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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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尊すぎる願いもて


犯した罪と、消えることのない後悔。

償いと、罪を知らぬ花のような笑顔。

花の笑顔を守りたいと思う、妖のその願いは尊すぎて。



珊瑚と弥勒。




尊すぎる願いもて


拍手[63回]

 


夜も更けた人里にて。


己を包んでくれる優しく暖かい伴侶の腕の中で、
幸せだと思えば思うほど、涙が浮かんだ。


人の居場所なんていうものは、故郷の地でもなく、家でもなく、
誰かの心の中なのではないだろうか。
苦難を共にし、呪いに打ち勝ち、やっと手に入れた私の居場所。
それは、自分を包み込んでくれる、優しい伴侶の胸の中。

・・・だけど、あたしは。

泣きはらした幼い娘の顔が瞼の裏に浮かんだ。
楓の側で、じっと耐えるように空を見上げていた娘。

あの子は、あたしの罪を知らない。

あたしは、自分の幸せのために殺そうとしたあの子に何をしてやれるだろう。
一体、どうやって償っていけばいいんだろう。

 


「・・・どうした、珊瑚」

ぽたり、と落ちた涙に気が付いて、弥勒は珊瑚の顔をのぞき込んだ。
風穴の消えた右手が、珊瑚の目尻を優しく拭う。
珊瑚はたまらなくなって、強く目を瞑り、弥勒の胸の中に表情を隠す。

「言ってみなさい、珊瑚。私達はもう夫婦ですよ。隠し事は不要だろう?」

表情の見えない愛妻の前髪を、そっとかきあげる。
珊瑚は、震えるように泣いていた。

 

 

ねえ、法師さま。
法師さまは知らない。
・・・あたしは、罪をおかしたんだ。

いつかは話さなきゃいけないと思いながら、なかなか話せなかった。
・・・嫌われるのが、怖かった。
だけど、嫌われても仕方ないんだ。
・・・だから、言うよ。

ぽたぽたと、珊瑚の落ちる涙が法師の墨衣に染みこんでいく。
ぽつりぽつりと震える声で、珊瑚は話し出した。

 

あれは、奈落との最後の戦いだった。

奈落の体内で、法師さまと別れた後、あたしは奈落の幻を見たんだ。
奴は、自分にたどり着いたのはあたしが一番乗りだと言っていたよ。

奈落の邪気を切り裂ける飛来骨が手にあったし、あたしは、奈落を絶対に倒したかった。
・・・何が何でも、あいつを倒したかったよ。

だけど、飛来骨を構えた瞬間、奈落はその体から・・・りんを取りだしたんだ。
りんは気絶してたよ。
奈落の手に抱かれたまま、眠っていたんだ。

あたしは、早く奈落を倒さなければ、法師さまの呪いを解かなければ、
法師さまはきっと風穴を開いてしまうと思ってた。
・・・ほんとに、それしか頭になかったんだ。

法師さまが死ぬのだけは、耐えられなかった。
法師さまが死んでしまったら、あたしも生きる意味を失うと思ってた。
奈落は、自分を倒したいのなら、りん共々、飛来骨で打ち砕け、と言ったよ。
この娘は、何の関わりもないだろう、と。
・・・死んでも構わぬのだろう、と。

あたしは、その誘惑に負けたんだ。
法師さまに、もう一度会いたかった。
法師さまの呪いが消えて2人で生きていけるなら、どんな罪でも犯せるとすら思った。

・・・あたしは、りんを犠牲にすることを選んだんだよ。

あたしが飛来骨を投げた瞬間、なぜか奈落は消えた。
後から、かごめちゃんの放った矢が奈落に当たったからだとわかったけど。

奈落が突然消えたせいで、奴の手からりんが滑り落ちて、
あたしの飛来骨は奇跡的にりんをかすめて殺さなかった。
奈落の体内に落ちていくりんを、どこからきたのか、琥珀が受け止めたんだ。
りんは救われたんだよ。
かごめちゃんと琥珀に。

