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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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医王の里<3>


そんな頃だ。

私の本性を見抜き、妖怪としての助言をして去っていった闘牙王が、
病んだ妖を連れて、この庵を訪ねてきたのは。

あれは、私と冬久が、人間たちの為に、一緒に薬を作っている時だった。
闘牙王は、相変わらずの桁違いの妖気と、明るく暖かな笑顔だった。

「・・・久しいな、医王。息災だったか?」

この時の闘牙王の訪れは、一つの転機だったと言ってもいい。
彼は、一人の病んだ妖を連れていた。

冬久は、私以外の妖を見たのは初めてでとても驚いていたが、あっという間に、闘牙王とも病んだ妖とも、病状を聞きながら
打ち解けてしまった。
冬久は、人間・妖怪を問わず、相手との垣根をすぐに溶かしてしまう。 あれは、特技に近いものだろう。

「医王、何か見えぬか?」

心配そうな顔をして、闘牙王は私に聞いた。

闘牙王に連れられて来た妖は、宝仙鬼と名乗った。 一年前から、腹が痛いのだという。
その左の腹から、黒い陰がじわじわと滲み出しているのが、私には見えた。

・・・何だろう。
妖を看てやるのは初めてだったが、目を凝らして腹を見たりさすっているうちに、私はその腹に、何かが詰まっているのを見つけた。
堅い石のようなそれは、この妖の体の中の気の流れを、そこで止めてしまっているのだ。
このままでは、石の周囲がどんどん石化してしまうだろう。
切って取り出すか、この石を溶かしてしまう何かが必要だ。
私が病状を説明すると、闘牙王は懐から小さな実が入った袋を出した。

「これは、妖命樹の実だ。 かつて、外国(とつくに)に行ったときに、その地の妖から、私がもらったものだ。 使い方によっては、
 万能薬になると聞いているのだが、私には使い方がよく分からぬゆえ、放っておいた。 医王よ、もし使えるのであれば、これを
 宝仙鬼に使ってやってくれぬか?」

闘牙王から手渡された袋をのぞき込んで、私はこの実がすさまじい力を持っていることに気が付いた。
こういうことに関しては、闘牙王より私の方が、能力は上らしい。

「三日、待ってくれるか、宝仙鬼。この実で薬を作れば、おそらく一日で直る」

私の言葉に、闘牙王と宝仙鬼は、驚いたようにうなずいた。

私は新しい薬を作れることに、今までにない興奮を味わっていた。
これは、妖怪の薬だ。
人間には役にたたないだろう。
けれど、私は人間だけでなく、妖怪をも癒せるようになるかもしれない。
新しい可能性を目の前にして、私は久しぶりに、医王としての喜びを感じていた。

私の言葉を受けて、薬が出来上がるまでの三日間、闘牙王と宝仙鬼はこの庵にとどまった。
変わり者の冬久は、その持ち前の好奇心を最大限に発揮して、彼らから妖怪談義を聞きかじり、三日目にはすっかり仲良くなってしまった。
闘牙王は都の様子などを冬久に話してやったりしていたようだ。
飛び出してきたとはいえ、親兄弟の住む都のことだ。
冬久には、懐かしかっただろう。

三日後、闘牙王からもらった実の半分を使って、十粒の丸薬が出来た。
私の見立て通り、その丸薬を一粒飲んだ宝仙鬼は、あっという間に、体内の石を溶かし、みるみるうちに体に纏わりつかせていた黒い陰を消した。

