殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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ありふれたものの中に、それはありました<8>
綱丸は、町の中を歩きながら、何かを思い出すように空を見て
まぶしそうに眼を細めると、弥勒と犬夜叉に話し始めた。
「あの日も、こんなええお天気の日でしたわ・・・」
・・・ご案内したいのは、うちの町のお社ですねん。
お祀りしてるのは、稲荷神さんです。
春先の初午(はつうま)のお祭りは、そりゃ賑やかでっせ。
ここは商人の町やさかいになあ。
このお社には、大昔からごっつう強いお狐さんがおるゆう言い伝えがありましてな。
町のもんは小さな頃から、
「悪いことしたらお狐さんに食べられるで!」
って親から言われて育つんですわ。
町のもんのお狐さんへの信仰は、そりゃたいしたもんなんです。
・・・せやけど、あれは2年ほど前ですやろか。
真っ昼間に、急に空が真っ黒に曇ってきましてね。
なんやら、普通の曇り方と全然違うんですわ。
北の方から真っ黒な雲が急に流れ込んできた、ゆう感じでしょうか。
私ら町のもんは、なんやなんやと、皆で空を見上げておりました。
そしたら、丑寅の方角から、
妖怪どもがそれこそ雪崩のようにこちらに飛んでくるのが見えたわけです。
町のもんは皆、肝を潰しましてねえ。
皆、あわてて家へ駆け込んで家族で抱き合って震えておりました。
せやけど、私は刀鍛冶のはしくれです。
どうせ死ぬんやったら、精一杯、妖怪どもに抵抗したろうと思いましてねえ。
・・・ああ、山吹はんに聞かはりましたか。
まあ、そうなんですわ。
手前味噌な話になってしまいますけどなあ。
そうです、私の打った刀は妖怪さえも、切る。
これでも、刀鍛冶の道30年ですねん。
うちとこは、父親も祖父もそのまた向こうも刀鍛冶でして、
脈々と一子相伝で伝えられてきた妖刀を打つ秘伝の技があるんですわ。
それでも、私がその秘術をもって何とか妖刀が打てるようになったのは、
それこそ何年か前のことです。
それほど、妖刀を打つというのは大変なものなんですわ。
下手したら、自分が刀に取り付かれて命を吸い取られてしまいますよって。
そんで、その時は、その自慢の妖刀を持ち出しましてなあ。
妖怪ども、かかってくるならかかってこいや、と、
私は町の真ん中でたった一人、待ちかまえておったんです。
いやもう、そらヤケクソですわ。
どうせ死ぬんやったら、一匹でも多くこの妖刀で切ったろうと思いましてね。
・・・ところがねえ。
丑寅の空に、二つの白い光が舞って、
妖怪が町に来るのを阻んでおるのが見えるんですわ。
何やろうと思って、よくよく目を凝らしてみますとねえ、
その白い光が舞う度に、飛んでくる妖怪が死んで、
バラバラと下に落ちていくのが見えるんですわ。
そらもう、すごい早さで飛び回ってましたよ。
・・・結局、その白い光に阻まれて、
妖怪たちは町に入る前に全部落ちていきよりましたわ。
最後の妖怪が落ちていくのを最後に、
その二つの白い光は、ゆっくりと稲荷社のお社へ戻っていったんですわ。
それを見た瞬間、私は、あっ!あの白い光はお狐さんや!と気が付いたんです。
お狐さんと稲荷社の神さんが、私らの町を妖怪から守ってくれはったんですなあ・・・。
私は、その足で稲荷社へ駆けつけ、額突いてお礼参りさせてもらいましたわ。
守ってくれはったんや、ありがとうございます、ありがとうございます、とね。
そらもう、ありがたくて涙が出ましたわ。
お狐さんの石像はびっくりするくらいにぼろぼろになっとりました。
そりゃあ、空が真っ黒になるくらいの妖怪を相手に戦わはったんやもの、
しんどかったやろと思いましたわ。
せやから、私は、皆に言ってまわったんです。
あの時、お狐さんが空で妖怪を退治してたのを見たのは私だけやったからね、
これはもう、私が皆に伝えやなあかん、と。
『あの妖怪どもから町を守ってくれたのは、稲荷神さんとお狐さんやで』とねえ。
私はこれで町のもんが稲荷神さんやお狐さんたちを大切にするんやったら
それがご恩返しになると思うて、そう言ってまわったんですけどねえ・・・。
・・・ところがねえ、それが、裏目に出てしもうたのかもしれんのです。
その後、今度は謎の病が町を襲ったんですわ。
何か悪いもんでも食べた時みたいに、
腹は下すし、何を食べても吐いちゃうんです。
それだけならただの風邪か食あたりかと思うんですけど、
大の大人でも次第に体力が落ちてきて、
ひと月ほどたつと、立ち上がることも出来んようになってしまう。
医者に聞いても、原因は分からんと言われるばかりでしてなあ。
体の弱い年寄りや子供が、ずいぶんあの病で死にましたわ・・・。
気持ちまでふさぎ込んでしまうものも沢山でましてねえ。
そんな時、妙な噂が立ったんですわ。
稲荷社のお社の、お狐さんの石像を削った粉を飲むと病が治る、とね。
そんなの、明らかに迷信としか思えんでしょう?