・・・殺そうとした、あたしから。

また、あたしは奈落にだまされたんだと気が付いた瞬間、呆然としたよ。
あたしは、自分のために、人を殺そうとしたんだってことを悟ったんだ。

すぐ近くに、あの夢幻の白夜がいたよ。
あいつが幻を見せていたんだろう。

白夜とあたしに向かって、すごい勢いで飛来骨が飛んできたよ。

・・・殺生丸から放たれた飛来骨だった。

きっと、さらわれたりんの匂いを追って来たんだと思う。
一部始終のやりとりは、殺生丸にも聞こえていたんだ。

・・・あたしが、どういう選択をしたのかも。

殺生丸は何も言わなかったよ。
ただ、あたしを見ていた。厳しい目で。

琥珀が、あたしを庇った。
姉上は幻を見せられていたのだ、ってね。

だけど、あたしはそうじゃない、と思った。
あたしは、りんを殺すという選択をしたんだ。
幻だろうが現実だろうが、きっと同じ選択をしたんだよ。

自分の幸せのために、だ。

・・・最低だね。


申し開きをするつもりはない、と殺生丸に言ったよ。
八つ裂きにするなり何なり好きにして構わない、ただ、待って欲しい、と。
奈落を倒して、法師さまの呪いが解けるまで待って欲しい、と。

殺生丸は、最初から最後まで、何も言わなかった。

・・・気が付いたりんは、気絶していたせいで何も覚えていなかった。

琥珀も殺生丸も、だれも、りんにこのことは言っていないんだ。
だから、知らないんだ。
・・・自分が、あたしに殺されそうになったことを。

犬夜叉が井戸から戻ってきて、殺生丸は楓さまにりんを預けて去ってしまった。
あたしのほうを振り向きもしないで、行ってしまったんだ。


人を殺すという選択は、許されるものじゃない・・・。
しかも、罪もない人間を、誰かのために、なんて。

ごめんね、法師さま・・・。
あたしは・・・法師さまに相応しい女じゃないよ・・・。

人殺しの罪を背負ってるんだ・・・。

 


珊瑚の肩は震えていた。
硬く握りしめている法師の墨衣は、珊瑚の涙で更に深い色に染まっていた。

「・・・そうだったのか」

弥勒の手が、珊瑚の背を優しくさする。

「ならば、それは私の罪でもあるな」

珊瑚は目を見開いて、弥勒の顔を見上げる。
そこには穏やかな、深い瞳の色をした夫の顔があった。
珊瑚の目に、再び大粒の涙が溢れた。

 


・・・いいですか、聞きなさい、珊瑚。

奈落の体内でお前を一人にしたのは、今でも私の落ち度だったと思っている。
私達は、人間だ。
互いに支え合わねば、何も出来ない生き物なんですよ。

分かっていたのに、私はお前を手放した。

・・・身勝手だった。許して欲しい。

耐えられなかったんだ。
お前を、私の呪いに巻き込むことが辛かった。
愛するものが自分のせいで死ぬなんて、私には耐えられそうになかった。

それは、私の弱さでもあったんです。
離ればなれになったとたん、私にも同じように奈落の幻が見えましたよ。
同じように、私が一番乗りだと言ったな。
さあ、風穴をひらけ、と。

珊瑚、お前と同じだ。

私もまんまと挑発に乗って風穴を開こうとしましたよ。
奈落を倒せるなら、後はどうなってもいいとすら思っていたかもしれない。

だが、私の風穴は開かなかった。
犬夜叉とかごめさまが、私のこぶしを開かせなかったんです。
幻から、私を救ってくれたんですよ。

私の心も、弱かったんです。

かごめさまに諭されましたよ。
珊瑚も、たとえ死ぬかもしれなくても、きっと側にいたかったに違いない、とね。

後悔しました。
もしも、珊瑚にもしものことがあったら、耐えられなかっただろう。
お前があの時生きていてくれたことが、私にとってどれだけ救いになったことか。

・・・なあ、珊瑚。

奈落によって、命を奪われたもの、不幸になったもの、一体どれだけいると思います?
町や城ごと命を奪われたものだっていただろう?

