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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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ありふれたものの中に、それはありました<3>


歌垣(うたがき)、という文化がある。
りんの住む東の国では櫂歌(かがい)ともいう。

語源は共に「歌の掛け合い」である。

古来、言葉には言霊(ことだま)という呪力があるとされている。

歌垣では、特定の日時と場所に老若男女が集まり、共に飲食しながら、歌を掛け合う。
求愛の言霊を込めた歌を掛け合い、
何度も掛け合ううちに、より強い呪(しゅ)の力で男女が結ばれるという。

古くは春や秋に執り行われることが多く、
五穀豊穣の予兆・感謝の性格を持っていたとされるが、
豊穣・繁栄を祈る行為は何も農業に限ったことではなく、
この時代を生きる人々にとっては子孫繁栄をも意味している。

歌垣は、成人を迎えたものだけが参加できる、求婚・婚約の場所でもあり、
男女が共に飲食し、歌舞し、歓楽を迎え、性を解放することを許される祭りであった。


娯楽の少ないこの時代には、さぞかし刺激の強い祭りであったことだろう。

 

 



ありふれたものの中に、それはありました<3>

拍手[39回]





「いやあ・・・残念ですなあ」

楓から 「 歌垣の祭の間は、皆で湯治場へ行くぞ 」 と言われた弥勒が、思わずポロリと一言漏らした途端、妻の珊瑚が
思いっきり夫の耳を引っ張った。 ギラリ、と珊瑚の目が光る。

「じょ、冗談ですよ・・・! そんな、私が大切な身重の妻を差し置いてそんな祭りに参加するとでも・・・!?」

あまりの痛さに涙を浮かべながら法師は弁解したが、ぷい、と横を向いてしまった珊瑚の怒りはもっともで、
犬夜叉も楓も琥珀も、あきれ顔を法師へと向ける。 たぶん、前者が本音だろうと思いながら。

「・・・まあ、そういう訳じゃ。 村の長にはちゃんと指示を出しておるし、あの乱痴気騒ぎには付き合いきれんのでな。
 毎年、この祭りの前後を含めて三日間、私は骨休めにその湯治場へ行くことにしておるのだ。 朝早くから歩けば
   昼過ぎには着くし、あの湯治場の近くには市も立つしな。 そなたたちも、市に行けば、何か仕事の依頼があるやも
 しれぬだろう。 どうじゃ?」

「もちろん、行くよ、楓さま」

珊瑚がきっぱりと言い切ると、その隣で法師の肩が落ちたのは、見間違いではあるまい。

「俺も話を聞けて、ちょうど良かった。雲母は姉上がお使いください。 そのお体で、長く歩くのは辛いでしょう」

村を出て一年ぶりに、珊瑚の家に立ち寄っていた琥珀が提案する。 雲母も、キュゥゥ、と鳴き声をあげた。
珊瑚は、子供を宿して7ヶ月。 元々、体が丈夫で安定気には入ったといえども初産であり、琥珀はそれが気がかりである。

「ありがと、琥珀。病気じゃないんだし、たぶん大丈夫だと思うけど、一応連れていくよ。  琥珀も一緒に行かないかい?」

珊瑚の誘いに、琥珀は首を横に振る。

「その日は、七宝の妖術試験なんです。 情報収集の為に、試験会場へ俺も連れていって貰う約束してるんです。妖怪のことは、
 妖怪に聞くのが一番だから。 七宝を通せば、ほかの狐と話ができるとのことですので、勉強を兼ねて行ってきます」

「試験会場な・・・。 あんまり、たいした情報はつかめねえと思うぜ・・・」

犬夜叉と法師と珊瑚は遠い目をした。
恐らく、七宝が琥珀を呼んだのは友情ゆえではなく、退治屋は騙したときの得点数が高いからであろう。
あの、不合格の短冊がばらばらと落ちてきた妖怪屋敷を思い出した。 かわいそうに、琥珀相手では今年も受験者はあまり
昇級は見込めないだろう。 何に化けて出てきても、狐の方が琥珀に体の隅々まで調べられそうである。

