あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

ありふれたものの中に、それはありました<2>


楓おばあちゃんの、人生。

りんちゃんは、老巫女の人生から、何を受け継ぐのだろう。
大妖から預けられた人里で、りんを受け入れてくれた楓おばあちゃん。

楓さまは、どうして誰とも夫婦(めおと)にならなかったの・・・?

りんちゃんの、素朴な疑問に答えてあげるおばあちゃん。








ありふれたものの中に、それはありました<2>





私がこの村で巫女になった理由を話すには、
まず桔梗お姉さまのことから話さなければならないねえ。

・・・おお、そうか。りんは桔梗お姉さまに逢ったことがあるのか。

ならば、知ってるだろうね。 お姉さまはとても強い霊力をもった巫女で、そして抜きんでて美しい人だったよ。

私たちは、早くに両親を亡くしてね。
お姉さまの霊力の強さを見込んだ御師<オシ>さまに、お姉さまと私は育てられたのだ。

・・・そうか、御師さまを知らぬか?
ここよりもずっと西に、伊勢という国があってな。
そこにはお天道さま…天照大御神(アマテラスオオミカミ)さまをお祀りしている、神宮というそれはそれは大きな
お社があるのだよ。
その神宮の祈祷札を、旅をしながら運び、運んだ先でお払いなどの仕事をする人を、御師さまというのだ。
私たちを育ててくれた御師さまも、桔梗お姉さまと同じように強い霊力をお持ちだった。

その御師さまは、武蔵野へ神宮の祈祷札を運ぶお役目だったのだけれど、武蔵野に入った途端、妖怪に襲われてしまった。
妖怪は切り伏せたものの、妖怪の毒が傷口から入り、私たちの住んでいた村まで辿り着かれたときには息も絶え絶えだった。

その時、御師さまの妖毒を浄化してしまわれたのがお姉さまだったのだ。

傷も体力も癒えた御師さまは、桔梗お姉さまを、弟子にほしいと村の長に頼まれたんだ。
村の長は、修行した後に立派な巫女になって、いずれ桔梗お姉さまが村を妖どもから守ってくれるなら、という約束で承諾した。
桔梗お姉さまは、妹の楓も一緒に弟子にしてくれるなら、という条件で、その御師さまの弟子になることを承知されたんだ。
村に、幼い私一人を残すことが心配だったんだろうね。

そうして、御師さまと桔梗お姉さまと私の三人は、村から修行の旅にでた。
村々を回っては、病気平癒の祈祷をしてまわったり、妖怪退治もずいぶんしたものだ。
私は桔梗お姉さまのような高い霊力は生まれ持っていなかったから、最初の頃は、御師さまと桔梗お姉さまの修行や
妖怪退治は、離れて見ていることの方が多かったよ。

やがて、たどり着いた村で、御師さまは病を患われた。 桔梗お姉さまと私で看病したが、寿命だったのだろうね。
御師さまはその村で亡くなってしまわれた。 ・・・本当に物知りな方だったよ。
祈祷や妖怪退治、破魔矢の使い方や、薬草の知識、御師さまからは旅の間にたくさんのことを教わった。
りん、そなたに教えている薬草の種類や配合などは、その御師さまから直接教えてもらったものなのだよ。

御師さまが亡くなられてからも桔梗お姉さまと私は歩き巫女の修行を続け、村をでてから5年後、ようやくこの村に戻って
きたのだよ。 その頃には、私も微力ながらお姉さまと一緒に妖怪相手に戦えるようになっていたな。

私が10才、桔梗お姉さまが17才だった。
その頃だったねえ、犬夜叉がこの村にやってきたのは。

その頃のお姉さまはすでに名高い巫女として四魂の玉を預かり、浄化しておられた。

お姉さまは、もはや普通の村人と同じように生きることを許されなかったし、同じく犬夜叉は村の中で人間としては生きられぬ
半妖だった。
・・・きっと心の中の孤独をお互いに感じ取ったんだろうね。 桔梗お姉さまと犬夜叉は、少しづつ惹かれ合っていったんだ。
犬夜叉に心惹かれていたお姉さまは・・・幼い私からみても、とても美しかったよ。

だが、お姉さまは呪いをかけられていたのだよ・・・。
愛しい男に心惹かれたとき、巫女としての力が衰える、となあ。
呪いをかけられた当時、お姉さまは呪いをかけられたことを知っても、一顧だにされなかったよ。
巫女の私が、男に心を奪われることなどない、とね。 だが・・・人の心とは、もともと揺らぐようできているものなのだ。
犬夜叉に心惹かれた時、お姉さまはその呪いのことは、覚えておられなかったのか、今となってはもう、分からぬ。
だが、犬夜叉に惹かれ始めた時から、お姉さまの巫女としての力は、お姉さま自身が驚くほど衰えていたのだよ。
以前のお姉さまでは考えられないことだが、戦いの最中に力が制御できなくなってしまっていた。

