あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

神成りとむすめ<15>


 

 

「・・・・そなたは、殺生丸の心を守れ。 そなたにしか、出来ぬことじゃ 」

 

「・・・・殺生丸さまの、こころ・・・?」

 

 

 

 

神成りとむすめ<15>

 

 

 

 

目をぱちくりして繰り返したりんの横で、邪見がおずおずと進み出る。

「・・・いやー、あの・・・ご母堂さま・・・??
 殺生丸さまは、りんなんぞに守られずとも、じゅーーーぶん、お強い気がいたしますが・・・」

ご母堂は邪見を見下ろすと、その美しい指をすい、と伸ばし、バチンッ!と小妖怪のおでこを弾いた。

「 いだーーーーっ!」

・・・デコピンである。
邪見の小さな体は、縁側の板間の上でいとも簡単にひっくり返ってしまった。
ひっくり返った邪見を見下ろして、ご母堂はニヤリと笑う。

「 ふん、阿呆。
  いつも殺生丸にくっついている割には、そなたもまだまだ分かっておらぬな、小妖怪 」

「 あっ、あの・・・!」

りんは、縁側に腰掛けているご母堂の傍に、にじり寄った。
今、ご母堂さまは、とても大切なことを教えてくれた気がする。
でも、りんにはまだ、よく分からない。
今まで、守られてきたのは、りんだ。
けれど、りんにも、守れるものがあるのだろうか。

「 あの・・・あの、教えて下さい・・・!
  りんは・・・りんは、どうやったら殺生丸さまの心を守れるんですか?!」

「・・・・」

にじり寄ってきた娘を前に、大妖の金色の目が細められる。
目の前の娘の、黒燿石のような瞳が、生気が溢れんばかりに煌めいている。
この煌めきこそが、己を燃やしながら輝く、儚い命の灯火なのだろう。
・・・命とは、かくも不思議なものよ。
まるで空を舞う、美しい虹色の光彩を見ているようだ。
儚いくせに、その美しさが見る者の心を捕らえて放さない。

大妖の脳裏に、かつて見た、幼い頃の娘の姿が蘇る。
冥界で、小さな娘の骸(むくろ)を抱え、味わったことのない絶望を噛みしめていた、息子の姿も。
この娘は、かつて天生牙の成長の代償として、選ばれた命。
・・・・天生牙に選ばれし、たった一つの命だ。

「 ・・・先ほども申したであろう。
  殺生丸の心は、そなたの魂と触れあったことで、急激に変化した。
  そなたは先ほど、自分があやつの心を変えることなどできない、と申したな。
  変えた、という表現がふさわしくないのなら、新たな感情が生まれた、と言ってもよい。
   それは、そなたと出会う前のあやつの心には、間違いなく、無かったものだ。
  ・・・・永きを生きる我らと、そなたら人間とでは、心の造りと在り様が違う。
  我らは、めったなことでは心が動かぬのだ。
  されど、一度、一つの想いを抱えてしまったなら、死ぬまでその想いは消えることがない。
  わらわもそうであるし、あやつとて、同じじゃ。
  そなたの魂に絡めとられた殺生丸の心は・・・恐らく、この先も変わることはない。
  たとえ、いつの日か、そなたがこの世を去ったととしても、だ 」

ご母堂の言葉に、りんは息を飲む。

「・・・りんが・・・死んでも・・・」

「 そうじゃ。 あやつは、そなたとは比較にならぬほどの長さの命を生きるだろう。
  それでも、死ぬまで、愛する者を失った悲しみは癒えることがない。
  ・・・悲しみを忘れることができるのは、人間の特権だな。
  ・・・・・妖には、それは叶わぬ。
  殺生丸は、永遠にそなたの温もりを忘れられず、癒えぬ悲しみを背負い、満たされぬ情愛を
  抱えたまま、 この世を彷徨い続けることとなろう 」

「・・・・っ 」

ご母堂の言葉に、りんはまた、涙が出そうになった。

(・・・りんは・・・・殺生丸さまを苦しめるだけ・・・・?)

