あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

ありふれたものの中に、それはありました<6>













ありふれたものの中に、それはありました<6>










「まあ、そうですか・・・妖怪の退治屋家業を」

女将が警戒しはしまいかと、法師はあわてて強調する。
「ええ、でも私たちが相手にするのは、
  あくまで人間に対して害をなしている妖怪だけですから」

「そうですね、楓さまのお連れさまでなかったら、
  私もこの子たちも、もっと警戒していたかもしれませんわね」
女将は弥勒の案じていることが分かったのか、ふふふ、と笑った。

しかしながら弥勒は先ほどの話を聞いて、
女将の姉上と琵琶の玄象の恋は、本当に人間に害はなさなかったのか、と
問いただされれば、何が正しいのか答えかねる気がしていた。

退治屋の仕事を請け負っている以上、もしも両親から依頼があれば、
弥勒は依頼主の側に立って、玄象を姉上から引き離していたに違いない。

結ばれた二人がどんなに幸せであろうとも、
女将の両親にしてみれば玄象は傍迷惑な存在であったことに変わりはない。

二人の恋を幸せな恋だったと女将と子供達が言えるのは、
妖の子供を引き取り立派に育て上げた女将がいたからに他ならないのだ。
女将が妖の子供など育てられない、と見放していたら、
玄象と子供達にとっては不幸極まりない未来が待っていたに違いない。

一つの存在も、見方ひとつで全く違う存在に見えてしまうものだ。

良き理解者などほとんどいなかったであろう環境の中で、
半妖の子供たち3人を育て上げた女将に、弥勒は心から尊敬の念を抱いた。

「姉の恋は幸せだった」と、言いきれるのは女将の心の強さに他ならない。

 

玄象殿の子供といわれた三人のうち、一番若そうな青年が女将に言う。

「女将さん、そういえば市に刀鍛冶の店を出している綱丸が、
  毎晩毎晩、妖ものに刀を頼まれて困っていると言っておりましたよ。
  断り続けているらしいのですが、ずいぶんしつこくて、最近よく眠れぬ、と」

「まあ山吹、そうなの?」

女将は心配そうに眉をひそめ、弥勒はずずい、と身を乗り出した。
「ほうほう。で、その綱丸という御仁は、その妖を何とかしてほしい、とお思いなので?」

山吹と呼ばれた青年は、にっこりと笑って弥勒をみた。
「ええ、私たちが楓様と知り合いだということを知っていたらしく、
  これ以上ひどくなるようなら、その巫女さまに頼めないものだろうか、と。
  ただ、その刀鍛冶も何か思うところがあるようで、
  ただ妖ものを退治してほしい、というわけでもないようなのです。
  詳しくは、聞いてみないことには分かりませんが・・・」

弥勒はふーむ、と考え込んだ。
堅実な刀鍛冶が相手ならば、いつもの裕福な商人相手のようにぼったくる訳にもいかない。
そんなに実入りの良い仕事とも言えなかったが、せっかくの情報だし、
うまくすれば、市の中で弥勒たちの退治屋としての功名が期待できる。
こういう仕事は、口コミが一番大切なのである。

「行ってみますか、犬夜叉」
「おう、いいぜ」

犬夜叉が同意すると、楓がりんと珊瑚に言う。

「そうじゃな、明日は私たちも市へ行ってみるか。
 りんは、市は初めてじゃろう?色んなものがあるから楽しいぞ。
 そなたが作った薬草が、どれくらいの値で売れているものなのか、
 自分の目で見る、良い機会じゃな」

りんは目を輝かせた。
市には機会があれば行ってみたいと思っていたから、すごく嬉しかった。

「わぁ、楽しみですね、珊瑚さま!」
「そうだねえ、あたしも生まれてくる赤子の産着の布地を買いたいな」
珊瑚は、大きなおなかをそっとさする。

「よーし、じゃあ、決まりだ」
弥勒がそういうと、皆うなずいて、女将から配られた桃を口に運んだ。
よく冷やされた桃はとても瑞々しく甘くて、あまりの美味しさに、りんは目を丸くした。

 

その日の晩は、旅路で歩き疲れていたこともあって、あっと言う間に皆、寝付いてしまった。

 


・・・りんは、優しくて幸せで、ちょっぴり切ない夢をみた。

小さな庵で、きれいな女の人と男の人が、縁側で子供たちが遊ぶのを見ている夢だった。
女の人は、琵琶を抱えていて、やさしい音色を奏でていた。
男の人はそんな女の人を愛おしそうに後ろから包むように抱いていた。

聞こえてくる琵琶の音は、心の中に沁み入るように美しくて、りんはいつしか泣いていた。


・・・誰かに、とても会いたかった。

 

 

 

 


皆が旅籠でぐっすり寝付いていたその頃。

琥珀は「不可」と書かれた札がバラバラと落ちてくる妖怪屋敷で、顔を引きつらせていた。

「七宝・・・一体、これは・・・」

隣室では遊女に化けた狐に誘い込まれた旅人が、楽しそうにどんちゃん騒ぎをしている。
退治屋としては、最低でも明日の朝、彼らが無事に旅立てるよう見守ってやらねばなるまい。

