いと聞いている。<br />
市井で織物家業の職人に育てられた娘とは、気が合うはずもない。<br />
それでも、降ってわいた良縁に喜ぶ両親の顔を見ていると、娘にはこの縁談を断ることはできなかった。<br />
身寄りの無い赤ん坊だった娘を今まで育ててくれたのが、今の両親である。しかも、実の子供である兄や弟の中で差別もせず、たった一人の女の子だと言って本当に大切に慈しんでくれた。　<br />
本当の両親の顔も覚えていない娘からしてみれば、どんなに感謝しても足りない。</p><br />
<p>（せめて、女の子じゃなくて男の子を産まなきゃ）</p><br />
<p>娘が嫁入り前に出来ることといえば、山の頂上にある祠にお参りに行くことくらいだった。<br />
昔からの言い伝えで、この山の頂上にある祠にお参りすれば、男の子が授かるという。事実、里の中にはそうやって男の子を授かった母親たちがいるから、娘もその言い伝えを信じてきた。</p><br />
<p>（・・・だけど・・・）</p><br />
<p>元気な子ならどっちでもいい、と言われたらどんなに気が楽だろう。<br />
男でも女でも、産まれてきた子はどちらでも可愛いのではないのだろうか。両親は、血がつながっていない自分のことすら、こんなに可愛がってくれた。　それと同じことが、どうして叶わないのだろう。<br />
聞けば、お城の家督は男でなければ継げないのだという。<br />
娘の両親は、二人ともが優れた織物職人だ。仕事のことは何でも二人で協力してやっている。互いにその腕を尊敬し、信頼し、そんな両親の姿は娘にとって理想そのものだ。<br />
・・・どうして、そうではいけないのだろう。<br />
武家のしきたりは、娘にはよく分からない。</p><br />
<p>痛めた足が、冷え冷えとした体の中でじんじんと熱を持っている。<br />
さすろうと体を動かすと、ずきん、と痛んだ。</p><br />
<p>「いたっ」</p><br />
<p>お城の若君は、頼りなさげな男だった。<br />
娘の噂を耳にされて、一度、お付きの家来と共に娘の顔を見に来られたのだ。<br />
その時、娘は両親と共に家の前で平伏して若君を迎えたが、「面を上げよ」と言われて恐る恐る若君の顔を見た。<br />
頼りなさげで、とても線の細い人だった。<br />
子供の体が弱いのは、この若君のせいではないのか、と直感的にそう思った。</p><br />
<p>「たいそう体が丈夫な 『 お鈴 』 という娘がおると聞いたが、そなたか？」<br />
「・・・はい」</p><br />
<p>やりとりは、それだけだった。<br />
その日の夕方、お城から侍がやってきて、一月後に側室に入るように、と言い残して帰っていった。<br />
娘にお屋敷暮らしをさせてやれる、と両親は夢をみているような表情でしばらくぼうっとしていた。弟がはしゃいで、「姉ちゃん、よかったなぁ！」と笑顔でそう言ってくれた。「こんな良い縁談はない！」と、近所の職人さんたちまでやってきて、喜んでくれた。<br />
兄が、一瞬寂しそうな表情をして、そしてそれを笑顔に変えて、大きな手を娘の頭の上に置いて、くしゃくしゃと撫でた。</p><br />
<p>「――― おめでとう。良かったな、お鈴 」</p><br />
<p>・・・・・娘は、何も言えなくなってしまった。</p><br />
<p>「・・・・・・助けて」</p><br />
<p>ぼそりと呟いて、娘は笑ってしまった。<br />
あの若君は、娘が本妻からどんなに嫌がらせを受けても、自ら盾となって側室を守ってくれるような、そんな気概は無いように見えた。<br />
嫁ぎ先では、自分のことは自分で守らなければならないだろう。直感で、そう思う。<br />
心の奥底に押し込めた不安や寂しさは、きっと誰にも言えないまま。<br />
・・・本当の気持ちも、ずっと隠したまま。</p><br />
<p>「・・・誰か、助けて」</p><br />
<p>「・・・・・・誰か、気づいて」</p><br />
<p>ずっと、言葉に出せなかった。<br />
ここなら、誰にも聞こえない。<br />
家族に、心配かけたりせずにすむ。<br />
お城に入ったら、もう、泣くことすらできない。</p><br />
<p>「・・・・っ」</p><br />
<p>気がついたら、ぽろぽろと涙がこぼれていた。</p><br />
<p>「・・・・・嫌だ」</p><br />
<p>ずっと、あの家にいると思っていた。<br />
老いていく両親の世話をしながら、織物を織りながら、ずっとあの家にいられると思っていた。<br />
あの家にずっといれば、ずっと一緒にいられると思っていた。<br />
自分の気持ちに気がついてもらえなくても、それで、十分だったのだ。</p><br />
<p>「・・・・・・助けてよ」</p><br />
<p>たまらなくなって、声が震えた。</p><br />
<p>「――――――&nbsp; 誰か、助けて・・・！」</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>さくり、と後ろで足音がした。<br />
まるで、天上から誰かが誰かが降り立ったように。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>娘は思わず振り返り、目を見張った。<br />
そこに立っていたのは、月の化身のような、白銀の妖。<br />