「あらゆる宝石を従える妖怪が、石に苦しめられるとはなぁ」

そう言って笑顔になった宝仙鬼を見て、闘牙王は嬉しそうに「よかったな、宝仙鬼」と笑っていた。
残った半分の実は、闘牙王が私にくれた。

「その実を増やし、この丸薬をもっと作れないものかな? もしも、病だけでなく傷にも効くのであれば、私も心強いのだが」

そう言う闘牙王に、私は冬久の顔を見た。 冬久さえ良ければ、やってみようと思ったのだ。

「医王、せっかくだから、やってみたらどう?」

冬久は私の考えていることがすっかり分かっているように、微笑んでそう言い、私は闘牙王を見てうなずいた。

「それでは、楽しみにしているよ、医王。 困ったときは、また助けてくれ」

闘牙王はそう言って、宝仙鬼と共に帰っていった。

私は冬久と共にその実を庵のそばに蒔いた。
秋の終わり頃だったと思う。

冬の間、雪に閉ざされるこの山で、私は冬久と二人きりで過ごした。
患者は、山を登ってこれないし、冬久も山から下りることが出来なかったからだ。


そして・・・・・この冬の間に、私と冬久は、夫婦になった。


冬久から、「妻になって欲しい」と言われたときには、驚いた。
私は三つ目だし、人間の妻になることなど考えたこともない、と冬久に答えた。
冬久のことは、大好きだ。
岩井に似ているし、優しいし、気も合う。
けれど、冬久みたいな良い漢に、三つ目の妻がいては可哀想だ。

私がそう言うと、冬久は笑って、そんな私が好きなのだ、と言った。

・・・私は、冬久の妻になった。

冬久に、私の本当の名は「イノ」と言うのだというと、「いい名前だ」と、優しい笑顔で、そう言ってくれた。
二人きりの時だけ、冬久は私のことを、「イノ」と呼んだ。
患者の前では「医王」の方が言い慣れているからという理由だったが、自分の名前が、まるで二人だけの秘密みたいで、呼ばれる度にくすぐったかった。

初めて味わう岩井以外の暖かな胸の中に、私は本当はずっと寂しかったのだと思い知った。
冬久の妻になるにあたり、私が冬久に願ったことは、ただ一つだ。

・・・私は、子が欲しかった。

いずれ、冬久は老いてしまうのだろう。・・・岩井と同じように。
岩井が死んでしまってから、どれくらいの時が流れたのか分からないが、私は未だに姿は17才のままだった。
老いることもなく、肉体の衰えを感じることもない。 それは、人間と共に生きるにはあまりに辛い現実だった。
また一人で残されるのは・・・・耐えられそうになかった。

泣きながらそう言った私を抱きしめて冬久は何度も頷き・・・・・・私の願いに応えてくれた。

春を迎える頃、私は、自分が新しい命を宿していることに気が付いた。
私がそれを告げると、冬久はとてもとても、喜んでくれた。
闘牙王のくれた妖命樹の実が、かわいい芽を出した頃だった。
私たちの初めての子供と、同じ年に芽を出した妖命樹が、とても愛おしかった。

その年の夏の終わり、私は一人の男の子を産んだ。
初めて授かった子供には、詠月(えいげつ)と名付けた。
私の名付けた「詠月」とは、生まれ月の長月と同じ月の呼び名で、岩井の残した古い本に、この名前があったのだ。
生まれ月が名前とは、捻りも何もないのだが、元・公家の冬久がいたく気に入った。
冬久にそっくりな赤子だったのに、詠月は、私と同じ、三つ目だった。
せっかく顔立ちが冬久に似て生まれてきたのに、三つ目は余計だと思ったが、冬久は典型的な親馬鹿で、この子は医王の才能を受け継いでいるに違いない、と無邪気に喜んでいた。
まったく、そんなところまで岩井によく似ていて、私は苦笑いするしかなかった。

妖命樹はぐんぐんと成長し、詠月が三つになった年の秋に、初めて実をつけた。
妖命樹が初めての実をつけたその年の冬、私は、二人目の子を産んだ。

冬至の日に生まれたのは女の子で、名前は柚月(ゆづき)と名付けた。
今回も名付け親は私で、産湯に、柚を浮かべた岩井の出湯を使ったからである。
こちらは私によく似た顔立ちだったが、やっぱり詠月と同じく、三つ目だった。
冬久が、初めての女の子に大喜びしたのは言うまでもなく、私が呆れてしまうくらいの親馬鹿ぶりを発揮した。

