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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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神成りとむすめ<3>


殺生丸の意識はこの世界と徐々に融合しはじめていた。

 
・・・己と、世界との境界線が・・・・消えていく・・・

 


僅かに残った意識で、殺生丸はそう思った。

 










神成りとむすめ<3>

拍手[92回]

 

 


 


急激な変化を繰り返す世界の中に溶けかかり、揺らぐ殺生丸の意識に、
静かな件(くだん)の声が響く。

 

 

―――――殺生丸さま・・・・ 

―――――あなたは、戻らねばならない・・・

 

 

 


―――――・・・戻・・・る・・・?

 

 

 

 

―――――翁の声が、聞こえた。

 

 

 

―――――・・・殺生丸さま・・・どうか、あなたを包む天生牙の力をお感じください
―――――まことに良き刀じゃ、主の魂を守ろうと必死になっておる

 

 

――――― 天・・生牙・・・

 

 


殺生丸の意識に答えるように、周囲に暖かな光が満ちる。

 

 

 

――――― 今、殺生丸さまが体感されているこの森羅万象は、体内に眠る太古の記憶

 

 


――――― 記憶、だと・・・?

 

 


――――― 神と成るには、神々の世界の成り立ちのすべてを知らねばなりません

――――― あなたさまには今、体内に眠っていた神々の記憶すべてが、
――――― 瞬きを一つする間に100年を過ぎる早さで流れ込んでいるのです

――――― 命は皆、生まれくるときにその記憶を白紙に戻します
――――― それゆえ、自らの命の起源がどこにあるかさえ知りませぬ

――――― されど、殺生丸さまは、今それを目前でご覧になられている・・・

 

 

 


――――― ・・・・ああ

 

 


確かに、見た。
この世に、天と地が生まれた瞬間も・・・命が生まれた瞬間も。


殺生丸は、消えかかる己と世界との境界線を、ゆっくりと再認識していく。
件(くだん)の言葉を、心の中で繰り返す。

 

 


・・・そうだ。
・・・・・私は、戻らねばならぬ・・・。


・・・・・・私の・・・ただひとつの愛しいもの元へ・・・

 

・・・・・・りんの元へ、私は戻らねばならぬ。

 

 

 

 


――――― なるほどな・・・神成りの道か
――――― 出雲で顔を合わせるゆえ、神々の顔と名を覚えておけ、ということか・・・?

 

 

 

殺生丸のしっかりとした声音に、翁の、嬉しそうな声が響いた。

 

 


――――― さすがは、殺生丸さま・・・!
――――― しっかりと己を、取り戻されましたな
――――― 今までこの神成りの道で、どれだけの魂がこの世界に溶けてしまったことか・・・

 

 

 


――――― それが、あの池に入る前に件(くだん)の言っていた
――――― 「実体を無くした神になる」ということか

 

 


――――― さようでございます

――――― かつて狗神の御印を求めて、多くの一族の方々が、ここで消えてしまわれた
――――― この、神の世界に溶けてしまったのです

――――― 神成りを成し遂げるのは、容易なことではない・・・
――――― この世界で己を保つには、比類無きほどの大きな魂の器が必要なのです

――――― 尊い血を受け継ぐ一族といえども、そのような魂はそう多くはない・・・
――――― それ故、闘牙王様に続く狗神は現れなかったのです
 

   
――――― さあ、あそこをご覧ください
 
 

 

 

殺生丸が世界の下の方を見ると、地表の更に奥に、暗く深い世界が広がっている。

そこへ広がるのは、禍々しい漆黒の闇の世界。
・・・かつて、殺生丸が見たことのある世界だ。

 

 


――――――――― あれは・・・冥界・・・・?

 

 


――――― さよう・・・・あの場所へは、行ったことがおありですな?

 

 

――――― ・・・ああ  だが何故、私が冥界に行ったことをおまえが知っている?

