殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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≪ 無くした片方<2> | | HOME | | その一言が、私の救いでした ≫ |
その日、殺生丸さまは、ものすごーーーーく、機嫌が悪かった。
あまりの機嫌の悪さに、ワシが死ぬかもしれんと思うたのは、久しぶりじゃったわい。
ワシの名は邪見。
戦国最強の大妖怪、殺生丸さまにお仕えして幾星霜。
無口で無表情、何を考えておられるかさっぱり分からん主に仕えるというのは
日々苦労が絶えんが、今回はまた、特別じゃったわい。
爆砕牙を得、奈落を滅した後の殺生丸さまは、
まあ、何というか、完全に敵がいなくなってしまわれた。
どんな妖怪も、殺生丸さまの名を聞いたとたんに逃げていってしまう。
殺生丸さまが爆砕牙を得たという妖怪どもの噂と恐れは、予想以上に大きなものじゃった。
何せ、たとえ指一本でも切り落とされれば、
そこから全身が破壊しつくされてしまうのじゃ、あの爆砕牙は。
まったく、一太刀浴びてしまえば、逃げることもできんではないか。
そりゃ、争いたくない気持ちも分かると言うものじゃわい。
そんな戦国最強の大妖怪、殺生丸さまの唯一の弱み。
それは、言うまでもなく、人里に残したりんじゃろう。
りんを人質にとられたら、さすがの殺生丸さまも手も足も出んだろうからな。
なんせ、りんはもう天生牙で生き返ることも叶わん。
じゃが、そんなこと、想像するだけでも恐ろしいわい。
そうは思わんか?
殺生丸さまの妖力を持ってすれば、
おそらく山の一つや二つ、吹っ飛んでもおかしくはないんじゃぞ。
妖怪でも人間でも、そんなことをしたら一族郎等皆殺し間違いなしじゃ。
考えるだけでも、ワシは恐ろしいわい。
じゃが、いつの時代でもどんなところでも、アホはおる。
どんなに殺生丸さまが恐ろしかろうと、りんが絶対に安全だという保障はない。
というわけで、最近では殺生丸さまは武蔵の国からさほど離れることもなく、
このあたりを周回するように移動されている。
まるで、りんのことを遠くから守るように、じゃ。
りんに何かあれば、すぐに気づくように、
そうされておるのじゃろうとワシも薄々感じてはおるが、
まあ、直接確かめたわけではないから、本当のところは分からんがな。
お言葉の少ない殺生丸さまから、何とかワシが聞き出したところによると、
殺生丸さまのお父上が、竜骨精のように封印した妖怪は星の数ほどおるらしくて、
殺生丸さまは、どうもそれらの封印を巡って、ご確認されて回っているような感じじゃ。
お父上の跡を辿り、お父上のお気持ちを推し量ろうとしているようにも見えるのう・・・。
その日も、殺生丸さまは武蔵野から山二つ離れた山野を歩いておられた。
ここは、大昔に鬼が封印されたと伝説の残る場所で、
殺生丸さまはその封印が緩んでいないか確かめにこられたようじゃった。
殺生丸さまにとっては封印された鬼など、敵にも価せんのであろうが、
か弱い人間どもにとってはこういう小さな綻びが命取りになるのじゃろう?
恐らく、どんな小さな災いでもりんに降りかかるのは許せんのであろうなあ・・・。
それも、確かめたわけではないから本当のところは分からん。
じゃが、長年殺生丸さまの従者をやっておるワシのカンに間違いはあるまいよ。
ただ、あの人里には半妖とはいえ弟の犬夜叉もおるし、
その犬夜叉を手なづけたかごめもおるし、りんを預けたのは老いているとはいえ巫女じゃし、
妖怪退治屋の夫婦もいて、ただの人里よりよっぽど安全じゃと、ワシなんかは思うんじゃが。
まあ何せ、りんに関してだけは、殺生丸さまも過保護じゃからの。
その日、鬼を封印したという塚の前で、その封印が固いことを確かめられて、
殺生丸さまがそこを立ち去ろうとされた時じゃった。
・・・恐らく殺生丸さまは、そのするどい嗅覚で何かを感じ取られたのだろう。
最初は、ぴくりと眉を動かし、立ち止まられただけじゃった。
2、3秒、わずかな間、何かを考えられたかのようだったが、
足下から妖気が立ち上がり、白尾の美しい毛が浮き初めていたので、
ワシは殺生丸さまは飛び立たれるのだと思い、すかさずそのモコモコに飛び乗ろうとした。
ところが、明らかに殺生丸さまは何かに気が付かれたように、飛び立つのを止められた。
そして、だんまりとしたまま、
みるみるうちに超!超!チョーーー不機嫌になられてしまわれたのだ。
ワシにも阿吽にも、何のことやらさっぱり分からぬ。
わしなんか、「あの、」と言いかけたところで踏みつぶされてしもうたわい。
殺生丸さまは、ただ一カ所だけを睨み据えておられた。
何を見ておられるのか、何を嗅ぎとっておられるのか、ワシには分からん。
ただ、その方向に何があるかだけは知っておる。
ま、言わんでも分かるじゃろ。
・・・りんの住む、人の里じゃ。
殺生丸さまは、しばらく人里の方向を睨み据え、
更に上を向いて空を睨み据えていたかと思うと、
チョーーー不機嫌なまま、天空へと飛んでいかれてしまわれた。
ワシと阿吽は、これまたチョーーーー必死に後を追ったわい。
