あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

従者のつとめ






従者のつとめ



ほんに、あれはワシの不覚じゃった。

ほれ、あの奈落のつまらぬ置き土産、最猛勝という毒蜂に刺された時のことじゃ!

殺生丸様が闘鬼神で鮮やかに一網打尽になさったが、
辛くもその攻撃から逃れた奴らが、ワシを刺したのだ!!

まったく、あの時の痛みは忘れられん。

腕がズクン、ズクンと痺れてきての。
毒が効いてくるにつれて目は回るし息は上がるし、体中が痛うて痛うてたまらん。

あれは、死ぬと思うたな。

ワシは代々武蔵野の草原に住んでおった由緒正しい妖怪であるが、
殺生丸さまとは比べようもない悲力な妖怪じゃ。
己の非力さはよう分かっとるわい。
非力な妖怪には非力なりに、己を守る知恵というものがある。
先祖代々、こんな妖怪にはかなわぬから気をつけろ、とか、
こんな毒にはこの薬草が効く、とか、そういう口伝なるものが伝わっておったのじゃ。

その口伝の中に、
「妖の力を帯びし毒蜂」
なるものがあった。
初めて最猛勝を見たときに、「これが!」と思うたわい。

まあ、刺されるとは思わなんだがな・・・。
殺生丸様のお側におれば、あのようなもの恐るるに足らぬと思うておったし・・・。
あっ・・・べっ別に守ってもらおうなどと思っておったわけではないぞ!!
あくまで、ワシは殺生丸様のお役に立つべく、お側に控えておるんじゃからな・・・!!

でもまあ、あの時は殺生丸様は最猛勝を追って飛んで行かれてしまわれるし、
本当に万事休すというか、もうダメじゃと思うたよ。

ワシ等の一族に伝わる口伝ではこうあった。
「妖の力を帯びた毒蜂に刺されし時は、日の沈むまでに千年草を食すべし」
・・・つまり、ワシの命は日が沈むまでということなのじゃ。

残されたのは何の力もない非力なりんと、毒に犯されたワシ。
絶望的じゃろ?

・・・が、りんは悲嘆にくれるワシに泣きながら申し出た。
「邪見様の死ぬとこ見たくないよ」
「なんでもするから、言ってよ!」
とな。

・・・あの時ほど、りんが輝いて見えたことはない。

毒に反応した体が熱を上げ始め、ゼイゼイいっておったが、
何とかワシは地念児の薬草畑を説明した。
以前、何度か薬草を求めたことがあったから、あそこなら間違いないと思うたのじゃ。

説明しながらも、ワシは不安じゃった。
もし、地念児が千年草の実を持っていなかったら・・・?

幼い人間の娘が、千年草を自力で取ってくるとは到底思えなかった。
その時は・・・言うまでもない。

あるいは、殺生丸様がお戻りになってくださるのではないか、とも思うた。
じゃが、殺生丸さまが敵を追っているときにワシの為に引き返すだろうか。
りんが自力で千年草を見つけるのと同じくらいの可能性じゃな。
戻ってこられても、日が暮れておったら手遅れじゃし・・・。

一人になると、なんだか涙がこぼれてしかたなかった。
このまま、ワシは死ぬのだ。
誰にも看取られることなく、たった一人で。

殺生丸様にお仕えしたことには悔いはない。
あのような強大な妖怪にお仕えできたことは、ワシの誇りじゃ。
・・・じゃが、あまりに寂しいではないか。

せめて、りんだけでも側にいてくれたら・・・

そう思って、ふと不思議に思った。
そもそも、りんはどうして殺生丸さまと共に旅を続けておるのじゃ・・・?
人間にとっては妖怪と旅をしても良いことなど何も無いじゃろうに。

ワシが武蔵野にすんでいた頃、何度か見かけたことのある人間は、
常に五穀の出来具合を気にしておった。
雨が降らない、雨が降りすぎる、
その様な時にはワシ等の住処の近くまで来て、供え物をしておったからの。
近くの沼には河童が住んでおって、その供物次第では河童が龍神に頼んだりして、
雨を降らせてやったりしておったようだが。
ワシの一族の爺様が言うには、
『人間どもは畑の作物と五穀がなければ生きてゆけぬのだ』と。

考えてみれば、りんはきちんと五穀など食べておらん。
そりゃ、そうじゃ。
毎度毎度、食べられるものを食べて旅をしておるんじゃからの。
まあ、たまにはイノシシやら蜂蜜やらスッポンやら、
めったに人間どもが口にできぬものも食べてはおるが・・・。
ちゃんと五穀も食べねばいかんのだろうか?
そうならば、ワシが知恵を絞って人里から盗んでくるしかあるまいが・・・。
食べ物が足りないことが原因でりんが病気にでもなったら、
ワシは殺生丸さまから大目玉じゃ・・・。

そこまで考えて、ああ、そんなことももう出来ぬのか、と思う。

ワシはこのまま死ぬのじゃ。
りんに、五穀を食べさせてやることすら、出来ぬ。
白い米の握り飯など、りんは食べたことすらないかもしれぬ。
腹一杯食べさせたら、さぞかし喜んだことじゃろうに・・・。

またも、涙がこぼれた。

空を見ると、すでに夕暮れが広がっている。
太陽が山肌に近づいていた。

あの太陽が消えるとき、ワシの命も尽きる。

苦しくて体から滝のように嫌な汗がでる。
息をするのもままなならぬ。

ああ・・・。






そのときじゃ。




熱で霞がかった視界に、殺生丸様の姿。


くしくしくし・・・


「・・・へけ?」


ゆらゆら揺れる殺生丸様は、薬草をワシに放られた。

それは・・・千年草の実!!


