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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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神成りとむすめ・・・・prologue


 


寂しくて不安で、思わず涙をこぼした私に、

あの人は、困ったように微かに微笑んで、一度だけ言ってくれた。


・・・・・と。

 

 




 

神成りとむすめ・・・prologue




拍手[112回]


  

 

日が落ちた秋の高い空の上、切るような冷たい風がひゅうひゅうとりんの頬をかすめていく。
阿吽が空を駆ける規則正しい揺れが、殺生丸の長く美しい髪を揺らしている。
きっと、白尾の外は凍えそうな寒さに違いなかった。


「・・・ねえ、殺生丸さま」

りんは、殺生丸のふわふわの白尾の中で、聞いた。

「今から行くところって、とても遠いの・・・?」

楓の村からりんを連れて飛び立った殺生丸は、
早い風に乗るために、かなり上空まで阿吽を駆け上がらせた。
上空は地表とは違い、空気が真冬のように冷たい。
りんが凍えないよう、殺生丸は白尾でりんの全身を守るようにふわりと包み込んでいる。
きっと、そうまでして早い風に乗らなければならないほど、
邪見の用意した薬師の里にある屋敷とは、遠いということなのだろう。
りんが問いの答えを待って白皙の大妖を見上げていると、白いふわふわの毛の中を
人頭杖が近づいてきて、そこから緑色の従者がぴょこん、と頭を出した。

「・・・恐れながら、私めが説明いたしましょう、殺生丸さま」

従者が主を見上げて言うと殺生丸は、好きにしろといった風情でうなずいた。
口数の少ない主が説明しても、結果として待っているのは更なるりんの質問責めだろう。
従者の気遣いはもっともとも言える。
邪見はりんを見上げて、エヘン、と咳払いをした。
その光景は、まるで小さい頃に戻ったみたいで、りんは思わずくすりと笑う。

「よいか、りん。
 今から行くのは、妖の医師と薬師が兄妹で長(オサ)をつとめる、妖の里じゃ。
 殺生丸さまは、お前の住む屋敷を、この里にご用意してくださったのじゃぞ。
 さすがは、殺生丸さま。
 ワシもご母堂様の許しを得て、一度見に行ったのじゃが、
 これ以上、お前が暮らすのに適している妖の里はないと思うわい。
 この里の者達は昔から、様々な薬を作ることを生業としておっての、
 妖怪の薬は元より、神や人間の薬をも作ったりしておるそうじゃ。
 この里で作られる一番有名な薬は、妖の薬で「妖命丸(ようめいがん)」という
 万能薬なんじゃが、この薬は秋津島でも一二を争う貴重品での。
 妖怪でもかなり高位にあるものにしか、手にすることができぬと言われておる。
 ワシなぞは、伝え聞くばかりで、実在するとも思うておらんかったくらいじゃ。
 あまりに貴重で、抜群の効き目であるその薬ゆえ、
 この里の者達は常に妖どもに狙われてきた。
 困り果てた里の妖たちに懇願され、その里を守ってきたのが、
 殺生丸さまのお父上なのじゃ。
 この里の者達は薬作りに関しては右に出る者はおらんが、
 妖怪としての力は、まあ、ワシなんかと、ほとんど変わらん。
 じ・・・自分で言うのは癪じゃが、下手したら人間にすら、やっつけられそうな弱さじゃ。
 殺生丸さまのお父上は、この里の者達の願いを受けて、非常に複雑で強力な結界を施され、
 この里を妖怪や人間たちの目から隠し、彼らを匿ったのじゃ。
 その結界のおかげで、彼らは怯えることなく、日々を平和に暮らせるようになった。
 それゆえ、この里に住む者たちは、お父上は元より、
 殺生丸さまやご母堂さまにも心からの忠誠を誓っておる。
 一年に一度できあがる妖命丸も、まずはご母堂様の城に献上されるのじゃ。
 お父上がお亡くなりになった後は、ご母堂さまがこの里の結界を受け継がれて
 おったんじゃが、この度、お前のこともあって、この結界と里は殺生丸さまが
 受け継がれることになった。
 ゆえに、この村の者はすべて殺生丸さまのご家来衆、ということになるな。
 ・・・・まあ、そうは言っても妖としては無力な者達ばかりじゃから、
 ほとんど殺生丸さまのお役には立たぬであろうがの。
 それに、不思議なんじゃが、この里の者たちは妖のくせに、なぜか人間が好きでの。
 結界に迷い込んできてきた人間は、そのまま里に受け入れて暮らしておるのじゃよ。
 妖の里とも思えぬが、そんなこんなで、地念児や犬夜叉のような半妖も大勢おる。
 お前としては、暮らしやすい里じゃろうよ。」

