あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

尊すぎる願いもて


犯した罪と、消えることのない後悔。

償いと、罪を知らぬ花のような笑顔。

花の笑顔を守りたいと思う、妖のその願いは尊すぎて。



珊瑚と弥勒。




尊すぎる願いもて


 


夜も更けた人里にて。


己を包んでくれる優しく暖かい伴侶の腕の中で、
幸せだと思えば思うほど、涙が浮かんだ。


人の居場所なんていうものは、故郷の地でもなく、家でもなく、
誰かの心の中なのではないだろうか。
苦難を共にし、呪いに打ち勝ち、やっと手に入れた私の居場所。
それは、自分を包み込んでくれる、優しい伴侶の胸の中。

・・・だけど、あたしは。

泣きはらした幼い娘の顔が瞼の裏に浮かんだ。
楓の側で、じっと耐えるように空を見上げていた娘。

あの子は、あたしの罪を知らない。

あたしは、自分の幸せのために殺そうとしたあの子に何をしてやれるだろう。
一体、どうやって償っていけばいいんだろう。

 


「・・・どうした、珊瑚」

ぽたり、と落ちた涙に気が付いて、弥勒は珊瑚の顔をのぞき込んだ。
風穴の消えた右手が、珊瑚の目尻を優しく拭う。
珊瑚はたまらなくなって、強く目を瞑り、弥勒の胸の中に表情を隠す。

「言ってみなさい、珊瑚。私達はもう夫婦ですよ。隠し事は不要だろう?」

表情の見えない愛妻の前髪を、そっとかきあげる。
珊瑚は、震えるように泣いていた。

 

 

ねえ、法師さま。
法師さまは知らない。
・・・あたしは、罪をおかしたんだ。

いつかは話さなきゃいけないと思いながら、なかなか話せなかった。
・・・嫌われるのが、怖かった。
だけど、嫌われても仕方ないんだ。
・・・だから、言うよ。

ぽたぽたと、珊瑚の落ちる涙が法師の墨衣に染みこんでいく。
ぽつりぽつりと震える声で、珊瑚は話し出した。

 

あれは、奈落との最後の戦いだった。

奈落の体内で、法師さまと別れた後、あたしは奈落の幻を見たんだ。
奴は、自分にたどり着いたのはあたしが一番乗りだと言っていたよ。

奈落の邪気を切り裂ける飛来骨が手にあったし、あたしは、奈落を絶対に倒したかった。
・・・何が何でも、あいつを倒したかったよ。

だけど、飛来骨を構えた瞬間、奈落はその体から・・・りんを取りだしたんだ。
りんは気絶してたよ。
奈落の手に抱かれたまま、眠っていたんだ。

あたしは、早く奈落を倒さなければ、法師さまの呪いを解かなければ、
法師さまはきっと風穴を開いてしまうと思ってた。
・・・ほんとに、それしか頭になかったんだ。

法師さまが死ぬのだけは、耐えられなかった。
法師さまが死んでしまったら、あたしも生きる意味を失うと思ってた。
奈落は、自分を倒したいのなら、りん共々、飛来骨で打ち砕け、と言ったよ。
この娘は、何の関わりもないだろう、と。
・・・死んでも構わぬのだろう、と。

あたしは、その誘惑に負けたんだ。
法師さまに、もう一度会いたかった。
法師さまの呪いが消えて2人で生きていけるなら、どんな罪でも犯せるとすら思った。

・・・あたしは、りんを犠牲にすることを選んだんだよ。

あたしが飛来骨を投げた瞬間、なぜか奈落は消えた。
後から、かごめちゃんの放った矢が奈落に当たったからだとわかったけど。

奈落が突然消えたせいで、奴の手からりんが滑り落ちて、
あたしの飛来骨は奇跡的にりんをかすめて殺さなかった。
奈落の体内に落ちていくりんを、どこからきたのか、琥珀が受け止めたんだ。
りんは救われたんだよ。
かごめちゃんと琥珀に。

