殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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神成りとむすめ<8>
「 ど・・・どうして、私が医王の里に・・・?!」
やっと状況を理解して慌てふためいている案摩に、邪見が呆れたように口を開く。
「 どうしてってお前、空で妖怪に襲われたんじゃろ?」
「 あっっ!! そうか・・・!!
あの時・・・ 空から落ちる時、私は無我夢中で救いを求めてしまって、
それで隠れ里への結界が開いたのか・・・!!
し、しかし、本当にこの伯耆の国に、隠れ里があったなんて・・・!」
恐らく、案摩は面の下で口をぱくぱくさせているのだろう。
そんな案摩を見て、呆れたように邪見が言う。
「 なるほどの。
こいつが空から落ちてきた真下に、たまたまこの里があったわけじゃな。
・・・それにしても、なーんか間抜けじゃの~・・・。
本当にこんなので土地神の神使が勤まるのか・・・?
しかも、弱そうじゃし・・・」
確かに、強さという概念の極みが殺生丸なのだとすれば、
妖のくせに空から落ちて気を失ったという案摩は、見るからに弱そうである。
体の線も細ければ、武器など持ったことも無さそうな風体だ。
だが、邪見だって人頭杖を持たなければ、妖怪としては十分弱い。
邪見のあまりの言いように、何だか案摩が気の毒になったりんは、遠慮がちに詠月と柚月に尋ねた。
「あの、どうして案摩さんを里から出してあげられないのですか?
主である佐保姫さまの側にいるのが、精霊の案摩さんにとっては一番いいんですよね?」
りんは、少し不安になった。
なんせここは、外界とは切り離された妖の里だ。
入るにも出るにも、里長と一緒でなけれはこの里の結界を越えることはできない、と
殺生丸は言っていた。
もしかしたら、特別な掟があるのかもしれない。
不安げな表情をうかべたりんの質問に、穏やかな声で詠月が答えた。
「 案摩さんを里の外へお連れできない理由は、二つあります」
「 二つ・・・?」
問い返したりんを、案摩は不安そうに見上げている。
「一つは案摩さんにとって今、外界がとても危険な状況にあるということです」
「 ど・・・どういうことでしょう、それは?」
よく分からない、といった風情の案摩に、柚月がゆっくりと、諭すように言う。
「 案摩さん、今あなたは佐保姫さまという土地神の主から離れたことによって、
神使としても、精霊としても、とても霊力が落ちておいでです。
そして今、出雲で執り行われている神議りは、この国の神々を一斉に出雲へ集めて行われる神事。
悪しき魑魅魍魎の類にとっては、普段、自分たちを封じている神々が社を留守にする
絶好の機会ですわ。
この神議りの時期は悪さをする妖が増え、どうしても地脈が乱れがちになってしまいます。
それは、神使である案摩さんなら、ご存じのはずです。
そんな状態の外界に、今の案摩さんがへ出ていくのは、とても危険ですわ。
・・・それは、お分かりいただけますわね?」
柚月の言葉に明らかに落ち込んだ様子の案摩は、しゅん、と肩を落とす。
「・・・確かに、その通りです。
この神議りの時期、普段身を潜めている悪霊や妖怪の動きは、急に活発になります。
佐保姫さまの車にぶつかってきたあの魑魅魍魎どもがそういった輩であることも、存じております。
それに、私は戦う力に長けた神使ではございませんし・・・
あのような魍魎どもに束になってかかられては・・・間違いなく、負けます・・・ね・・・」
がっくりと両手をついた案摩を見て、邪見は首を振りながら大きなため息をついた。
「 ・・・で、詠月、コイツを結界から出せぬもう一つの理由とは何じゃ?」
邪見から問われて、詠月は朗らかな笑顔を浮かべる。
「簡単なことですよ。
この医王の里に来られたからには、完全に怪我が治るまでは、この里に留まっていただきます。
これは、この里の決まりにございますゆえ、必ずお守りいただきますよ。
なに、この程度の打ち身であれば、里に湧く出湯で湯治をすれば、七日もあれば直ります。
あの出湯には、妖の霊力を高める作用もありますから、案摩さんにも効くはずです」
詠月の笑顔を向けられて、案摩は左腕をスリスリとさする。
「・・・はぁ・・・・放っておいても直りそうなものですが・・・」
案摩の言葉に、柚月の表情が、急に厳しくなった。
「 案摩さん、精霊は主の霊気から離れることで、存在そのものが危うくなってしまうことが多いのです。
そもそも、あなたのようにしっかりとした姿形を保っている精霊はとても珍しいのですよ?