乳飲み子の柚月と、片言で喋りはじめた詠月の子守をしながら、私たちは妖命樹の実を集めて、三年前と同じように
丸薬を作った。 妖命樹は一年に一度、秋にしか実をつけなかったから、作れるのも年に一度だった。

できあがった薬を見て喜んだ冬久が、記念に名前をつけようといったので、私は「妖命丸(ようめいがん)」と名前をつけた。
妖命樹の実からできた丸薬だから、妖命丸だ。
医王がつける名前には、本当に捻りも何もないなあと、冬久は笑っていた。


その頃から、闘牙王から私の話を伝え聞きた妖が、
この医王庵を訪ねてくることが多くなった。

皆、病を患っていたり怪我を負っていて、この妖命丸を目指してやってくる。
何しろ、一粒でほとんどの病や傷が直ってしまうのだ。
噂が噂を呼んだらしく、妖怪の患者は増える一方だった。

人里から患者が訪ねてきているときに、怪我をした見目恐ろしい妖怪がやってくると、いつも人間の患者が大騒ぎしてしまうのが、
私の悩みと言えば悩みだった。
確かに、三つ目の私でも人間には恐ろしいであろうに、私よりおどろおどろしい妖怪が医王庵にはたむろしているのだ。
私や冬久にとっては、どちらも患者であることに違いはないのだが、人里の人間たちにとっては、さぞかし恐ろしい光景だったことだろう。
医王庵に患者があふれているのは、実に喜ばしいことだったが、次から次へと問題は発生した。

妖の患者が増えるにつれて、この庵にとどまる妖たちが増えてきてしまったのである。
ここに妖がとどまるのは、岩井の出湯が妖の傷に効いたからというのもあるが、私の医仙により命を救われた妖怪が、
ここで、一緒に住まわせてはもらえないか、と言い出すことが多かったのである。

妖にとって、よほどここは居心地がいいと見える。

私には、妖の力関係というものがよく分からなかったが、ここに留まりたいと言い出すのは、元々が力の弱い妖ばかりで
あったので、医王庵から出ていったら、また何者かに虐げられる恐れがあったのだろう。
そんな弱い妖たちを追い出すのは気の毒だし、かといって私の住んでいる庵は狭い。

私はどうしたものかと悩んでいたが、夫の冬久は、留まる妖たちの為に、人里から大工を呼んで、あっと言う間に、いくつも家を建ててやってしまった。
かくして、かつては山の中にひっそりと存在していた医王庵は、いつの間にか、多くの妖怪屋敷に囲まれてしまうこととなった。

それが当たり前の光景になると、なんと、長い湯治をしている間に、患者同士で、祝言をあげるものが現れはじめた。
妖怪同士という場合もあれば、なんと、人間と妖が恋仲になることもあった。
私と冬久も人間と妖の夫婦だから、あまり人のことは言えないが、なんというか、本当に妖怪と人間が夫婦になっても大丈夫なのかと、余計な心配をしたものだ。


そんなわけで、妖命丸を作りはじめて5年。
私の周りは考えられないくらいに、ずいぶんと賑やかになった。

妖怪と夫婦になって住み始めた人間が、周囲に畑や田圃を開墾したために、山の中はまるで本当に人里のような景色に
なっていた。
野菜や米を食べられるのは、私や冬久、子供たちにとってもありがたいことだったので、私は手持ち無沙汰な妖怪たちに頼んで、
野菜作りや米作りを手伝ってもらうことにした。
最初は人間の真似事などできぬと言っていた妖怪たちも、やり始めると意外に楽しかったのか、毎日収穫した野菜を
私のところへ持ってきて、「俺の作った大根が一番大きい」などと、自慢話をするようになった。


そんな頃、久しぶりに闘牙王が私を訪ねてきた。

「おお、医王。どうしたんだ、急に賑やかになったな。まるで人里のようではないか」

闘牙王は相変わらず朗らかな笑顔で、私はうれしくなった。
私が、「闘牙王がくれた妖命樹のおかげだ」と言うと、いつかのようにくしゃくしゃと私の頭を撫でて、「これは、お前の力だよ」
と言った。

