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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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無くした片方<2>

・・・そうね、あれは確かに、あたしたちの自覚が足りなかったわ。


そうなのよね。
りんちゃんって、この時代では、もうお年頃だったのよ。

りんちゃん、最近、背が伸びてすんなりして、前にも増して可愛くなってきたし、
くるくるとよく働くし、明るくてよく笑って、そりゃモテてもおかしくないわ。


・・・だけど、あたしたちの頭の中には、どうしても殺生丸のことがあって、
ほかの誰かと、どうこうなるって想像がつかなかったの。

 

だから、誰かが、りんちゃんにプロポーズするなんて、思いもしなかったのよ。

 

 

 

無くした片方<2>

拍手[42回]


 


あたしは、かごめ。
奈落を滅して三年後、こっちの世界に帰ってきたの。
どんなに不便でも、どんなに大変でも、
あたしには犬夜叉と生きていくことしか考えられなかったから。
後悔は、してないわ。
たまに、ママやじいちゃんや草太のことを思い出すと、切なくなるけどね。


でも、こうなってしまうと、本当に現代だったらいいのに!と思わずにはいられない。
携帯電話も緊急電話も、恋しくて仕方なくなっちゃうわよ。


・・・今、あたしの前には、ぐったりとしたりんちゃんがいる。


事の発端は、りんちゃんを心配そうに見つめる、男の子・・・宗之丞(そうのじょう)くん。
宗之丞くんは、ここの領主さまの三男なんですって。
あたしの見る限り、りんちゃんよりいくつか年上といったところじゃないかしら。

あたしの現代の知識から言えば、現在は応仁の乱の後、下克上が相次ぐ戦国時代。
この村も、貧しいながら領主様のために、若い男の人は兵役についたりしているし、
五穀をはじめ布幣、馬を育てたりして税として納めたりしている。
世の流れから考えても、いつ、大きな戦が起きてもおかしくないのよね。

大きな戦が起きたときにはたくさんの薬が必要になるということで、
楓おばあちゃんやりんちゃん、そしてあたしの作る薬の評判が、
領主さまの耳に入ったらしいの。
宗之丞君は私たちの村に、2人の家臣を連れて、
薬草や薬を税として徴収できないか視察に来たというわけ。

楓おばあちゃんは、この宗之丞君ともずいぶん昔から顔見知りだったみたいで、
薬草づくりの視察に快く応じたわ。

「兵役で働き盛りの男を連れて行かれるより、薬ですむならその方が村にとっては良かろう」

そう言っていたけど、確かにそうよね。
戦に駆り出されて死んじゃったら、それまでだもの。
大切な人が死んで泣くのは辛いし、
薬を納めることで避けられるなら、そっちの方がずっといいわよ。

宗之丞君はどちらかというと武人というよりも、学者肌の少年だった。
りんちゃんが薬草を作る過程を見ているうちに、
興味があるから自分もやってみたいと言い出したの。
付いてきた家臣は渋い顔をしていたけど、宗之丞君は、

「構わぬではないか。私の上には優秀で剛胆な兄上が二人もおられるのだ。
 私は兄上の補佐に回ればよかろう。そなたたちの期待に添えなくて悪いがな」

そう言って肩をすくめていたわ。
こんな辺鄙な田舎の領地にも家督争いがあるのかもしれないわね。
私たちにとっては、そんなことが起きても迷惑なだけだけど。

そして今朝は、草之丞君とその家臣が、りんちゃんの薬草摘みに付いて行くことになったのよ。

あたしも、何日か前から宗之丞君と一緒にいたし、
製薬の作業もずっと一緒にやったりしてたからすっかり気を許していたの。
りんちゃんも薬草に興味があるという宗之丞君と仲良くしていたから、安心していたのよね。

だけど、朝は元気に出かけたりんちゃんが、
宗之丞君の家人におぶわれて帰ってきたときには、私たちは真っ青になったわ。
りんちゃんの足からは一筋の血が流れていたの。

帰って来た時、宗之丞君はずいぶん取り乱した様子だったけど、
楓おばあちゃんの顔を見ると、ほっとしたように話し始めた。

朝から摘んだ薬草を洗うために川に入ったりんちゃんは、
早い川の流れの中で、草履を片方、流されてしまったらしいの。
りんちゃんは、宗之丞君の止める声も聞かず、
あわててその流された一つを追おうしたらしいわ。

・・・りんちゃんらしいわ。

りんちゃんの履いている草履は、とても編み目の細かい繊細なもので、
ぱっと見ただけでは分からないけれど、こんな田舎の村では絶対に手に入らないような、
専門の職人に作られた、とても手の込んだものなのよ。

・・・言わずもがな、よ。
いつまでも裸足で過ごしていたりんちゃんに、殺生丸が持ってきたものなの。
小さい頃は、裸足の方が気持ちいいって言ってたりんちゃんだったけど、
それを機に、嬉しそうに草履を履くようになったのよね。
殺生丸からもらった草履を、それはそれは大切にしていたから、
きっと川で流されてしまった時には、無我夢中で拾おうとしたんだと思うわ。

川から上がって、草履を追って川原を走り出した瞬間、
りんちゃんは小さく叫んで座り込んでしまった。

宗之丞君と家人が駆けつけると、
りんちゃんの草履を履いていない方の足には蛇が噛みついていたらしいの・・・!!
宗之丞君がそこらの石で蛇をたたくと、
蛇はりんちゃんからその牙を離して逃げていったらしいけど・・・。
その家人が言うにはね、どうも、その蛇がマムシだったんじゃないかっていうのよ・・・。
宗之丞君が、すぐに傷口から血と共に毒を吸い出したらしいんだけど・・・。