結界を越え、救いを求めて医王の里に来られた以上、私たちにはあなたの怪我を治す
義務があります。
ちゃんと養生していただかなくては困りますわ」
「 はぁ・・・・」
普段は優しげな柚月も、こと治療の話となると、表情がキリリと引き締まる。
下を向き、参ったなあ、などと呟きながら首の後ろをさする案摩の様子は、
本当に精霊と言うより人間らしい。
りんは、不思議に思っていたことを聞いてみた。
「・・・ 案摩さんって、そのお面以外は、本当に人間にそっくりですよね?」
りんの何気ない質問に、案摩はケロリと答える。
「 ええ、私は元々、人間でしたので」
「 えぇっ! そうなの?!」
「 なっ・・・何じゃと?!」
りんと邪見が思わず同時に驚きの声を上げると、案摩は面の下の顔をほころばせた。
「・・・されど、りんさまのように、生きた人間と直接会話を交わすのはずいぶんと
久しぶりでございます。
普段、私ども神使が人間に姿を見せることは、まずありませんので」
案摩は、ふとんの脇に正座をし直して、詠月と柚月、そしてりんと邪見とを交互に見ながら、
おずおずと口をひらく。
「 ・・・・あの、怪我の手当までして頂いた上に、とても恐縮なのですが・・・」
「 はい?」
案摩の改まった様子に、りんも居住まいを正した。
「・・・りんさまに、一つ、お願いしたいことがあるのです」
「 りんに? りんに、何かお手伝い出来ることがあるんですか?」
りんの表情が、ぱっと輝いた。
りんにとっては、案摩はこの里の結界を越えてやって来た、初めての存在だ。
自分に出来ることがあるなら、役に立ってあげたい、と思う。
りんが聞くと、案摩はお面越しに、じーっとりんの顔を見つめて言った。
「 ・・・佐保姫さまの元に戻れるまで、私をりんさまの側に置いていただけませんでしょうか・・・?」
「・・・りんの側に? そんなことでいいの?」
りんが、目をぱちくりさせていると、慌てたように邪見が叫んだ。
「 こっ・・・こやつ・・・! 何を言い出すかと思ったら・・・!
そんなの、ダメに決まっておるではないかーーーーーっ!!!」
「 え? 何で?? 」
案摩の前に座ったりんは、きょとんとして邪見を見た。
「 別に、構わないじゃない、邪見さま。
あのお屋敷すごく広いし、部屋だって余ってるし、案摩さんが一人来てもぜんぜん困らないよ?」
「 アホッ! そういう問題ではないっっ!!」
「 えー? じゃあ、どんな問題なの?」
りんは、ぷぅ、とふくれた。
怪我人の頼みも聞けないようなら、そもそも今日、医王庵に来た意味がない、とりんは思ってしまう。
「 お、お前なぁ・・・・」
邪見はがっくりと肩を落とした。
「 ワシは、こんなどこの誰とも分からぬ馬の骨とお前を、一つ屋根の下においておけん、と
言っとるんじゃ!!
そもそもあの屋敷は、お前のことを考えて殺生丸さまがご用意下さったものなんじゃぞ?
使用人であれ、客人であれ、主に無断で勝手に入れて良いというもんではなかろう?!
しかもコイツ、元は人間の男の妖ではないかっっ!!
こんな怪しげな奴を勝手に屋敷へに入れて、お帰りになった殺生丸さまが不機嫌になられたら、
どーするつもりじゃっ!!」
「 え~~~~~・・・・」
りんはぶすっとしたまま、興奮して人頭杖を振り回す邪見を見上げた。
「・・・・・殺生丸さまは、そんなことで怒ったりしないもん」
「 なっ・・・!!」
「 第一、案摩さんは怪我人なんだよ?
怪我が治るまであのお屋敷にいるくらいで、殺生丸さまは怒ったりしないもん。
邪見さまって、最近りんのこと、ちょっと心配しすぎだよ。
医王庵だって、毎日すごくたくさんの患者さんが来るんだもん、
案摩さんがずっとここに寝ていたら、詠月さまと柚月さまの治療の邪魔になっちゃうじゃない」
ぷぅ、とふくれてそう言うりんを見て、邪見は目眩がした。
・・・全くもって、この娘には、自分があの大妖怪の奥方になったのだという自覚がない。
男という生き物が、女に対してどれだけ嫉妬深く独占欲が強いものかということを、
りんは、全く理解していないに違いない、と邪見は思う。
まあ、この娘を育てたのが男に縁の無さそうな老いた巫女であれば、そういう部分に疎いのは
仕方がないのかもしれないが、あれだけ人里にいて、一体、何を学んでおったのだと言いたくもなる。
誇り高く冷酷無比、言葉数が少ないせいで普段は何を考えているかもよく分からない主だが、
りんに関してだけは愛情がダダ漏れというか、行動パターンも恐ろしく分かりやすい。
本人は絶対に認めないだろうが、そういう単純な所は、あの半妖の弟と似ていると邪見は思う。
そんな主のことだ。 神議りの為に出雲に赴いている今だって、どうせ一日の半分くらいは
りんのことを考えているに違いないのだ。
・・・そんな殺生丸が留守の間に、新妻(りん)に見知らぬ男の妖の臭いが付こうもんなら。
そうでなくとも、主は考えられぬほど鋭敏な嗅覚をお持ちなのだ。
一つ屋根の下で暮らせば、どうやったって、りんについた匂いは誤魔化しようがない。
幼い頃に、琥珀と一緒に旅をしたのとは、訳が違う。
りんが年頃になるにつれ、あの娘が人里で纏う匂いに、主が無意識の内に敏感になっていたのは、
側にいた邪見が一番よく分かっている。
( 殺生丸さまがお戻りになった時、こんな奴がりんに纏わりついておったら・・・!)