私達は、生き抜いたんです。

それも、きっと沢山の命の上にです。
沢山の犠牲の上に、です。

・・・私達は、生きなけれればならないんです。
犠牲になって亡くなった人達の分まで、生きて生きて、生き抜かなければならないんですよ。

・・・そして、幸せにならなければならないんです。

お前が罪を背負うなら、それは私が共に背負おう。
夫婦というのは、そういうものじゃないんですか?

そして、少なくとも、お前はりんを殺さずにすんだんです。
ならば、いくらでもこれからあの小さな娘に償うことができるはずだろう?

あの娘は、まるでかごめさまのような娘です。
かごめさまのような巫女としての力もないただの人間の幼子だが、
太陽のように暖かく、そして大切なものを信じることの出来る強い心の持ち主です。

お前と知り合う前だったが、私は犬夜叉やかごめさまと共に殺生丸に殺されかけたんです。
殺生丸の冷酷っぷりはよく知っていますよ。
妖怪の中の妖怪だ。
情けも容赦もない、本当に恐ろしい最強の大妖怪だったんです。
兄に劣っているという反発もあったんだと思うが、犬夜叉も人間とは相容れない半妖だった。
その犬夜叉の心を、かごめさまは溶かしてしまわれた。
犬夜叉の良いところ、優しいところを引き出していったのはかごめさま。
それは、お前もよく知っているだろう?

殺生丸だって同じなんです。
今の殺生丸は、私達が最初に会った頃とはずいぶん変わった。
りんの太陽のような暖かさが、きっと殺生丸を少しづつ変化させたんだろう。
人間なんて虫ケラにしか思っていなかった殺生丸が、です。

りんは言っていた。

知らなかったの?
殺生丸さまは、はじめから、ずーっと、優しかったよ、と。

もしかしたら、誰にも触れられなかっただけで、
殺生丸にもそういう優しい心はあったのかもしれない。
だが、だれにも触れられねば、それは無いのと同じ事だろう?

きっと、殺生丸にとってりんは唯一無二の存在なんです。

そして、そのりんをこの村に預けていったということは、
きっと、私達にもりんを守れということなのではないかな。

人間にしかできない守り方だってあるだろう。
人間にしか教えてあげることの出来ない知識だってある。

なあ、珊瑚。

共にその償いをさせてくれますか?
私達は、夫婦だろう?

りんという娘を、私達は愛そう。

あの娘にできることは、骨身を惜しまずにやってあげよう。
授けられる知恵は、すべて授けてやろう。

殺生丸は、お前を殺そうなどと思ってはおるまい。
そんなことをしても、りんが悲しむだけですからね。

もしも、殺生丸がお前を許していないんだとしたら、
許す気持ちになるまで、私達は出来ることをするしかない。

ただ、それだけのことです。

 

な、珊瑚。

もう泣くのはやめなさい。

 


・・・明日からは泣かないから

 


か細い、震える声でそういう妻を、弥勒は強く抱きしめた。

遠くでフクロウの啼く声が聞こえた。
夜も、ずいぶん更けたらしい。

弥勒の心に、なにか大きなものが沈んでいくようだった。
大きな大きな、返しきれない恩義を抱えていたのだ、と知ったからだろう。

よく、我が妻を殺さずにいてくれたものだ。
あの冷酷無比の大妖が。

そして・・・よく、りんを人里に戻したものだ。

唯一無二の存在。
恐らく、手放したくなどなかったであろうに。

いつか、りんがどちらでも選べるように、ただそれだけの為だと楓から聞いた。

愛しいものが己から離れて、いつの日か人間の妻になっても構わぬということなのだろうか。
それでも、りんが幸せであれば、それでいいということなのだろうか。
人間である弥勒には、それは、とても辛いことのような気がする。

だが、それほどまでに、りんを愛しているということなのだろう。
それほどまでにりんの幸せを願う、それは、尊すぎる願いではないのだろうか。

それとも、人間の短い一生を送る私達では、
永遠に近い時を生きる彼らの想いは、理解できないものなのだろうか・・・?


だが、私達にはその願いを受けて、あの娘を守ることしかできまい。


・・・私達は、生かされて今ここにあるのだから。

 

腕の中にいる暖かさが失われなくて、本当によかったと、弥勒は思った。





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