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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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ありふれたものの中に、それはありました<4>

初めて、犬夜叉一行と旅に出るりんちゃん。

非・日常の中で、思うのは。









ありふれた中に、それはありました<4>









 

拍手[18回]

 

皆であれこれ楽しく話しながらの半日ほどの旅程は、あっという間で、お昼過ぎには楓行きつけの旅籠についた。

いつも一人で訪れていた楓が4人ものお客を引き連れてきたことに、旅籠の女将は喜び、改めて老巫女との再会を嬉しがった。

「まあ、まあ、まあ・・・! 嬉しゅうございますわ、楓さま! 昨年は一度もいらっしゃいませんでしたでしょう?病でも患われたのかと
 心配していたのです。 さあさあ、今日はおいしい料理をお出ししますから、皆さまどうぞごゆっくりなさってくださいね」

40歳後半の女将の後ろで、使用人らしき数人の若者が微笑んで頭をさげた。
湯治の為の宿ということで質素な作りの宿だったが、隅々までよく手入れさえた部屋と、感じのいい女将と使用人とが、
印象的だった。
りんは見たことも会ったことないが、この地の領主の奥方さまが楓と同じ腰痛を患っているらしく、たまにお忍びで来ると
いうこともあって、使用人の客に対する態度は非常に教育されていた。
まず、犬夜叉を見ても、驚きもしないのである。
普通、犬夜叉を初めて見たものは、その耳に目を奪われる。 銀色の髪と金色の目も、明らかに人間ではない。
けれど、ここの女将も使用人も、りんと同じようににっこり笑って犬夜叉を受け入れた。
犬夜叉もそれに気付いたようで、くすぐったそうに「邪魔するぜー」と旅籠に入っていった。
行きがけに、「俺は木の上でいい」とか何とか言っていたのに、だ。

・・・ここだったら、殺生丸さまと邪見さまが泊まっても大丈夫そうだな。 りんはそう考えて、思わず、くすくすと笑ってしまった。


温泉は、大きな岩をくり貫いた中に流し込まれるようになっていて、沈殿した硫黄が、岩をなめらかに覆っていた。
湯船に浸かり、何ともいえぬ暖かいお湯が体を包むと、思わずため息がでた。

「うわ~~~~~~~気持ちいい~~~~~」
「ほんとですね~~~~」

珊瑚が心からの声をあげ、それにりんが追随した。
硫黄の白濁したお湯は肌に柔らかく、肩まで浸かると一瞬で疲れがとれるような気がした。

「珊瑚、あまり長い間つかりすぎるなよ。 湯あたりすると、おなかの子にさわるからの」

楓がそういうと、珊瑚はうなずいた。
りんは、ゆったりと湯に浸かる珊瑚の美しさに思わず見とれてしまう。 もともと凛とした美しい女性だったが、最近の珊瑚は
りんが見とれるほどに美しい。 緩やかに膨らんだ腹部には、命が宿っているのだ。
着物の上からではあまり分からなかったが、裸体になった珊瑚の腹は思ったよりも大きかった。

「珊瑚さま、きれい・・・」

ぽそりとりんがつぶやいて、とぷん、と鼻まで湯船につかる。

「そうじゃな。子を宿した母というのは美しいものじゃ」

楓もうなずいて目を細める。
珊瑚の腹を触診しているのはいつも楓である。 通常よりも膨らみが早いことから、おそらく双子であることは間違いがなかった。
そのことを知った珊瑚と弥勒は、実に喜んだ。 二人も家族が増えるのだ、と。
珊瑚は琥珀と共にさんざん奈落に苦しめられてきたのだ。 呪いの解けた弥勒と共に、これからは幸せな人生を送ってほしいと、
誰もが思っている。 おなかの子供はその象徴のようなものだ。 どうか、無事に、元気に生まれてきてほしい。

「りんも、早くお母さんになりたいかい?」

珊瑚がりんに聞くと、りんは、ぷはっと湯船から顔を出して、言った。

「・・・よく、分からないの」
「分からない?」
「うん・・・。お母さんになるには、 その前に誰かと夫婦(めおと)にならなくちゃならないでしょう・・・?」

りんは、ゆらゆらと揺れる水面を見ながら、目の色を深くした。 思い詰めたように、ぽそりと言う。

「いつか、りんも歌垣のお祭りに出なくちゃいけないのかな・・・」

りんの一言を聞いたとたん、楓と珊瑚はぎょっとして吹き出した。 どうも、りんは色んな勘違いをしているらしい。
急に慌てた二人の様子を、りんは豆鉄砲をくらったような顔をして見ている。

「り、りん、歌垣は、何も無理に出なくてもいいんだよ」
「そ、そうじゃぞ、りん。歌掛けで相手とうまくいった者同士は、 夫婦になったり、その約束をしたりするもんじゃが、
 相手が見つからなかったものにとっては、ただの乱痴気騒ぎなのじゃからの」

歌合戦で負けて、対になれなかった男女は、最終的には酒が入って、目も当てられぬ乱交状態になることが多い。
もともと、それが目的で参加するものが大勢いるのだ。 毎年の事ながら、酒で理性が飛んでしまった男共が、女を争って
喧嘩が絶えず、楓の杞鬱は、そこにあった。

当然、そんな生々しいことは、楓も珊瑚もりんには教えていないから、りんが何か勘違いをしていても、仕方のないことなのでは
あるのだが。
しかし、そんな淫らな祭の中に、何も知らない無邪気なりんが入っていくところを想像しただけでも、二人はぞっとした。
大妖が知れば、怒りで村は一瞬で消されてしまうに違いない。

