あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

アナタノモトヘ・・・・・前篇 ・・・・・

psychopomp の時子さまの作品 『アナタノモトヘ』 に寄せて。

推奨BGM ⇒ 『いとはかなし』 を聞きながら書きました。 
空気感、5割増し。 リピートで、ぜひとも。












アナタノモトヘ ・・・・・・・前篇・・・・・・・・



 









 

 


――――― ・・・次に会えるのは、師走だね、殺生丸さま
――――― きっと・・・寒いね

 

――――― ・・・・・何か必要なものがあれば、言うがいい

 

――――― ううん、りん、殺生丸さまに会えるだけで嬉しいの
――――― あ、でも・・・


――――― でも・・・?


――――― せっかくなら、出湯(いでゆ)に行けたら、嬉しいな・・・・
――――― 出湯に足を浸して、温めながらお話するの
――――― ・・・それなら、寒くないでしょう?

 

そう言って、お前は微笑んだ。

 

・・・私が、あの娘の願いを叶えなかったことは、一度もない。

 

 

 

 

 

 

 


******************

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・夕方から降りだした白い雪は、鄙びた寒村を、雪景色に変えていた。


寒い寒い、師走の夜。
満月に近づいた月の光が、夜になるといつもより数段明るく見える。
そんな村の中を、藁ぐつを履いた男が、必死に楓の小屋を目指していた。
松明を持たずとも、男の吐く白い息まで、月明かりでよく見える。

「か・・・楓さま! う、うちのおっかあが、急に産気付いたんだ!!
 けど、なんか様子がおかしいんだ!  助けてくだせぇ!!」

同じ村に住む利吉が、楓の小屋に飛び込んできたのは、
老巫女と少女がすでに眠りについた、夜も更けてからのことだった。

 


・・・一刻後、老巫女と少女は利吉の小屋にいた。
利吉の妻の小夜は、二人目の子供を身籠っている。
静まり返った夜更け、外には雪がしんしんと降りつもっている。
囲炉裏で、パチパチと木がはぜた。
家の中には、産気づいた母親の荒い息だけが響いている。

「・・・・・・」

外の寒さが、じんじんと足元から這いあがってくる。
りんは、かじかむ手を擦り合わせながら、腹を触診する楓の表情に気を配る。

もうすぐ七か月目に入ろうとしていた母親の、ここ一ヶ月の状態を思い返してみても、
特に変わった様子はなく、体調は安定していたように思う。
りんも、このお腹の大きな母親と一緒に、毎日川で洗濯していたから、
普段から母親の様子や体調には、それとなく気を配っていた。
毎日一緒に洗濯についてくる三つの小さな娘が目を輝かせて、りんに何度も何度も、
「ねえ、りん姉ちゃん、ややはいつ出てくるの?」 と聞いた。
その度に、母親とりんは顔を見合わせ、くすりと笑って 「もうすぐよ」 と答えたのだ。
その娘は今、泣きそうな顔をして苦しそうな母親の様子をじっと窺っている。


「・・・・・・うーーーーむ・・・」

「か、楓さま・・・」

おろおろと心配そうな利吉に、楓は難しい顔のまま、言った。

「・・・・まだ、産月は先じゃが・・・」

「さ、小夜は、助かるんじゃろうか・・・?!たっ・・・助けてくだされ、楓さま!!」

利吉の必死の表情に、楓は頷いた。
とにかく、出来る限りのことをするしかない。

「・・・悪いが、そなたと娘は小屋から出ておくれ。
 この状態では産屋まで連れていくのは危険じゃ。
 ここで産むしかないからの。 娘と共に、近くの家にでも身を寄せておくれ」

