あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

ありふれたものの中に、それはありました<9>











ありふれたものの中に、それはありました<9>






 


さわやかな初夏の風が吹き渡る空を、
桃色の丸い物体が、ふわりふわりと飛んでいく。
知らぬものが見たらぎょっとするに違いないが、
現代で言う風船のように膨らんで飛んでいるのは七宝である。

空を飛ぶ速度は決して早いとは言えないが、
森の中の曲がりくねった道を徒足で行くよりはずっと早い。

その桃色の丸い体の上には、少年の妖怪退治屋と
白いふさふさのしっぽを持つ小さな小狐妖怪が座っていた。
・・・意外にも、年かさに見える少年の方が小さな小狐に何かを教えて貰っている。

城下町への道行きの道中、琥珀が篠丸によくよく話を聞いてみると、
見た目は七宝より小さな篠丸であったが、琥珀の倍は生きているらしい。
神狐を両親に持つ狐だけあって、篠丸は七宝などよりよほど博識であり、
琥珀にとっては、願ってもない師と出会ったようなものだった。
妖怪とは一言で言い表せないほどの関わりを持ってきた琥珀だが、
神に仕える狐と知り合いになったのは、初めてである。

「・・・そうか、そういうものなのか」

目を丸くする琥珀に対して、篠丸はこくりと頷いた。

「ええ、私の知る限りでは、そうです。
 目に見える生身の神さまなど、ほとんどおりません」

あの妖術試験会場から七宝に乗って飛び立ってから、
琥珀は篠丸を質問責めにしている。
奈落の厄災により退治屋の里は滅び、
退治屋としての先達は、姉を除いて一人も残っていない。
神仏や妖、人ならざるものに対しての疑問は、琥珀の中で溜まっていく一方だった。

「妖怪は目に見えるのに、神様が目に見えないのはどうしてなんだろうな?」
と篠丸に聞くと、篠丸は実に簡潔に答えてくれた。

「妖怪は、生身を持つものや何かを依り代にしているものがほとんどですが、
 神とは、「力」そのものの存在なのです。
 私と両親がお仕えしている稲荷神さまも、普段は姿形をお持ちではありません。
 稲荷神さまは、食べ物に宿る神さま。 
 普段はその御力のみが町全体に広がられ、食べ物の流れを司っていらっしゃいます。
 何も、人間の食べ物だけではありません。
 生きとし生けるものの食べ物です。
 稲荷神さまとは、食べ物に宿る法則そのものですから。
 ただ、人間が強い念を込めて祈願を立てたりすると、
 それに呼ばれるようにお社に戻ってこられますし、
 私どもに何かを命じるときにもお社にお戻りになられます。
 神代の頃のお姿をとられることもございます」

「それでは、そなたが護っているお社は、普段はからっぽなのか?!」
ふわふわと飛びながら、七宝が篠丸に聞いた。
篠丸は、四つん這いになって滑り落ちないように気をつけながら、
七宝の顔の方を向いて答える。
「ええ、稲荷神さまがいつお戻りになられてもいいように、留守番をしているようなものです」

篠丸は、さらに続ける。
「されど、妖怪でも徳を積み修行を重ねるうちに、神の位を頂くものがいるようです。
 両親は出雲の神議りへ稲荷神さまとご一緒させていただいておりましたので、
 そのような、神と認められた妖怪とも会ったことがある、と聞いたことがございます」

妖怪が徳を積めば神にもなるなど、
妖怪退治屋として育てられた琥珀には、にわかには信じがたい話である。

だが、かつて旅の一行に加えてもらった殺生丸の姿を思い浮かべると、
それもおかしなことではないような気もした。
冥界の主を切り捨て、自分とりんを救い出してくれた。
一振りで100の命を救うと言われる天生牙を持つ殺生丸は、
もはや神という存在に近いものなのかもしれない。

「いや、いい勉強になったよ。今までずーっと、ぼんやりと疑問に思っていたんだ」
琥珀がそう言うと、篠丸は照れくさそうに
「それは、ようございました」
と言い、嬉しそうに笑った。

「おーい篠丸、なにやら町が見えてきたが、あそこか?」
七宝が頭上の篠丸に聞くと、篠丸は目を輝かせた。
「わあ、やっぱり空をゆくと早いですね!そうです、あそこが私の住む町にございます!」

