あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

夜明けの最初の一秒<8>


・・・ああ、何だか、いい匂いがする。
これは、白いお粥の炊ける匂い。
でも、へんなの。

だって、いつもお粥を炊くのは、りんの仕事なのに。


「・・・・ん・・・」


白い光が眩しくて、りんは開きかけた目を閉じた。

いつも暗い内から起き出すりんにとって、それはあり得ない明るさだ。
寝過ごしてしまったのだろうか・・・?

(・・・起きなきゃ)

そう思って、重い瞼を必死で開ける。

 


その途端、目に飛び込んできたのは、光をまとう銀色の髪、涼やかな金色の目。
美しい、人間離れした白皙。


響く、低い声。

 


「・・・・目覚めたか」

 


一瞬で、目が覚めた。

それとともに蘇る、鮮やかな記憶。

 

・・・・昨日、りんは、殺生丸さまと。

 


りんは、一瞬にして耳まで真っ赤になった。


 





夜明けの最初の一秒<8>

 





瞬時に身体の感覚が戻ってきて、りんは自分が裸であることに気が付いた。
借りていた絹の単にくるまっている。
・・・たぶん、掛けてくれたのは殺生丸さまだ。

「―――・・・っ!」

りんは、思わずくるまっていた単を引き上げ、顔を隠してしまった。
恥ずかしくて、まともに殺生丸の顔を見れそうにない。
・・・どうしよう。

三拍の間の後、りんの顔を覆っていた単が、長い指で、すっと下げられた。

「・・・なぜ隠れる」

「だ・・・だって、恥ずかしいんだもん・・・」

殺生丸は泣きそうになったりんを見て呆れたように小さくため息をつくと、
りんを単ごと抱えあげて、そっと膝の上に座らせた。
まるで小さい子を扱うように。

「・・・大丈夫か」

りんをのぞき込む瞳は、呆れながらも、りんの身体を案じていることが分かる。
りんは赤くなったまま、こくり、とうなずいた。

りんは当然のことながら、昨夜の(といっても朝方だったが)ような行為は初めてだったし、
普通の人間同士のものがどういうものなのか、見当も付かない。

・・・けれど、殺生丸は、とても優しかった。

初めて味わう痛みを感じながらも、それでもりんはどうしようもなく幸せだった。
りんを呼ぶ声が、たくさん聞こえた。・・・耳の側で。
幸せなまま、意識が途絶えた。

おなかの奥が、少しだけ、つきんと痛い。
けど、それだけ。

・・・その痛みすら、甘い記憶。

「うん・・・大丈夫」

りんは赤くなったまま、殺生丸の胸に顔を埋めた。
思い出すとまともに顔が見れない。

まるで、自分じゃないみたいだった。
殺生丸さまがりんに触れるたびに、そこから体が溶け落ちていくようだった。
嵐の真ん中で、激しい風に蹂躙されているようだった。
身動きもとれない。
逃れることも、許してもらえなかった。
けれど、その体の下に組み敷かれていることに、恍惚としている自分がいた。
りんを這う唇に、耐えられずに漏らしてしまう、喘ぎ声。
自分から、あんな声がでてしまうなんて。

思い出すだけでも、頬が熱くなった。
恥ずかしい。
・・・とても。

けれど今、その腕の中にいることは、どうしようもなく幸せだ。

いつもあんなに会いたくてしかたのなかった殺生丸の胸の中にいる。
互いに愛しさを込めて触れ合えることが、こんなに幸せなことだとは思わなかった。


「・・・殺生丸さま」

「・・・なんだ」

「りん・・・殺生丸さまのこと・・・だいす」

 

 

きゅるるる~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

りんの言葉を遮るように、おなかから大きな音が鳴った。


「・・・・」
「・・・・」

 

殺生丸が、再び耳まで真っ赤になったりんを見て、目元をゆるませた。

「・・・大丈夫そうだな」

「・・・はい」

殺生丸がその膝からりんを下ろし、りんはあわてて単をきちんと着直し前を合わせる。
散らばったままの豪奢な着物の中から、帯を見つけだしてくるくると巻いた。
滑らかな肌触りの絹の着物は、やっぱり落ち着かない。


「・・・先ほど、霧姫が置いていった。腹がすいているだろうと」

その声に振り返ると、雅な朱塗りの膳に、暖かいお粥が置いてあった。
ぐぅ~~~、とおなかが返事をする。

「・・・いただきます」

りんは再び赤くなりながら、膳の前に座った。
とりあえず、せっかく用意されているのだから、ありがたく頂くことにした。
考えてみたら、昨晩からまともに食べていない。
おいしそうなお粥の匂いが、りんの空腹を刺激する。

感謝して手を合わせると、椀をとり、匙を手にとって、粥をすすった。
お粥の中には何かは分からないが、細かく刻んだ色んな具材が入っていて、とても美味しい。
朝凪と夕凪が作ってくれたんだろうか。
(・・・これも、黄泉の国の食べ物かな)
そう思って、りんはくすりと笑ってしまった。
昨日から、りんの身には信じられない出来事がたくさん起こりすぎているのだ。
今、食べている物が死者の国のものだと言われても、
もう驚かない自分がいることが、何だか少しおかしかった。

殺生丸は、粥をすするりんを、静かに見ている。

りんは、ふと気になって、御簾の外へ目をやった。
この屋敷は相変わらず霧の中だが、白い霧に透けて、
薄くぼんやりと高いところにある太陽が見える。
白い光は、昼間の高い太陽を思わせた。

