あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

神成りとむすめ<16>



りんを見上げた翁は、その人の良さそうな顔で、驚きをあらわにしている。

「・・・・佐・・・保姫さま・・・?」

「・・・え?」

 

 

 

 

 

神成りとむすめ<16>

 

 

 

 


思わず問い返したりんを、真正面から見つめた翁は、呆然と繰り返す。

「 いや、あなたさまの御名は、りんさま・・・。
  殺生丸さまの・・・奥方さまでございましたな・・・。
  驚きました・・・なんと申しますか、よく見ると、とても似ていらっしゃって、その・・・」

「 あ、あの・・・」

りんが翁に口を開こうとした時である。
盆を持った案摩がりんの前にすっとんできて、翁の目前に、その妙な面の顔をぐいっと寄せた。

「 い、いいい、今、あなたさまは、りんさまを佐保姫さまと申されたか?!
  なにゆえ佐保姫さまを、ご存じなのでございますかっ?! 」

案摩の勢いに押され、翁はぺたりと、腰をついた。

「 え、ええ・・・はい、私はこの香炉に住む妖でございます。
  縁ありまして、殺生丸さまのお父上、闘牙王さまにお仕えしておりました。
  ・・・が、私の元々の主は、佐保姫さまと申される土地神さまでございまして・・・」

「 なっ・・・なんと・・・!!
  わ、私の主も、佐保姫さまでございますっ!!
  私は、佐保姫さまの神使なのでございますっ!!」

「 あなたさまの主が、佐保姫さま・・・ですと?! 」

興奮した案摩を指差し、翁は問いかけた。
翁の問いに、案摩は必死の形相で、こくこくと頷く。

「 左様にございます・・・!
  翁どの、もしや、あなたさまの御名は、二ノ舞さまと仰られるのではでございませぬか・・・?!」

案摩の口から発せられた懐かしい名前に、翁は息を飲んだ。
・・・その名で呼ばれたのは、何百年ぶりか。

( ・・・我が名ながら、なんと懐かしい響きじゃ。
  この名を呼ぶのは、闘牙王さまと佐保姫さまだけだったのう・・・)

小さな小さな翁の目に、うっすらと涙がうかぶ。

「 ええ・・・ええ。 遠い昔、そう呼ばれていた頃がございましたな・・・・」

翁の言葉を聞いて、案摩は息を飲んだ。

「 ・・・この案摩、かつて佐保姫さまから伺ったことがあるのです。
  私が神使になる以前に、姫さまの神使を勤めていた 『 二ノ舞 』 という、それはそれは
  小さな翁がいた、と。
  佐保姫さまは、仰っておられました・・・。
   その翁は、今は訳あって、違う神にお仕えしているのですが、お勤めを果たしたら、
  きっとわたくしの元に戻ってきてくれるでしょう、と・・・!
  佐保姫さまが仰っていた違う神とは、殺生丸さまのお父上、闘牙王さまのことだったのですね!!
  まさか私が、佐保姫さまより先に、二ノ舞さまとこのような所でお会いすることになろうとは・・・!」

 
 
ご母堂は興奮している案摩の横で、他人事のように茶を啜りながら、目線だけを、すいと邪見へ
向けた。

「・・・・おい、小妖怪」

「 は、ははっ」

突然呼ばれた邪見は、飛び上がった。
主によく似た鋭い金色の目を向けられ、邪見の心拍数は一気にあがる。

「 ・・・どういうわけじゃ、小妖怪?
  こやつは地の精霊じゃな? 今は、出雲の神議りであろう?
   土地神の神使が、どうしてこのようなところにおるのだ?
  ここには、土地神とて入れぬほどの強固な結界が張ってあったはずじゃが 」

人間と見間違う姿に、怪しげな布の面をつけた男。
それが、りんの匂いを纏い、りんに張り付いているのだ。
恐らく、主がこの里に帰ってきても同じ問いをするに違いない。 きっと、ものすごく不愉快な顔をして。
邪見の全身から、汗が噴き出した。