「ま、まったく、心臓に悪い冗談じゃ・・・」

楓は乾いた声で、ははは、と笑った。
珊瑚もひきつり笑いを浮かべて、あわてて言う。

「そ、そうだね、例えば村の中に、りんの好きな人ができたとするだろう? でも、なかなか気持ちを伝えられない。
 そんな時、その人が歌垣にでるっていうなら、その人に想いを伝えるために参加したらいいんだよ。 好きな人もいないのに、
 参加しても無駄だろう?」
「・・・・・・そう、ですよね」

りんは息を吸い込んで再び鼻まで温泉に浸かると、そこからぷくぷくと息を吐いた。
子供らしい仕草のなかに、揺れるりんの気持ちは沈んでいく。
珊瑚さまと弥勒さまは、好き同士で夫婦になれた。 りんのおっとうとおっかあも、そう。
でも、りんは・・・そうなれるのかな。 そもそも、歌垣に参加する村の男の人を、りんが好きになったりすることが、この先あるん
だろうか。
楓さまは、巫女であることを辞められるほど好きな人には出会わなかった、と言っていた。
たとえ好きな人ができたんだとしても、歌垣で好きな人に断られてしまったら、どうやって立ち直ったらいいんだろう。
それも覚悟の上で参加できるなんて、歌垣に参加する大人は皆、勇気があるんだなぁ、とりんはぼんやり思った。

・・・そもそも、「好き」って、なんだろう。
りんは、殺生丸さまのことが、大好きだ。 どこがって言われても、困る。全部、大好きだから。
でも、夫婦になる「好き」と、どう違うんだろう。 りんには、よく分からなかった。

・・・好きな、ひと。
・・・想いを、伝える。
・・・夫婦に、なる。
・・・家族が、できる。

殺生丸さまは、人のことを学べ、と言った。 いつか、どちらでも選べるように、と楓さまは言った。
いつか、りんが誰かと夫婦になりたいと思う日がくるんだろうか。
いつか、りんにも家族ができる日がくるんだろうか。

・・・本当にりんが望めば殺生丸さまと一緒に、また旅に出れるのだろうか?

殺生丸さまは、どうしてりんに毎月会いにきてくれているのだろう。
人里に残されたときに、りんが泣きながらお願いしたからだろうか。 「会いにきてほしい」と。

・・・殺生丸さまは、優しいから。
優しいから、りんの為に会いに来てくれてるだけ・・・なのかな。

温泉という非日常の空間にいるせいだろうか。 普段あまり考えもしなかった疑問が、りんの心の中からどんどん湧きだしてくる。
それを、楓や珊瑚に遠慮なく聞けるほど子供でもなく、かといって、りんの知る確かなことは何もなくて。

心の中に生まれた小さな不安は、じわりと広がっていくようで、りんは泣きそうになってぱしゃりと顔を湯船で洗った。
せっかくの温泉なのに、泣いたりして楓や珊瑚に心配をかけたくない。

「よーし、楓さま、背中をお流しします!楓さまが終わったら、珊瑚さまも!」

りんは気分を変えようと、元気に言った。 何かしている方が、変なことを考えなくてすみそうな気がした。

 


夕飯は、皆で囲炉裏を囲んで賑やかなものになった。 女将は、かいがいしく、楽しそうに皆の食事の世話をした。

絶妙な塩加減で炭火焼きにした鮎はとても大きくて脂がのっていて、あまりの美味しさに皆が目を見張った。
煮物にも柚子の香りのするトロリとした葛餡がかけられていたり、一度香ばしく焼いてから煮込まれた鱒の粕汁など、
料理とは一手間でこんなに味が違うものなのかと、りんは驚いた。
さすが、女将が自慢するだけのことはあって、皆は一口食べるごとに感動のうなり声をあげた。

「いや、さすがじゃな。また腕をあげたのではないか、女将?」

楓が女将にそういうと、女将は嬉しそうに言う。

「まあ、本当ですか?嬉しいですわ。せっかく楓さまに救っていただいた命ですもの。 家族が皆で精一杯努力して、恩返し
 いたしませんとねえ」

楓に救ってもらった命、という言葉に、一同は驚いて女将の顔を見る。
それに気がついた楓は、ああ、という顔をした。

「そうか、皆には言ってなかったな。 この女将がまだ幼い頃、この宿の主…女将の父上殿に、妖祓いを頼まれたことがあってな」

女将はふふ、と嬉しそうに笑う。

「もう、かれこれ20年は前になりますわね」

妖祓い、という言葉を聞いて、弥勒は身を乗り出した。

「あの、女将殿。宜しければ、私共にそのお話を聞かせては頂けませんか? 私たちも、人ならざるものを相手にして日々を
 暮らしておりますゆえ、大変興味深い。 女将殿さえ、よろしければ、ぜひ」

弥勒の依頼を受けて、女将は楓を顧みる。 楓は、女将の表情を見て頷いた。

「・・・そうじゃな。私にも、あれはとても思い出深い依頼だったからの。 女将、そなたさえよければ、この者たちに話してやって
 くれぬか?」

楓の依頼を受けて、女将はにっこりと微笑んだ。

「このお話をさせて頂くのも、ずいぶん久しぶりですわね」

丸盆を膝の上に載せて座ると、目を閉じて、懐かしそうに語りだした。

 


・・・そう、あれは、私が8つの時でございましたわ・・・・。


 


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