りんは驚いて、へぇーっと声を上げてしまった。
妖に医者や薬師がいるということにも驚いたが、
妖怪が人間のように里を作って暮らしているということにも驚いた。

妖怪とは、そもそもが群を作らず、孤高を好む性質を持っているものが多い。
人と共存できる、七宝や雲母はとても珍しい類なのだ。
人間など、餌程度にしか思っていない妖怪の方が多いだろう。
そんな彼らが、寄り添って里に住み、なおかつ薬作りを営んでいるとは。
おまけに、人間を好意的に受け入れる妖怪だという。

りんとて、幼い頃より邪見に言い聞かされ、
殺生丸が妖怪の中でも相当に希有な存在だと言うことは理解していたつもりだ。
その高い妖力はもとより、人間に対して慈しみや愛情を抱く妖怪など、めったにいない。
殺生丸とて、りんだけが特別なのであって人間全体には、けして好意など抱いてはいない。
満月の度に、邪見が口を酸っぱくして
「もっとありがたいと思わんかっ!殺生丸さまのような大妖怪がこのような人里まで
 足をお運びになられるなど、本来ありえないことなんじゃぞっ!!」
と、言い続けていたことは、けして間違っているわけではない。

りんは、人間たちが妖怪に対して言い知れぬ恐怖を抱いていることを嫌というほど知っている。
妖と人間との間に跨る溝は深く、双方が理解し合って共存することは、果てしなく難しい。
殺生丸とて、それをりんに学ばせるために人里に戻したのだろう。

だから、邪見の話を聞いて、りんは本当に驚いてしまった。
本当に、そんな妖の里があるのなら見てみたい。

そして殺生丸と邪見は、りんが幼い頃、一月に一度の逢瀬の時にぽろりと漏らした言葉を、
ずっと覚えていてくれたらしい。

「・・・薬草からお薬を作る仕事がすごく楽しいの。
 りんが一生懸命作ったお薬で、誰かの病が治った時って、本当に嬉しいんだよ。
 りんもいつか、地念児さんみたいになれたらいいなぁ・・・」

人里に預けられた当初、薬草を一生懸命覚えようと頑張っていたりんにとって、
地念児はまるで歩く薬草辞典のようで、本当に驚いて尊敬してしまったのだ。
あれは、りんが人里に預けられて間もない頃だったのだと思う。
会いにきてくれる度、殺生丸の膝の上に丸くなって、無邪気に日々の出来事や思ったことを
取り留めもなく口にしていた。
大きくなったら、また殺生丸さまと一緒に旅に出れるんだ、と、疑いもしなかった頃のこと。
大きくなるにつれ、殺生丸さまが来てくれなくなったらどうしようと、
怖くてそんなことは口にできなくなっていったのだから。

「殺生丸さまは、ちゃーーんと、お前の言葉を覚えて下さっていたのだぞっ!」

邪見からそう言われて、りんはもこもこの白い毛から、殺生丸を見上げた。

「・・・ありがとう、殺生丸さま・・・」

りんがそう言うと、殺生丸はりんの頭をそっと抱き寄せるように撫でた。

「・・・里は遠い。 疲れが出ぬように寝ていろ」

りんの頭に触れる手は、幼い頃と変わらぬ優しい手。
けれど、その手がりんに触れる度、りんは胸の奥が溶けそうになる。
それは、哀しいくらいに優しく甘い手を、りんが知ってしまったからかもしれなかった。
きっと殺生丸は、昨日からりんの体にかかっている負担を考えてくれているのだろう。
りんが、ずっとずっと待ち続けていた優しい手のひら。
その手のひらの持ち主が夫になるのだという実感は、まだない。
・・・その妖の里で、いったいどんな生活を送ることになるんだろう。
真っ白なふわふわの毛に頬を寄せ、りんはそっと目を閉じた。

 

 