「  ごっ・・・ご母堂さま、こ、こやつはその、決して怪しい者ではなく、その・・・」

あわてふためいきながら説明を始めた邪見を遮るように、案摩は、片膝をすっと地に突いて敬意を表す
所作をとり、ご母堂に向かって頭を下げた。

「 ご挨拶が遅れまして申し訳ございませぬ、狗神の奥方さま。
  私は、伯耆の国の土地神・佐保姫さまの神使、案摩にございます。
  奥方さまのことは、出雲の神議りへ代理でお越しになられているのをお見かけしたことが
  ございましたゆえ、存じ上げておりました。
  まさか、このような所でお目にかかるとは ・・・」

「 え゛・・・? 知り合い・・・?」

案摩の言葉に、邪見は思わずぽろり、と人頭杖を取り落としそうになった。
一方、ご母堂は、覚えがないという表情をしている。
・・・・無理もない。 あれほど何度も何度も、殺生丸の使いで天空の宮まで赴いていた
邪見の名前すら、未だに覚えてくれてはいないのだ。
そんなご母堂が、夫の代理で出雲へは赴けども、数え切れぬ程いる神使の顔まで、
いちいち覚えているはずがない。
そんな大妖の前で、案摩は恥入るように、ここに滞在している理由を説明しはじめた。

「 お恥ずかしながら、この度の出雲行きの道中、主人ともども空で魑魅魍魎どもに襲われまして・・・・。
  御者をしていた私は空から落ちてしまい、この里で助けていただいたのでございます。
  私は土地神の神気を源として形を成す、地の精霊。
  私が姿を失わぬということは、主人は無事ということです。
  恐らく、お一人で出雲の神議りへ赴かれたのでございましょう。
  ・・・佐保姫さまの元へ戻れるまで、今は、りんさまの傍に置いていただいております」

ご母堂は桜茶を啜りながら、案摩から目を離し、空を見上げた。
 
「 ・・・そう言えば、この里の周囲はやたらに魑魅魍魎どもが渦巻いておったの。
  確かに、そなたのような精霊では、この結界の外へのこのこ出ていっては、奴らに喰われるのが
  オチじゃろうな」

「 はい・・・。
  この里の医師らにも、そう諭されましてございます。
  りんさまは・・・なんと申しますか、そのお姿もお声も、佐保姫さまにとてもよく似て
  いらっしゃいまして・・・。
  りんさまのお側に置いていただかなければ、精霊の私は、この姿を保つことすら難しかったかも
  しれませぬ。
  この里の医師さまにも、りんさまにも、どれだけ感謝申し上げても足りませぬ」

そう言って、案摩がご母堂の前で深く頭を下げると、翁は、ご母堂を見上げて口を開いた。

「 奥方さま・・・確かに、りんさまの気は、佐保姫さまの神気とよく似ていらっしゃいます。
   私は、佐保姫さまとは何百年とお会いしてはおりませぬが、かつての主の神気は間違いようが
  ございませぬ。
  この案摩どのがりんさまのお側で救われたとは、なんという偶然でございましょう・・・」

大妖の金色の眼が、翁と精霊を見下ろす。

「 『 案摩 』 に 『 二ノ舞 』 か・・・。そなたらの名付け親は、その佐保姫とかいう土地神か?」

二人が顔を見合わせながら頷くのを見て、ご母堂は納得したように、ふむ、と言った。

「 ・・・『案摩 』 と 『 二ノ舞 』 とは、神が舞う、大地を鎮(しず)めるための舞の名だ。
  大昔、オオクニヌシの社で、わらわも見たことがある。
  『 案摩 』 は若き男、『 二ノ舞 』 は翁。 『 案摩 』 だけでも 『 二ノ舞 』 だけでも、大地は鎮まらぬ。
  二つの舞は対になっていて、互いを補いあうように出来ているからな。
  ・・・・そなたらの主は、神使の名に、己の願いを込めたのだな。
  産土神である己が、穏やかに永く、この地を鎮めることができるように、と 」

ご母堂の言葉に、りんは感嘆の声を上げる。

「 神様でも、名付けに願いを込めたりするんですね。赤ちゃんに名前をつけるときと同じ・・・」
 
「 神とて、万能ではないからな。 得手、不得手はあるものだ 」

りんにそう言うご母堂を見上げて、翁は呆然と言う。

「 これも・・・・縁(えにし)なのでございましょうか・・・?
  奥方さまがわたくしを・・・・案摩どのを、りんさまが預かられたのも・・・?」

翁の言葉に、奥方はふむ、と面白そうに案摩を眺める。

「 ・・・まあ、偶然か必然かは知らぬが、いずれにせよ面白き縁(えにし)よの。
  殺生丸には、件(くだん)が神使としてつき従っている。
  件(くだん)がこのことすらも先見で、殺生丸を導くのならば・・・・・」