・・・殺そうとした、あたしから。

また、あたしは奈落にだまされたんだと気が付いた瞬間、呆然としたよ。
あたしは、自分のために、人を殺そうとしたんだってことを悟ったんだ。

すぐ近くに、あの夢幻の白夜がいたよ。
あいつが幻を見せていたんだろう。

白夜とあたしに向かって、すごい勢いで飛来骨が飛んできたよ。

・・・殺生丸から放たれた飛来骨だった。

きっと、さらわれたりんの匂いを追って来たんだと思う。
一部始終のやりとりは、殺生丸にも聞こえていたんだ。

・・・あたしが、どういう選択をしたのかも。

殺生丸は何も言わなかったよ。
ただ、あたしを見ていた。厳しい目で。

琥珀が、あたしを庇った。
姉上は幻を見せられていたのだ、ってね。

だけど、あたしはそうじゃない、と思った。
あたしは、りんを殺すという選択をしたんだ。
幻だろうが現実だろうが、きっと同じ選択をしたんだよ。

自分の幸せのために、だ。

・・・最低だね。


申し開きをするつもりはない、と殺生丸に言ったよ。
八つ裂きにするなり何なり好きにして構わない、ただ、待って欲しい、と。
奈落を倒して、法師さまの呪いが解けるまで待って欲しい、と。

殺生丸は、最初から最後まで、何も言わなかった。

・・・気が付いたりんは、気絶していたせいで何も覚えていなかった。

琥珀も殺生丸も、だれも、りんにこのことは言っていないんだ。
だから、知らないんだ。
・・・自分が、あたしに殺されそうになったことを。

犬夜叉が井戸から戻ってきて、殺生丸は楓さまにりんを預けて去ってしまった。
あたしのほうを振り向きもしないで、行ってしまったんだ。


人を殺すという選択は、許されるものじゃない・・・。
しかも、罪もない人間を、誰かのために、なんて。

ごめんね、法師さま・・・。
あたしは・・・法師さまに相応しい女じゃないよ・・・。

人殺しの罪を背負ってるんだ・・・。

 


珊瑚の肩は震えていた。
硬く握りしめている法師の墨衣は、珊瑚の涙で更に深い色に染まっていた。

「・・・そうだったのか」

弥勒の手が、珊瑚の背を優しくさする。

「ならば、それは私の罪でもあるな」

珊瑚は目を見開いて、弥勒の顔を見上げる。
そこには穏やかな、深い瞳の色をした夫の顔があった。
珊瑚の目に、再び大粒の涙が溢れた。

 


・・・いいですか、聞きなさい、珊瑚。

奈落の体内でお前を一人にしたのは、今でも私の落ち度だったと思っている。
私達は、人間だ。
互いに支え合わねば、何も出来ない生き物なんですよ。

分かっていたのに、私はお前を手放した。

・・・身勝手だった。許して欲しい。

耐えられなかったんだ。
お前を、私の呪いに巻き込むことが辛かった。
愛するものが自分のせいで死ぬなんて、私には耐えられそうになかった。

それは、私の弱さでもあったんです。
離ればなれになったとたん、私にも同じように奈落の幻が見えましたよ。
同じように、私が一番乗りだと言ったな。
さあ、風穴をひらけ、と。

珊瑚、お前と同じだ。

私もまんまと挑発に乗って風穴を開こうとしましたよ。
奈落を倒せるなら、後はどうなってもいいとすら思っていたかもしれない。

だが、私の風穴は開かなかった。
犬夜叉とかごめさまが、私のこぶしを開かせなかったんです。
幻から、私を救ってくれたんですよ。

私の心も、弱かったんです。

かごめさまに諭されましたよ。
珊瑚も、たとえ死ぬかもしれなくても、きっと側にいたかったに違いない、とね。

後悔しました。
もしも、珊瑚にもしものことがあったら、耐えられなかっただろう。
お前があの時生きていてくれたことが、私にとってどれだけ救いになったことか。

・・・なあ、珊瑚。

奈落によって、命を奪われたもの、不幸になったもの、一体どれだけいると思います?
町や城ごと命を奪われたものだっていただろう?

