あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

ありふれたものの中に、それはありました<7>












 

ありふれたものの中に、それはありました<7>







 




早朝、りんたちは女将特製のおむすびを持たされて、旅籠を出発した。
りんたちが目指す市は、その旅籠から一刻程、川沿いに下った所にあり、
皆であれこれと他愛もない話をしながら歩くと、あっと言う間に着いてしまった。


旅、という感覚はりんにとって、とても久しぶりだ。

昔は、いつも殺生丸さまの後ろ姿を見ながら、
こんな風に森の中を、他愛もない話をしながら邪見さまと歩き、旅をした。
あれは、家族を夜盗に殺されて一人だったりんが、はじめて貰った居場所だったのだ。
いつも見上げていた銀色の髪の流れる広い背中。
・・・絶対的な信頼と、安心感。
思い出すと、りんはほんのりと切なくなった。
(・・・満月は、まだまだ先だもの)
りんは、軽く唇を噛む。

いつもの村の生活から離れると、
途端にりんの感覚は昔へと引き戻されてしまうようだった。

・・・会いたいなあ、と、ただひたすらに思ってしまう。

 


りんが思っていたより、市はかなり広く、大きかった。
しっかりとした戸建ての商店が並ぶその様相は、
むしろちょっとした城下町と言ってもよさそうな大きさである。
戸建ての商店が並ぶ街道筋の裏通りには、
地面にむしろを敷いただけの屋台のような店がひしめいていて
なんともいえない賑やかさと猥雑さを醸し出していた。


弥勒と犬夜叉は、旅籠から一緒に来てくれた山吹と共に、
妖ものに悩まされているという刀鍛冶の店へ行くことにして、
楓と珊瑚とりんは、まず珊瑚の欲しがっている布地を求めに、
反物を扱う商店へと足を運んだ。

良い布地を手軽な値段で扱う店の情報は、
前もって旅籠の女将からしっかり仕入れ済みである。

「わあ、たくさんありますね~~」
女将おすすめの店の前でりんが声を上げると、
その声を聞きつけたのか、中からふくよかな女主人が出てきた。

「おやまあ、巫女様にお連れさまですか。今回は、どのようなご入り用で?
  巫女様がお祓いに使われるなら、よい麻緒もご用意できますよ」

女主人は、にっこりと微笑んでそう言ったが、
ふと、りんに目を留めると、ぎこちなくその表情が固まった。
こっそりと、楓に声をひそめて尋ねる。

「・・・あの、どちらからかのお忍びでございますか?」

楓たちは一瞬、ぽかんとした。
「お忍び?いや、私たちはここから三里ほど離れた村の者だよ。
  忍ばねばならないような立場の者ではないが、どうしたのかね?」

女将はほっと胸をなで下ろして、こう言った。
「まあ、そうですか・・・失礼いたしました。
 いえ、そちらの小さな娘さんの着物は、ここらでは到底手に入らない品でしたもので・・・。
 てっきり、領主さまのお身内の方かと思ったのです。 
 知らないものが見たら、ただの美しい染めの着物だと思うでしょうけれど、
  その染めは辻が花と申しましてね。
  京の都でも限られた職人にしか伝授されていない染色技法なのです。
  手に入れられるのは、限られたご身分の高い方々だと聞いております。
  私は、布地屋を営んでおりますので、年に一度は買い付けなどで京の都までゆくのですが、
  その辻が花の反物は私どもなどでは、とても仕入れることのできない、
 それこそ高峰の花なのでございますよ」

女主人の話を聞いて、楓も珊瑚も驚いたようにりんを見た。
この着物は、りんが楓に預けられてから初めて殺生丸が訪れた時に持ってきたもので、
りんがあまりに嬉しそうにしていたので、二人ともその時のことをよく覚えていたのである。
確かに、なかなか目にすることのできない美しい染め柄だとは思っていたが、
りんもあまり頓着せずにこの着物で畑仕事をしたり川にざぶざぶ入ったりしていたため、
二人とも、そのような希少価値のあるものだとは思っておらず、少なからず驚いた。

皆の視線を集めたりんは、おろおろして、ぎゅっと着物の襟元を握って答えた。
「あ、あの・・・こ、この着物は、いただいたものなんです・・・」

りんは、自分がそんな高価な着物を何も知らずに身につけていたのだと思うと、
全身から火が出そうな程に恥ずかしくなった。
穴があったら入りたい、というのはこんな気持ちの時を言うのだろうか。
(そんな良い着物、りんには勿体ないよ、殺生丸さま・・・)
りんは真っ赤になって下を向いてしまった。

「まあ、そうでしたか。
 でも、とてもよくお似合いになっていらっしゃいます。
 青みがかった紫も、蝶の絞り紋様も、あなたをよく引き立てておりますよ。
 どんなに良い着物でも、着ないのでは意味がありませんからね。
 あなたが大切に着れば、その着物を送った方もきっと喜ばれますよ」