「・・・ところで、医王。 噂に聞いたのだが、そなた、人間との間に子を産んだというのは本当か?」

「ああ、父親は冬久だ。会っていくか? 私と同じ、三つ目に生まれてしまったが、なかなかに可愛いぞ」

私がそう言って笑うと、闘牙王は私の顔をまじまじと見て、驚いたように言った。

「・・・・そなた、年をとったな。妖の命を、子に移したか」

私はあまりに驚いて、自分の顔をさわさわと触ってしまった。

「・・・分からない。そうなのか?」

私は人間の女のように、まじまじと自分の顔を水鏡に映して見る習慣がなかったので、年をとったという感覚が分からなかった。
けれど、確かに、昔に比べて頬の張りは失われた気がする。
闘牙王は、とにかく生まれた子に会わせろと言い、私は庭で河童の子供と相撲をして遊んでいた詠月と柚月のところへ、彼を案内した。

子供たちをしばらく見ていた闘牙王は、嬉しそうに私の肩をぽんぽんと叩いた。

「おまえの医仙の力は、あの子供たちにしっかり受け継がれているぞ、医王。 しっかりと教育するといい。 お前に劣らぬ、
 よい医師になるだろうよ」

冬久の言うことは親馬鹿だとばかり思っていたが、そうでもなかったらしい。
私は驚いてしまった。
そんな私に、闘牙王は目を細めて言った。

「・・・それから、よく聞け、医王。 お前は、あの子供たちを産んだことで、妖としての永い命を失っている。 妖の永い命は、
 あの二人の兄妹に引き継がれたのだ。 お前はこれから、人間と同じように年をとっていくだろう」

闘牙王の言葉に、私はさらに驚いてしまった。

「闘牙王、お前はどうしてそんなことが分かるんだ?」

以前、私が一人ぼっちになってしまった時に、妖として私を諭してくれたのも、闘牙王だ。
詠月と柚月の才能にしろ、私の命にしろ、闘牙王にはどうしてそんなことが分かってしまうのか、私は不思議に思った。

「・・・そうさな、それは私が「狗神」だからかもしれんな。 年に一度、出雲で行われる神議りにも出ているし、 私は普通の妖は
 決して持たぬ、神の目を授かっている。 医王が病魔が見えるのと同じように、普通の妖には見えぬものも、私には見えて
 しまうんだよ」

「狗神・・・」

神様と出会ったのは初めてで、私はどうしたらいいのか分からずに困惑してしまった。
人里の人間たちがやっているように、闘牙王にも酒とか饅頭とか供え物をしなくては、バチが当たってしまうのだろうか。
そんな私の気持ちを察したのか、闘牙王はからからと笑った。

「ははは、あまり深く考えないでくれ、医王。  私が狗妖怪であることには、変わりはないのだからな」

「そうか?」

「そうだよ」

明るく朗らかな闘牙王の顔を見て、私はホッとした。
神様かもしれないけど、私にとって、闘牙王はやはり、闘牙王なのだ。

それと同時に、私は、闘牙王の言葉にじわじわと幸せが押し寄せてくるのを感じていた。
・・・これから私は、冬久と共に、年齢を重ねていけるのだ。
いつか、白髪になり、腰が曲がることもあるだろう。
けれど、これでもう、岩井の時みたいに、たった一人で置いていかれずにすむ。
それば、願うと辛くなってしまうから、願うことすら律していた、私の悲しいまでの望みだったのだ。
思わず、三つの目から、涙がこぼれた。

「・・・嬉しいな。 ありがとう、闘牙王。お前には、色んなことを教わってばかりだ」

私がそう言うと、闘牙王は微笑んで、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「いや、今日は、私がお前から色々と教わろうと思ってやってきたのだよ」

「・・・私に?」






<4>






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