身にまとった白銀の毛が月光を集めたかのように、ほのかに光を放っている。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>「・・・・・・助けを呼んだのは、お前か」</p><br />
<p>低い声が、響く。</p><br />
<p>「・・・・・泣いているのか」</p><br />
<p>人間のものではない金色の瞳が、静かに娘を見下ろしていた。</p><br />
<p>「あ・・・・あ、の」</p><br />
<p>娘は恐怖で、総毛立った。<br />
自分は今、妖と対峙している。そう理解すると、今度は体がガタガタと震えはじめた。<br />
山の奥は、神々の住む世界。そして、闇の世界は、物の怪たちの世界。<br />
こんな夜更けに山にいるなど、本来なら言語道断なのだ。</p><br />
<p>「ご、ごめんなさい・・・！ あ、あの、朝になれば里に帰ります、から」</p><br />
<p>この物の怪に、喰われてしまうのかもしれない。</p><br />
<p>「ゆ、許して、ください・・・！」</p><br />
<p>もう、家族に会うことも叶わないかもしれない。<br />
恐怖にかられて許しを請うと、娘は立てない足を引きずりながら這って白銀の妖から遠ざかろうとした。</p><br />
<p>そんな娘を見て、妖はいぶかしげに目を細めた。</p><br />
<p>「・・・助けを呼んだのではないのか」</p><br />
<p>「・・・え？」</p><br />
<p>「・・・天生牙が、騒いだ」</p><br />
<p>「てんせいが・・・？」</p><br />
<p>この人は、自分を殺そうとしているわけではなさそうだ。<br />
そう思うと、娘はおそるおそる妖を見上げた。 <br />
白銀の月の化身のようなその姿。　<br />
月光の下で佇むその妖は、人間を喰らうという化け物には見えない。<br />
人間離れした美しさはむしろ、神々しくすらある。</p><br />
<p>「・・・あなたは・・・誰・・・？」</p><br />
<p>娘がかろうじてそう聞くと、妖は腰の刀に手を置き、その金色のまなざしで娘の顔をじっと見返した。<br />
妖のあまりに美しい顔立ちに、娘は息をするのを忘れてしまいそうになる。骨格や、着けている鎧は男のそれだが、藤色の振り袖もあいまって、まるで物語の姫君のようだ、と娘は思う。</p><br />
<p>「・・・・助けを呼ぶ声が聞こえた。天生牙が騒いだ。ゆえに、来た」</p><br />
<p>「助けを・・・？」</p><br />
<p>妖が、人間を助けることなどあるのだろうか。<br />
そんな話は聞いたことがない。</p><br />
<p>「なぜ、泣いている」</p><br />
<p>「・・・・・・」</p><br />
<p>娘は口ごもる。<br />
何かに襲われて、助けを呼んだわけではない。<br />
一言で説明できるような話でもない。<br />
それに、妖に人間の都合など分かるものだろうか。<br />
目の前に立った妖の白銀の長い髪が、夜風にゆれてさらさらと靡いた。<br />
本当に、物語のお姫様のような美しさだ。</p><br />
<p>（・・・神様みたい）</p><br />
<p>そうだ、神様なのかもしれない、と娘は思った。<br />
もしかしたら、さっきお参りした祠の神様かもしれない。<br />
娘が山で泣いていたから、姿を現してくれたのかもしれない。<br />
そういえば、この輿入れの話が出てから、里のお社の神様にも、山の祠の神様にも、娘は一度も自分の幸せを願っていない。<br />
幼い頃は、手を合わせるたびにささやかな幸せを願っていたのに。<br />
そう思うと、また悲しくなってきて、涙がこぼれた。</p><br />
<p>（神様にだったら・・・話しても大丈夫なのかもしれない・・・）</p><br />
<p>娘は、このまま秘めておかなければならない想いを、誰かに聞いてほしかった。たとえ、自分の想いが、ずっと夢みていた願いが叶わなかったとしても。<br />
頬を伝う涙を手の甲で拭うと、息をのんで、娘はこわごわと口を開いた。</p><br />
<p>「・・・もうすぐ・・・好きではない人と、夫婦にならなければ・・・ならないの」</p><br />
<p>恐る恐る言葉を口にすると、人ではない者と対峙している緊張が、するすると不思議なほどにほどけていった。目の前の神様のまなざしは、人間離れした美しさで、娘にはなぜか少しだけ哀しげに見えた。<br />
そして、娘の話に真摯に耳を傾けているようにも。</p><br />
<p>「好きな・・・人が、いたの。 だけど、お城の若君の側室になれって言われてるの。若君には・・・強い男の子が産まれないの。私は、すごく体が丈夫で、だから強い子を産むだろうって。・・・私には、断れない」</p><br />
<p>ぽたぽたと、涙が落ちる。ずっと我慢していた涙。</p><br />
<p>「私、孤児（みなしご）だったの。・・・・だから」</p><br />
<p>どうしようもなかった。<br />
納得していたはずだった。<br />
でも、どうしてだろう。この白銀の神様の前では、自分の気持ちに嘘がつけなくなってしまう。</p><br />
<p>「・・・・断ったりしたら、父さまと母さまが悲しむでしょう？ ・・・それに」</p><br />
<p>そして、秘めていた想い。<br />
口にすれば、もう、押さえられなくなってしまうかもしれない。<br />
涙がぽろぽろこぼれて、目の前の白銀の神様がゆらゆらと揺れた。</p><br />