にっこりと笑って女主人がそういうと、
楓が下を向いたままのりんの肩にぽん、と手を乗せた。

「・・・だそうだ、りん。大切になさい」

楓の手の温かさに、りんは泣きそうになりながら、うなずいた。
いつか、この着物に相応しい自分になれる日が来るのだろうか。
それにしても、殺生丸さまはどこでこの着物を手に入れたんだろう、と、
りんは火照った頬に手を当てて思った。

 

珊瑚の欲しがっていた産着の布地は、希望通りのものが見つかった。
極薄の綿の生地。
これを重ねて、赤子の産着を縫うのだ、と珊瑚は嬉しそうに言った。
薄ければ薄いほど職人の技が必要になるために、
どうしても値が高くなってしまうのだそうだ。
それでも、りんの住む村まで流れてくる商人の売る反物などより、
ここの店の扱うものの方が、よほど質が良くて安かった。

「いつも村にやってくる商人さまのお値段が普通なんだと思ってましたけど、
 そんなことなかったんですね・・・」

りんは、布地屋を出て、驚いたように言った。
しかも、なんだかんだ言いながら、珊瑚は最終的に端数の金額を値切ってしまった。
りんはそんなことができるなんて想像もしていなかっただけに、
女将がうなずいた瞬間、本当に驚いてしまった。

「さて、それでは、次は薬問屋に行ってみよう」

楓が言うと、珊瑚が楽しそうにりんを見る。
「さあ、りんが作っている薬草類、どれだけのお金で買い取ってくれるだろうね!」
「はい・・・なんだか、どきどきします」
りんは、抱えてきた風呂敷を持ち直した。
りんが抱えている風呂敷の中には、たくさんの薬草が入っている。
この一年、りんが村で楓の指導のもとで採り続けた薬草である。
乾燥させてそのままの原型で持ってきたものもあるし、
配合して、あとは煎じるだけでいいようにしているものもある。
村の中では、どちらかというと金子でやりとりするよりも、物々交換が多かったから、
自分の作ったものがお金に変わるのだと思うと、りんはなんだか怖い気さえした。

薬問屋は軒先近くまで様々な薬草をつるした店で、
一足踏み込むと、たくさんの薬草の匂いが混じりあって、独特の匂いがした。
「ここには、犬夜叉は絶対入ってこれないね」
珊瑚が苦笑混じりで言うほど、たしかに奥に行けば行くほど、匂いがきつくなってくる。

一番奥の番台に腰の曲がったおじいさんがいて、
楓はそのおじいさんを見ると、
「おお、久しぶりじゃのう、健在じゃったか」
と声をかけた。

おじいさんは落ちくぼんだ目に楓を認めると、
「まだまだ、息子には任せられぬのでな」
と皺だらけの顔をくしゃりとさせて、笑う。
「久しぶりじゃな、楓さまよ」

楓は、りんと珊瑚にそのおじいさんを紹介してくれた。

桔梗が生きていた頃からの知り合いだそうで、
楓の作る薬草は、りんの住む村に定期的にやってくる商人を通じて、
この薬問屋に買い取られているのだ、という。

病人に効く薬を作るためには、
どうしても村でとれる薬草以外のものが必要になるときがあって、
そんな時のために定期的に薬草を売って、楓は金子をある程度貯めている。
りんは、村に来る商人に金子を渡して注文をしている楓を何度か見たことがあったので、
うなずきながら聞いた。

「今日は、私の小さな弟子を連れてきたぞ」
楓はそう言って、りんを薬問屋に紹介した。

りんはぺこりと頭を下げて、「りんです、よろしくお願いします」と言った。
弟子、と紹介されるのは初めてでりんは少し緊張したが、
くすぐったくもあり、嬉しくもあった。

おじいさんはりんを落ちくぼんだ目でじいっと見ると、風呂敷包みに視線を落とした。
「その風呂敷包みは薬草かね?」
「はい、そうなんです」

りんは、風呂敷包みを開いて、中身をおじいさんに見せる。
「ほうほう、オトギリソウにイタドリの根、にマタタビの実、クコの実、
 お、こりゃ珍しい、クサノオウだね。
 こちらの、包みは何かね?」
「これは、煎じるだけでいいように配合した薬草です。
 こちらには桂枝・芍薬・大棗・生姜・甘草が入っています。
 熱の出る風邪をひいたときに、よく効くはずです。
 こちらは血の道の病に効くアカマツの新葉。
 これはそのまま服用できるように粉にしています」

包みを開けて中身を確かめた薬問屋のおじいさんは、楓を仰ぎ見る。
「楓さま、よいお弟子を見つけられたのう」
と言い、また皺だらけの顔でくしゃりと笑った。

老巫女は嬉しそうに、何度も頷いた。
「そうであろう?
 まだ私について一年しかたっておらぬのに、
 りんはこの程度の頓服薬の配合ならすでに頭に入っておる。
 実に、飲み込みの早い弟子じゃよ。
 どうじゃ?いくらで買い取りしてくれるかの?」

