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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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神成りとむすめ<14>


 

「答えてみよ、小娘」


「りん、には・・・」


―――― ほろり、と、りんの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
りんの表情を、ご母堂は顔色一つ変えずに、見下ろしている。

 

 

 

 

 

 

神成りとむすめ<14>


拍手[64回]

 

 

 

 

 

 


「りんには、何も・・・ありません・・・」


りんが人里で懸命に覚えてきた薬師の知識も、お産の知識も、考えてみれば何一つ、殺生丸の役には立たない。かごめや珊瑚のように、共に戦えるような力もない。分かっていたつもりだった。けれど、自分が情けなくて、仕方なくなってくる。りんは悪い妖怪におそわれても、自分の身すら守れないのだ。

りんの目から、ほろほろと、次々に涙がこぼれ落ちる。
喉が腫れたようになって、声がうまく出ない。

「りんは、いつも、殺生丸さまから・・・守って貰うばかりでした。りんにあるのは、ただ・・・殺生丸さまを想う気持ちだけ、です。本当に、それだけしか、ないん、です。りんが殺生丸さまにできることなんて、何も・・・」

最後は、言葉が嗚咽と一緒になった。

「りん・・・!」

先ほどから、ハラハラしながらりんを見守っていた邪見が、たまらずにご母堂の足下にひれ伏した。なぜだか分からないが、いつの間にやら、邪見も一緒に泣いている。涙もろいところは、相変わらず、人間くさい。

「 ご、ご母堂さま・・・!りんは、確かに、ひ弱な人間の娘でございます!殺生丸さまのような大妖怪には、ふさわしくはないのかもしれませぬ!ですが・・・ですが、りんは、あの殺生丸さまがこの世で唯一、大切に思われている存在なのでございます!どうか、どうか、りんの命は・・・・お助けください!!」

足下に突っ伏した小妖怪を見下ろすと、ご母堂は軽くため息をついて、りんの顎からその細い指を離した。

「 まったく、誰が、小娘の命を取ると申した。 人聞きの悪いことを申すでない、小妖怪」

「 え゛」

邪見が、鼻水だらけになった顔を上げると、ご母堂は呆れかえった顔をしていた。

「 ち・・・違うので?」

「  阿呆。 わらわは、そこまで悪趣味ではないわ。小娘、そなたも泣くな。 何やら、わらわが虐めているみたいではないか」

どこからどう見ても虐めているようにしか見えなかった、と思いながらも、邪見は下を向いて、その一言をぐっと飲み込んだ。母親似の主に長く仕えて、体で学んだこともある。沈黙は、金である。

「 ―――― されど、分からぬ 」

「え?」

ご母堂から洩れた言葉に、邪見が、思わず顔を上げた。

「 小娘よ、わらわには、未だに不思議でならぬのだ。300年もの間、頑なに変わることのなかった殺生丸の心は、お前という儚い人間の魂に触れて、急激に変化した。父の後を追うことしか知らぬ子犬だったのが、憐れみと慈悲の心を知り、他者を愛するようにすらなった。・・・あの、殺生丸がだぞ?そなたのような、人間の小娘の一体どこに、あやつを変えるような力があるというのじゃ? 強き子を残せるわけでもない。 戦いの助けになるわけでもない。そなたは、殺生丸の、何だ・・・?」

「 ご母堂、さま・・・」

りんは、目を見開いた。ご母堂さまは、りんが殺生丸を変えた、と思っているのだろうか。であれば、それは違う。

りんは、ご母堂の金色の目をまっすぐに見つめた。
あの人と同じ、吸い込まれそうになる、あまりに美しい金色の瞳。

「  りんが、殺生丸さまを変えることなど・・・できません。殺生丸さまは、最初から、とても優しかった。初めて出会った時から、とても、とても、優しかったんです」

りんの言葉を聞き、ご母堂はわずかに目を見開いた。

「 あやつが、元から優しかったじゃと?!」

「 はい」

りんは素直に、こくりと頷く。そんなりんの顔を呆れたようにまじまじと眺め、ご母堂は、大きなため息をついた。

「 小娘よ、わらわは、あやつの母親じゃぞ?」

「 はい」

両手を腰に当て、庭に仁王立ちになったご母堂は、りんを見下ろしてキッパリと言った。

「 それは、絶対にない!!」

あまりにキッパリと言い切るその姿に、邪見は心の底から同調した。そう、主は優しくなどない。優しいのも、甘いのも、すべてりんに対してだけである。

「  まったく・・・そういうことか。 本当に、変なところばかり、父親に似おって」

ご母堂はそう言って、縁側に敷かれた座布団の上に、ぼすんと腰を下ろした。殺生丸によく似た顔が、ふてくされた子供のように、ぶすっとして縁側から青い空を眺めている。ご母堂の言う 「 そういうこと 」 が何なのか、りんにも邪見にもよく分からない。