「・・・ま、途中からでも気が向いたらいらっしゃい、琥珀」

弥勒が笑顔でそういい、楓も琥珀を見てうなずいた。

「よし、それじゃあ、皆で行くということでよいな。りんも喜ぶじゃろうて」

りんの名前に反応したように、琥珀は皆に問うた。

「そういえば・・・りんは、元気ですか?殺生丸さまは、りんを訪ねてきているんですか?」

琥珀の問いに、楓は笑って答えた。

「ああ、元気だぞ。今日は、子供達と一緒に薬草を取りに行っておる。 殺生丸殿もきっちり満月の日に、りんに会いに来ておる」

楓の応えに、珊瑚が笑顔で付け足した。

「毎月、邪見が何かしら手みやげを抱えてね」

琥珀はへえ、という顔をして、懐かしそうに目を細めた。
殺生丸と過ごした時間はわずかだったが、琥珀の中ではその存在の大きさは、何ものにもかえがたい。
一年ほど、雲母にのって妖怪退治の旅にでたが、当然ながら、殺生丸を越えるような妖怪には出会わなかったし、
この先、退治屋として自分が殺生丸を越える妖怪に会うことは、一生無いような気もした。
すべてが桁違いだったし、あの大妖にとっては、人間など塵芥に等しいのだ。
その大妖が、たった一人の人間の幼子を、それはそれは、大切にしていた。
殺生丸は表情にも言葉にも出さなかったから、端からみていても、どれだけりんを大切に思っているのかは実に分かりにくい。
だが、琥珀が出会ったりんの生き生きとした幸せそうな表情が、すべてを物語っていたように思う。
そして、あの冥界での一件。 あの時琥珀は、りんが殺生丸にとって唯一無二の存在なのだ、と知ったのだ。

琥珀が一年前最後に見たのは、人里に預けられ、楓のそばで心許なげな表情をしていたりんだった。
「俺、妖怪退治の旅にでるよ。妖怪に困っている人を助けるのが、俺の罪滅ぼしになるような気がするから・・・」
そういって別れを告げた琥珀に、りんは一生懸命笑って、「がんばってね、琥珀」と言ったのだ。
「りんも・・・頑張るから」と。今にも泣きそうな表情だった。 きっと、一人で人里に残されて寂しかったのだろうと思う。

楓からある程度経緯は聞いたものの、琥珀は、殺生丸がりんを人里に残していくとは露にも思っていなかったから、
正直なところ、かなり驚いた。 あれほど大切に思っている唯一無二の存在なのに、と。
殺生丸ほどの大妖ならば、己の腕の中で守るのが一番安全なのに、それを敢えて置いていくというのは、やはり殺生丸が
りんの将来を案じていたということなのだろうし、詰まるところそれは愛情がなせる技だったのだろう。

りんが「頑張るから」と言ったのは、その期待に応えようとしているからなのだろう、と琥珀は思った。
・・・りんは、ちゃんと村に馴染めているのだろうか。 そう、琥珀が思ったとき。

弥勒が、ぽん、と手を打った。

「さて、出発は明日だ。せっかく琥珀が一年ぶりに立ち寄ったんだし、 今晩は皆で夕飯を囲むとしましょうか。
 先日、妖怪退治の報酬で頂いた酒もあることですし、 今夜は鴨鍋などいいですねえ、犬夜叉?」