ご母堂がそこまで言った所で、屋敷の門のあたりからバタバタと駆けてくる足音が聞こえた。

「 りんさま―――っ!」
「 ご無事にございますか?!」

庭に現れたのは、泳月と柚月である。
二人は、縁側に腰掛けている人物を見て、驚きを露わにした。

「 お・・・奥方さま?!」
「 なぜ、こちらに!?」

里長である二人も、案摩と同じように慌てて片膝を地につけて、ご母堂に敬意を表す所作をとる。

「 泳月さま、柚月さま・・・! お二人とも、どうしてこちらに?」

りんが驚いて尋ねると、柚月が顔を上げて口を開く。

「 先ほど、急に結界が綻び、里に振動が走りましたでしょう?
  しかも、空からとてつもない妖気が流れ込んできたものですから、何者かが里に無理矢理
  入り込んだのだと思ったのです。
  ・・・まさか、奥方さまがお越しになられているとは・・・。
  何も知らぬ里の者たちは、大騒ぎでございましたわ。
  この里の結界を開けて入って来られるなど、殺生丸さま以上の妖力をお持ちの方にしか、
  不可能ですもの。
  とりあえず、私たちはりんさまの無事を確認せねばと思い、駆けつけたのでございますわ」

柚月の言葉に、ああ、といった顔で、ご母堂は空を見上げる。

「 ・・・ そういえば、ここへ入ってくるときにすごい音がしたの。
  あれは、わらわの力で殺生丸の結界が綻んだからか・・・。
  まあ、殺生丸が戻ってくれば、あやつの妖力で元に戻るだろう。 心配はいらん」

ご母堂さまは何気なくそう言ってはいるが、あの耳鳴りは確かにすごかった。
まだ耳の奥に金属音が残っている気がして、りんは耳にそっと手をやる。

「 それにしても、まさか、この里に奥方さまが直接いらっしゃるとは・・・」

泳月は、滅多なことでは慌てない穏やかな医師なのだが、さすがに、ご母堂の降臨には驚いたらしい。

泳月と柚月は、一年に一度この里で作られる 『 妖命丸 』 という秘薬を、ご母堂の天空の宮まで
納めに行っている。
先代から続いている秘薬献上の代償として、この里は長い間、ご母堂に守られてきたのだ。
泳月と柚月とて、ご母堂と面識はあると言っても、普段は年に一度、高御座の上から一言二言、
お言葉を賜る程度である。
その高貴な相手が、まさかこの里の屋敷の縁側に腰掛けることになるとは思ってもいなかった。

「 奥方さま、こたびは、この里に何か・・・?」

泳月の問いに、ご母堂は眼を細めながら、答える。

「 ・・・・ほんに、面白き縁(えにし)よのう」

三つ目の兄妹の姿に、ご母堂の脳裏には、この里を作った女妖の姿がよみがえる。
永い時を生きる大妖の、懐かしい古い記憶。
医仙の力を持った三つ目の女妖・・・・あれは名を、医王といった。
妖でありながら、人間を愛し、人間とともに生き、死んだ。
あの女妖の命を継いだこの兄妹が、天空の宮に妖命丸を納めるようになって、
もうどれだけ時が経っただろう。
・・・・・きっと今も、医王の魂は、この里を護っているに違いない。

(・・・この案摩とやらを里へ招き入れたのも、おまえか、医王 )

「 ご母堂さま・・・?」

りんが黙ったままのご母堂を見上げると、ご母堂はふっと笑った。

「 まったく、翁のことといい、この里のことといい・・・。
  わらわは闘牙の後始末をしてばかりじゃのう。
  ほんに、あやつは死んだ後まで賑やかな漢じゃ」

そう言って、すらりと縁側から立ち上がり、空を見上げた。
青い空に、白い雲が一つ二つ浮かんでいる。
美しい口元が、小さなため息をついた。

「 ・・・・・まったく、面倒なことになったわ。 留守を狙ったつもりだったのじゃがな」

 

「・・・・・・・え゛っ・・・?!」


その言葉の意味することに邪見は凍りつき、からくり人形のようなぎこちなさで、高い空を見上げた。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

