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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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あなたが望み、欲しいと願っているものを <2>


  
 
「きゃぁぁぁ―――っっ!!」
 
 
りんの悲壮な叫び声が響いたのは、二人の住む屋敷の縁側からである。
 
 
りんが叫んだのも、無理はない。 空から庭へ降りてきた愛する大妖の姿は、今まで見たこともないほどに
ボロボロだった。 鎧もほとんど砕けている上に、着物もずたずた。
片袖は完全にちぎれて無くなっていて、そこから生々しい傷が見え隠れしている。
怪我をしている左半身は血に染まり、腕からはまだ、ぽたぽたと血が流れ落ちていた。
 
「 どうしたの!?  どうしてこんな怪我してるの、殺生丸さま・・・!?」
 
泣きそうなりんの前にふわりと降り立つまではよかったが、地に足を着いた瞬間、殺生丸の体は重力に
逆らえず、がくりと傾いた。
思った以上に、体力を消耗しているらしい。
駆け寄ってきたりんは、すでに半泣きである。
殺生丸がこんな傷だらけの姿になるなど、小さな頃に見た戦い以来だ。
りんがまだ幼かった頃、殺生丸は禍々しい悪霊に鎧ごと胸を突き抜かれたことがある。
りんは初めて、その強さを疑ったことも無かった殺生丸が、死んでしまうかもしれないと思った。
強くて優しい、大好きな大妖怪が、いなくなってしまうのではないかという恐怖。
久しく思い出すことすらなかった感情が、りんを支配していく。
 
「 どうしよう?! どうしたらいいの?!  血を、血を止めなきゃ・・・!」
 
「・・・・騒ぐな、りん」
 
大丈夫だ、と言おうとしたが、殺生丸からこぼれたのは苦笑だった。
戻ってくるなり駆け寄って、傾いだ己の体を必死に支えようとしているりんが、愛しい。
いつものように抱き上げてやりたかったが、体が鉛のように重い。
 
「殺生丸さま、しっかりして! 今、邪見さまはお使いに行ってて、いないの・・・! お願い、部屋まで歩いて! りん一人じゃ、殺生丸さまを運べないから! 大丈夫、りん、簡単な手術なら出来るから、殺生丸さまの手当は・・・」
 
りんの言葉を聞き取れたのは、そこまでだった。
りんの言葉に反応するように、天生牙から癒しの光が溢れだしたのだ。その光は殺生丸を包み、一瞬にして傷だらけの主の体を 寝室へと運んでしまった。
目の前で、光に包まれた殺生丸の姿が消えてしまい、りんは呆然とし、半泣きになった。
 
「 殺生丸さま?! どこにいっちゃったの?!」
 
泣きそうになっているりんに、殺生丸は呼びかける。
 
「―――・・・りん」
 
奥の寝室から聞こえた夫の声に、りんはあわてて屋敷の中へ駆け込んだ。
 
「殺生丸さま!大丈夫?! 今の光は・・・」
 
りんもかつては、この光に命を救われた。
だが、りん自身が天生牙の力を目の当たりにしたのは、初めてである。
呼んでいる声をたどり、必死の形相で閨をのぞき込むと、殺生丸は鎧を消し、着物だけになって横たわっていた。
しかし、一体、何がどうなればこうなるのかと思うくらいに、着物はボロボロで血だらけである。
 
「・・・りん」
 
「殺生丸さま、手当を・・・!」
 
「・・・構わん」
 
「ダメだよ、そんなに血が出てるのに!」
 
「傷は、己で塞げる。それよりも・・・・」
 
「それより、何?!」
 
泣きそうな顔で必死にこちらを見つめる幼い妻が愛おしくて、大妖は思わず苦笑した。
手をのばし、そっとりんの頬に触れる。
 
「・・・・戻っていたのだな、りん」
 
母上の宮ではなく、二人の暮らすこの屋敷に、りんがいる。
殺生丸にとってはそれがどれだけ心休まることか。
 
あの十束剣の結界では、真実、死にかけた。
殺生丸が、朦朧としてくる意識の中で傷を庇いながら、りんの匂いを求めて、辿り着いた場所。
それが、二人の暮らす屋敷だったことが、殺生丸には心底、嬉しかった。
あの性悪の母上がいる宮であったら、これほど癒された心持ちにはならなかっただろう、と思う。
りんがいる場所こそが、殺生丸の帰る場所なのだ。
頬に触れた手でりんの大きな目に浮かんだ涙をそっと拭うと、大妖は再び苦笑して口をひらいた。
 
「・・・・体が、動かん。  己の血の匂いに、酔いそうだ。・・・体を、拭ってくれぬか」
 
思いがけない言葉に、りんは、目を見開いた。
今まで、殺生丸からそんな言葉は、聞いたことがない。
りんは殺生丸から、今まで一度も、身の回りの世話を求められたことがなかったのだ。
殺生丸は、己の身支度もすべて、その強大な妖力でこなしてしまう。
着物を着るのも、鎧を身に付けるのも、何もかも。
りんは元々、世話好きだ。 殺生丸と共に暮らすようになって、愛する相手にそういう世話をやけぬことを寂しく思ったことはあるが、それを煩わしく思うはずはない。
思いもかけぬ大妖の頼みごとに、りんは頬を上気させ、何度も頷いた。
 
「うん・・・うん、分かった! 今、お湯を沸かしてくるからね!! ちょっと待ってて!!」
 
慌てて立ち上がり、屋敷の中を駆けていくりんの後ろ髪が、左右に大きく揺れるのを見て、大妖は
大きく息をついた。
 
(・・・・りんに、こんな姿を見せるのはあれ以来か・・・)
 
りんと出会った、深い森。
あの時は、歩けるようになるまで三日はかかったのだったか。
幼いりんが小さな手で差し出した、食べ物の数々。
何一つ、殺生丸が口にすることは無かった。
 
ピシ、パリパリ、ピシッ
 
殺生丸は、傷口に力を集中させて傷を塞ぐ。
これで、とりあえずは出血は止まる。
内側の筋や肉が完全に元に戻るには、もう少しかかるだろうが、これで、りんに生々しい傷を見せずにすむ。
 
傷を負わずにすんだ方の手のひらで顔を覆うと、大妖は深く息を吐いた。
りんの甘い匂いが、己の血の臭いと混ざって、閨の中に籠もっている。
 
(・・・・この匂いは、覚えがある・・・)
 
殺生丸の中に甘く巣くう、記憶の中の匂い。
少しだけ涙と血の匂いがした、甘い甘い、初めて体を重ねた日の記憶。
 
 
屋敷の水屋から、りんがバタバタと湯を沸かそうとしている音が聞こえてくる。
大妖はその金色の目を閉じると、小さく息をついた。
 
(慌てて、りんが怪我をせねばよいが・・・)
 
・・・・しばらく、動けそうになかった。
 
 
 
 

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