弥勒の笑みを向けられて、犬夜叉は「しゃーねーな」と言いながら、足取り軽く小屋の外にでていった。
猪や鴨の捕獲に関しては、犬夜叉に勝る者はいないのである。

「それでは、また夕方、りんと一緒に伺うよ」

そう言って帰った楓を見送ると、弥勒は板の間から腰を上げ、草履を履きはじめた。

「私は、村の衆に頼んで野菜を分けて貰ってきます。 では琥珀、せっかくだからゆっくりしていなさい」

優しい眼差しでそう言った弥勒を見て、珊瑚は夫がさりげなく姉弟二人にしてくれたことに気がついた。
一年ぶりに帰ってきたのだから、たまには姉弟水入らずでゆっくりお話なさい、ということなのだろう。

(もう・・・あたし、さっきまで怒ってたのになぁ)

かなわないなあ、と思いながら珊瑚は愛する夫の背を見送る。
琥珀も軽く会釈をして弥勒を見送ると、珊瑚の方に向きなおり、からかうように言った。

「お幸せそうで何よりですね、姉上?」
「もう・・・見てただろう?本当に、法師さまったら相変わらずなんだよ」

珊瑚は、少し赤くなって立ち上がった。
もともと、しなやかで凛とした姉だったが、新しい命を宿した姉は、思わず琥珀が見とれるほどに艶やかで美しい。

「そうそう、こないだ、りんから貰った美味しいお茶があるから、入れてあげるよ。 矢車菊や柚子や生姜や、刻んだ色んな葉が
 入っていて、すごく良い香りがするんだ」

「へえ、りんが作ったお茶?」

琥珀が少し驚くと、珊瑚はくすりと笑って言う。

「お茶というか、私のために作ってくれた薬湯みたいなものなんだけどね。 体を暖めて、妊婦が風邪をひかないように
 するためのものなんだけど、あんまりにも美味しいから、頼んで追加で作って貰ったんだよ。 楓さまが、りんの配合する
 感覚は絶妙なんだって誉めてた。 薬草なんかでもね、すごく、物覚えがいいんだって。薬師の才能があるのかもね」

珊瑚は竈で沸かした湯の中に、りんから貰った茶葉を入れる。
鍋の中で葉や花が開いてゆらゆらと揺れながら、底へ沈んだ頃が飲み頃なのだと聞いた。
茶葉を入れた途端、家の中にふぅわりと何とも言えぬ、良い香りが広がる。 複雑に絡み合う、たくさんの薬葉と花や果実の香り。 

琥珀は目を閉じて、胸いっぱいに香りを吸い込んだ。

「・・・いい香りだ。すごいな、りんがこれを作ったのか」

珊瑚は茶葉が沈んだ後の上澄みを二人分湯呑みに入れて、一つを琥珀に差し出した。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます、姉上」

二人は、板の間の上がり口に並んで腰掛けて、良い香りの茶をすすった。 まるで昔、退治屋の里で暮らしていた頃のように。
あのころと比べたら、ずいぶん捻れてこじれて運命に翻弄されて、お互いに何度、死を覚悟したかわからない。
また、人里で二人で並んで茶を飲める日がくるなんて、思いもよらなかった。 おまけに、姉はあと何ヶ月かで、母になるのだ。
人生とはわからないものだ、と琥珀は思う。

「・・・おかえり。 無事でよかったよ、琥珀。ずっと心配してたんだからね」

茶を飲んだら、少し気持ちがゆるんだのだろうか。 珊瑚が潤んだ声でそう言い、琥珀は苦笑して、空いている手で珊瑚の背を
さすった。

「・・・すみません、姉上。心配ばかりかけて」

二つの命を授かった、たった一人の姉の背中を。


その日の夕食は、皆が集まって、とても賑やかだった。
犬夜叉は、彼なりの琥珀への歓迎のつもりなのか、鴨を3羽も捕ってきた。
弥勒が念仏を唱えて器用に捌くと、珊瑚が1羽分を野菜と一緒に鍋に、りんが1羽分を香菜を混ぜ込んだ味噌で味付けをし、
串に刺して囲炉裏端で炭火焼きにした。
もう一羽分は、外で薫製中である。 薫製にして日持ちをよくしてから、再び妖怪退治の旅にでる琥珀に持たせてやるのであろう。

