殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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―――――― しまった、と思った時には、時すでに遅く。
頬を切られるような風に、男は覚醒し、自分が空から落ちていることを悟った。
慌てて体勢を立て直そうと、落ちていく方向を確認した途端、目の前には竹藪の緑。
バキバキバキッ
ドドーーーーン・・・!!
ぼきり、と肋骨が折れる嫌な音がした。
木々の折れるすさまじい音と共に、天空から叩きつけられた激しい衝撃が全身を襲う。
激痛で息が吸えない。
激しい痛みに朦朧としながら、必死で眼をあげると、なんと目の前にはちいさな女童がいた。
雅な鞠を抱えたまま、天空から落ちてきた男を見つめ、眼を見開いている。
切りそろえられた前髪に、重ねた色目も美しい小袿(こうちぎ)を着せられている。
貴族の姫であろうか。
年は十にも満たないだろう。
一目見たら目が離せなくなりそうな、美しい女童だった。
男は、激痛で朦朧とする意識の中、無理をして女童に笑って見せた。
心配させてはいけない、と思ったのだ。
この男は戦うために生まれてきたような男だが、こういう小さな気遣いを忘れない男でもあった。
「 そんなことだから、いつも厄介事を抱え込むのじゃぞ 」 と、この男の妻は言う。
「 まあ、いい。そなたを見ていると、退屈せぬわ 」 と。
空から落ちた、と言えば 「 そなたのような間抜けは見たことがない 」 と腹を抱えて笑うに違いない。
金剛石のように美しく、強く、けれど茶目っ気の抜けぬ、銀の狗の大姫。
・・・・・愛しき、我が妻。 ・・・あれには、どうあがいてもかなわん。
こんな状況なのに男は脳天気にもそんなことを思い、苦笑した。 その瞬間、また胸に激痛が走る。
薄暗くなる瞼の裏に浮かんだ妻の顔に、氷の君と称されている息子の顔が重なる。
ああ・・・・。
この二人はよく似ている。 誰よりも誇り高く、冷徹で美しい我が息子。 生まれながらの大妖怪。
私のこんな姿を見たら、烈火のごとく怒るに違いない。
・・・あれは、勝ち負けにうるさいからな。
―――― ああ、だめだ。 ・・・・もう、意識が、もたない。
男は、気が遠くなるのを感じながら、せめてこの可愛らしい女童に怪我を負わせなくてよかったと思い、
そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
―――― 男の名は、闘牙王。
―――――― 秋津島の西を治める、妖の長。
狗神として認められ、神議りに呼ばれるようになってからまだ日は浅い。
狗神とは、天界、人界、冥界の三世界にまたがり戦う能力を持った、生身を持つ珍しい神である。
秋津島には、神としての力はあれど戦いに不向きな神がたくさんいる。
戦う力を持たぬ神は、闘神である闘牙王に己の神域の守護を頼み、やがて神々は、その守護の
印として、社のそばに彼の依り代を・・・狗神の姿をまつるようになった。
魔を拒(こば)む狗・・・・拒魔狗(こまいぬ)と、それは後にそう呼称されるようになる。
秋津島が、どこもかしこも戦だらけの時代。
―――――― 時は、鎌倉末期である。
忘れられた物語・・・1