ある日、妖怪との戦いの最中に桔梗お姉さまの破魔矢が妖怪を貫いた衝撃が暴走して、私の目が潰れてしまったのだ。
お姉さまは、ずいぶん責任を感じていらっしゃった。

・・・ああ、りん、泣くでないよ。 もう、何十年も前のことなのだからね。 あの頃の私は、ちょうどりんと同じくらいだった。
私は、傷ついて見えなくなった右目を誇りに思っていたよ。 桔梗お姉さまと共に戦った、戦傷だとね。

しかし、私のその傷も癒えぬ間に、村をあの奈落が襲ったのだ。
犬夜叉と桔梗お姉さまをお互いに憎ませるように、お互いを殺し合わせるようにしてね。
全く、奈落という奴は本当に人の弱みを知り尽くした奴だった。 桔梗お姉さまと犬夜叉は、見事にその罠にはまって
しまったんだ。

犬夜叉は桔梗お姉さまの矢で50年眠り続け、桔梗お姉さまは犬夜叉に化けた奈落に襲われた傷が原因で亡くなって
しまわれた。

・・・そうか・・・りんは、初めて聞いたのか。

そうなのだよ、犬夜叉はずいぶんと辛い思いをしたのだ。
犬夜叉も、桔梗お姉さまも、弥勒や珊瑚、琥珀も、かごめもな。
皆、よくぞあの因縁を断ち切ったものだと、私は思う。 皆を、誇りに思うよ。

・・・ほらりん、これで涙をお拭き。

・・・桔梗お姉さまの亡くなった後、村では誰かがお姉さまの役割をしなくてはならなかった。
この村には骨食いの井戸があったし、森には犬夜叉が封じられていたからね。
いつ、妖怪がやってくるかと、村人はとても不安がっていたよ。

それを見て、私はできる限り桔梗お姉さまの代わりをつとめようと思ったのだ。
桔梗お姉さまには及ばなかったが、私も修行で巫女としての力はある程度つけていたからね。
そのあたりの妖怪ならば退治することもできたし、薬師としての知識もあったから、村人からはずいぶん頼りにされたものだ。

犬夜叉が眠り続けた50年、私はこの村を守り続けてきた。 ・・・今思えばあっという間だったな。

そうだねえ、りんの言うように、誰かと夫婦になることを夢見たことも、なかったわけではない。
同じ年頃の娘たちが嫁に行き、そして次々と子を産み、母になっていった。
一人置いて行かれたような気持ちになったこともあるし、寂しいと感じることもあった。
もし巫女でなかったら、と思ったことなど一度も無いと言ったら嘘になるだろうねえ。

だけど、私はこの村で巫女をしていて、とても幸せだった。 巫女として生きることが、私の居場所でもあったんだよ。
誰かに必要とされているというのは、嬉しいものなのだよ、りん。
それに、私が巫女としての自分を捨ててしまえるほど、心惹かれ合う相手に巡り会えなかった、というのもある。

犬夜叉に惹かれたお姉さまの気持ちも、分かる時があるんだよ。
ただの女として生きたい、という叶わぬ願いは、ただの男や女として暮らしている普通の村の衆には分かるまい。
お姉さまの恋は悲しい結末となってしまったけれど、その気持ちを分かちあえる相手と出会ったという意味では、
お姉さまは幸せだったのかもしれぬと、思うときもあるのだよ、りん。

なにが幸せなのかは、本当はきっと、人それぞれなんだねえ。
だから、本当に大切だと思うのなら、その気持ちは大切にしなくちゃいけないんだよ、りん。 誰にどう思われようとね。

ああ、そんなに泣いて・・・。 目が腫れてしまうよ、りん。

春冷えかねえ、今夜は少し冷えるね。 ・・・今日は暖かくして寝ような。


楓は泣くりんの背をさすった。
小さな、細いりんの体は、震えていて嗚咽を漏らしていた。 
涙をこぼすのは、りんが優しいからなのだろう。 犬夜叉や桔梗お姉さまの痛みを、自分の痛みのように感じているのだから。

まだ柔らかい心をもったこの娘は、この老婆の人生をどう感じただろう、と楓は思う。
妖怪を慕い、妖怪に育てられた娘に、妖怪によって人生をねじ曲げられた者たちの話をするのは、酷だったかもしれない。

だけれども、まっすぐな心をもったこの娘なら、己の大切なものを信じることができるだろう。

それを支え、育てるのが私の使命なのかもしれぬ、と楓は思った。

 



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