「・・・こ、琥珀、少しはだまされてやってくれんかのう、オラの立場が・・・」

変な汗をかいている七宝をみて、琥珀はため息をついた。
遠い目をしていた犬夜叉や義兄が、思い出される。
彼らも、同じ目にあったことがあるに違いなかった。

隣の部屋に、すでに引っかかってしまった狐たちの餌食がいる以上、帰るわけにもいかない。
ため息をつきながら琥珀が部屋の片隅に腰を下ろすと、
さっそく、わらわらと年頃の娘に化けた狐たちが群がってきた。

「旅のお方、一献どうぞ~」
「笹餅もございますわよ~」
「あら、湯殿はいかが?お背中お流しいたしますわ~」

皆、頭に葉っぱを乗せている。

「・・・悪いな、他をあたってくれ」

琥珀が苦笑してそう言うと、またバラバラと不可の短冊が落ちてきた。

「ちきしょー!」
「覚えてろー!!」

女たちは短冊を受け取るやいなや、狐火になって飛んでいく。
皆、七宝と同じくらいの年頃のかわいい子狐妖怪だった。

一時は奈落の配下で嫌というほど恐ろしい妖怪にまみれて過ごした琥珀は、
驚くはずも、ましてや恐怖をいだくはずもなく、
ただただ朝までこれが続くかと思うと、頭が痛くなった。

(こんなことなら、りんや姉上や楓様と一緒に、俺も湯治場へ行けば良かったなぁ・・・)
ため息をついて、天井を見上げたときである。

「あの・・・そなたは、退治屋とのことじゃが、それはまことか?」

頭に葉っぱは載せているものの、
何かに化けもせず近づいてきた子狐妖怪が琥珀におそるおそる、訊ねた。
よく見ると、七宝よりも更に小さい。
こんな小さい子狐のうちから試験を受けるのか、と琥珀は感心して、子狐に笑って頷いた。
「・・・ああ、そうだよ。おまえは何かに化けないのか?」

琥珀がそう聞いた途端、その子狐はがばっと平伏してこう言った。
「お・・・お願いです!!僕に、力を貸してください・・・!!」
「え・・・?!ちょ、急に、どうしたんだ?」

再び、がばりと起きあがった子狐の表情は真剣そのもので、涙を浮かべている。
その表情に気圧されたものの、琥珀はさりげなく前後左右を見回してみる。
・・・これも、もしかして退治屋を騙す計画の一端なのだろうか。

「私は、篠丸と申します・・・!
 この妖術試験に昨年は退治屋が訪れたと聞き、
 ここでなら話ができるのではないかと、今年初めて参加したのです。
 僕は、試験なんてどうでもいいのです!
 だから、どうか、お願いします、退治屋殿、力を貸してください・・・!」

再び平伏した子狐の小さな手は震えていた。
(・・・演技ではなさそうだな)
琥珀はその気迫に、何か追いつめられたものを感じて、そっと子狐の肩に手を乗せた。
びくり、と子狐は震えて、琥珀を見上げる。

「・・・話は聞くよ。力になれるかどうかは、分からないけど・・・」

小狐とはいえ、妖怪が妖怪退治屋に頼みごとをするなど、よほど困っているのかもしれない。
子狐妖怪は、琥珀が戸惑いながらも優しい表情を浮かべているのを見ると、
緊張の糸が切れたのか、うるうると瞳を潤ませ、泣き出してしまった。

退治屋とまともに対面したのは、初めてなのかもしれない。
よほど緊張していたのだろう。

突っ伏して泣く小狐の前に、ひらひらと「不可」の短冊が落ちてきた。

 

 

・・・僕の両親は、とある稲荷社の神狐なのです。


ひとしきり泣くと落ち着いたらしく、
篠丸(しのまる)と名乗った小狐は、琥珀の前で居住まいを正し、語り始めた。


・・・ここより4里ほど離れたところに、ちょっとした城下町がございます。
その城下町の鬼門の方角に鎮座されておるのが、私のお仕えする稲荷社です。
あの城下町は人の流れが多く、旅の無事を祈るものが多い。
戦を逃れ無事に城下町へ戻ってきた旅人や商人からのお布施が増え、
稲荷社はどんどん立派になっていきました。
両親はそんな稲荷社さまに、大昔より神狐として番(つがい)でお仕えしてきたのでございます。
稲荷神さまは、もともと食べ物を司る神様。
戦いには不向きでして、なにか争いごとが起きたときには、
両親が稲荷神さまの意志に沿い、かわりに事を収めてきたのです。
 

・・・あ、いいえ。
僕は、まだ神狐ではありません。
神狐になるには、最低でも従五位の位が必要なのです。
この位がなければ、出雲の神議りへの随行ができませんので・・・。