殺生丸が窓にかかる御簾を指で上げて外を見ると、件(くだん)の言った通り、牛車はかなりの早さで
空を飛んでいた。
牛車を引く件(くだん)の鈴の音が、風を切る音に混じって微かに聞こえている。
確かにこの早さなら、一刻ほどでりんの住む里まで戻れるだろう。
出雲から伯耆までは、空を飛べばそれほど遠くはない。

先ほどから、春の女神が昔話をしている。
・・・・りんによく似た、優しく透き通るような高い声で。


「・・・かつてこの伯耆で、闘牙王さまが禍々しき妖怪たちから、わたくしを護って下さったのは、
  もう400年も前のことですわ。
  あの頃の闘牙王さまは、まだ狗神の名を賜ってはおられませんでしたけれど・・・・・・」

姫の髪にさされた桜花から、柔らかで奥ゆかしい香りが漂ってくる。
室内に籠もる花の匂いに、先ほどから殺生丸の意識は奪われている。
牛車の中は、二畳ほどの広さしかなく、殺生丸と佐保姫が座るには、けして広くはない。

「 せめてもの御礼にと、わたくしは、わたくしの神使を闘牙王さまに遣わしたのでございます。
  闘牙王さまほどの妖ならば、いずれ必ず神籍を賜るでしょうから、その時にはこの翁が
  きっと役に立つでしょう、と」

「・・・・・・」

まだ酔いの残っている大妖は、無表情のまま牛車の外を眺め、佐保姫の顔を見ようとはしない。
そんな殺生丸に、佐保姫は遠慮がちに尋ねる。

「・・・・あれは・・・二ノ舞は、殺生丸さまのお役に立ちましたでしょうか・・・?」

そう尋ねられれば黙っているわけにもいかなくなり、殺生丸は小さくため息をついた。
外を眺めたまま、口を開く。

「・・・・ええ。 私はあれの導きで、神成りの道を通り、狗神となりました」

殺生丸の言葉に、佐保姫はホッとしたように微笑んだ。
桜花の香りが、ふわりと舞う。

「 ・・・ならば、ようございました。
  二ノ舞も、長きにわたり闘牙王さまにお仕えした甲斐があったというものです。
  闘牙王さまは、ようやく願いを叶えられたのでございますね・・・」

嬉しそうにそう言う佐保姫の言葉に、殺生丸はわずかに表情を動かした。
外の景色から佐保姫へと、ゆっくりとその金色の眼差しを移す。

「 ・・・・・父上の、願い・・・?」

りんにそっくりな女神は、懐かしそうに目を細め、ほんの少しだけ哀しげに殺生丸に微笑んだ。

「 闘牙王さまがお命を落とされたのは、もう、250年ほど前になりますでしょうか・・・。
  あれは、寒い寒い、冬の夜でございましたわ。
  闘牙王さまは、わたくしの社に突然、お越しになられたのです。
  竜骨精との最後の戦いに赴かれる、前夜のことでございました 」

「 ・・・・あの戦いの、前夜・・・」

初めて聞く話に、殺生丸はわずかにその金色の目を見開いた。
殺生丸が最後に父と話したのは、竜骨精との戦いが終わった直後だ。
・・・・・荒々しい波の打ちつける、真冬の海辺だった。

あの時の父上は、まもなくおとずれるであろう、己の死を覚悟していた。
あのまま天空の宮に戻れば、母上の力を借りて、一命は取り留めたかもしれない。
けれど、父上はそうはされなかった。
おびただしい血を流しながらも、迷うことなく、愛する人間を救うことを選んだのだ。
犬夜叉と・・・その母を。
・・・・殺生丸に、「お前に守るものはあるか」と言い残して。

「・・・・父上は・・・・・あなたに・・・何を」

殺生丸は、佐保姫に、言葉足らずに問うた。
気にならぬはずは、ない。

父は、竜骨精との戦いを前にして、この春の女神に何を伝えたのか・・・。

「 ・・・あの戦いで、闘牙王さまはお命を落とされたと伺いましたわ。
  その話を聞いたとき、わたくしは思ったのです。
  やはり、闘牙王さまは東国へ赴かれる前から、ご自身の死を予感されていたのだ・・・と」
 


佐保姫は長いまつげを伏せ、古い昔を思い出すように、口を開いた――――― ・・・・。

 

 

 

 


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