阿吽の背に揺られこの里にたどり着いたのは、夜もかなり更けてからのことで、
りんがこの里に降り立ったとき、里の人は総出で、篝火を焚いて迎えてくれた。

「ようこそ、医王の里へ。 私が里の長をしている、詠月です。 こちらは私の妹で、
 柚月と申します。
 ・・・お待ち申し上げておりました、殺生丸さま、りんさま」

里を代表してりんと挨拶を交わしたのは、詠月さま、という妖の医師さまで、
その優しそうな笑顔と穏やかな人柄に、りんはとてもホッとした。
詠月さまは、人間でいう30歳くらいの男の人で、ほとんど人間と変わらない風貌だ。
ただ、おでこにもう一つ目があるだけで。

邪見の説明通り、里には「医王庵(いおうあん)」という、庵(いおり)があり、
庵には、妖の医師さまと薬師さまのご兄妹がいて、里の長をしているという。
この妖の医師である兄が先ほどの詠月(えいげつ)さま、
薬師である妹のほうを、柚月(ゆうづき)さま、という。
里で出迎えてくれたとき、兄の詠月の後ろに控えていた柚月は、同じくおでこに
もう一つ目があったが、りんと目が合うと、人懐っこい笑顔で、にっこりと微笑んだ。
このご兄妹が、二人で里の長をしているのだという。

この兄妹の後ろには、里に住む妖たちがずらりと控えている。
七宝のような狐妖怪や狸の妖怪、河童、付喪神(つくもがみ)のような、
何の妖かよく分からぬものまでずらりと並んでいるのだが、
その間にはちらほらと人間の姿も見える。
きゃいきゃいと、歓声をあげる子供たちもたくさんいる。
人間の姿に似ている者もいれば、獣の姿をしているものもいる。

りんは大きな目を更に大きくして、里の者たちを眺め見た。
百聞は一見にしかず、だ。・・・本当に、ここには妖怪と人間が共存しているのだ。
それぞれの個性が目を引くものの、まるで、りんが今まで暮らしていた人里の人間たちが、
そのまま妖になったような景色である。
本当に、ここは妖の里なんだ、とりんは目をぱちぱちした。

・・・りんが驚きに包まれていたこの時、実は里の妖たちは妖たちでかなり興奮していた。

彼らは、この里が結界で守られていることを、知っている。
この里に住む者は、結界のせいで自由に出入りが出来ないが、そのお陰で、
凶暴な妖怪や、妖を退治する人間たちから守られていることも、ちゃんと理解している。
・・・されど、自分たちの結界の守護者である妖、殺生丸を拝したのは初めてである。

初めて拝した守護者は、人も妖も、一目見ただけで心を奪われそうな出で立ちだ。
里の者たちが想像していた以上の、神々しい美しさと比類なき妖気の持ち主。
この時、この里の住人たちは、初めて拝した守護者である主を畏れ敬い、
同時に、瞬時に心奪われたと言ってもいい。


興奮気味の里の者たちの前で、殺生丸はりんに言った。

「この里には、父上の残された強く複雑な結界が張り巡らされている」

りんは殺生丸を見上げ、里の者たちもしん、として、その低い声に聞き入った。

「結界を行き来できるのは、里の長である、この医師と薬師の兄妹だけだ。
 だが、この里で生活して一月も経てば、お前にもじきに結界が見えるようになるし、
 出入りも自由にできるようになる。
 ・・・お前は、私の一部だからな」
 
殺生丸の言葉の意味はよく分からなかったが、りんはほんのりと赤くなった。
「お前は私の一部」という言葉に、昨晩の温もりを思い出す。

殺生丸は、りんの頬にそっと触れた。

「・・・人里へはしばらく戻れぬが、我慢しろ」

りんは、頬に触れているその手のひらに、そっと自分の手を重ねる。

「・・・はい、殺生丸さま」

りんが、そっと目を閉じた時だった。
思いもしない言葉が、頭の上から落ちてきた。

 

 


「・・・・私は、一月は戻らぬ」

 

 

「・・・・・・・・・え ?!」

 


りんが殺生丸の言葉の意味を理解するのに、たっぷり10秒はかかった。
詠月も柚月もその他の里のものたちも、それは初めて聞いたようで、
あきらかに戸惑った表情を浮かべている。
皆、殺生丸がこの里で暮らすものだと思っていたのだ。・・・りんと同じように。

