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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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さいごの花火<1>


さいごの花火<1>

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――― それは、まさに、奇跡のような偶然がもたらした出来事だったのだ。


かごめが戦国の世に戻ってきて、半年が経った頃。
季節は、晩夏のことだった。

3日前、弥勒が8里(30㎞)ほど離れた村里の長者から物の怪退治を頼まれ、犬夜叉とふたりで身ひとつで出かけていった。そして、二人は馬二頭に車を引かせて米俵3俵と大小合わせて五つの葛籠を持って帰ってきたのだった。
正当な報酬なのかそうでないのかは、晴れ晴れとした法師の表情よりも、何となくふて腐れている犬夜叉の顔を見れば明らかであったが、とりあえず、かごめと珊瑚は長いものにまかれて喜ぶことにした。
何せ、戦国の世で逞しく生き抜いていくためには、まず食べることが第一なのだ。
法師が(強引に)持って帰る米や貴重な品々は、家族は勿論、他の村人にも実に役に立った。

その日は、楓とりんも呼ばれ、さっそく皆で戦利品の葛籠を開いてみることとなった。


ほくほくした顔で法師が一番手前にあった小さな葛籠をあけると、唐来物と思われる美しい彩色の紙が束になって入っていた。
この時代、紙は貴重品である。弥勒は嬉しそうに手に取った。

「おお、ありがたい。これは護符を作るのに使えますね!いやー、いつもの商人が売っている和紙は高価でしてね、悩みの種だったのです。まさに、妖怪退治の報酬にふさわしいですね」
にこにこしながら葛籠に戻そうとしたとき、葛籠の隅にあった小さな絹の袋に気が付いた。
「おや?これはなんでしょうね」
ふにふにと袋を触ってみると、中には何かの粉が入っているようだった。きっちりと糸で巻かれた袋の口を開けると、中にはさらさらとした白い粉が入っている。白い粉の中に、小さな紙が入っており、そこには「硝石粉」と書かれていた。
「硝石粉・・・?なんでしょう、これ」
子供をあやしながら、珊瑚も興味津々でのぞき込む。
「なんだろうね?」
戦国の世の、さらにこの村の中では、法師は知識人といってもいい。その法師が知らないものを知っているものなど、そうそういない。
「食べ物・・・・なんでしょうかね?」
食べ物と聞いて歩み寄ってきた犬夜叉も首をかしげる。
「・・・ほとんど匂いがしねえな」
この世界から更に進んだ世界を知っているのは、一人しかいない。
「かごめさま、これ、ご存じですか?」
「え?なに?」
巫女装束を襷がけして、りんと共に大きな葛籠の中身を物色していたかごめが振り返る。
「何でしょう、しょうせきこ?と読むのでしょうかね?」
法師は、袋ごとかごめに差し出した。

かごめは、袋をのぞき込み、しばらく何かを思い出すように黙っていたが、突然目をきらきらさせて叫んだ。



「弥勒様!すごいわ!嬉しい、ありがとう~~~~!!!!」



それは、つい1年ほど前の話。

かごめの通っていた高校には極端に実験好きな化学教師がいて、授業は毎回といっていいほど実験に占められていた。おかげで楽しく授業を受けることができたのであるが、その中に、一際、忘れられないものがあったのである。

それは、『線香花火づくり』だった。

実は、線香花火は材料さえ揃えば、コツはあるものの、素人でも作れる。
必要なのは、弥勒の持って帰った硝石と、硫黄・炭、これだけである。
これを、ある一定の分量で混ぜ合わせ、少量を和紙の先に巻き、こよりにする。
これで、市販のものと同じ線香花火が出来る。

実験で作った花火は、火花は小さかったし市販の方が長持ちしたが、ちろちろと可愛らしい花火を、かごめは犬夜叉に見せたいと思った。

あの頃、思い出すと胸が痛くなるほど、犬夜叉に会いたかった。
(骨食いの井戸が繋がって、また戦国の世に行けたら、犬夜叉に見せてあげたいな・・・)
そう思っていたのだ。

この線香花火の作り方と分量の比率はしっかりかごめの頭の中に残っている。
ただこの時代、硫黄は温泉で採れる湯の花などから比較的簡単に手に入るが、硝石はまず手に入らなかった。国内の生産はほとんどなく、歴史を紐解いてみても、堺から鉄砲が広まるまで硝石はほとんど必要とされていないのだ。

話によると、弥勒に物の怪退治を依頼してきた男は、裕福な商人だったらしい。
戦国の世の中とて、商人はいる。商人がいるからこそ、物や武器が流通し、戦が出来る。
どうやら、今回弥勒は、その商品をがっさりと頂いてきたようである。
(人殺しに使われるより、よっぽどいいわ)
かごめは、そう思い頷いた。折良く、弥勒の手には薄手の和紙がある。
「ばっちりじゃないの」
かごめは嬉しそうに微笑んだ。