楓が聞くと、ひい、ふう、みい、と薬屋はりんの薬草と頓服薬を数え、
500文でどうじゃ、と言った。

「そんなに?!」
りんは驚いて声を上げた。
村に来る商人の提示する額の倍以上だったからである。

りんが楓を見上げると、楓は驚いたじゃろう、という顔をして
りんの肩にぽん、と手を置いた。

「いつも私たちが手にする薬草の買い取り代金は、
 村に来る商人の旅の食事や宿賃、彼らの儲け分を差し引いた分なのだよ。
 彼らに金子を支払って運んでもらうお陰で、
 私たちは村に居ながら、薬草が売れるというわけじゃ。
 そして、薬というものは、庶民にはなかなか手に入れることのできぬもの。
 この店も、客筋はほとんどが大きな寺社やどこかの領主さまなのだよ」

「そうだったんだ・・・」
りんは、はあ、と大きくため息をついて、薬草だらけの店の中を見渡した。

ここにある薬草すべてが、そうやって運びこまれたものなのだろうか。
今まで見たことも来たこともないこの町と、りんは薬草を通じて繋がっていたのだ。
毎日、楓に教わるままに薬草を摘み、配合を覚えて、
それだけで精一杯でその先のことなど考えたことがなかった。
自分の作った薬草がこうやって、市にまで運ばれていることを目の当たりにして、
りんは急に世界が広がったような気がした。

薬問屋のおじいさんは、小さな引き出しがたくさんあるタンスから金子を出すと、
チャリチャリと音を立てて、楓に手渡した。

「よいお弟子さんだ。大切になされよ、楓さま」
「言われるまでもない。そなたも達者でな。息子殿によろしくお伝え下され」

楓は薬問屋にそう言うと、店の外へでていき、
りんと珊瑚も、おじいさんに深々と礼をして、楓の後を追った。

 

 

「さてさて、それでは私たちも犬夜叉たちと合流するとするか。
 確か、その刀鍛冶の店は北の方じゃと言っておったな」
店を出て楓が振り返ると、珊瑚が頷いた。
「ええ、そのあたりは刀鍛冶の店ばかりが並んでいるから、
 すぐに分かると山吹殿が仰ってましたね」

りんは楓と珊瑚を仰いで、尋ねてみる。
「あの、・・・刀鍛冶って、刀々斎さまのような方ですよね?」

りんの質問に、珊瑚と楓は顔を見合わせて思わず吹き出してしまった。
確かに、りんが知っている刀鍛冶は、刀々斎しかいない。
されど、口から火を吹いて刀を打ち、
天生牙のごとき命をよみがえらせる刀を打てる刀鍛冶は、さすがに人間にはいないだろう。

「そうだねえ、人間の刀鍛冶から見れば刀々斎さまは刀鍛冶の神様のような存在かもねえ」
珊瑚は笑いながら答えて、りんは「へぇぇ!」と声を上げた。
あの、飄々としたおじいちゃんがそんな偉い人だとは思わなかった、とりんは思う。

刀鍛冶の神様・・・にも、殺生丸さまは偉そうだった、ということを思い出すと、
何だか可笑しくなって、りんはくすり、と笑った。

 

 

 


犬夜叉と弥勒は、山吹に案内されて綱丸という刀鍛冶の店の中にいた。

店には至る所に注連縄が張られ、門をくぐった途端、
弥勒と犬夜叉は身が引き締まるような空気を感じた。
刀鍛冶は神事にも通じるということで、
刀鍛冶職人たちは皆、白の作務衣を身につけている。

綱丸という刀鍛冶は、40代半ばの職人だった。
目じりの笑いじわが目立つ、人の良さそうな顔立ちの男である

綱丸は、山吹に紹介された犬夜叉と弥勒に頭を下げた。
「いやいや、そうですか、巫女様のお連れさまですか。
 ほんまに遠くまで足運んでもろて・・・すいませんでしたなあ」

弥勒は、わずかに目を見開く。
「・・・綱丸さまは、西国のご出身で?」

綱丸はにこやかに言う。
「そうなんですわ。
 大和の国から父親に連れられてこの町に来て20年は経ちましたけど
 生まれ育った言葉だけは抜けませんなあ」
からからと、明るく笑う。

弥勒も犬夜叉も、その明るさに首をひねる。
どうも、妖ものに悩まされているようには見えない。
大概のものは、もっと思いつめた表情をしているものなのだが。

「山吹殿から、妖に悩まされているというお話を伺ったのですが・・・」
戸惑いながらも、そう弥勒が切り出すと、
綱丸は頷いて店の奥を見ると、おーい、と声を掛けた。
奥から弟子であろう少年が出てきて、ペコリ、と頭を下げた。

「ああ、ちょっと出てくるからな、あと頼んだで」
男は弟子にそう言うと、笑顔を見せて弥勒と犬夜叉に言った。

「ちょっと、ご案内したいところがあるんで、着いてきていただけますやろか。
道すがら、お話させてもらいますわ」

犬夜叉と弥勒は顔を見合わせたが、とりあえず、
山吹と共に綱丸という男の後を付いていくことにした。

 



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