誰が言い出したのやら、信じだしたのやら・・・。
まあ、見て下さったらお分かりになると思いますけど、
お狐さんの石像はそりゃ、ひどいもんですねん。
かわいそうになあ・・・。
町のもんを守る為に戦ってくれはったのに、
その町のもんが、更に体を削り取っていくんやもん、ひどいわ。
・・・せやけど、お狐さんはそんな町のもんを祟ったりはしはらへんかった。
ほんまに、神さんみたいなお狐さんなんですわ。
綱丸は、はあ、と大きなため息をついた。
その横顔には後悔の色が見え、
弥勒は綱丸が罪悪感にさいなまれていることを感じ取った。
「良かれと思ってやったことが、逆効果だったと・・・?」
綱丸は、すん、と鼻をすすって頷いた。
「・・・まあ、そうです」
その時、遠くから犬夜叉と弥勒を呼ぶ声がした。
「法師さまー」
「犬夜叉さまー」
楓とりんと珊瑚が、にこやかにこちらへ向かって手を振って歩いてくる。
弥勒の表情が、ほっとしたものに変わった。
この場に、巫女としての経験豊かな楓が来てくれれば百人力である。
体力勝負の妖怪退治は何度も経験がある弥勒と犬夜叉だが、
話を聞くと、今回の依頼は、どうも質が違う気がしてきていた。
「おお、これはこれは・・・仏のお導きですねえ」
弥勒はにこやかに綱丸を振り返り、
「あちらが、巫女の楓さまですよ」
と微笑んだ。
犬夜叉はふと何かに気づいたように空へと視線を向けた。
「・・・なあ、弥勒」
「なんです?」
「その、2年前に丑寅から飛んできた妖怪って、もしかして・・・」
犬夜叉は頭をがりがりと掻きながら言う。
「今となってははっきりとはわかんねえけどよ。
それって、奈落が白霊山から放った奴らじゃねえのか?」
「・・・そうか・・・。確かに、時期も重なるな・・・」
弥勒は、右の掌に視線を落とし、表情を引き締めて、そう言った。
「・・・というわけなんです、楓さま」
稲荷社までの道行きの間、
弥勒が楓におおかたの話をすると、楓はうむ、と頷いた。
「人の心というのは弱いものだからのう・・・。
それも病にかかっている時というのはより一層じゃ。
町で売る薬は、なかなか庶民に手に入れられる値ではないし、
皆、藁にもすがる思いでやってしもうたのじゃろうな・・・」
りんは、楓の言葉に眉を寄せた。
「でも、町の人を守ってくれたお狐さまの体を削ってしまうなんて・・・
お狐さまが可哀想ですね・・・」
りんの言葉に、皆が頷く。
楓は綱丸を振り返って尋ねた。
「されど、その妖怪が襲ってきたのは、およそ2年前の話。
今、そなたが妖怪に悩まされているというのは、そのことなのか?」
弥勒も犬夜叉も、そう言えばそうだ、と思った。
山吹からは、綱丸は妖怪に夜な夜な悩まされている、と聞いている。
綱丸は皆を見渡して、困ったように笑った。
「まあ・・・それが、きっかけになった事は間違いがないんですわ」
綱丸は、社へ向かって街道を歩きながら、ぽつりぽつりと語りだした。
・・・三か月ほど前になるでしょうか。
真夜中に、庭から「頼もーう、頼もーう」という幼子の声が聞こえるんですわ。
可愛らしい声でしてねえ、私は近所の子が寝ぼけとるんやろうと思いまして、
布団から抜け出して、庭に出てみたんです。
そしたらね、月光の中に、一匹の真っ白な小狐がおるんですわ。
小さい小さい小狐で、そら可愛らしかった。
その小狐、なんと人の言葉をしゃべるんです。
私は、こりゃ狐妖怪の子供やな、と思いました。