りんに、出来ること。
・・・・・出来ることなんて、ないのかもしれない。
けれど、願っていることなら・・・・・・ある。

・・・先ほど、案摩は言っていた。
八百万の神々の手によって、魂は生まれ変わり、再びこの世を巡るのだ、と。
愛しく思い合う者たちは、再び、次の世でも惹かれ合うのだ、と。
りんは、その話を案摩から聞いた時、胸の中に一つの願いが生まれてくるのを感じていた。
もしその話が本当ならば、また、生まれ変わっても、殺生丸さまに逢いたい・・・と。

りんは、まっすぐにご母堂の目を見た。

「・・・りんは、死んだ人の魂は、またこの世に生まれ変わってくるのだと・・・聞きました。
 りんは、また、殺生丸さまに・・・逢いたい。
 生まれ変わっても・・・逢いたいんです。・・・殺生丸さまに 。
 りんには、そう、願うしか・・・・・・」

言葉に出してみて、りんは、あることに気付く。
その事実に、思わず息を飲んだ。
・・・そうだ。りんの身近なところに、それを実現している人間がいたではないか!
今まで一緒に過ごしていた中で、あまりに当たり前になりすぎていて、気が付かなかった。

( かごめさまも・・・そうだったんだ・・・!)

かごめは、桔梗という巫女の生まれ変わりだ。
りんは、楓から聞いたことがある。
未来から来て、犬夜叉と知り合ったかごめは、犬夜叉に恋をした。
死人(しびと)として、過去から蘇った桔梗もまた、かつてのように犬夜叉を愛していた。
二人とも、時を超えて巡り会い、共に、犬夜叉を愛したのだ、と―――・・・。

りんの大きな目が、ご母堂さまの金色の目を、しっかりと見つめる。

―――― 間違いない。
想いは、未来へと繋がっていくのだ。
だからきっと、また、逢える。
りんは、殺生丸への想いを、絶対に忘れない。
・・・忘れることなど、出来ない。
・・・・・だから、絶対に、逢えるはずだ。

「 りんは、殺生丸さまに、逢いに行きます。・・・ 生まれ変わっても、必ず」

確信を持ったりんの表情を見て、ご母堂はくすり、と笑う。

「・・・よう分かったな。 上出来じゃ、小娘」

細い、美しい指が伸びて、りんの頭をくしゃり、と撫でた。
殺生丸によく似た、美しいかんばせが微笑みをたたえている。

「 わらわが知る限り、そなたは間違いなく、あの馬鹿息子の心の拠り所だ。
  ・・・もう少し、自信と自覚を持て。
  そなたに出来るのは、ただただ、永遠に殺生丸を想い続けることだけじゃ。
  それがひいては、いずれ、あやつの心を救うこととなろう。
  ・・・いつの日か、そなたも命尽きる時がくる。
  まあ、あやつのことじゃ。
  何とかして、そなたの寿命を延ばそうとはするだろうがな。 方法は、無いわけではない。
   されど、手を尽くしても魂の持つ器の限界はあるし、あやつの寿命には遠く及ばん。
  ・・・そなたという存在を失えば、あやつは間違いなく、生きる意味を見失うだろう。
  あのような物騒な刀を持ち歩いている阿呆が、生きる意味を無くし彷徨っているなど、
  考えただけでも、わらわはぞっとするわ。
  そなたが、命尽きた後も殺生丸を想い、求めるならば、その縁(えにし)は必ず惹かれ合う。
  いつかまた魂の伴侶と再び巡り会えるという希望が、あやつの生きる道を照らし、
  その心を守ることとなろう。
  ・・・それが、そなたに出来ることじゃ、小娘。
  そなたにしか、それは出来ぬし、そなたには、それしか出来ぬ」

「・・・ご母堂さま・・・」

りんの目に、先ほどとは違う涙が溢れてくる。
りんにも、殺生丸さまに出来ることがある。
その事実が、とてつもなく、嬉しい。
りんは、再び縁側に手を突いて、頭を下げた。