 

 

――――― 天生牙を持つ者が必ず通らねばならぬ試練だと、闘牙王様よりかつて伺いました

 

 

 

―――――  ・・・・・そうか

 

 

 


――――― よく見てくだされ、殺生丸さま

 

 

 

 

 

殺生丸は、いつの間にか、ずいぶん遠くから世界を眺めていた。
神々の生まれていた天界も地上界も、そして冥界も、手のひらに収まりそうなほど、
とても遠くに見える。

翁の言葉に、殺生丸が冥界へと意識を向けると、くすんだ小さな光の粒が群となり、
流れるように冥界に吸い込まれているのが見えた。

 

 

――――――――― あれは・・・・

 

 

 

――――― あれは、寿命の尽きた命・・・死んだ者の魂でございます、殺生丸さま

 

 


――――― 死者の魂・・・だと?

 

 

 

殺生丸は、冥界に吸い込まれていく死者の魂の群に、あることを思い出す。


一度目はりんと琥珀を追って、二度目は犬夜叉と共に、殺生丸は冥界の真の闇の奥に
足を踏み入れた。

・・・確かに、冥界の真の闇の奥には、恐ろしい吸引力で死者を吸い込む、何かがあった。
殺生丸にも、あれが一体何だったのか分からぬままだ。
だが、あそこに吸い込まれたら最後、決してこの世に戻ることは叶わぬ、と
本能で感じたのを覚えている。

死者の魂は、あそこへ流れるように吸い込まれていくのだろう。

 


・・・だが、遠くから世界を眺めることで、殺生丸はあることに気がついた。

 

 


――――― 冥界へ吸い込まれた命が・・・また、天へ昇っていく・・・?

 

 

 


――――― お気付きになられましたか、殺生丸さま

 

 

 

・・・冥界へ吸い込まれ、流れ込む光は、くすんだ色をした死者の魂。

だが、冥界へ吸い込まれるくすんだ魂の光は、どんどん新しく冥界へやってくる死者の魂に
押し出されるように、やがてまた地上へ滲みだし、ふわりふわりと天へと昇っていくのだ。

・・・昇るときには、見違えるような輝く金色の光となって。


天まで昇った魂の光は、しばしの間天界を漂い、やがてまた柔らかな雨のように
地上界へと天降(あも)りゆく。
地上で受け止められた魂の光は、再び生命体としての命の器を得る・・・・・。

天界、地上界、冥界のすべてを手の上に収まるほど遠くまで離れて見ている殺生丸には、
命が淀みなく三つの世界を巡っているのが、手に取るように分かった。

 

 

 

――――― ・・・ 命は・・・この三世界を巡っているのか・・・?

 

 

――――― 殺生丸さま、冥界をどう思われておいでですか・・・?
――――― ひどく暗く、ケガレに満ちた禍々しい場所、とお思いだったでしょう?

 

 

 

―――――  ・・・・・。

 

 

 

――――― 確かに、実際に冥界まで赴かれた殺生丸さまならば、
――――― あそこを美しい清浄なところだとは思われますまい

――――― 冥界に満ちていた闇とケガレ・・・
――――― あれは、巡る魂が地表で生きた間に付いてしまった魂の澱(おり)なのです

――――― 魂は、地表で生きた記憶と澱(おり)を冥界で拭い落とし、
――――― また光る金色の魂に戻り、天へと戻っていくのです

――――― そしてまた、命の器を得るために、天より地上へと天降りゆく

――――― 天より天降りゆく魂と命の器、その縁を結ぶのが・・・神のつとめにございます

 

 

 


――――― 神のつとめ・・・か。
――――― それが、出雲で執り行われる神議りというわけか?

 

 

 

――――― さようにございます、殺生丸さま
――――― 神々がこの三世界を支え、魂を導いてやらねば、命は巡りませぬゆえ・・・

 

 

 


――――― 巡る命・・・か
――――― 命の長さに差はあれど・・・妖も人も・・・皆、あの光の一粒にすぎぬのか・・・

 

 

 


――――― ・・・命を得て、この世を生きるとは、そういうことです

 

 

 