りんちゃんは、かつぎ込まれてから見る見るうちに高い熱を出して、寝込んでしまったの。
この時代に馴染んでいかなくちゃと思ってはいるけど、
こういう時には、やっぱり119番と救急車が恋しくなるわよ。

楓おばあちゃんが作った薬湯を飲んでも、りんちゃんの高い熱はいっこうに収まらない。
楓おばあちゃんは、その腫れ具合と咬み口の傷から、

「命に関わることはないと思うがの。本当なら、もっと腫れるはずじゃ。
 それに、この咬み口はマムシでは無さそうじゃが・・・」

そう言っていた。

けれど、マムシじゃないとしても、現にりんちゃんは、高い熱を出してうなされている。
毒蛇であったことは、間違いないと思っていいわ。
解毒の薬が効くかどうかは分からなかったし、
宗之丞君もあたしたちも、熱にあえぐりんちゃんを見守るしかできなかった。

犬夜叉が、毒を吸い出すなら、
いつかみたいに冥加じいちゃんに頼んでみたらどうだって言い出して、
楓おばあちゃんもあたしも、必死の形相でその案にうなずいたときだった。

りんちゃんの枕元で、宗之丞君が突然、意を決したように楓おばあちゃんに言ったのよ。

「・・・・私が、責任をとる!!!」

・・・って。

「・・・はぁ?!」

宗之丞君の家人も、楓おばあちゃんもあたしも、小屋の中にいた犬夜叉も、目を丸くしたわ。
責任をとるって、一体どういうことなのよ。
とまどう私たちに、宗之丞君は思い詰めたように言ったの。

「私が・・・この娘を貰い受ける!
 私は、三男だ。兄上には、もう健やかな男子がいるし、私は家督相続には関わりがない。
 ゆえに、己の身は己で立てねばならんとずっと思っておった。
 私は、この度の視察で、「薬」というものに今までにない興味を持った。
 この領地内で薬の分野が興すれば、商いも活発になろうし、
 父上や兄上たちの武勇を、後ろから支えることができる。
 ついては、その道に詳しいものが必要だ。
 この娘はまだ若いのに、父上にお付きの薬師に引けを取らぬ位の知恵を持っている。
 わ、私が妻に望んでも、父上も反対はすまいっ!!」

「つ、妻だとーーー!?こんな時に、てめー、何言ってんだー!!!」

カッとなった犬夜叉が立ち上がり、家人も同じように宗之丞君に詰め寄った。

「わ、若君!!何を仰せです、突然!」
「そ、そうですぞ、若君には縁談が・・・!」

宗之丞君は真っ赤になって言い返したわ。

「相手も分からぬような縁談など、破談にしても構わぬ!
 そ・・・それにこの気持ちは、突然などではないっ!
 私は、ここの村に寄る度、この娘に、ずっと前から惹かれていたのだ!
 この娘は、本当に欲のない、清らかな心を持っておる。
 ここ何日間か、共に過ごして本当によく分かった。
 私が一緒にいたのに、このような目に合わせてしまって・・・。
 それもこれも、私の覚悟が足りなかったせいだ。
 これが原因で、もしもこの娘の足に不自由が出たとしても、
 私がこの手で守っていきたい。
 楓どの・・・どうか!!」

楓おばあちゃんは、宗之丞君をあっけにとられて見ていたけれど、
必死のまなざしで見つめられて、困ったように言った。

「・・・りんはまだ子供ゆえ、そのようなお話はまだ・・・」

困ったように言いかけて、はっと気が付いたように天井を見上げた。
その目が、そのままあたしの方へ向く。

「・・・・かごめ・・・これは・・・」
「・・・・うん・・・きたね・・・」

あたしと楓おばあちゃんが目を見合わせたのは、
共に、上空から迫りくる、あまりに強大な妖気を感じ取ったからだった。
こんな妖気を発するのは・・・あたしの知る限り、一人しかいないわ。

上空の妖気に気づいた犬夜叉があわてて、宗之丞君へ掴みかかった。

「おい、宗之丞!てめえ、外にでてろっっ!!」

宗之丞君は襟元を捕まれて、
まるで子猫のように楓ばあちゃんの小屋から放りだされてしまった。
その様子をみていた家臣たちは真っ赤になって怒っちゃったわ。
そりゃあ、そうよねえ。
自分の主人を野良猫扱いされちゃあ、武士の名に関わるというものでしょうよ。

だけど、そんなこと言ってられなかったわ。
上空から迫ってくる妖気は、いつも以上に、刺さるような鋭さと殺気を持っていて、
こんなに離れていても、殺生丸がめちゃくちゃ機嫌が悪いことが伝わってきたんだもの。

外からは、宗之丞君と家人と犬夜叉が言い争う声が聞こえてくる。

「この半妖ーーっ!若君を離せーっ!!」
「うるせーっ!死にたくなかったら、早くこっちに来いっ!」
「おい、犬夜叉とやら、なぜ私をりんから引き離すのだ!?」
「やっかましい!! いいからここから離れて・・・・うげっ!」

竜巻のような激しい妖気の渦が、犬夜叉の側に降り立った気配を感じて、
あたしは色んな心配ごとが重なって目眩がした。

また、派手な兄弟喧嘩が始まらなければいいけれど。


けれど、少しほっともしていたの。
殺生丸の天生牙があれば、りんちゃんの傷が癒えるかもしれない、と。


 

<3>へ

 

 

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