「 小娘よ」

「 はい」

まるで拗ねてしまったような顔で空を見上げたまま、ご母堂は口を開いた。

「 わらわは、これでも、少しは悪かったと思っているのだ」

「 ・・・え?」

りんは、目をぱちくりとした。いつの間にか、涙は乾いてしまった。ご母堂が言っているのは、一体、何のことだろう。邪見も、何のことだかさっぱり分からず、怪訝な顔のままご母堂を見ている。

「 殺生丸には、半妖の弟がいただろう」

「 半妖? 犬夜叉さまのことですか?」

「 犬夜叉、というのか」

「 あのー、犬夜叉めが、どうかなさったので?」

邪見が、恐る恐る、ご母堂に尋ねた。ご母堂が正妻なのであれば、犬夜叉は妾の子ということになるだろう。ふてくされた表情のまま、ご母堂は口を開く。

「 この屋敷はその昔、その犬夜叉とやらの為に作られたものだ」

ご母堂の言葉に、りんと邪見は、思わず目を見開いた。

「 えぇっ?!」
「 な・・・なんですと?!」

ご母堂は、ぶすっとしたまま言う。

「  200年ほど前だ。十六夜とかいう人間の姫が、闘牙の子を孕んだ。その腹の子が、殺生丸の弟じゃ。人間たちの中で半妖の子供を育てるのは大変だろうと、闘牙が、この医王の里に、屋敷を用意したのだ」

りんは、自分の部屋に用意されていた、几帳や脇息、髪箱を思い出した。
漆塗りに、彫金や螺伝細工が施された、雅な調度類。
あれは、200年前の貴族の姫に合わせて用意されていたものだったのだ。
りんが使ったこともないような道具類も、そう聞けば、納得できる。

「 でっ・・・ですが、ここに誰かが住むのは初めてだと、里の者に聞きましたが・・・」

邪見がそう言うと、ご母堂は仏頂面のまま、つんと向こうを向いてしまった。

「  ・・・ 結局、彼らが、この屋敷へ移り住んでくることはなかった。 闘牙の死後、あの親子は落ち延びて、都のはずれで暮らしていたと聞いている。この里のことは知らぬまま、闘牙とは死に別れてしまったのかもしれぬな。わらわは、この里の結界を守るよう、あの男に頼まれてはいたが、人間の姫と半妖の子の面倒まで見ろとは、言われてはおらぬ。それゆえ、わざわざ世話は焼かなかった」

殺生丸によく似た美しい顔が、こどものように、ぷう、と膨れている。
そんなご母堂を目の前に、りんと邪見は、顔を見合わせた。
いったい、どういうことなのだろう。
邪見が、ひそひそととりんの耳に囁いた。

「  でも、さっき、悪かったと思ってるって言っておったよな・・・?」
「 うん」
「 どういうことなんじゃろ?」

どきどきしながら、りんは、口を開く。

「 あ、あの・・・」

ご母堂は、ぶすっとしたまま、空を見上げている。
やがて、ぽそりと呟いた。

「 わらわは・・・知らなかった」

「 え?」

「  闘牙の死後も、あの親子の様子は配下の妖に調べさせていたから、どのような暮らし向きかは、分かっておった。 人間どもの中で、あの二人が苦労しているらしいこともな。じゃが、わらわの力で、わざわざこの里まで連れてきてやる気には、ならなんだ。別に、放っておいても、大丈夫だと思うたのじゃ。 わらわの感覚で言えば、そうだ。 野に生きる獣であっても、そうであろうよ。 天地の万象の中では、強き者だけが生き残るというのが、生きとし生けるものの普遍の定義だ。 獣は、強き雌でなければ、己の手で育てられぬならば、そもそも子は産めぬ。その人間の姫とやらも、そうだと思ったのじゃ。その力量を備えているからこそ、闘牙との間に子を成したのだろう、とな。・・・だが、わらわが思っていたよりずっと、人間とは、ずいぶん弱い生き物だった。あの母親は、闘牙がこの世を去ってから、わずか数年で死んでしまったのだ」

「・・・・」

りんは、犬夜叉が一人で生きてきたこと、そして、半妖ゆえにとても大変な思いをしてきたことを、知っている。かごめと出会う前は、手の着けられない乱暴者だったということも。それは、幼い頃からたった一人で、獣のように生きてきたからだったのだろう。

「 あの母親が死んで、わらわは、闘牙が最期にとったの行動の意味が、初めて分かった気がした。あの男は、己の命が残り少ないと分かると、この里の結界をわらわに託し、迷いなく、 あの十六夜とか言う人間の姫の元に向かった。『 守らねばならぬ 』 などと言ってな。・・・守らねば、生きていけぬからこそ、あやつは守ったのだ。 ただ、それだけだったのだろうよ。わらわは、無茶をするあやつを、癒し、守ってやったことは何度もあるが、 あやつに守られたことなど、一度もないからな」