ところがその可愛らしい小狐、えらい物騒なことを言うんですわ。
「そなたの腕を見込んで、頼みがある。
私にふさわしい妖刀を打ってたもれ」
私はあっけにとられました。
狐がどうやって刀を使うんやろ、とねえ。
私がそれをそのまま尋ねてみましたら、ぽん、と子供の姿に化けましたわ。
それがまた、可愛い盛りの二つかそこらの子供の姿なんですわ。
足だけは狐の足のままでしたけどねえ。
「ほら、ちゃんと両手が使えるのじゃ!刀を打ってたもれ!」
そう言って、私の方にモミジの様な両の手を差し出しました。
まあ、その小狐は真剣に言ってるんですがねえ、
私はその仕草に思わず笑いだしてしまいました。
あんまりにも可愛らしゅうてねえ。
「おまえのような小狐には妖刀は打てぬよ。
そもそも、どうして私の妖刀が欲しいんや?」
私がそういうと、小狐は目に涙を浮かべてねえ、こう言うんですわ。
「稲荷さまと父上さまと母上さまを守る為じゃ!」とねえ・・・。
私はそう言われて、はっと気が付いたんですわ。
この小狐は、稲荷社のお狐さんの子供やなかろうか、と。
考えてみれば、真っ白な狐なんぞ、そうそういるもんやない。
小狐の目は真剣そのものでしたわ。
私は、町のもんに削られて哀れな姿になった石像を思い出して、
思わず泣きそうになりましたけど、ぐっと堪えて、言いました。
「妖刀は、小狐に扱えるほど容易なものではない。
おまえに打つわけにはいかんよ」
・・・あのような可愛らしい小狐に、刀は似合いませんわ。
特に、妖刀は下手すると持ち手の生気を吸い取ってしまいます。
まだまだ母親に甘えたい年頃でしょうに、
あの妖怪退治のせいで両親のお狐さんは弱ってしもうたんでしょうなあ・・・。
あんな小さな小狐が守ってやらねばならんと思うくらいに・・・。
小狐は「私は諦めんぞ!」と言いながら、狐火になって飛んでいきました。
まあ、それからですわ。
毎晩のように、必ず小狐はやってきて頼むんです。
「妖刀を打ってくれ」と。
小狐の姿じゃ打ってくれぬ、と思うたのかもしれませんけどねえ、
そりゃ、色んなもんに化けてきはりますで。
お公家はん、お武家はん、商人はん・・・。
私には妖怪のことは詳しく分かりませんけど、あの小狐も色々と未熟なんでしょうなあ。
お公家はんからしっぽが出てたり、
お武家はんの刀が葉っぱの付いた木の棒だったり、
商人さんの頭から耳が生えてたり・・・。
まあ、そういうわけですわ。
最近はずいぶん成長しはりましてねえ、
恐ろしげな赤鬼やらカラス天狗やら、色々と種類が増えてきましたわ。
最近では、毎晩どんなのがくるか楽しみに思う自分がおりましてねえ。
せやけど、子狐の気持ちを思うと、素直にそうも思えへん。
巫女様にお願いしようと思うたんは、そういう訳なんですわ。
別に、私は妖怪を退治して欲しいわけやないんです。
あの小狐も、いずれは両親の跡を継いで神さんのお使いにならはるんやろうし、
そうなったら、私ら町のもんにとっては護り神みたいなもんでしょう?
私らも、あの子狐を大切にせなあかんのです。
ますます妖刀なんぞ、ふさわしゅうない。
それを、どうか、あの小狐に言い聞かせてやって欲しいんです。
私が何度断っても、どうしても言うことを聞きませんので・・・。
・・・さあ、ここですわ。
綱丸が、一行をいざなったのは、こんもりとした小さな森の中に鎮まるお社だった。
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