「・・・おっかあ」

三つになる小さな娘が、泣きそうな顔をして、か細い声で母を呼んだ。
床に伏した母親は、娘の声に、青ざめた顔で微かに笑みを浮かべた。

「・・・・おっとうと、良い子にしてるんだよ、すず・・・」

その言葉に、すずと呼ばれた小さな娘は、みるみるうちに目に涙を浮かべた。
母親の様子が気になって仕方がないのだろう。
しばらくむずがっていたが、利吉が有無を言わさずに抱きあげて家から出ると、
家の外から大きな泣き声が聞こえた。

りんは、娘の泣き声を痛ましく思いながら、楓の言葉に素早く湯を沸かす準備を始めた。
楓は、ここで産むしかない、と言ったのだ。
それは、たった一つのことを意味している。
りんは、自分の表情が陰っているのに気がついていたが、どうしようもなかった。

子供が生まれてくるのは、十月十日。
この母親の胎内に宿った命は、まだ七カ月にも満たない。
生まれてくる子供は・・・多分、生きられない。

この村の母親たちは、皆、平均しても5~6人は子供を産む。
そのうち、七歳まで無事に育つ子は、生まれる子の6~7割くらいなのだ。
生まれても産声を上げられない子もいるし、病や怪我で亡くなる子もいる。

この仕事を手伝うようになってから、りんは楓から教えてもらった。
子供は、『七歳までは、神様の子供』 なのだ、と。

小さな子どもは、無事に生まれてきたのだとしても、とても脆い存在だ。
病に対する抵抗力も弱ければ、ほんのちょっと目を離した隙に怪我をして、
あっけなく命を落としてしまうことも多い。
・・・神様のもとに、すぐに戻ってしまう。
だから、七歳までは神様からの預かり物なのだ、と。

それは、小さな子供を亡くす母親たちを慰めるための言葉だったのかもしれないし、
神様の元へ還ったのだ、と、辛い気持ちを和らげるための人の知恵なのかもしれない。

この母親のお腹の中の子供は、産月を待たずして生まれてこようとしている。
先ほど、楓が触診している時に、りんは母親の敷布団がぐっしょり濡れているのを
見てしまった。
楓も、それを見て一瞬言葉を失っていたから、間違いない。
恐らく、赤子を包んでいる体内の袋が破水してしまったのだ。
こうなってしまうと、とにかくお腹の中の子供を産むしか、母親の命を救う方法がない。
・・・子供は、恐らく生きられない。
きっと、未熟な体では自力で息ができないだろうから。

「よし、頑張るんじゃ! 元気な子供を、産むぞ、小夜!」

楓の声が小屋に響く。

楓は、元気な子を産むぞ、と母親に声を掛けながら、そっとりんに目配せをした。
「小夜に、本当のことを言ってはならぬぞ」 と。
生まれてくる子供は、きっと死産だと伝えてしまえば、母親の気力が衰えてしまう。
そうなれば、今度は母親の命が危ない。

緊張で、胃の腑がきゅっと苦しくなった。
今まで何度も立ち会ってきた出産だが、やはり年に数回はこういうことがあるのだ。
母親の体力が持たずに、母子ともに帰らぬ人となったこともある。
・・・女にとって、出産とは命がけなのだ。
りんは、苦しげな表情で頷くと、母親の額の汗をぬぐった。


・・・楓とりんは交代で僅かな睡眠を取りながら、母親の出産に立ち会った。
ただならぬ様子に、危険な出産を察したのだろう。
朝になると、近所の母親たちがりんと楓のために、そっと握り飯を差しいれてくれた。

夜更けから朝を迎え、そのまま昼になっても、子供は生まれてこなかった。
楓は難しい顔をしたまま、りんに言った。

「りん、家まで灸を取りに帰ってくれるか」
「はい・・・!」

楓の灸は、とてもよく効く。
通常の妊婦であれば、陣痛の痛みを和らげるために使う。
だが、なかなか子供が生まれないときには、通常とは灸を据える場所を変えて、
陣痛を促進させる為に使う。
灸を据える場所はとても見極めが難しくて、こればかりはりんにも真似できない。
この近辺の村には、出産の際に楓の灸に助けられた母親が多くいる。