「・・・・・・・殺生丸さま・・・どこ行くの?」


唖然としたりんを見て、殺生丸は不機嫌そうに言った。

「・・・出雲だ」

「出雲・・・?」

不機嫌そうな主と、あまりのことに唖然としているりんとを気遣いながら、
邪見がおそるおそる、声をかける。

「あ、あの・・・殺生丸さま、それでは、とうとうご承知なされたので・・・」

「・・・この里を受け継ぐのは、それが条件だったからな」

「・・・・じゃあ、りん、ここで一人になっちゃうの・・・?」

不機嫌な主に、今にも泣きそうになっているりん。
主の目が、ギラッと従者をにらみ、邪見は慌てて言葉足らずな主の代わりにしゃべりだした。

「り、りん、心配するでない!ワシも、里には残るのじゃ。
 ちゃんと里のものに話は通っておるし、何も心配はいらん!
 殺生丸さまはの、りん、お前のために、とてつもなく重要なお役目を担われたのだぞ。
 よいか・・・よく聞けよ。
 殺生丸さまのお父上は、狗妖怪でありながら神でもあられたのだ。
 殺生丸さまは、この度、その御印を受け継がれることとなったのじゃ。
 狗神として、出雲の神議りにご出席されるのじゃぞ!」

集っていた里の者たちは、邪見の言葉にどよめいた。
りんは、あまりのことに、涙を浮かべたままその瞳を大きく見開いた。
不機嫌な顔をしたままの、殺生丸を見上げる。

「・・・・殺生丸さま・・・神様になるの?」

「そーじゃぞーーっ!!」

邪見は目を閉じて、うんうんとうなずいた。
(ふふん、殺生丸さまに一目惚れした、ワシの目に狂いは無かったということじゃ!!)
りんのことがなければ、家来衆の前でその誇らしさにもっとどっぷりと浸かることも
できたのだろうが、とりあえず、邪見の現在の責務は、りんを安心させることにある。
邪見がちらりと片目をあけてみると、りんは涙を浮かべたままの瞳で、殺生丸に問いかけた。

「・・・殺生丸さま、神様になって・・・何をするの?」

(りりりりり、りんーーーーっ!!)

しまった、火に油を注いでしまった、と、邪見は人頭杖を取り落としそうになった。
長年お仕えした邪見の勘は見事に当たり、殺生丸の表情は、ますます不機嫌になっていく。
邪見は、全身から変な汗が噴き出してくるのを感じた。
ちなみに、主の不機嫌は質問を発したりんに向かっているわけではなく、
その役目を押しつけたご母堂さまに向かっている。
神議りに出る目的は、他人に興味のない主にとって、いかにもどうでもよいことであり、
しかもその為に、りんとの新しい日々を邪魔されたも同然なのだ。
おそらく、口にするのも腹立たしいのだろう。
気難しい主は、またも、ギラリと従者を睨む。

「そそそそ、それはの、りん、つまり、縁結びじゃっっ!!」

「縁結び・・・?」

振り返ったりんに、邪見はたたみかかけるように言う。

「よいか、りんっ!!
 殺生丸さまのお父上はご存命中、この秋津島の至るところで神助けをされておった。
 助けられた神々は、お父上に深く感謝され、妖怪でありながら「徳高く神威あり」と
 神の御印を授けられ、狗神として出雲へ招かれたのじゃ。
 妖怪でありながら、神の地位へ上りつめるなど、めったにあることではないのじゃぞ!!
  お父上は、神徳高い狗神として崇敬を集め、各地の社に奉られた。
 しかし、神が社を持つということは、その地に暮らすものを守ると同時に、
 縁(えにし)を取り持つ責務が生まれるのじゃ」

「縁(えにし)・・・」

「そうじゃ、縁(えにし)じゃっ!
 万人の中からたった一人を選ぶ夫婦の契りも、その夫婦に子宝を結びつけているのも、
 実は出雲で一年に一度開かれる、「神議り」によってなのじゃ!!
 あ、ありがたいとは思わんかっっ!?」

りんは邪見の言葉に、はっとしたように殺生丸を仰ぎ見る。

「それじゃあ・・・りんと殺生丸さまも、その縁(えにし)で結ばれたの・・・?」

殺生丸は、ふん、とそっぽを向く。

「・・・私はどこぞの神に頼んだ記憶はない」

りんは、涙を浮かべたまま、殺生丸を見上げた。

「・・・でも・・・りんは毎日・・・村のお社に、お願いしてたよ。
 殺生丸さまと一緒に、また旅にでれますように、って・・・」

「・・・では、お前の願いは叶ったわけだな」

「・・・すごく・・・大切な、お役目なんだね、殺生丸さま・・・」

尊敬のまなざしで見上げるりんを見て、殺生丸は軽くため息を付いた。
殺生丸にしてみれば、見知らぬ人間どもの縁結びなどより、
できることならこのままりんを抱いていたい。