<p>「・・・・わたし・・・ずっと、兄さまが好きだったの。誰よりも優しくて、ほんとに、ほんとに、大好きだったの。このまま家にいれば、ずっと一緒にいられると思ってた。　私は孤児（みなしご）だから血のつながりもないし、もしかしたら・・・・・もしかしたら・・・兄さまのお嫁さんになれるかもしれないって、思ってた・・・！」</p><br />
<p>娘は嗚咽をもらして、顔を覆った。<br />
喉が腫れたようになって、息がうまくできなかった。<br />
涙が、どこから湧いて出てくるんだろうと思うほどに、次から次からこぼれてくる。</p><br />
<p>・・・この気持ちに気がつかないふりをして、側室に入ってしまえば良かった。<br />
このままうまく、自分をごまかし続けられればよかったのに。<br />
思いっきり泣いて泣いて、泣き尽くして忘れられたらいいのに。<br />
だけど、言葉に出して改めて実感してしまう。<br />
きっと、死ぬまでこの想いは変わらないだろう、と。</p><br />
<p>「・・・・・そうか」</p><br />
<p>どれだけ泣いていただろう。<br />
頭上から低い声が響き、娘は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。</p><br />
<p>白銀の神は、静かに娘の前で膝を折り片膝立ちになると、その優美な指で涙だらけの娘の顎をすくう。<br />
くい、と顎を持ち上げられた娘は、吸い込まれるような金色のまなざしに目を見張る。<br />
白銀の神は、娘を通してまるで懐かしいものでも見たかのように、寂しげに微笑んでいた。</p><br />
<p>「・・・お前の中に流れる血が、私を呼んだ」</p><br />
<p>「え・・・？」</p><br />
<p>「愛しいものと生きる幸福を、私は知っている」</p><br />
<p>白銀の神は娘の顎をすくっていた指を離し、そっと娘の頭を撫でた。</p><br />
<p>「・・・・愛するものと健やかに生きよ」</p><br />
<p>金色のまなざしは、なぜか里の方を向いている。</p><br />
<p>「天生牙が騒いでいる・・・」</p><br />
<p>娘から二歩離れると白銀の神は、ふわり、と宙に浮いた。<br />
そして、あっと言う間に金色の光の玉になると、流れるように里の方へ降りていってしまった。</p><br />
<p>「・・・・・・え・・・？」</p><br />
<p>そっと撫でられた感触は、まだ頭に残っている。<br />
娘が大きな瞳をしばたかせると、目尻にのこっていた涙が落ちた。</p><br />
<p>「・・・？　まぼろし・・・だったの・・・？」</p><br />
<p>座り込んだまま、ぼうっとして光の消えた方向を見つめていると、遠くからガサガサッという音が聞こえた。<br />
娘はハッと身構える。<br />
獣が近づいているのかもしれない。<br />
やがて、木立の中にぼんやりと、松明の光が見えた。</p><br />
<p>「お―――― い、お鈴――― ！！」</p><br />
<p>懐かしい、声。<br />
それは、大好きな、大好きな人の声。</p><br />
<p>「・・・！　兄さま・・・・！！」</p><br />
<p>一気に肩の力が抜けて、涙があふれてくる。</p><br />
<p>（兄さまが、助けにきてくれたんだ・・・）</p><br />
<p>「返事をしてくれ、お鈴―――――― ！」</p><br />
<p>必死に、自分を捜してくれている。<br />
大好きな人が、自分を捜してくれている。</p><br />
<p>もう、誤魔化すのはやめよう、と娘は思った。<br />
もう、これ以上、自分を誤魔化せない。<br />
兄さまを困らせてしまうかもしれない。<br />
父さまと母さまが、悲しむかもしれない。</p><br />
<p>でも、それでも、伝えなければ、と思った。<br />
祠の神様が言ったのだ。「愛するものと健やかに生きよ」、と。</p><br />
<p>娘は、涙を拭い、力の限り叫ぶ。</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>「兄さま―――――― ！！！」</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p>――― その夜、城に変事があった。</p><br />
<p>次期当主である若君の枕元に、白銀の神が顕れたのだという。</p><br />
<p>山から訪れたというその白銀の神は、まばゆい光を放つ一振の刀で、若君に憑いていた悪霊を切り伏せた。<br />
その場には城が揺れるほどの断末魔が響いたが、若君は傷一つ負っていなかったという。<br />
悪霊は、城の奥深くで代々の当主を呪っていたという物の怪であった。</p><br />
<p>それ以降、この城の当主には健やかな男子が授かるようになり、国は豊かに栄えたという。</p><br />
<p>そして、この時代には珍しく、その怪異以降なぜかこの城では側室制度が禁忌となった。</p><br />
<p>&nbsp;<br />
&nbsp;</p><br />
<p>――――――――&nbsp; これは、人間と生きることを選んだ二人の子供たちの、遠い末の話。</p><br />
<p>&nbsp;<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