へえ、と琥珀は声をあげた。
思っていたよりもずいぶんと大きな町である。
町の奥、北の方からは、遠目からでもかなり目立つ量の白い煙がたくさん上がっている。
「なあ篠丸、あの北の方の白い煙はなんだ?
 ずいぶんたくさんの家から出ているようにみえるけど・・・」
琥珀が聞くと、篠丸は表情を引き締めて言った。
「あそこは、刀鍛冶の店の通りにございます。
 鋼を打つため常に火を焚くので、あのような煙が立っているのです。
 ・・・私が妖刀を頼んでいる刀鍛冶の綱丸も、あそこに住んでおります」

小さな手を力一杯握りしめて町を見ている篠丸の様子を見ると、琥珀はちいさく息をついた。
(刀鍛冶の綱丸・・・か)
篠丸の両親が奈落の犠牲になったと聞いて、これも償いだろうと頼みを引き受けたものの、
琥珀には篠丸に妖刀を持たせるのは早い気がしてならなかった。

退治屋の村で育った琥珀には、妖刀は馴染みのあるものだ。
姉の珊瑚が持つ飛来骨も、琥珀の鎖鎌も、妖怪と戦うために作られた妖刀の一種である。
退治屋の里では、武器を持てるのは10歳を越えてからだという掟があった。
力が弱く手足の短い子供では、武器を扱っても己を傷つける確率の方が高いからである。

そう考えると、七宝より小さい篠丸のような体では、
せいぜい持てたとしても懐剣くらいのものだろう。
妖怪と戦うにはあまりにも心許ないし、
それで安易に妖怪と対等に戦えると思ってしまう方がよほど危険な気がするのである。

「七宝殿、町の北東にある、こんもりとした森が稲荷神さまの森でございます!
 そこへ降り立ってはもらえませんでしょうか?」
篠丸が七宝にそう頼むと、七宝が体に弾みをつけて風にのった。
「よーし、任せておけ!」

(・・・まあ、とりあえずは成り行きにまかせるしかないな)
琥珀はそう思い、強くなった風に合わせて、体の重心を下げた。

 

 

 

 

「・・・さあ、ここですわ」


一方、綱丸が犬夜叉一行をいざなったのは、こんもりとした小さな森の中に鎮まるお社だった。
小さいながらも稲荷社らしく赤い鳥居が続き、
奥には対になった神狐の石像と、りんの背丈ほどの朱塗りの小さな社がある。

りんは、思わず声を挙げた。
「わあ、綺麗なお社ですね」
「本当だねえ」
珊瑚も頷いて、連なる鳥居から社をのぞいた。

「そうでしょう?
 この城下町を旅立つもの、無事に戻ってきたもの、皆がこの社で祈願をたてていくんです。
 この鳥居も、無事にこの町へ帰ってこれた商人たちが寄付したものなんですよ」
愛着があるのだろう、綱丸は側にある鳥居をさすりながら、少し得意そうに言った。

「楓さま、お参りを兼ねて、神狐の石像を見てみましょうか」
弥勒の提案に、楓もうなずいた。
「そうじゃな」
りんと珊瑚と犬夜叉も、弥勒と楓の後に続く。

豊かな商人からの寄進であろう本殿は、りんの背丈ほどの小さいものだったが、
屋根はしっかりとした銅板葺きで、朱塗りの壁や柱には極彩色で絵付けが施されていて、
思わず見入ってしまうほど美しかった。
まるで、この町の富を象徴しているかのようである。

一瞬、その美しさに見入ってしまったものの、
楓に促されて、皆、手を合わせてお参りをした。
犬夜叉は一人でどこか空を見上げていたが。

向かい合った神狐の石像は、確かに綱丸の言うとおり、
全体にずいぶんとヒビが入り、いろんな所が削り取られていて、酷いありさまだった。
特に、片方の神狐の石像は前足を削り取られ、無くなってしまっている。