・・・殺生丸の中に、やるせない、静かな哀しみが広がってゆく。
己も、りんも、あの光の一粒にすぎない。
巡る命の、一瞬なのだ。

かつて 『覇道』 を進むと信じていた己が、何と幼く思えることか・・・。

手のひらの上に三世界を眺め、殺生丸は思う。
・・・この世界に 『覇道』 など、どこにもないのだ、と。

かつて己に課した肩の荷が、ゆっくりと砂のように崩れていくのを感じていた。

・・・この世界にあるのは、永遠に巡る命の軌跡。
一粒の命の光がどんなに力を持ったところで、この巡りの中の一瞬にすぎぬ。

狗神であった父上は、それをご存知だったのだ・・・。

己の息子が、『覇道』 という虚無に向かうのはさぞかし、やるせなかっただろう。
そこに辿りつくことなど、永遠にありはしないのだから。

「護るものは、あるか・・・?」

最期に私に問われたあの言葉は、
私たちの一族に与えられた特別な力は、大切な者を護るための力なのだ、と
父上は私に、そう伝えたかったのだろう・・・。

 

 

 

――――― ・・・・翁よ
―――――  巡る命を、無理に引き留めると、どうなる

 

 

 

――――― ・・・行き過ぎる延命は、まずは肉体という器を損ないます
――――― ・・・器が損なわれれば、魂が損なわれます

―――――  殺生丸さまがこの神成りの世界で溶けてしまわれなかったのは、
―――――  それに耐えうる魂の器をお持ちだったからでございます

―――――  魂の器には、限度がございます
―――――  妖には妖の、人には人の、限度があるのです

―――――  器を丈夫にすればある程度は命を引き留められましょうが、
―――――  限度を越えることは出来ませぬ

 

 

 


――――― ・・・・そうか

 

 

 


――――― ・・・ですが、殺生丸さま
――――― 命が巡る限り、惹かれ合う魂は、必ず再び巡り合います

 

 

 

―――――  ・・・どういうことだ・・・?

―――――  冥界で記憶は無くすのだろう・・・?

 

 

 

―――――  冥界にて生前の記憶は失われようとも、魂に深く刻まれた強い想いは消えませぬ
―――――  ・・・必ずまた、惹かれ合うものなのです

―――――  その想いを叶えてやるのも、神のつとめでございますよ

 

 

 

翁の言葉に、殺生丸は苦笑する。

 

 

 

―――――  ふん・・・それが、縁(えにし)結び、というわけか

 

 


―――――  ほっほっほ、さよう、さよう
―――――  闘牙王さまは、随分と嬉しそうにお勤めを果たされておりましたのう

 

 

 

翁の笑い声を聞きながら、殺生丸はゆっくりと心の中に広がる哀しみを受け入れる。
・・・想うのは、愛しいたった一つの命のことだ。

 

・・・・私は、いずれ手のひらからこぼれ落ちる命を愛している・・・。

千年を越える命の私と儚いりんの命とは、この三世界を巡る命の軌跡の中で、
また、巡り会えるのだろうか。

・・・一人で待つのは・・・長かろうな。

されど、待つのだろう、私は。
・・・・待つことしか、出来ぬのだろう。

そなたの魂に、私が刻まれていることを、信じて。

 

 

 


悟るようにそう思った殺生丸の鼻先を、懐かしい匂いがかすめた。

 

 

 

―――――― この匂いは・・・

 

 

 

ふと気づくと、殺生丸は、また暗闇の中に漂っていた。
光の巡っていた手のひらの上の世界は、もう見えない。

 

 


・・・・ここは・・・

 

 

天生牙の光は、相変わらず己の周りを包んでいる。

 

 


・・・今のは、父上の・・・

 

 


そう思った瞬間、殺生丸は自分に手足の感覚があることに気が付いた。
右手を目の前まで持ってきてみると、確かに、己の手が見える。

・・・少々、向こうが透けて見えてはいるが。

 

 

・・・・・これではまるで幽霊だな

 

 

殺生丸がそう思いながら匂いをたどり、闇の中を歩いていくと、
・・・・見覚えのある後ろ姿が見えた。


・・・胸の中をこみ上げてくる感情がある。

言葉を紡げるようになるまで、しばらくかかった。

 

 

 

―――――――――― ・・・お久しぶりです ・・・・父上

 

 

 


―――――――― ・・・・・殺生丸か・・・?