「 ご母堂さま・・・教えて下さって・・・ありがとうございました」

ぽとぽとと、音をたてて縁側に涙が落ちた。
りんの横で、盛大に鼻水をすする音がする。
りんが顔を上げると、りんの横で邪見もご母堂さまに額突(ぬかづ)いていた。

「 感謝申し上げます、ご母堂さま・・・・!」

邪見は、ずびー、と鼻水をすすり上げ、声を絞り出してそう言った。
未だに自分の名前を覚えてもくれないが、やっぱりこの人は、母親なのだ、と邪見は思う。

「 ご母堂さまの慈悲深さに、この邪見、感銘を受けましてございます・・・!」

「・・・邪見さま・・・」

りんが横で頭を下げている邪見を見て、涙声で、そう呟いた時である。
・・・小さな、聞きなれない声が聞こえた。

「 ようございましたなあ・・・」

ご母堂さまの声では、もちろんない。
りんは、ご母堂さまの横に立って控えている二人の侍女を見上げた。
天女のように美しい侍女二人は、先ほどから、目の前の会話にも、眉一つ動かさない。
ただただ、ご母堂の側に控えているだけだ。
・・・今の声は、この二人から発せられたものではない。

「・・・?」

りんは庭先に、目線をやる。
小梅も小竹も、案摩も、水屋から戻ってきていない。
・・・空耳だったのだろうか。
そう思ったりんの耳に、再び、声が聞こえた。

「 闘牙王さまも、どれだけお喜びになられることか・・・」

涙混じりにそう言う小さな声に、目の前のご母堂がため息をついて答える。

「 ・・・あやつはもうおらんぞ、翁」

「 左様でございましたなぁ・・・。申し訳ございませぬ、奥方さま」

「 ・・・別に、謝ることでもあるまい。 あやつが心置きなく旅立てたのは、良きことじゃ」

その会話に、邪見は怪訝な顔をした。
りんも、声の主を捜してきょろきょろしている。
ご母堂さまは、一体、誰と話しているのだろう。

「・・・思えば、以前から奥方さまが殺生丸さまを出雲へと急かされていらっしゃったのは、
  殺生丸さまに、この世を巡る縁(えにし)の仕組みをお教えするためだったのですなぁ・・・。
  確かに、出雲で神々の御技を目前に見れば、殺生丸さまもご納得せざるを得ませんでしょう。
  それがゆくゆく、あの殺生丸さまのお心を守ることに繋がろうとは・・・。
  なんという、深い思し召し。
  やはり、奥方さまも、お母上であらせられるのですなあ・・・」

小さいけれどよく通るその声に、ご母堂は鼻で笑う。

「 ふん、あれは、あそこからすべてを見ていた闘牙の入れ知恵じゃ。
  元は、 わらわの意志ではない。
  ・・・されどまあ、あやつの考えは、また正しかったの。
  冥道残月波の冥道を広げたときと同じじゃ。
  多少、荒技を使わねば、あの馬鹿息子には効かぬ。
  今頃は、出雲の神庭で、姦しい古参の女神どもに酔いつぶされておろうて。
  ふふん、よい気味じゃ 」

ご母堂様は、いたずらっ子のような顔で、さもおかしそうに笑っている。
目の前の不可解な会話に、邪見がおずおずと、口を開く。

「・・・・あのー、ご母堂さま・・・? 一体、誰と話していらっしゃるので・・・?」

ご母堂は邪見の問いに、ああ、という顔をした。

「 そなたたちには、まだ言うておらなんだな。
  こたび、久しぶりに下界に降りてきたのは、あの朴念仁と添い遂げる気になっている
  そこの小娘と話しておきたかったのと、もう一つ、これの後始末をするためだったのじゃ」