かくして、かごめとりんが時間をみつけては少しづつ線香花火を作り、一袋の硝石粉で、約200本の線香花火が出来上がったのである。

初秋の夜、初めて線香花火を見たりんは大はしゃぎし、200本の花火は村人にも配られ、いつもは寝静まるだけの秋の夜長に興を添えた。
ちりちりと繊細な火花を散らす線香花火を見て、犬夜叉はつまらなそうに言う。
「何でえ、もっと派手かと思ってたぜ」
かごめは苦笑いしながら、
「これは儚さを愛でるものなのよ。綺麗でしょう?」
と言った。
「儚いのがいいなんて、縁起でもねえこと言うなよな・・・」
りんが見た犬夜叉の顔は、小さな花火に照らされて心なしか切なそうに見えた。

「殺生丸様にも・・・」

かごめと犬夜叉の顔が、りんへ向く。
りんは、はにかんで2人の顔を見た。

「殺生丸さまにも、りんが作った花火、見て貰いたいなぁ・・・」

膝を抱え、線香花火をみつめてはにかんでいるりんは、あまりに可愛くて、かごめは抱き締めたくなった。
「そうね、せっかくだから見てもらったらいいわ。いくつか残しておいてあげるから、次に来てくれるときに、『夜に会いに来て』ってお願いしてごらん?」
りんは目をキラキラさせてかごめを見た。
「いいの・・・?」
「なに言ってるの!もちろんよ!」
かごめは5本ほどりんに線香花火を握らせると、「湿気のこないところにしまっておくのよ」とにっこり笑った。

りんは嬉しそうに線香花火を握りしめて、楓の小屋に走っていった。
きっと、殺生丸の次の訪いまで大切にしまっておくのだろう。

笑顔で見送ったかごめに、犬夜叉が微妙な表情で呟いた。
「夜に会いに来てって・・・りんにはまだ、早すぎねえか?」
「・・・え?」
怪訝な顔をしたかごめに、犬夜叉は微かに赤くなって慌てた。
「あ、いや、殺生丸の野郎に、りんはまだ・・・」
妙にしどろもどろになっていく犬夜叉に、かごめもはっとなる。
「え?!やだ、犬夜叉、なに考えてんの!?」
真っ赤になってかごめも慌てた。
犬夜叉とかごめ、2人が心身共に結ばれて、まだ日が浅い。
お互い、急に恥ずかしくなった。
「い、いや、だってよ、お、男だったら普通、勘違いしねぇか?!」
犬夜叉も、やっと世間の「人間の男の感覚」が分かり始めた今日この頃である。
先程かごめの口から艶やかな声で「夜に会いに来て」という言葉が出た瞬間、側で聞いていて、思わずどきっとしてしまった。かごめは真っ赤な顔を両手で挟んで叫ぶ。

「ばばば、馬鹿なこと言わないでよ!お義兄さんに限って、そんな、そんな妙な勘違いするはずないじゃないの・・・!!」

そうなのだ。
殺生丸は、りんを誰よりも慈しみ大切にしている。これはもう、周知の事実である。
3年間、村に通い続ける姿を犬夜叉は見ているし、この世界に戻ってきたかごめも、ひたすらにりんの成長を見守る殺生丸の姿に正直驚いた。
だが、同時に納得もしたのだ。犬夜叉と血を分けた、実の兄弟なのだ。
愛情表現が不器用なだけで、元々は情の強い性格であることは間違いがない。
あの無表情では、思っていることの半分も分からないが。

そして、りんも。
りんが楓と共に暮らしながら人里の暮らしを学んでいても、常にりんの心の底には殺生丸がいることに、かごめは気付いている。きっとそれは、本人が自覚しているかは別にして、かごめが犬夜叉を思う気持ちに近いものだ。

だけど、いくらなんでも、まだりんは幼い。
現代の感覚でいうと、小学生の高学年くらいのものだ。
そんなりんに殺生丸が無体なことをするとは思えない。

「だけどよ、据え膳食わぬは・・・」

「バカッッ!!おすわり~~~~~~っっ!!」



りんが2人の所に戻ると、何故か犬夜叉は地面にめり込んでいた。
・・・理由は分からぬが、りんにとっては、これももはや見慣れた光景である。

また下らぬ事で言い争いでもしたのだろう、と思い、「あはは」と、りんは困ったように笑った。




続く




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



奈落を倒した後、りんちゃんが人里に残り、殺生丸が通うまでの過程の妄想は、、
ブックマークにも登録させて頂いております、azure sky。さまに奉納した「宝物」という
小説に詳しく書きました。

詰まるところ、「十五夜に一度、村に訪れる」という約束を、
殺生丸さまはりんちゃんとするのです。

私の中では、それが設定。
ご了承くださいな(´艸`o)
















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