</p><br />
<p>子孫たちは、しなやかに生きていく。<br />
<br />
神はそれを、知らずとも。&nbsp;</p><br />
<p>&nbsp;</p><br />
<p style="text-align: center;"><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/233/" target="_self">原作編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/249/" target="_self">原作終了後編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/194/" target="_self">新婚編</a>へ<br />
<a title="" href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/322/" target="_blank">輪廻転生編</a>へ<br />
&nbsp;<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/139/">動画リンク</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/" target="_self">ＭＥＮＵ</a>へ<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>小説</category>
    <link>https://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/333/</link>
    <pubDate>Mon, 19 Oct 2015 14:59:24 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mioyanoko.ichi-matsu.net://entry/333</guid>
  </item>
    <item>
    <title>すべては神の手の上で</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
「・・・逝くのじゃな」</p>
<p><br />
「・・・ああ。後を、頼む」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
「――― つまらなくなるな」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
わらわがそう呟くと、あやつは面白そうに血の滲んだ口角を上げた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
「――― 私は、楽しかったぞ。そなたがいてくれて、楽しかった。すまんな、最後まで面倒を掛ける」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「・・・馬鹿もの。 少しは残される身にもなってみろ。」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
わらわが怒ると、傷だらけの頬が、少しだけ疲れたように笑った。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「・・・すまん」</p>
<p><br />
「・・・ほんに、良いのじゃな」<br />
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　</p>
<p>　　　　　　　　　</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「ああ・・・・・・もう、思い残すことは、何もない―――――― 」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>下界で炎に包まれ、ボロボロになっていたくせに、微笑みながら、あの男はわらわの胸の中で、息絶えた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>ほんに、嘘ばかり言いおって。</p>
<p><br />
何が思い残すことはない、じゃ。<br />
本当は後のことが気にかかって仕方がなかったくせに。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>まったく、あんな心配性で子煩悩な妖はみたことがない。</p>
<p>あやつの残した二本の牙はそれぞれの息子に受け継がれた。<br />
あやつらしい小細工を残したままで。</p>
<p><br />
鉄砕牙は、あの危うげな半妖の犬夜叉に。<br />
天生牙は、未だ「大切なもの」を知らぬ殺生丸に。</p>
<p><br />
すべて、あやつがこの世を去ってからのこと。<br />
いったい、闘牙は、どこまで先を見通していたのだ。</p>
<p><br />
・・・殺生丸が人間の娘を愛することも、闘牙は見越していたのだろうかの。</p>
<p><br />
変なところがよく似た親子だからの。<br />
己と同じ轍を踏んで、殺生丸が人間を愛してしまった時のことも、あいつは考えておったのやもしれぬ。</p>
<p><br />
そう、闘牙が一番よく分かっておったはずじゃ。<br />
