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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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あなたが望み、欲しいと願っているものを <1>

 
 
 
―――――― ちっ
 
 
 
銀色の大妖は、頭の片隅に母親の顔を思い浮かべて舌打ちをした。
 
左腕に激痛が走る。
ちぎれかけた腕から、血が吹き出している。
とりあえず今は、腕をつなぐことに全妖力をそそぎ込むしかない。
もう、失った腕が再び生まれ変わることはないだろうからだ。
 
・・・となれば、あとは撤退しかない。
 
かつての己ならば、獲物を目前にして逃げるなど、考えもしなかっただろう。
だが、今の己ならばこそ、分かることもある。
 
「―――・・・決して、手を出してはならぬ、か」
 
・・・・確かに、それもそのはずだ。
言うなれば、この剣は神の為の「神殺し」の神具だ。
妖ふぜいが手にしていいものではない、ということだろう。
格段に強い結界が張ってあったのも頷ける。
 
・・・・それならそれで、別にかまわぬ。
今の私には爆砕牙があるし、どうしてもこの剣を求めているわけではない。
ただ、それでもここへ来てしまったのは、意地のようなものだった。
 
この十束剣<とつかのつるぎ>は、あの父上ですら敬意を表し、手に入れようとはなさらなかった
伝説の神宿る剣。
それを、あの母上がわたしにけしかけたのだ。
 
「悔しければ、十束剣でも手に入れてこい」・・・と。
 
 
―――― 最近、母上はやたらとりんを構う。
 
 
私の承諾も得ず勝手に自分の城に連れていくし、連れていったら最後、数日間は手元から離さない。
しかも、りんはあれの本意も知らず、素直に従うものだから余計たちが悪い。
 
「よいか、小娘。 殺生丸はまだまだ父に遠く及ばぬ。闘牙王に比べればあやつはまだ小犬のような
ものじゃ。それゆえ、あやつに代わって、わらわがそなたに直々に妖の知恵を授けてやろう。
そなたとて、殺生丸の役に立ちたいであろう?」
 
そのような甘言を口にしては、りんに余計なことばかりを吹き込んでいる。
・・・全くもって、いらぬ世話だ。
りんに妖の知識を植え付けて何になる。私は、生(き)のままのりんを愛しているというのに。
 
最近では、月がひとつ巡る間に、りんが我が屋敷にいるほうが珍しいほどに、母上のそばで過ごす
時間が長くなっている。 不愉快極まり無いが、それでも、あの母性の欠片もない母を「母上さま」と
慕っているりんに免じて、私も見逃していた。
・・・・あれは、早くに母を亡くしているゆえに、だ。
だが、それに乗じた母上はとうとう、
 
「殺生丸よ、小娘はしばらく、わらわが預かることにした」
 
などと言いだした。
りんを迎えに、私が天空の城までわざわざ足を運ぼうが、会わせようとすらしない。
 
「これは、わらわの一存ではないぞ? そなたに会わぬと言うは、小娘の意志じゃからの」
 
これには、さすがの私も我慢の限界を超えた。
りんがそんなことを言い出すなど、ありえない。
今までとて、りんが母上を慕っているからと譲歩してやっていただけのこと。
母上は何を企んでいるのか、笑いをかみ殺しながら、こう言った。
 
「そなた、何ぞ小娘に嫌われることでも、しでかしたのではないのかえ?」
 
馬鹿馬鹿しい。りんが私を嫌うことなど、天地が逆さになってもありえぬ。
笑いをかみ殺している母上の顔が何よりの証拠だ。
・・・・ふざけたことを。
 
「・・・・何を考えている。 りんを返せ」
 
久しぶりに、湧き上がる怒りで爪がバキリと鳴った。
ここで爆砕牙を抜かぬあたり、私も丸くなったものだと自分でも思う。
しかし、実力行使で取り返そうとした私に、小憎たらしい顔で、母上はこう言ったのだ。
 
「―――小娘を返してほしくば、父上を越えてみせよ、殺生丸 」
 
何を言う、と最初は鼻白んだ。
爆砕牙を手に入れる前ならいざ知らず、今や、私の力はとうに父上を越えている。
そんな私に、あの性悪はニヤリと笑った。
 
「そうよのう・・・。 そなたが、あの神剣 『 十束剣 』 を持ち帰れば、わらわはそなたを認めてやろう。
 我が息子は、真実、父親を越えたのだ、とな」
 
勝ち誇ったようにそう言い放った顔は殺すに値するくらいに腹立たしかったが、母上の言葉通り、
十束剣は、父上ですら手に入れようとはなさらなかった銘刀の中の銘刀、神が宿るという剣だ。
 
十束剣について、父上の残した言葉は、こうだ。
 
けして、あれには手を出してはならぬ。
あれは、神による神殺しの為の神具だ。
あれを扱える存在は、地上にはおらぬ―――・・・
 
神が宿ると名高い十束剣ならば、私の剣とするのも悪くはないと、母上の言葉に血が騒いだのも、
また事実ではある。
 
 
―――― ・・・父上のご判断は、正しかった。
 
 
この国の果ての果て、執拗なまでに張り巡らされた結界を見つけ、そのすべてを越えて来てみたが、
最後の結界は恐ろしく強く、近づくものはすべてずたずたに切り裂かれてしまう。
体という実体があるものには、決して近づけぬように張られた結界だ。
それが、意味しているのは、ただ一つ。  つまり、幽界にあるものにしか、この剣は使えぬ。
 
(――――― 無駄足だったか・・・・・・。 いや、母上は知っていたのかもしれぬ  )
 
りんと私を引き離す、それだけのために、この剣のことを持ち出しただけなのかもしれぬ。
 
・・・考えてみれば別に私は今、己の腕を捨ててまで、この十束剣を手に入れたいわけではない。
爆砕牙という己の剣も手に入れた今の私にとっては、りんを抱けるこの両の腕(かいな)の方が
よほど大切だ。
 
そう思うと急に、目の前の強固な結界を破って剣を得ることに、興が失せた。
流れ出る血の量に反比例するように、りんをこの腕の中に抱きしめたい気持ちばかりが溢れてくる。
いったい、あの娘と離れてどれくらいたつのだろう。
この結界の中に入ってから、もう10日は経ってしまった気がする。
 
(―――― くだらん )
 
爆砕牙を鞘に収め、結界から離れると、左腕から吹き出す血は一層酷くなった。
腕がちぎれかけているのだから、当然だろう。
鎧も最早、半分以上が砕け散ってしまっている。
 
(――――― ・・・ )
 
りんは、この姿を見てどう思うだろう。
驚き、あの大きな目を更に見開いて、叫び声をあげるだろうか。
 
もう、泣かせることなど絶対にないと、そう思うていたのに。
こんな姿を見せてしまっては、泣くかもしれぬな。
 
大妖は不機嫌そうにその柳眉を寄せると、光の珠へと自らの姿を変えて、結界の張り巡らされた雲海
から地上へと、弧を描きながら滑るように飛んでいった。
 
 
 
 

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