 

 


闇の中に、陽炎(かげろう)のように浮かんでいる、闘牙王の姿。
殺生丸の言葉をうけて、ゆっくりと振り返る。

 

 


―――――― 久しぶりだな、殺生丸

 

 


――――――――― 父上・・・

 

 


闘牙王は、柔らかく笑う。

見覚えのあるそれは、出雲に行ってくる、と、
嬉しそうに幼い殺生丸の頭を撫でていた、父の表情。

 

 

 

――――― そうか・・・
――――― ここにきたということは、おまえにもやっと、護る者ができたのだな・・・

 

 

 

―――――――――  父上・・・あなたは・・・

 

 

 

―――――― そなたがここに来るのを、ずっと待っておったのだぞ、殺生丸

―――――― 狗神の御印を譲り渡すまでは・・・
―――――― 私は、あの命の巡りに魂を任せることができぬのでな

 

 

 

―――――――― 母上が・・・いらしたはずだ

 

 

 


闘牙王は殺生丸の言葉に、陽炎(かげろう)のような姿のまま、肩をすくめた。

 

 

 

―――――― あれは、ここで年に一度私に会うのが楽しみだと言って、狗神の御印は、
―――――― 受け取ってはくれなかった・・・

―――――― 出雲へは代理として赴いてやるが、御印は殺生丸に渡せ、とな

 

 

 

 

―――――― ずっと、ここに・・・?

 

 

 

 

―――――― ・・・まあな

―――――― ここは、高天原にも、地上にも、冥界にも繋がっている
―――――― そなたたちのことも、よく見えた

 


――――――――― ・・・私がおまえに課した修行は、少々荒っぽかったか?

 

 


闘牙王の口元は、笑みを含んでいる。

殺生丸は呆れたように、溜息をついた。
思うことも言いたいことも、山ほどあった。

・・・あなたの力に、どれだけ私が執着したことか。

されど、それもすべて済んだことだ。
失った執着に、あれこれ文句を言えるほど、殺生丸は器用ではない。

 

 

 

――――――――― ・・・・・・父上は、人が悪い

 

 


呆れたようにそう言った殺生丸に、闘牙王は笑った。

 

 


――――― 私には、そなたが私などよりずっと強くなることが、よく見えていた

――――― あれくらいの試練ならば、必ず乗り越えることもな

 

 


闘牙王は、そう言いながら、ゆっくりと殺生丸へ歩み寄った。

闘牙王の右手が、柔らかな虹彩を放っている。
殺生丸の前で、闘牙王はその光を放つ右手をゆっくりと殺生丸の額にかざした。

 

 

――――― 狗神の御印を受け取ってくれるか、殺生丸?
――――― ・・・私もそろそろ、あの巡る光の中へ戻りたい

 

 

 

―――――――― ・・・父上・・・・・

 

 


・・・・二人の大妖が、虹色の光を帯び、しばらく見つめ合った。


やがて殺生丸が静かに目を閉じると、闘牙王の右手から滲みでていた虹色の光は、
殺生丸の額へと流れるように吸い込まれていく。

・・・・光が流れ込むにつれ、殺生丸は体中に恐ろしい力が漲ってくるのを感じていた。
・・・・・この力は、爆砕牙を手にしたときの比較ではない。

 


闘牙王の、静かで力強い声が響く。

 

 

 


――――― これは、世界を支え、護るための力・・・・・・ 命の巡りを、導く力

――――― 殺生丸・・・そなたはこれより、狗神となる

――――― 神の目を持ちて、神の力をもちて、三世界を修(つく)り固め成すがよい




―――――――  さらばだ・・・・

―――――――  また、巡り会おう、殺生丸・・・誇り高き我が息子よ・・・

 

 

 

 


――――――――― ・・・父上・・・・・

 

 

 

 

 

ふわり、と風が吹く。

懐かしい香りが、殺生丸の周囲を舞い・・・やがて、消えた。

 


ゆっくりと殺生丸が目を開くと、そこは、白い雲の上だった――――――― 。

 

 

 

 

 

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