りんが灸を取りに帰るため外へ飛び出すと、遠く離れた民家から、利吉と腕に抱かれた
娘のすずが心配そうにこちらを見ているのが見えた。

飛びだしてきたりんを見て、利吉は慌てて深々と頭を垂れた。
この村では、男の人は、出産に立ち会うことはできない決まりになっている。
通常、産屋で産む場合は、男は産屋の近くに寄ることすら禁忌とされているのだ。

遠くから身重の妻を見守ることしかできない利吉の心中を思うと、りんは胸が詰まった。
一瞬唇を噛んで、利吉に向かって頭を下げると、灸を取りに小屋へと走り出した。


・・・外は、藁ぐつが埋まってしまいそうなほどの、雪だった。

 

 
 

 

 

*******************

 

 



 


・・・・私は、白雪の降り積もった一面の銀世界で、りんを待っていた。

 

・・・もう半日、一人で私は村はずれの高台に佇んでいる。
あの娘が私との逢瀬の約束に遅れたことは、一度もないのだが。

・・・きっと、何か理由があるのだろう。
りんの匂いは、村の中から流れてくるのだから。


あまりに遅いので、先程、空に浮かび村を見ていたら、何かを持って必死に走る、
りんの姿が見えた。

・・・藁ぐつが埋まりそうなほどの雪の中を、りんは必死に駆けている。


りんは、その何かを抱えたまま、一軒の小屋の中に駆けこんでいく。
私の鋭敏な嗅覚は、積もった雪の匂いとともに、りんの匂いを感じ取る。
りんを包む、さまざまな匂いも。

あの小屋の中にいるのは、あの老巫女と、村の女・・・。

荒い息遣いと、血の臭い―――――・・・。

 


(・・・・・中にいるのは・・・産女(うぶめ) か・・・・・・ )


老巫女と共に、りんが産婆の見習いをしている話は聞いている。
人里に預けてから、もう何年も過ぎた。
りんとて、幼いころのままではない。

・・・今やあの老巫女の右腕となっているのだろう。

 

・・・人里に預けたばかりの頃の幼いりんの声が、私の記憶を撫でる。


「あのね、男の人は手伝えないんだよ、殺生丸さま。
 男の人は、産屋っていう小屋に近づいても駄目なんだって。・・・厳しいよね。
 でも、お産は、女の人だけの神聖なものだからなんだって、楓さまがそう言ってた」


――― そうか、と言った私に、くふふ、と幼いりんは笑って言った。


「・・・りんに出来て、殺生丸さまに出来ないことがあるなんて、りん、びっくり」


照れたように言って嬉しそうに笑う娘の頬は上気していて、私は、そんなりんの様子に
目を細めながらも、あの老巫女の言葉を正しいと認めざるを得なかった。

りんが自分で選べるようになるまで、あの娘は人の中で生きるべきだ、と―――・・・。

 

・・・りんのことだ。

今日の、私との逢瀬の約束を忘れるはずがない。

・・・ただ、あの娘は目の前の病人を放って私に会いには来れぬのだろう。

自分が言葉を無くすほど心を痛めていても、
必死に、目の前にいる傷ついた妖の看病をしようとした娘なのだ、あれは。


やがて、小屋のある方角から、独特の匂いが風にのって届いた。
先程、りんが抱えていた乾燥した草の燃える匂いだ。
・・・産女(うぶめ)に施す、何かの治療なのだろう。


・・・・もうしばらく、待つとするか・・・・・・


私は目を細めて、雪のちらつく白い空を見上げた。
かつての私には、思いも及ばぬことだ。


・・・誰かの為に、待つことも厭わぬなど。


白銀の世界に佇む美しい妖は、そう思うと、その白皙に微かに苦い笑みをうかべた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・後篇へ・・・

 

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