人間を愛してしまったが最後、共に過ごせるのは、ほんの瞬きするほどの間であること。<br />
・・・死に別れた後は一人、癒えぬ孤独に苦しみながら生きるしかないことも。<br />
あやつの場合は計算が狂って、自分の方が先に逝ってしまいおったが。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
そして殺生丸の手に、慈悲の刀が残された。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
さあ、それをどう使う、殺生丸よ。</p>
<p>父上の声が、聞こえるかえ？</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>娘はもう、この世にはおらぬ。</p>
<p>されど、そなたは分かっているはずだ。<br />
あの娘は、そなたに言い残したであろう。</p>
<p><br />
永い永い輪廻のその向こうに、また出会える未来があることを。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
――― だが、その未来は、果てしなく遠いのう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>しかし、そなたはそこへ向かって生きるしかあるまい。<br />
どんなに孤独であろうとも、そなたは歩み続けるしかないのじゃ。</p>
<p><br />
・・・・天生牙を泣かせるでないぞ。</p>
<p><br />
天生牙を手にしたそなたにしか成せぬことは、地上には山のようにあろう。</p>
<p>人間たちの怨唆の声に満ちた下界は、悪霊のるつぼのようじゃ。<br />
<br />
天生牙に宿る、父上の言の葉に耳をすませ。<br />
<br />
そうして天生牙と共にあの小娘を待ち続けることでしか、そなたの魂は救われまい。<br />
<br />
</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>生まれ変わったばかりの娘の命、魑魅魍魎どもに喰われぬよう、せいぜい神々の手のひらの上で働くのじゃな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>数世紀も待ちわびた娘の笑顔を思えば、何のことはなかろう。</p>
<p>天生牙も働きがいがあろうて。</p>
<p>&nbsp;<br />
<br />
<br />
</p>
<p>この世のすべては、神々の手の上じゃ。<br />
<br />
<br />
・・・のう、殺生丸よ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<div style="text-align: center;"><br />
&nbsp;<br />
<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/233/" target="_self">原作編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/249/" target="_self">原作終了後編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/194/" target="_self">新婚編</a>へ<br />
<a title="" href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/322/" target="_blank">輪廻転生編</a>へ<br />
&nbsp;<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/139/">動画リンク</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/" target="_self">ＭＥＮＵ</a>へ<br />
<br />
</div>
<p style="text-align: center;">&nbsp;&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>小説</category>
    <link>https://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/331/</link>
    <pubDate>Thu, 08 Oct 2015 15:03:25 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mioyanoko.ichi-matsu.net://entry/331</guid>
  </item>
    <item>
    <title>太陽はただ、のぼることを繰り返すのみ</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>&nbsp;<br />
<br />
<br />
</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「―――― おお、殺生丸さま、美しゅうございますなあ・・・」<br />
<br />
