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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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無くした片方<3>












無くした片方<3>

拍手[80回]


 



 

「せっしょーーーーまるさまーーーーーーっ!!」
 


ワシが、阿吽と共に殺生丸さまの後を追って、何とかりんの村に辿りつくと、
なぜか川の中から、ざぶざぶと、びしょ濡れの犬夜叉が上がって来た。
すぐ側には、ガタガタと震えて腰を抜かした人間が三人。

「ひ、ひぃ~~~~~!!何じゃ、あの化け物は!!」

奴らは、阿吽の姿を見て、さらに怯えてしもうた。
化け物とは何じゃ、阿吽はお父上の代からお仕えする高貴な双頭龍じゃぞ。
失礼な奴らじゃ。

それにしても、何があったというんじゃ。
殺生丸さまは、どこに行かれたのじゃ?

「くそ・・・いってえ・・・殺生丸の野郎、少しは手加減しろってんだ」

犬夜叉は赤くなった頬をさすっている。口元が切れて、血が滲んでいた。

ど・・・どうやら、殺生丸さまに殴られたらしいな。
ワシは、ごくりと唾を飲んだ。
昔ならいざ知らず、最近では殺生丸さまの方から犬夜叉に手を出すことなど、
まったくと言っていいほど無かったというのに、一体、何があったと言うんじゃ。
ワシは阿吽の上から犬夜叉に問いかけた。

「お、おい、犬夜叉っ!!
 貴様、一体何をやらかしたんじゃっ!!殺生丸さまはどちらへ行かれた?!」

ワシの問いに、犬夜叉は顎で、楓の小屋を指し示す。
側で震えている人間たちを見下ろして、苛立ったように言う。

「こいつらと一緒にいるときに、りんが、毒蛇に咬まれたんだよ」

「どど、毒蛇じゃとーーーーっっ!!」

ワシは真っ青になったわい。
りんは、儚い人間の身じゃ。
急いで薬を与えねば、死んでしまうかもしれんではないか!!
殺生丸さまの不機嫌の理由は、これか!

ワシはハッとして、手元に抱えた桃を見た。

ご母堂さまの言葉を思い出す。
曰く、「蓬莱島の桃が入り用とは、腹でも壊したのか?」と。
そうか!この桃は、毒消しの桃の実か・・・!
は、早くりんに食べさせねば!!!

「り、りんーーーーっ!!殺生丸さまーーーーーーっっ!!!」

ワシはあわてて楓の小屋に飛び込んだわい。

小屋の中には、布団に寝かされたりんが真っ赤な顔で喘いでいて、
その側には楓とかごめが心配そうな顔でりんをのぞき込んでいた。

その側で、殺生丸さまは、まるで熱を計るように、りんの額に触れていらっしゃる。
先ほどまで、あれほど放っていた殺気も不機嫌な気も、全くない。
りんを見つめるその表情は、微かに眉をひそめてはおられるものの、
とても穏やかなものじゃった。

「じゃあ、この毒に天生牙は効かないのね?!何か、方法は無いの?!」

焦ったようにかごめが殺生丸さまに尋ねておる。
殺生丸さまは、りんを見つめたまま、ワシに声を掛けられた。

「・・・邪見」

「は、はいっ」

殺生丸さまのお手元へワシが桃を差し出すと、
殺生丸さまは布団へ手を差し入れ、りんを抱き起こした。
りんが、浅い息を繰り返しながら、うっすらと目を開ける。

「・・・・せ、しょうまる・・・さま・・・?」

潤んだりんの目から、ほろほろと涙がこぼれた。
高い熱で、夢か現かも、よう分かっておらんのやもしれん。
ワシは、心配で思わず声をかけた。

「り・・・りん、大丈夫か?辛いのか?!」

「じゃ・・・けん、さま」

りんは涙目でこちらを見て、微かに笑った。

「ど、して、いるの・・・?・・・夢・・・?」

そう言って、またぐったりとして、目を閉じてしまった。

殺生丸さまの腕の中のりんの姿を見ている内に、ワシは、何だか泣きそうになった。
りんは、うるさいくらいに元気で走り回っておる方が、似合っとるわい。
本当に、一体どうして、こんなことになってしまったんじゃ。