鴨の脂と香味味噌がじりじりと焦げる、香ばしい匂いが、食欲を誘う。 皆に焼き肉と鴨鍋の入った腕がいきわたり、
酒の入った犬夜叉と弥勒は、良い顔色で琥珀に近隣の妖怪の様子を聞いている。
最近、この村の近くでは、ほとんど妖怪の被害は無く、犬夜叉と弥勒は、かなり遠方まで仕事に出かけることが増えている。
雲母に乗って各地を見ている琥珀の話は、実に興味深かった。

りんが久しぶりに見た琥珀はずいぶん背が伸びていた。 話す声も、なんだか低くなった気がする。
かつての旅の仲間に再会できるのは、とても嬉しい。
それは琥珀も同じだったようで、久しぶりにりんを見て、嬉しそうに言った。

「背が伸びたな、りん! さっき姉上に頂いたんだけど、りんが作ったお茶、すごく美味しかった。 配合が難しいんだって?
 すごいじゃないか」

琥珀がりんを誉めると、りんは照れたように 「 ほんと?よかった 」 と笑った。
りんは、紫の染めが入った蝶の柄の小袖を着ていた。庶民の暮らしの中では、少し目立つ柄で、それを琥珀は不思議に思う。
晴れ着ではなく、あえて普段着にこれだけの技巧を凝らした着物を手に入れるには、恐らくかなり遠くの市にまでいかねば
ならないだろう。 良い職人は、大名や貴族のお抱えで、大きな町にしかいないからである。

もしかして、と、琥珀は思う。
「邪見が手みやげを抱えてね」といった、姉上の言葉から考えると、これは殺生丸様からの贈り物なのではないだろうか。

「俺、市松模様の着物きてるりんしか見たこと無かったけど、 その着物もよく似合ってるな。少し大人っぽくなった気がするよ」

琥珀がそういうと、りんはぱぁっと、先ほどよりも何倍も嬉しそうな顔をした。 りんは、嬉しそうに楓を見上げて、にこにこ笑う。
楓はそんなりんを見て、仕方なさそうに笑う。

「いや、この村ではこのような鮮やかな染め柄の着物はなかなか手に入らぬだろう? 悪目立ちせねばよいが、と心配して
 おったのだがな、邪見がのう・・・」

「邪見様、絶対にこの着物を着てろって言うの。なんでか分からないんだけど」

りんも、屈託無くそういって、嬉しそうに笑う。
殺生丸様のことだから、もしかしたらりんに渡した着物に、何か魔除けを仕込んでいるのかもしれない。
琥珀はそう思ったが、かごめのように常人には見えないものが見えるわけでもない。
多少なりとも、そういった知識のある楓が何もいわぬところをみると、普通の着物なのかもしれない。
琥珀はにっこり笑って、「りんに、似合ってるからだよ、きっと 」 と言った。

よくよく、そのあどけない笑顔を見ていると、りんはさほど変わっていないのに、琥珀が、先ほど妙に大人っぽくなったように
感じてしまったのは、もしかしたら、着物のせいだったのかもしれない。
鮮やかな小袖はりんの可憐さを余すところなく引き立てていて、それが妙に琥珀の目を引いた。
一瞬、目を離せなくなってしまいそうな感覚さえ感じた琥珀は、意識的に手元の腕へ目を逸らした。
この着物を着たりんを見た時、もしかして殺生丸様も同じように思ったのかな、と思いながら。

琥珀は、月に一度、人里へ通うという殺生丸の心を思う。
自分たち人間には、想像もつかぬほど永い時を生きる彼の目には、ただ一人の愛しい幼子はどう映っているのだろう。
きっと、りんは光を放ちながら目まぐるしく変化しているに違いない。

・・・・俺だったら、あまりの眩しさに目を背けてしまうかもしれない、と琥珀は思った。

 

 
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