</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>茜色に染まった朝焼けの空高く、輝く銀色の白尾に掴まった侍従が、しわがれた声でそうつぶやいた。<br />
年老いた侍従の声は、風の音に紛れて、銀色の妖の耳に届く。</p>
<p><br />
<br />
「・・・・・・」</p>
<p><br />
「りんが見れば、さぞかし喜ぶことでしょうなぁ・・・」</p>
<p><br />
<br />
&nbsp;</p>
<p>数百年まえであれば、このような言葉を発しようものなら、侍従は蹴落とされて大空に舞ったに違いない。<br />
だがそういえば、もう何年も、そういう扱いを受けていない。</p>
<p><br />
<br />
&nbsp;</p>
<p>・・・いつ頃からだろう。</p>
<p>あれは、人頭杖が重くて重くてたまらなくなった頃からだろうか。</p>
<p><br />
<br />
<br />
&nbsp;</p>
<p>最近では、寝たきりになった侍従が ｢ 殺生丸さまと共に空を飛びとうございます」などとワガママを言うと、時たまこうやって空に連れ出してくれるようにもなった。</p>
<p>殺生丸さまはずいぶん丸くなられた、などと出来損ないの年老いた侍従は笑う。</p>
<p><br />
<br />
<br />
<br />
「殺生丸さま、りんへの土産は何にいたしましょうや」</p>
<p><br />
「・・・・・・」</p>
<p><br />
「新しい着物など、ご用意いたしましょうかの」</p>
<p><br />
<br />
<br />
&nbsp;</p>
<p><br />
「―――――― 邪見」</p>
<p><br />
<br />
<br />
「はい」</p>
<p><br />
&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「　邪見よ・・・りんは、もうおらぬ」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
<br />
<br />
<br />
白濁した侍従の大きな目が、とまどったように見開かれた。<br />
ゆらゆらと視線が揺らぎ、主の視線を受け止めてようやく、侍従は我に返った。</p>
<p><br />
<br />
<br />
<br />
「・・・・ああ・・・そうで・・・そうでございましたな」</p>
<p><br />
<br />
<br />
<br />
顔の半分ほどもある目がくしゃりと閉じられると、大粒の涙が空を舞う。</p>
<p><br />
<br />
<br />
「申し訳ありませぬ・・・」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>ぽろ、ぽろ、ぽろ。　ぽろ、ぽろ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「そうでありましたな・・・りんはもう、おらぬ。　おいたわしや・・・・殺生丸さま」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「・・・・・・鬱陶しい、泣くな」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「申し訳ありませぬ・・・」</p>
<p><br />
<br />
&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「・・・・邪見」</p>
<p><br />
<br />
<br />
「は」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
<br />
&nbsp;</p>
<p>―――― おまえも、もうすぐ、逝くのか</p>
<p><br />
<br />
<br />
<br />
―――― はい　　<br />
<br />
―――――― 申し訳ございません　殺生丸さま</p>
<p><br />
<br />
<br />
&nbsp;</p>
<p>言葉にせずとも、伝わる。<br />
不出来な侍従は、主が無口なことを知っている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
・・・時は、過ぎる。残酷に、容赦なく。</p>
<p><br />
美しい深紅の朝焼けも、この神のように美しい大妖には何の価値もない。</p>
<p>太陽が、ただ昇ることを繰り返しているだけ。<br />
ただ、それだけのことだ。</p>
<p>りんがそれを愛でるからこそ、殺生丸には価値があった。</p>
<p><br />
・・・だが、年老いた侍従の願いを少しばかり叶えてやるくらいなら、付き合ってやらなくもない。<br />
最近は、そう思う。</p>
<p><br />
<br />
<br />
<br />
「・・・・」</p>
<p><br />
「・・・殺生丸さまは、お優しくなられましたな・・・」</p>
<p><br />
<br />
<br />
白尾に掴まっていることすら危うい侍従は、泣きながら目を細めて笑う。<br />
<br />
侍従には、主が白尾の形を変えて、年老いた自分が大空に落ちたりしないように、気を使ってくれているのがわかる。<br />
かつて主が、愛する人間の娘にそうしていたように。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
<br />
「ありがとうございますじゃ・・・」</p>