殺生丸さまがりんに手渡していた手みやげには、ほとんどが強力な魔除けが施してあって、
滅多なことではりんがケガをしたり邪悪な者に襲われたりはしないはずじゃ。
一体、どうして・・・。

ワシは、そこまで考えたところで、
またも、ご母堂さまと殺生丸さまの不可解な会話を思い出した。
なんか、「私が背中を押してやった」みたいなことを、
ご母堂さまは仰っておられなかったか・・・?
え・・・?!じゃあ、これってもしかして、あのご母堂さまの仕業なのか???

殺生丸さまは、冷や汗をかいているワシの手から桃を一つ取ると、
片手でりんを抱いたまま、その桃をひとくち、口に含まれる。

桃から果汁が滴り落ち、かぐわしい甘い香りが放たれた。
地上の果物とは全く違う、あたりを覆うほどの鮮烈な香りじゃ。
あまりの強い香りに、楓もかごめもワシも、目を見開いた。

「・・・・桃が、光ってる・・・」

かごめが呆然とした顔でそう呟き、楓はかごめの言葉に驚いたような顔をした。
そんな光は、ワシにも見えん。
やはり、かごめは特別な力をもった巫女なのかもしれん。

「・・・・・・」

殺生丸さまは、りんを抱き抱えたまま、その細い顎を掴んで、りんの口を開けさせ、


・・・ためらうことなく、口移しでりんに桃を食べさせられた。


りんは、突然口の中に滑り込んできた甘い果実に、一瞬、うっすらと目を開ける。

「・・・・飲み込め、りん」

殺生丸さまから言われ、りんは虚ろなまま、必死に桃を飲み込んだ。

・・・・・コクリ

りんの細い喉が音を立てると、りんはまたぐったりとして意識を失ってしまった。
殺生丸さまは、りんを寝床にそっと戻す。

「・・・殺生丸、りんは、大丈夫なのか?!」

楓が縋るように聞くと、殺生丸さまはりんの額にそっと触れて、仰られた。

「・・・・直に、元に戻る。これは、蛇の毒ではない」

「え・・・? どういうこと?」

かごめが、殺生丸さまを見上げて聞いたけれど、殺生丸さまは黙ったままじゃった。

殺生丸さまはもう一つの桃をワシの手からお取りになり、りんの枕元に置かれた。
桃を置いたその指が、そっと、眠っているりんの涙を拭う。

楓が、殺生丸さまに尋ねた。

「・・・その桃は?」

「・・・黄泉比良坂(よもつひらさか)で悪鬼を払った桃だ。これで、毒は消える。
 地上には無い、人間には、効きすぎるほどの薬だ。
 毒消しがないなら、とっておくのだな」

殺生丸さまはそう仰られて、りんの枕元から立ち上がろうとされたが、
何故か、りんを見つめたまま、ぴたりとその動きを止められた。
一体、どうされたというのじゃ。

殺生丸さまの視線は、りんの手元に落ちていた。
かごめと楓も何かに気付いたらしく、二人は顔を見合わせて微笑んだ。

「・・・そなたが、しばらく側におってやってくれぬかの」
「そうね、多分、りんちゃんもそのほうが心強いと思うわ」

何じゃ、何じゃ。
ワシだけが、背が低くて何が起きているのか、よく見えんではないか!
意を決して、板張りの間へ飛び上がり、りんを覗き込んだ。


・・・まあ、一緒に旅をしていた頃には、よく見た光景じゃがの。
 


「・・・・ほら、邪見、あんたも邪魔よ!」


かごめが、ワシに言い、立ち上がって楓と共に小屋から出ていく。


・・・ふん。 言われずとも、分かっとるわい。

とりあえずは、ワシも自分の身が可愛い。
小屋の外で、殺生丸さまが出てくるまで、待つとしようか。

 

―――意識を失って眠るりんの指が、殺生丸さまの長い髪を、しっかりと掴んでおった。



りんの手を振り払う気には、なられなかったのだろうな。
 
・・・何せ、殺生丸さまは、りんにだけは甘いからの。


 




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