最近の殺生丸さまは思い立たれると何だか妙に行動が早くて、
おまけに説明は一切してくださらなくて、ワシは本当に苦労しておる。
りんがおった頃は、あいつが何にも考えんと、無邪気に殺生丸さまに質問しとったから、
ワシも色々と助かったんじゃがのう・・・。
殺生丸さまが目指したのは、ご母堂さまがお住まいになる天空の宮じゃった。
最近では、殺生丸さまが命じて作らせた着物やら何やらを受け取りにくることが増えて、
ワシも下働きのものとは顔見知りになった。
皆、いささか気位が高いが、なかなか良い奴等じゃ。
殺生丸さまとご母堂さまの命令には、絶対的に忠誠を尽くす。
ワシが殺生丸さまなら、あんな優雅な暮らしを捨てて下界へ行こうなどと思わんがのう・・・。
やはり、殺生丸さまは最強だったお父上の背中を追いかけていらっしゃるんじゃろうな。
まあ、ワシはその孤高なお姿に一目惚れしてしもうたわけじゃが。
殺生丸さまは、冥道残月派の一件でご母堂さまと相対した謁見の大広場を飛び越えられ、
ご母堂さまの住む大寝殿も飛び越えられ、
巨大な中庭にある大きな大きな池の真ん中の島に降り立たれた。
蓬莱島を模した島の真ん中には、
仙人の世界にしかないという様々な花や木が植わっていて、わしは目を見張ったが、
その中にひときわ美しい、光輝くような桃の木がたわわに実をつけておった。
阿吽から島に降り立ったワシは、足下が妙にジャリジャリするのでよく見てみると、
島の砂はまばゆいばかりの金剛石でできておる。
周りの池は翡翠のような美しさで、ワシは思わずため息をついてしもうた。
さすが、殺生丸さまのご実家はすべてが桁違いじゃわい。
「・・・邪見」
殺生丸様は無造作に実った大きな桃を二つちぎると、ワシに向かって放られた。
ワシは必死になって受け止めたわい。
「・・・あのー、これは?」
ワシが殺生丸様におそるおそる、聞いたときじゃった。
池の向こうから、面白がっているような声が響いた。
「どうした、殺生丸?蓬莱島の桃が入り用とは、腹でも壊したのか?」
声の主は言わずもがな、あのご母堂さまで、ワシは思わず縮み上がったわい!
だって、なんか、ワシ、桃泥棒みたいじゃないかっ!?
「ここ、これは、ご、ご母堂さま・・・」
ワシがそう言いながら、おそるおそる殺生丸さまを見上げると、
殺生丸さまは、ふわりと蓬莱島を飛び立たれて、
岸の向こうのご母堂様のところへ降り立たれた。
ワシはあわてて阿吽に飛び乗り、後を追ったわい。
「・・・」
殺生丸さまは、ご母堂様と向かい合ったまま、険しい表情で黙っておられた。
殺生丸さまがご母堂さまと向き合うなど、めったにあることではない。
りんの身の回りの物を誂えるのも、ほとんどワシが代理で来ていたくらいなのじゃからの。
きっと、何か話があるのじゃろう。
ワシはごくり、と息をのんで、殺生丸様をみつめたわい。
「・・・ふん」
先に、笑ったのはご母堂様のほうじゃった。
「・・・まったく、本当に、変なところが父親に似てしまったな」
面白そうに笑うご母堂さまを、殺生丸さまは苛立たしげに睨まれた。
「・・・何の真似だ。用があるならそう言え」
ふふん、とご母堂さまは笑う。
「ほう。一発で、毒の臭いを当てたか。さすがは我が息子。鼻の良いことじゃ」
「・・・どういうつもりだ」
殺生丸さまの眉間の皺は、深くなってゆく。
ワシは、近づくだけで切れそうな殺生丸さまの妖気に、思わず後ずさってしもうたわい。
最近では珍しいほど、めちゃめちゃ、怒っていらっしゃる。
・・・怖い。
ご母堂さまはそんな殺生丸さまの様子を見ても、たいして気にした様子もなく、
さらりと言い放たれた。
「・・・いい加減、出雲へ赴け。一体、いつまで待たせる気だ?」
・・・はて、出雲。
ワシは殺生丸さまの顔と、ご母堂さまの顔を交互に伺い、首を傾げた。
どうして、殺生丸さまが出雲へ行かねばならんのじゃろ?
「・・・・いずれ、父上の跡は、継ぐ。 りんには手を出すな」
「ほほほ、そうか。よい心がけじゃな。
まあしかし、あまり猶予はないぞ。覚えておけ」
「・・・用はそれだけか」
「・・・一つ、聞く。
そなた、それだけ気にかけていながら、なぜあの小娘を、その手の内で守らぬ?
久しぶりに下界を覗いてみたら、何やら、虫がまとわりついておったぞ。
見るに見かねて、可愛い息子の背中を押してしもうたではないか」
「・・・・くだらん」
殺生丸さまはご母堂さまを睨んだまま、ふわり、と浮き上がられた。
ワシは必死で阿吽に飛び乗った。置いて行かれてはたまらんからな。
ご母堂さまは、浮き上がった殺生丸さまを見上げて、ふふん、と笑う。
「ずいぶんと慎重だな、殺生丸。悩んでいる暇など無いのではないか?
人の命は、短いぞ。」
「・・・余計な世話だ」
殺生丸さまはそう言うと、きびすを返して下界へと飛び立ってしまわれた。
「あわわ、し、失礼いたします! お、お待ちください、殺生丸さまーーー!」
ワシは、ご母堂さまに一礼してこれまた必死に殺生丸さまを追ったわい。
殺生丸さまが目指されたのは、言うまでもなく、りんの村じゃ。
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