僕は、優しい両親に見守られて、幸せに暮らしておりました。

ところが2年前、恐ろしい厄災が社を襲いました。
社を襲ったというよりも、城下町全体を狙ってのことでしょうが・・・。

丑寅の方角より、奈落というものに放たれたまがまがしい妖怪たちが、町を襲ったのです。
あの当時、うわさでは各地でそのようなことがあったということでございます。
当然、城下町を守るために私の両親はその妖怪に立ち向かいました。
稲荷神さまも、両親も、城下町にすむ人間たちを、愛していましたゆえ。
両親は妖の力を使い果たして、町を守ったのです。

・・・されど、厄災はそれだけにとどまりませんでした。
その妖怪どもは両親に退治された時、大量の瘴気を吐き出して死んでいったのです。
風に乗って町に流れ込んだ瘴気は人間たちの体を蝕み、
その一年で町には原因不明の病にかかるものたちが続出しました。

そして、どういうわけか、妙な噂がたったのです。
『社にあるお狐さまの石像をすりつぶして飲むと病が治る』という噂が。

お狐さまの石像とは、言うまでもなく私の両親です。
多くの妖怪たちと戦った両親の石像はボロボロでした。
恐らく、力を使い果たしてしまったせいでしょう。

人々は、そのような体になった両親を、少しづつ持ち帰って薬として飲んでいたのです。
石像の欠片を飲めば病が治るなど迷信もいいところですし、私はずいぶん憤慨したのですが、
両親は自分の体を削られても、人間たちを咎めることはありませんでした。

「それで、この町の人間たちの気持ちが安まるならばそれで良い」と・・・。

両親は、寄代である石像をどんどん削り取られて更に妖力が衰えていき、
もはや社の神域から動くことすらできなくなってしまいました・・・。

私は悔しゅうて、悔しゅうて・・・!!
元々、戦いに向かぬ神の稲荷神さまを責めるつもりはございません。
そんな稲荷神さまの為に、私の両親がいたのですから。

しかし、私さえもっと強ければ・・・!
両親はあのような惨めな姿にならずともすんだのではないでしょうか・・・?!

そう思うと、私は夜も寝られませんでした。
そして、考えたのです。
両親は、鋭い爪と牙を武器に戦っておりました。
私はまだ幼く、そのような爪も牙も持ち合わせておりませぬ。

でも、人間たちのように刀を持てば、妖怪にも立ち向かえるのではないかと。

私は妖の刀を打つという刀々斎という刀鍛冶を探してまわりましたが、
なかなか見つからず、両親や稲荷神さまの事も心配で、
なかなか遠出することもできませんでした。

ところが、灯台元暗しとはこのことで、私のすむ町の中に
打つ刀は妖怪さえも切るという腕の良い刀鍛冶がいたのです。
社にお参りに来た商人がそう話しているのを聞いた私は喜び勇んで、
城下町に住む人間の刀鍛冶に頼みに参りました。

・・・私でも使える刀を打ってほしい、と。

ところが、その刀鍛冶、
「おまえのような小狐に刀を打つことなどできぬ」と、つっぱねるばかりなのです。

私も狐妖怪のはしくれ、毎晩色んなものに化けては頼みに参りました。
侍に化けたことも、商人に化けたことも、公家に化けたことも、
それこそもっと強そうな妖怪に化けたこともございます。
しかし、どんなものに化けて頼んでも、脅してみても、
どうやってもその刀鍛冶は刀を打ってくれぬのです。

そこで、お願いなのでございます。

どうか、私に刀を打ってくれるよう、
退治屋のあなたさまからお願いしてくださいませんでしょうか・・・!!
同じ人間の、それも妖怪の退治屋から頼まれれば、その刀鍛冶も考え直すに違いありますまい。

どうか、退治屋殿・・・!

 

畳に額をすり付けて、篠丸は琥珀に頼み込んだ。

琥珀は、軽く息をついて、仄かに明るくなってきた明け方の空を見る。
隣の部屋からは、誘い込まれてどんちゃん騒ぎをしていた旅人たちの高いびきが聞こえてきた。
夜明けと共に、そろそろ狐たちの妖術試験は終わるらしい。


・・・篠丸の両親が戦い、町が襲われたという、妖怪たち。

丑寅の方角より、奈落に放たれたと言っていた。

それは、恐らく白霊山から奈落が放った妖怪たちだろう。
あの時、琥珀は奈落に操られてその一端を担った。
思い出すことも辛い、奈落に操られていた苦悩に満ちた日々だ。

「・・・これも償い、か」

琥珀の一言に、篠丸は顔を上げる。

「・・・分かったよ、篠丸。その刀鍛冶とやらに会いに行こう。
 きっと、刀を打たぬのには理由があるのだろうと思うけど、
 一緒に頼むことくらいなら、俺にもできる」

篠丸は、じわわ、と涙を浮かべた。

「あ・・・ありがとうございます・・・!」

琥珀は篠丸の頭にぽん、と手を乗せると、床の間の置物に声をかける。

「というわけだ、七宝。
 悪いけど、城下町まで4里ほど俺たちを乗せて飛んでくれるか?」

置物はぴくり、と動くと、涙声で言った。

「篠丸、そなたは孝行狐じゃの」

 

・・・天井からはその日最後の、二枚の不可の短冊が落ちてきたのだった。

 


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