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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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笑顔をねだる少女


おすすめBGM










殺生丸さまの笑ってる顔、はじめて見たの。

・・・もっと、みたいなぁ











笑顔をねだる少女

拍手[158回]

りんは、走った。

薫風の中、柔らかな春の草を踏みしめながら。


待ったのだ。
もう、一月も待った。


殺生丸に人里へ預けられて一月。

この一月の間、りんは楓に何度も聞いた。
夜空を見上げ、月の名前を、何度も、何度も、何度も。
三日月とか、上弦の月とか、下弦の月とか、有明月とか、
あんなにお月さまに名前があるなんて知らなかった。

殺生丸さまの額のお月さまは、たぶん二十六夜だ。
そう知ったときは、嬉しくて、寂しくて涙がこぼれた。

朔の夜にはやっと半分が過ぎたと思った。
十五夜に向けてお月さまが膨らんできたときには夜空を見上げることすら、嬉しかった。

 

殺生丸さまに、あえる。

 

昨晩は、嬉しくて嬉しくて寝付けなかった。

なんども深呼吸をして寝返りを打つりんを、楓は苦笑いして自分の布団に招き入れ、
背中をゆっくりとさすってくれた。
皺のある乾燥した暖かい楓の手が背中をゆっくりと暖めてくれて、
りんはようやく眠りにつくことができたのだ。

 


りんは、走った。

会いたい、会いたい、会いたい、会いたい・・・


森を抜けた草原に、光を纏いふわりと天降りたつ銀色の美しい妖。

 

「殺生丸さまーーーーーっ」


りんは迷うことなく、殺生丸へ両の手をのばす。

 

 

 

 


薫風の草原の上、私は、私に向かって駆けてきたりんをふわり抱き上げる。

柔らかい、香しい、愛しい匂い。


たった、一月。
月の満ち欠けが、たったの一巡。

私にとって、それは瞬きするような時間の流れ。

だが、この一月は・・・ずいぶん、長く感じた。


思いのままに強く抱いては、りんを傷つけてしまうだろう。
だから、私はりんを優しく抱き上げる。


―――目を閉じて、りんの匂いを心ゆくまで吸い込む。


私の腕の中に飛び込んできたりんは、幼い人間のむすめ。

だが、その小さなりんの匂いはどうしてか私に、ここが帰る場所だ、と思わせる。
どこでもない、りんの匂いこそが。

目を開くと、元気で無邪気な小さい人間のむすめがいて、この感覚を不思議に感じたりもする。
だが目を閉じてりんの匂いを心ゆくまで吸い込むとそこはやはり心休まる場所。


500年以上生きていて、初めて手にした。


愛しいもの。

心安らげるもの。

―――守りたいと、思えるもの。

 


りんは、私の腕の中で額と額を、こつん、とくっつける。

触れあった額から感じる、ひだまりのような暖かさ。
より濃厚に流れ込んでくる、りんの柔らかな匂い。

「会いたかったぁ・・・」

ぽそりとつぶやくりんの声に薄く目を開くとりんは幸せそうに微笑んでいた。

「・・・息災か」

額をつけたままそう聞くと、りんは嬉しそうに微笑み、はい、と答えた。

 

どれだけそうしていただろう。
2人、額をつけたままで。

久しぶりに触れたりんの柔らかい匂いは、あまりに心安らかで・・・。

 

 

私は、はるか遠く、邪見と阿吽がこちらへ向かっている匂いを感じ取る。


・・・やっと戻ったか。

邪見が抱えているのは、夏の単衣の着物。
妖に織らせた、魔除けの着物だ。

・・・りんの為に、誂えた。

私はゆっくりと目をあけると、
心地よい薫風の吹きわたる草原の上に、りんをふわりと下ろした。

そのまま、大きな切り株に腰を下ろす。

りんは、私の着物の袖を握ったまま離さない。
「・・・どうした」
私が聞くと、りんは残念そうな顔をして、言った。
「初めて見たのに・・・」
何を、と聞こうとしたがりんの方が先に口を開いた。
「殺生丸さまが嬉しそうに笑うの、初めてみたのに」

私が・・・笑う?

「もっと、見ていたかったなぁと思って・・・」
りんは諦められない様子で、私の袖を引っ張る。
あまりにまっすぐな視線で、私を見つめたまま。

「りん、もう一回、見たいな。殺生丸さまが笑ってるとこ」

笑っていた・・・? 私が・・・?