私達は、生き抜いたんです。

それも、きっと沢山の命の上にです。
沢山の犠牲の上に、です。

・・・私達は、生きなけれればならないんです。
犠牲になって亡くなった人達の分まで、生きて生きて、生き抜かなければならないんですよ。

・・・そして、幸せにならなければならないんです。

お前が罪を背負うなら、それは私が共に背負おう。
夫婦というのは、そういうものじゃないんですか?

そして、少なくとも、お前はりんを殺さずにすんだんです。
ならば、いくらでもこれからあの小さな娘に償うことができるはずだろう?

あの娘は、まるでかごめさまのような娘です。
かごめさまのような巫女としての力もないただの人間の幼子だが、
太陽のように暖かく、そして大切なものを信じることの出来る強い心の持ち主です。

お前と知り合う前だったが、私は犬夜叉やかごめさまと共に殺生丸に殺されかけたんです。
殺生丸の冷酷っぷりはよく知っていますよ。
妖怪の中の妖怪だ。
情けも容赦もない、本当に恐ろしい最強の大妖怪だったんです。
兄に劣っているという反発もあったんだと思うが、犬夜叉も人間とは相容れない半妖だった。
その犬夜叉の心を、かごめさまは溶かしてしまわれた。
犬夜叉の良いところ、優しいところを引き出していったのはかごめさま。
それは、お前もよく知っているだろう?

殺生丸だって同じなんです。
今の殺生丸は、私達が最初に会った頃とはずいぶん変わった。
りんの太陽のような暖かさが、きっと殺生丸を少しづつ変化させたんだろう。
人間なんて虫ケラにしか思っていなかった殺生丸が、です。

りんは言っていた。

知らなかったの?
殺生丸さまは、はじめから、ずーっと、優しかったよ、と。

もしかしたら、誰にも触れられなかっただけで、
殺生丸にもそういう優しい心はあったのかもしれない。
だが、だれにも触れられねば、それは無いのと同じ事だろう?

きっと、殺生丸にとってりんは唯一無二の存在なんです。

そして、そのりんをこの村に預けていったということは、
きっと、私達にもりんを守れということなのではないかな。

人間にしかできない守り方だってあるだろう。
人間にしか教えてあげることの出来ない知識だってある。

なあ、珊瑚。

共にその償いをさせてくれますか?
私達は、夫婦だろう?

りんという娘を、私達は愛そう。

あの娘にできることは、骨身を惜しまずにやってあげよう。
授けられる知恵は、すべて授けてやろう。

殺生丸は、お前を殺そうなどと思ってはおるまい。
そんなことをしても、りんが悲しむだけですからね。

もしも、殺生丸がお前を許していないんだとしたら、
許す気持ちになるまで、私達は出来ることをするしかない。

ただ、それだけのことです。

 

な、珊瑚。

もう泣くのはやめなさい。

 


・・・明日からは泣かないから

 


か細い、震える声でそういう妻を、弥勒は強く抱きしめた。

遠くでフクロウの啼く声が聞こえた。
夜も、ずいぶん更けたらしい。

弥勒の心に、なにか大きなものが沈んでいくようだった。
大きな大きな、返しきれない恩義を抱えていたのだ、と知ったからだろう。

よく、我が妻を殺さずにいてくれたものだ。
あの冷酷無比の大妖が。

そして・・・よく、りんを人里に戻したものだ。

唯一無二の存在。
恐らく、手放したくなどなかったであろうに。

いつか、りんがどちらでも選べるように、ただそれだけの為だと楓から聞いた。

愛しいものが己から離れて、いつの日か人間の妻になっても構わぬということなのだろうか。
それでも、りんが幸せであれば、それでいいということなのだろうか。
人間である弥勒には、それは、とても辛いことのような気がする。

だが、それほどまでに、りんを愛しているということなのだろう。
それほどまでにりんの幸せを願う、それは、尊すぎる願いではないのだろうか。

それとも、人間の短い一生を送る私達では、
永遠に近い時を生きる彼らの想いは、理解できないものなのだろうか・・・?


だが、私達にはその願いを受けて、あの娘を守ることしかできまい。


・・・私達は、生かされて今ここにあるのだから。

 

腕の中にいる暖かさが失われなくて、本当によかったと、弥勒は思った。





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