「・・・お前以外の人間の縁など、私にとってはどうでもよいことだが、
 父上の果たしてきた責務なら、いつまでも放っておくわけにもいかぬ」

殺生丸は、その不機嫌な表情を和らげ、もう一度りんの頬に触れる。

「・・・一月だ。必ず戻る。健やかに待っていろ」

「・・・はい、殺生丸さま・・・」


何とか事が収まり、汗だくになっている邪見へ、殺生丸は冷ややかな視線を向けた。
邪見は、慌てて地べたに張り付いて、主の望んでいるであろう言葉を絞り出す。

「りんは、この里で必ずお守り申し上げます、殺生丸さま・・・!!」

里の者たちを代表して、先ほどの妖の医師が穏やかな表情のまま、邪見の言葉を補った。

「私どもも、力の限りを尽くして奥方さまをお支えいたします、殺生丸さま。
 どうぞ、お役目を無事終えられますよう」

邪見と里長の言葉を受けて、ふわふわと、足下の白尾が浮き始める。

「・・・阿吽は置いていく。 好きに使え」

「・・・殺生丸さま・・・」

大切なお役目とは分かっているものの、りんは寂しくて心細くて、
殺生丸の袂をその手から離せない。
とうとう、その大きな瞳からぽたん、と涙が落ちた。

「・・・待ってるね、殺生丸さま・・・」

一生懸命、声を出したら、ぽたぽたと続いて涙が落ちた。
そんなりんを見て、殺生丸は困ったように、微かに目元をゆるませた。
そっと、りんの耳のそばに、その美しい唇を寄せる。


「りん・・・」


耳元で、りんだけに聞こえる低い押さえた声が響いた。

 

 


「・・・・・・・愛している・・・りん」

 

 

 

りんが目を見開いて、息をのんだときには、殺生丸の姿はすでに空へ浮いていた。


「・・・任せたぞ」

殺生丸の言葉に、集まっていた里の者が一斉に頭を下げた。

篝火に照らされて殺生丸は皆に背を向け、夜空に浮いたまま、
すうっと結界の外へと消えていった。


殺生丸の低い声が、りんの頭の中で繰り返し響く。


(・・・・今の・・・聞き間違いじゃ・・・ない・・・よね・・・?)


思ってもいなかった殺生丸の言葉に、りんは耳まで真っ赤になっている。
・・・・あの一言は、ものすごい破壊力だった。
嬉しいやら寂しいやら心細いやらで、りんの頭の中はぐちゃぐちゃだ。
再びぼろぼろと涙が溢れてきてしまった。・・・・どうしても、止まらない。

「・・・・・・邪見さま~~~~~~~~・・・」

そんなりんを見た邪見は慌てふためき、里の者に案内されるがままにりんを連れて
大きな屋敷に入り、用意されていたふわふわの布団へりんを寝かしつけたのだった。

 




 

  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








 

・・・翌朝、朝日のまぶしさで目を覚ましたりんは、今まで使ったこともない極上の布団に驚き、
寝台から起きると、知らない屋敷の縁側から、恐る恐る庭に出た。

高台にある屋敷の庭から眼下に広がる景色は、どこまでも続く棚田と、広い薬草畑。
人里と寸分変わらぬ田園風景だ。

「わぁ・・・すごい、田圃も畑もある・・・」

人里から出て、こんな風景のなかで生活できるとは思っていなかった。
庭で朝日を受けて背伸びをしたりんに、邪見がすっ飛んできて心配そうに声を掛けた。

「り、りん、大丈夫か・・・?!」

きっと、昨晩泣きながら殺生丸を見送ったことを気にかけてくれているのだろう。
人里に離れて暮らすようになってから、邪見はりんの涙に、めっぽう弱い。
りんの涙は主人からの足蹴に直結しているのが元々の原因だが、
最近では本当にりんのことが心配でならなかったのだろう。
りんは、元気に笑っていった。


「・・・・大丈夫!! 昨日は取り乱しちゃってごめんね、邪見さま」

「お、おう、それなら良いのじゃが・・・」

 

りんはにっこり笑って、邪見の手を取った。

「ねえ、邪見さま、りん、里を見て回りたい!!」

 

 

・・・・・・りん、待ってるね、殺生丸さま。

 


りんの、新しい暮らしが始まった。

 

 


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