「ねえ、殺生丸さま・・・だめ?」


・・・・・・。
 

私は、高く晴れ渡った空を見上げる。



・・・どうしたものか。

 

「殺生丸さま?」

りんは、くいくいと袖を引っ張る。
「ねえ、殺生丸さまってば」

私が空を見上げたままなのが気になるのか、りんも天空を仰ぎ見る。
少し、眩しそうにして。
「お空に何かあるの?」

・・・何もありはしない。

「今日は良いお天気だねー。あ、邪見さまと阿吽は?」
「・・・じきに来る」
「そうなんだー、良かった!邪見さまにも阿吽にも、会いたかったから」

このまま空を見上げているのも莫迦らしくなって、私は再びりんへ目を落とす。

りんはにっこり笑って、先ほどの話は忘れたように、人里での暮らしを話し始めた。
仕事の中では、薬草作りが一番楽しいのだといった。
あとね、あとね、とりんは私の手を握る。
小さな、紅葉のような手で。

「殺生丸さまのおでこのお月さまはね、二十六夜だと思うの。違う?」

りんは満ち欠けする月の名前を覚えたのだという。
絶対にそうだと思うの、と、真剣な顔をして私の顔をのぞき込む。

「・・・おまえがそう思うなら、そうなのだろう」

私に、鏡で自分の顔をのぞき込む趣味はない。
額の月は、我が母の一族に伝わる血の証だ。
これといって、別に何の興味もない。

人間のつけた月の名とは、なんの関わりもないものだ。
だが、それだけりんが私を待ち侘びていたということならば、
二十六夜という言葉も意味を持つ気がする。


・・・おぉ~~~~い


草原へ向けて空を翔けてくる、阿吽の姿がりんにも見えたらしい。
阿吽に乗って、遠くから手を振る邪見をみつけると、りんは嬉しそうに立ち上がった。

「あっ、邪見様だ!」

りんは嬉しそうに駆け出しそうとしたが、きゃっ と声を上げて転けそうになった。


・・・私が、思わずりんの帯を掴んでしまったからだ。


「・・・殺生丸さま?」

 


・・・・・・。

 

何をしたいのだ、私は。


・・・思わず、手が出てしまった。

 

「・・・どうしたの、殺生丸さま?」

 

私は自嘲と共にりんの帯から手を離すと、その手で目を覆った。

 

一体、この感覚は何なのだ。

・・・危うい、根底から揺らぐようなこの感覚は一体、何なのだ。



最強と呼ばれた私が、ひとりの人間のむすめに、これほどまでに。

私は、翻弄されているのか・・・りんに・・・?



信じられない思いで目を開くと、すぐ近くにりんの心配そうな顔があった。

「殺生丸さま、大丈夫?具合、悪いの・・・?」

泣き出しそうなりんの無垢な瞳を見ていると、己を嘲笑したくなった。
なにも、りんを泣かせたいわけではない。

「そうだな・・・そうかもしれぬ」
「えぇっ・・本当に?どこか、悪いの?今日、無理してきてくれたの?」

私は焦るりんの頬にそっと触れる。
りんはうっすらと涙をためて、私を見上げていた。

 


「お前が・・・慣れぬことばかりさせるからだ、りん」

 


笑ってほしくば、それなりの代償は必要だぞ、りん。

・・・分かっているか?

 

 


草原へ降り立った邪見は、主の姿を認めるやいなや、
全身総毛立って、すぐさま回れ右をして引き返しかけた。

・・・だって、すごく良くないことがおきるに決まっておる。
ああ、そうじゃとも、間違いない。
だらだらと冷や汗が落ちた。

何年、殺生丸さまにお仕えしとると思っとるんじゃ。
ワシのカンに間違いないわ。

あ、いや、もしやワシの見間違いか・・・?!
ああ、しかし、恐ろしくて振り向けぬ。

 

だって、だって・・・


・・・殺生丸さまがりんとオデコをぴったんこして笑っておられる・・・!!

 

一体、何があったんじゃ~~~~!!!
殺生丸さまが、あの殺生丸さまが、笑っておられるのじゃぞー!!
ありえんっっ!絶対にありえんっっ!!

 

どうしよう。


・・・ワシ、死ぬかもしれん。

 





笑顔をねだる少女・・・終




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