「・・・あの、殺生丸さま。りん、どれくらい寝てたのかな・・・?」

りんが聞くと、殺生丸が庭の外を見ながら答えた。

「・・・もうすぐ夕暮れだ」

「えっ?!本当?!」

りんは慌ててお粥をかきこみ食べ終わると、「ごちそうさま」と手を合わせた。
その慌てぶりに、殺生丸は怪訝な顔をする。

「・・・どうした」

「だ、だって、早く帰らないと楓さまが心配しちゃう!!」

「・・・・」

「そうだ、りんの着物、どこにあるんだろう?!着替えなきゃ・・・・きゃっ」

りんが慌てて立ち上がると、その体が重心を失い、宙へ浮いた。
いつの間にか、りんは殺生丸の両手に脇の下を抱えられて、宙ぶらりんに浮いている。
まるで、小さな子供が「高い高い」をされているみたいだ。

「・・・人里に戻るのか?」

「う・・・」

りんの真正面にある殺生丸の表情は、わずかではあるが、少し不機嫌にも見える。
りんは、昨晩の会話を思い出した。

確かに、りんは殺生丸と生きると決めた。
ずっと、一緒にいたいと。
その気持ちに、嘘偽りはない。

・・・けれど。

「だって、楓さまがきっと心配してるもの・・・」
「それに、あの、ちゃんと皆にお別れもしてないし・・・」
「殺生丸さまと一緒に行くから、大丈夫だよって、伝えたいの・・・」
「それに、楓さまには、今まで育てていただいたお礼も言ってない・・・」

りんは、しゅんとした。
もう皆とは、会うことすらできないのだろうか。

「村の人たちにも、ちゃんとお礼を言いたいんだけどな・・・」

殺生丸は、あの馬を駆っていた男を思いだし、眉を寄せる。
己以外の男がりんと言葉を交わすと思うと、何だか腹立たしい。
(・・・これを悋気というのかもしれぬな)
初めて味わう独占欲に、そんなことを思う。

「・・・だめ?」

りんが悲しそうな表情を浮かべると、殺生丸は軽くため息をついた。

「・・・別れを言うだけなら、付き合ってやる」

「ありがとう、殺生丸さま!!」

りんの顔がぱぁっと明るくなった。
脇を抱えあげられたまま、足をぷらぷらさせて無邪気に喜ぶ顔は、
幼い頃とまるで変わっていない。

(・・・先が思いやられるな)

そう思いながら、殺生丸はりんをそっと床へ下ろした。
この笑顔を見ていられるなら、それでいいと思ってしまう自分がいる。

りんは床に散らばった小袿と緋袴を、よく分からないままに必死に畳んでいた。
散らかしたままでは、霧姫に悪いと思っているのだろう。

その時、部屋の外から霧姫の声がした。

「殺生丸さま、りんさま。失礼いたします」

「・・・何だ」

殺生丸が答えると、すっと、豪奢な襖が開き、
するすると霧姫と朝凪夕凪が部屋の中に入ってきた。

「・・・現世(あちら)に、お戻りになられるのですね」

霧姫がそう言い、朝凪と夕凪がりんに歩み寄り、りんの着物と帯を差し出した。
そっくりの二人の童女は、うるうるとその瞳を潤ませている。

「・・・せっかく、いらっしゃっいましたのに」
「・・・もう、お戻りになられるのですか?」

そう言いながら、寂しそうな顔をしている。
りんは、何だか申し訳ない気持ちになった。
昨夜、湯殿で世話をしてくれた二人は、本当にりんがきたことを喜んでくれたのだ。
犬夜叉の母君が来て以来、200年ぶりの訪れだったのだから、無理もない。
ずっと、寂しかったのだろう。

「・・・りんさまは、これから殺生丸さまとご一緒に旅をなさるの?」

霧姫が、りんに聞いた。
りんは、ふわりと微笑んで頷く。

「・・・はい。そう、決めました」

「ならば、今後も度々、こちらへ足をお運び下さいませ。
 朝凪と夕凪も喜びましょう。
 ・・・殺生丸さまの御為にも、それがよろしいでしょうから」

霧姫はにっこりと笑ってそう言う。

殺生丸は、怪訝な顔をして霧姫を見た。

(・・・私の為だと?・・・どういうことだ)

「嬉しいー!!」
「お待ちしています!!」

殺生丸の問いは、朝凪と夕凪の嬉しそうな声に遮られる。
二人の童女から抱きつかれて、りんはよろけながら、殺生丸を見上げた。

「殺生丸さま、またここへ、りんを連れてきてくれる?」

「・・・・ああ」

「やったぁー」

殺生丸が答えると、りんは笑顔で、二人の童女を抱きしめた。
霧姫もにこやかに少女たちを見ていたが、
ふと、殺生丸の表情に気がついたように、その笑顔を殺生丸に向けた。

「・・・りん、湯浴みをして着替えてこい」

殺生丸がそう言うと、朝凪と夕凪の顔がぱぁっと輝いた。
りんはきょとんとして、殺生丸を見上げる。

「・・・はい」

「それでは、ご案内いたします!」
「りんさま、どうぞ!」

二人の童女に両方から手を引かれ、りんは殺生丸の表情を気にしながらも、
部屋の外へ引っ張られるようにして出ていった。

部屋の中には、霧姫と殺生丸の二人が残り、
霧姫は檜扇の向こうで、殺生丸の表情を見て、くすりと笑った。


「・・・どういうことだ」

「何がです?」



「・・・私の為、とは」

 

 

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