ご母堂の表情に見えるのは、大妖ゆえの誇り。そこに、人間の姫に対する嫉妬はかけらも見えないように、りんには見えた。

「そもそも、守られねば生きてゆけぬなど、わらわには、考えられぬ。 そんなことになるくらいなら、死んだ方がましじゃとすら、思う。だが・・・人間という生き物は、そうではなかったのだな」

「ご母堂さま・・・」

思わず呟いたりんの表情を見て、ご母堂は面白そうにくすりと笑った。

「 言っておくが、わらわは、あの人間の姫に妬いているわけではないぞ。わらわは、あの男が・・・闘牙が、好きであった。 可愛い奴で、しょっちゅう無茶をしては、わらわを楽しませてくれた。 面倒見のいい奴だったから、次から次へと、色んな奴の問題をわらわの元へ持ち込んでくるしな。 思い返してみれば、わらわの城もあの頃は、ずいぶんと賑やかじゃったわ。  あれがいたお陰で、わらわはずいぶん長い間、退屈せずにすんだのじゃ。それゆえ、子も成した。・・・子の性格が父親に似なかったのは、実に残念じゃがな」

ぶすっとした表情でそういうご母堂に、りんは思わず笑いそうになってしまう。
けれど、続いた言葉に表情がこわばった。


 「だから別に、あの男が人間に懸想していると聞いても、わらわは何とも思わなんだ。強い男には、子を多く残す権利がある。相手が人間であれ、生まれくる子が半妖であれ、それ自体は何とも思わぬ。 むしろ、子は多い方が、賑やかで面白いであろう? 多くの者に囲まれ賑やかにしているのが似合う、 あやつは、そういう男だったしな。 ・・・だが、その闘牙が命を捨ててまで守り抜いた人間が、あっけなく死んでしまった。弱きものが死んでゆくのは、自然の理じゃ。 人間は、弱く、命は短い。 されど・・・あの人間の姫は、この里で暮らしていたならば、もう少し長く、生きながらえていたのかもしれぬ。そう思ったとき、わらわは少しだけ、悪かった、と思うたのじゃ。 闘牙の気持ちを、無駄にしてしまったのかもしれぬ、とな」

「 ご母堂さま・・・」

りんは、ご母堂の横顔を見ながら、思う。
すさまじい妖力と、超然としているたたずまいがそうは思わせないけれど、この人は、本当は優しい人なのだ。思い返してみれば、初めて会ったときもそうだった。冥道残月波をめぐる騒動の時にも、別れ際に、この人は、琥珀の命の不自然さに言葉を掛けてくれた。小さな人間の子供の命を、気に掛けてくれたのだ。

「  あの人間の姫が死んで、わらわは初めて、この里へ足を運んだ。 闘牙が、生前作った結界の中で、ここが一番、複雑で強固なものだったからな。  そこまでして、いったい何を守ろうとしていたのか、気になった。 実際に、この目で見てみようと思うたのじゃ。この里に暮らす妖や人間たちをみて、この屋敷を見て、わらわは初めて、闘牙がいかにあの人間の親子のことを気に掛けていたのかが分かった気がした。思い返してみれば、殺生丸が生まれたときでさえ、母親のわらわよりもずっと、あやつは子煩悩だったのだからな。生まれてくる半妖の子供のことは、さぞかし心配だったであろうよ」

遠くを見ながらそう話すご母堂さまを見て、りんは理解する。ご母堂さまが、「悪かったと思っている」と、呟いたわけを。亡くなった殺生丸さまのお父上のことを、ご母堂さまは、今でもずっと好きなのだろう。そして、お父上の気持ちを汲み取れなかったことを・・・後悔されているのだろう。

「 わらわは、そなたと会って、少しだけ分かった気がする」

「 え?」

金色の目が、まっすぐにりんを見ている。

「 好いたものに、強く必要とされることは、きっと嬉しいことなのだな ・・・。闘牙にとっても、殺生丸のような朴念仁にとっても、だ」

「 朴念仁・・・」

邪見があんぐりと口を開けている。
世界広しと言えども、あの主のことを堂々とそう言えるのは、ご母堂だけである。

「 小娘」

「 はい」

目の前のご母堂は、殺生丸によく似た美しい顔で、微笑んだ。

「 わらわが、そなたが殺生丸にできることを、教えてやろう」

「え・・・?」

りんは、思わず目を見開いてしまった。
りんが殺生丸にできることなど、あるのだろうか。
ご母堂は、りんから目を逸らし、青い空を眺めながら口を開く。

 

「 ―――そなたは、殺生丸の心を守れ。 そなたにしか、出来ぬことじゃ 」

 

「 殺生丸さまの、こころ・・・?」

 

 

 

 


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