ワシはあふれる涙を拭うこともせず、千年草の実をかみ砕き、飲み込んだ。


・・・最猛勝の毒が、嘘のように消えていった。










ワシは、あの時、てっきり殺生丸さまが千年草の実を取ってきてくださったのだと思った。
りんは恐らく失敗したのじゃろう、と。
ひれ伏して何度も礼を言うワシに、殺生丸様はうるさそうに「私ではない」と仰られた。

・・・ということは。

りんが取ってきてくれたのか・・・?

面を上げたワシに、殺生丸様は気を失ったままのりんを見ながら言われた。

「りんはその実を手にした直後、崖から落ちた」

「え゛?!」

そういわれれば、りんの手足は泥だらけじゃった。
よく見れば、足には擦り傷もある。

千年草は、妖怪どものたまり場になっておる険しい崖に生えると聞いている。
じゃから、ワシ等のような非力な妖怪は地念児に薬草を求めるのだ。
まともに取りに行ったら命がいくつあっても足りぬからの。

まさか、りんが一人で崖まで取りに行くとは思わなんだ・・・!

ワシは再度ひれ伏して、許しを乞うた。

「あ、あの、殺生丸様、申し訳ございません・・・!!その、まさかりんが一人で薬草を・・・」

「邪見」

「は、はい・・・!」

「必要ならば、備えておけ。りんの分もだ」

「は・・・」

面を上げると、殺生丸さまはりんを見ていた。

・・・それは、とてもとても優しい眼差しじゃった。
殺生丸様がこのようなお顔をされることが、今まであったじゃろうか・・・?

思えば、りんがあの最猛勝に襲われたことは、
殺生丸様にとってかなり不愉快なはずに違いないのだ。

ワシはふと、「刺されたのがワシで良かったのかもしれぬ」と思うた。
あれがもし、りんだったら・・・。

そこまで考えるとゾクゾクと寒気がした。
今後、万が一りんに何かあったときのために、りん用の薬草を用意せねば・・・。

そこまで考えてりんを見ていると、どんどん不安になってきた。

大丈夫じゃろうか・・・
ちゃんと、目を覚ますのじゃろうな・・?

「あ、あの、殺生丸様、りんは大丈夫なので・・・?」

殺生丸様はそっけなく、

「気を失っているだけだ」

と仰られた。が、りんを見る眼差しは柔らかい。

殺生丸様は手を伸ばし、そっとりんの額にふれた。
りんのまぶたがかすかに震えた。

「りん・・・」

ワシは心配じゃった。
崖から落ちたと聞いた。
幼子の体にどれだけの負担がかかったことじゃろう。
まあ、殺生丸様が救ってくださったということなら、
大丈夫なのだろうが・・・。

殺生丸様はりんから手を離すと、立ち上がり、牛寅の方角を向かれた。
恐らく、奈落の行方を追うおつもりなのだ。

「う・・・」

りんが、目をあけた。
ワシは思わず駆け寄り、りんの様子を確かめた。

「おお・・・!目を開けた!」

りんはゆっくりと起きあがると、ぼうっとしたまま呟いた。

「邪見さま・・・元気になったの?」
「・・・それともあたし、また死んじゃったの・・・?」

ワシは涙がこぼれそうになるのをぐっと堪えて言った。

「殺生丸様がお前を連れてきてくださったのだ。
 もう、殺生丸様のお手を煩わせるではないぞ・・・!」

「うん・・・ごめんね、邪見様・・・」

りんはワシの方を向き直ると、顔をぐしゃぐしゃにしながら抱きついてきた。

「うわーん!!」

堪えていたワシの涙腺も限界じゃ。

「良かった・・・良かったね、邪見様!」

「う・・・うるさい!離れろ、こりゃ!」

幼い手がワシをぎゅうと抱きしめて震えていた。
怖かったのだろう、と思う。
ワシでも強い妖怪だらけの谷に踏み込むなど、なかなかできることではない。

心が、あたたかかった。
ワシの為に、りんが危険を省みずにやってくれたことは、
人の子の手には余る試練だったに違いない。

肩に落ちるりんの涙が、暖かかった。


りんはひとしきり泣くと落ち着いたらしく、ワシをじぃっと見つめると、
涙で濡れた瞳でニコニコと笑った。

見計らったように、殺生丸様が「ゆくぞ」と旅立ちを告げる。

「はぁい!」

りんは笑顔で立ち上がった。

強い娘じゃ。

ワシは、嬉しかった。
なんだか、三人がまた一つになったような気がした。

暇を見つけて、これからは薬草を備えねばならん。
ワシの分と、それからりんの分もじゃ。

ああ、それから今度、腹一杯五穀を食べさせてやろう。

りんの笑顔が見たかった。


そんなりんを見る殺生丸様もまた、優しい眼差しであるに違いないのだから。



・・・従者のつとめだとは思わぬか?



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