<p><br />
<br />
<br />
「・・・・・・」</p>
<p><br />
<br />
「・・・殺生丸さま」</p>
<p><br />
<br />
「何だ」</p>
<p><br />
<br />
「ワシは・・・りんの言っておったことを、信じてみようと思うておりまする」</p>
<p><br />
<br />
「・・・なんのことだ」</p>
<p><br />
<br />
「また・・・お側に参りまする。　生まれ変わっても、また」</p>
<p><br />
&nbsp;</p>
<p>「・・・・・・」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
<br />
<br />
「・・・お許しいただけますでしょうや？」</p>
<p><br />
<br />
&nbsp;</p>
<p><br />
銀色の長い髪が風をはらんで、ざあ、と靡いた。<br />
主の表情は、背を向けられた侍従には見えない。</p>
<p><br />
&nbsp;</p>
<p>「・・・くだらん。 母上の元に戻るぞ」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
侍従は白尾の中で目を細めて笑い、はい、と答えた。<br />
ほろほろと、また涙がこぼれて大空に溶けた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
<br />
―――――― 言葉になどせずとも。</p>
<p><br />
<br />
――――――――― 許す、という言葉が、侍従には聞こえた気がした。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;<br />
<br />
</p>
<p><br />
&nbsp;</p>
<div style="text-align: center;"><a title="" href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/322/" target="_blank">輪廻転生編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/249/" target="_self"><span style="color: #ac9d8a;" color="#ac9d8a">原作終了後編</span></a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/179/" target="_self"><span style="color: #ac9d8a;" color="#ac9d8a">番外編</span></a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/194/" target="_self"><span style="color: #ac9d8a;" color="#ac9d8a">新婚編</span></a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/139/"><span style="color: #ac9d8a;" color="#ac9d8a">動画リンク</span></a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/" target="_self"><span style="color: #ac9d8a;" color="#ac9d8a">ＭＥＮＵ</span></a>へ</div>
<p><br />
&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>小説</category>
    <link>https://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/330/</link>
    <pubDate>Thu, 01 Oct 2015 11:05:14 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mioyanoko.ichi-matsu.net://entry/330</guid>
  </item>
    <item>
    <title>神そのものの価値</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><br />
&nbsp;&nbsp;<br />
&nbsp;<br />
&nbsp;<br />
秋津島<br />
この国は、八百万の神々の治めし国<br />
&nbsp;<br />
その考え方はある意味正しく、ある意味誤っているといえよう。<br />
&nbsp;<br />
この国の神々は、森羅万象の中に息づいているのだ。<br />
その神威は多くの神々のそれと影響しあい、世界を司る法則となる。<br />
そして複雑に絡まりあった神々の法則の狭間で、人間たちは　生を得ているにすぎない。<br />
<br />
神々が互いに影響しあうこの秋津島では、外国（とつくに）のように単独の神が国を治めることはできない。<br />
ゆえに、治める、という捉え方そのものが、誤っているのかもしれない。<br />
<br />