そう言いながら、縁側に腰掛けたご母堂は、膝の向こうから雅な香炉を持ち上げ、
りんたちのまえにコトリと置いた。
手のひらに収まる美しい小さな香炉は、金色の蓋がずらされている。
邪見とりんが香炉をのぞき込むと、中から小さな翁が、ひょい、と顔を出した。

「 きゃっ?!」
「 ななな、なんじゃ、この小人は?!」

思わずのけぞった二人に、小さな翁は香炉から這い出し、ぴょんと飛び降りると、
縁側の床に立って、二人へ向かってぺこりと頭を下げた。

「 お目にかかれまして光栄に存じます、りんさま、邪見さま 」

りんと邪見は再び小さな翁をのぞき込んで、目を見張った。
確かに、目の前の、頭を下げている小さな小さな翁から、声はしている。

「 さっきの声は、この翁でございますか?!」

邪見が思わず声をあげると、ご母堂が教えてくれた。

「 これは、時巡りの翁、という。 長年、この香炉に住んでいて、まあ、仙人のようなものじゃ。
  この香炉も、香炉に住む翁も、闘牙が殺生丸の為に残していった遺産の一つじゃ。
  殺生丸が狗神と成った今では、もう、用済みになったがの」

邪見とりんの前で、小さな翁はご母堂を見上げて、カラカラと笑う。

「 用済みとは、ひどうございますなぁ、奥方さま」

「 ほほほ、ここは用済みということにしておけ、翁。
  殺生丸のような朴念仁を主人にしてしまったら、ここにおる小妖怪の如く、
  先々、苦労するばかりじゃぞ?」

「 え゛・・・」

苦労してるって分かってるんだ、と顔を引きつらせながら邪見が思った時、ふわり、とあたりに
桜の香りがたちこめた。

りんが庭を見ると、ガチガチに緊張した小梅と小竹が立っている。
ご母堂さまとお付きの侍女に出す、茶の準備ができたのだろう。
茶と菓子の乗った盆を持っているのは、案摩である。

「 り、りんさま、そっ・・・そそそ、粗茶をお持ちいたしましたっっ!!!」
「 あ、あ、案摩さん、お願いいたしますっっ!」

ガチガチに緊張している二人の上擦った声に、りんは思わず苦笑してしまう。
双子の半妖ではなく、案摩が配膳の盆を持っているのは、この二人では緊張のあまり、
茶をこぼしてしまうからに違いない。
考えてみれば、この屋敷に、お客さまらしいお客さまがやってくるのは、初めてだ。
しかも、来たのは殺生丸の母君という、超大物である。
緊張するのも、無理はない。

「 遅くなってしまい、申し訳ありません」

二人とは対照的に落ち着いている案摩は、盆を縁側に置き、ご母堂の前と侍女の立つ縁側に、
それぞれ桜茶と柏餅を置いていく。
柔らかな桜色の湯から、ふわりと春の香りが満ちた。
ご母堂は、手前に置かれた茶碗をとると、優雅な手つきで口元へ運ぶ。

「 ・・・ふむ。 花の茶か・・・よき香りじゃ。
  たまには、人界の茶を飲むのも一興じゃな。
  花を塩漬けにして、花の盛りを過ぎてもその香りを楽しめるようにしているのか・・・。
  人間の知恵というわけじゃの。
  わらわの宮の庭では、年中、花が咲いておるからのう。
  わざわざ、このようなことを考えるものはおらぬ 」

「 お口に合うかどうか、分かりませんが・・・どうぞ、お召し上がり下さい」

りんは、ご母堂の脇に立ったままの侍女たちにも、遠慮がちにそう言うと、翁を見て、
あっと声をあげた。

「 あっ・・・ごめんなさい。翁さんの分がない・・・!」

りんがそう言うと、翁はまた、カラカラと笑った。

「 いえいえ、結構でございま・・・」

そう言いかけた翁の動きが、ぴたりと止まる。
りんを見上げた翁は、その人の良さそうな顔で、驚きをあらわにしている。

「・・・・佐・・・保姫さま・・・?」
 







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