ワシは足蹴ではすまんわい、と、邪見は額に浮かんだ嫌な汗を拭った。
・・・・ ハッキリ言って、考えるだけでも恐ろしい。
このままでは、出雲から戻ってきた途端、殺生丸の機嫌が恐ろしく悪くなることは間違いない。
そして、この事態をを防げなかった邪見に苛烈な仕置きが下るのは、火を見るより明らかだ。
・・・それなのに、可愛い新妻のワガママは、結局、許してしまうに決まっている。
殺生丸は昔から、りんにだけは甘すぎるほどに甘いのだ。
邪見は、泣きそうになった。
( ・・・う~~~っっ!!! ワシの気苦労も知らないで~~~~っ!!!)
うっすらと涙を浮かべた邪見は、くるりと振り返り、案摩に向かって叫んだ。
もう、ヤケである。
「 えええいっっ!!
キサマ、よりにもよって、何でりんの側にいたいんじゃっ!
殺生丸さまがお戻りになって、バッサリと切られてしまっても、ワシは知らんからなーーーーっ!!」
「 やだなー、邪見さまったら・・・。
殺生丸さまはそんなことしないってば。
物騒なこと言わないでよー。 案摩さんが怯えちゃうじゃないの」
邪見のヒステリックな叫びと、りんの呆れはてた顔に、案摩は困ったように下を向いた。
「 いえ・・・その、何と申し上げたら良いのか・・・。
実は、先ほどからりんさまの側におりましたら、とても安らぐと申しますか・・・
臥せっていた時には、あれほど霊力も衰えておりましたのに、今は、体も軽く感じるのです」
案摩の言葉に、詠月がふむ、と頷く。
「 確かに、あなたが意識を取り戻されたのも、りんさまのお声が聞こえてからでしたね。
目が覚めてからもしばらく、りんさまを「 姫さま」と呼んでいらっしゃいましたし・・・・」
「 ええ・・・その・・・」
案摩はそのお面越しに、じいっとりんを見つめて、言った。
「 ・・・実は、我が主の佐保姫さまとりんさまは・・・
何と言いますか、とても、似ていらっしゃるのでございます」
「 そ・・・そうなんですか・・・?」
「はい、お顔立ちも、お声も・・・雰囲気も、よく似ていらっしゃいます」
案摩に見つめられたりんは、わずかに赤くなった。
案摩があれだけ慕っている佐保姫さまに、自分が似ていると言われると、なんだか照れてしまう。
赤くなっているりんに、柚月が納得したように言う。
「 ・・・たしかにここへ運び込まれた時と比べて、案摩さんの霊力はとても安定しておりますわ。
きっと、佐保姫さまに似ているという、りんさまの「気」に触れた効果だったのですね」
「 そ、そんな、りんは神様じゃないですよ・・・?!」
焦ってそう言うりんに、案摩は面の下で微かに顔をほころばせた。
「 ・・・人間とて、偉業を成し遂げ、神として社に奉られることは多くございます。
筑後の太宰府に奉られる道真公しかり、大和の談山に奉られる鎌足公しかり。
命あるものが持つ「気」は、長じてみれば神と通じるものがあるのです。
そう考えれば、りんさまの気と佐保姫さまの神気が似ていらっしゃるのは、何も
不思議なことではありませぬ」
「・・・・そ、そうなの・・・?」
目をぱちくりしているりんに、詠月が言う。
「 ・・・・ふむ。 それではこうしましょう。
りんさまさえよろしければ、神議りが終わるまで、案摩さんを側に置いてあげて下さいませ。
私が見る限り、今の案摩さんは、りんさまの側で過ごすのが一番、霊体として は安定して
いるように見受けられます。
霊体が安定していれば、傷の治りも早い。
傷が癒えるのが早ければ、その分案摩さんは佐保姫さまの元へ早く戻れる、ということになります。
これは私の、医師としての判断です。
もしもご説明が必要なようでしたら、殺生丸さまへは、私からお口添えいたしましょう」
「 ほんと・・・?!」
「 ええ、お約束いたします。・・・よろしいですね、邪見どの?」
詠月の言葉を受けて、りんの顔はぱぁっと明るくなり、邪見の顔は一気にどんよりと暗くなった。
「 よかったね、案摩さん!」
りんがにっこり笑ってそう言うと、案摩は深々と頭を下げた。
「 あ・・・ありがとうございます、皆さま」
ほっとしたような様子の案摩を見て、邪見は大きなため息をついたが、もう文句は言わなかった。
殺生丸へは詠月が責任をもって説明すると聞いて安心したらしい。
どうせ、反対した所で邪見がりんに押し切られるのは目に見えていたのだ。
「 ま、ちゃんと働いてもらうからの、覚悟しておけよ」
邪見がしぶしぶそう言うと、案摩は嬉しそうに、はい、と言った。
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