神々はその多くが人間たちの目には見えない。<br />
だが人間たちは、神の力がこの秋津島に満ち満ちていることを感じることができた。<br />
<br />
神々は、そこかしこにいる。<br />
神々は、八百万（やおよろず）もいる。<br />
八百万の神々が、この国には満ちている。<br />
<br />
それゆえ、この秋津島は、八百万の神々の治める国だ、ということになった。<br />
<br />
ただ、それだけなのかもしれぬ。<br />
<br />
<br />
では、神の価値とは、人間にとって如何なるものであろう。<br />
<br />
<br />
<br />
ここに一匹の狗神がいる。<br />
<br />
<br />
多くの人間たちは、この神を知らない。<br />
ゆえに、この神を祀った社も無い。<br />
<br />
<br />
この神はかつて、一人の人間の娘を愛し、子をなした。<br />
その娘の短い生命を愛しむように、寄り添い共に生きた。<br />
<br />
人間の娘は、男が神であったから愛したわけではない。<br />
狗神とて、娘が人間だから愛したわけではなかった。<br />
<br />
娘にとっても、狗神にとっても、ただ互いが惹かれあう唯一無二の存在であっただけである。<br />
<br />
ゆえに、狗神は愛する娘を失ったのち、悲しみのあまり、それまで以上に人間から離れていった。<br />
<br />
わずかな寿命の中で多くを願う人間の姿は、あまりに哀れで、すべてが娘の面影につながった。<br />
人間の言葉はあまりに儚くて、耳にすれば、否が応にも愛した娘を思い出してしまう。<br />
孤独な狗神には、耐え難い苦しみだった。<br />
<br />
<br />
ゆえに、狗神はヒトを避けた。<br />
<br />
ゆえに、ヒトは狗神を知らぬ。<br />
<br />
<br />
狗神は、己に課せられた責務だけを、ただただ、孤独に果たし続けた。<br />
秋津島にはびこる悪鬼や悪霊を浄化しつづけた。<br />
<br />
・・・狗神は、愛する娘が残した、たった一つの希望に夢をみていた。<br />
<br />
<br />
「・・・・・待ってて」<br />
<br />
<br />
娘は、死ぬ間際にそう言った。<br />
<br />
<br />
「・・・・・・・また、会えるから」<br />
<br />
<br />
そう、言ったのだ。<br />
&nbsp;<br />
<br />
<br />
<br />
・・・また、いつか。<br />
<br />
・・・・・・また、いつか、生まれ変わったりんに、巡り会える。<br />
<br />
・・・もしも、そうならば。<br />
<br />
永い巡りから再び娘の魂が目覚めたとき。<br />
その命の苗床となるこの秋津島が少しでも安らかであるように。<br />
<br />
<br />
ただそれだけの為、狗神は己の責務を果たし続けた。<br />
<br />
腰に佩いた一振りの神刀で、この秋津島を浄化しつづけるという責務を。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
――― かつて、その名を知らぬものはないと言われた妖怪。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
その狗神の価値を知るは――― 愛された人間の娘と、ただ、八百万の神々のみ。<br />
&nbsp;<br />
&nbsp;<br />
&nbsp;</p>
<p style="text-align: center;">&nbsp;<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/233/" target="_self">原作編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/249/" target="_self">原作終了後編</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/194/" target="_self">新婚編</a>へ<br />
<a title="" href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/322/" target="_blank">輪廻転生編</a>へ<br />
&nbsp;<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/139/">動画リンク</a>へ<br />
<a href="http://mioyanoko.ichi-matsu.net/" target="_self">ＭＥＮＵ</a>へ</p>]]>
    </description>
    <category>小説</category>
    <link>https://mioyanoko.ichi-matsu.net/Entry/327/</link>
    <pubDate>Thu, 24 Sep 2015 17:10:44 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mioyanoko.ichi-matsu.net://entry/327</guid>
  </item>

    </channel>
</rss>