「・・・これは、確かにちょっと酷いですなあ」
弥勒が眉をしかめると、珊瑚も頷いた。
「本当だね。こっちなんて、前足が全部削り取られちゃってる」

りんは、大きな白い化け犬になった殺生丸を思い出していた。
普段は着物に隠れて見えない、失った左腕が化け犬の姿になると際だっていたことを。
(殺生丸さまは腕一本でも強かったけど・・・普通は、そうじゃないよね・・・)
りんは、そっと神狐の石像に近づいて、見上げる。

もしも自分が腕を無くしてしまったら、
毎日が、どれだけ不便になってしまうことだろう。
お狐様は、命をかけて護った町の人間たちに削られてしまったのだ。
「可哀想に・・・」
りんは、神狐の気持ちを思うと、胸が痛んだ。

その時、犬夜叉が空を見上げたまま、声を挙げた。
「ん?!この匂い、七宝と琥珀じゃねえか?」

珊瑚が思わず犬夜叉を振り返る。
「琥珀がこっちに向かってるの?」
犬夜叉はくんくんと空に向かって鼻をならしながら頷いた。
「ああ、間違いねえ。
 七宝が飛んでるんだろう、風に乗って空から匂いがするぜ。
 あと、どうも俺の知らねえ狐がもう一匹いるみてえだな」
刀鍛冶の綱丸の方を向いて、言う。
「ここに残ってる匂いと同じ狐の匂いだ。
 ・・・ってことは、あんたの言ってたその小狐じゃねえのか?」
綱丸は、驚いて目を白黒させた。
「え?!あいつ、空から飛んできとるんですか?! どうやって・・・」
焦る綱丸を見て、弥勒が苦笑する。
「いえ、私たちの仲間に、化けて空を飛べる妖怪がいるんですよ。
 人に害をなすことはない、かわいい小狐妖怪ですが・・・」
そう弥勒は言いかけたが、ふと何かに気付いた表情をして珊瑚を振り返る。
「七宝と琥珀が一緒ってことは、その小狐、もしかして妖術試験に行ってたのか?」
珊瑚も、空を見上げて眩しそうに言う。
「多分、あの二人が一緒っていうことは、そうなんだろうね」

楓は息をついて、近くにあった大きな石に腰掛けながら言った。
「まあ、探す手間が省けて良かったではないか。のう、綱丸殿」

楓にそう言われた綱丸は、頬をつるりと撫でて驚いたように答えた。
「はあ・・・皆さん、色んなお知り合いがいてはるんやなあ・・・」


りんは一人、皆と離れて神狐の石像に近づき、見上げていた。
体中が欠けている、神狐の石像。
どうにかして直してあげることはできないのだろうか。

りんはそっと、その削られた前足に、触れた。


―――――そのとき。


「・・・これは・・・狗神さまではありませぬか・・・」

りんの前に、石像から抜け出すように、ふわりと真っ白の大きな二匹の狐が現れた。
白い狐の体はぼんやり透けて向こうの景色が見えている。

りんの背丈より頭一つ大きい体で、りんを見下ろしているその深い金色の目は、
怖いくらいに透き通っていた。

りんは突然の出来事にあまりに驚いて声も出ず
時間が止まったように動くこともできなかった。
金縛りにあったように、体が動かない。
りんは大きな目をさらに見開いて、
白い狐としばらくそのまま見つめあった。
・・・が、それは一瞬のことだったらしい。

「うわあ、お狐さんや!!」という綱丸の大きな声で、はっと我に返った。
後ろを振り返ると、綱丸は震えながら地べたにひれ伏し、
弥勒と犬夜叉は珊瑚と楓を後ろ手にかばいながら、厳しい表情で立っている。

「りん・・・!」
楓がうわずった声を上げた。
大きな神狐の前に立つ養い子はあまりに小さく、楓は恐怖で全身から嫌な汗がでた。
りんに、何かあったら・・・楓には償いようもない。

「・・・りん、こちらへいらっしゃい」
弥勒が厳しい表情のままりんにそういうと、
神狐の片方が深い静かな声で
「待ちやれ、むすめ」
と言った。

「はい・・・」

りんは、おそるおそる、二匹の神狐を見上げる。
こんなに大きな狐は初めて見たし、
何となく昔襲われた狼を思い出してしまって、少し怖い。


神狐は首を傾げてりんに尋ねた。

「・・・おまえは、狗神ではない・・・どうして狗神の衣を纏っておる?」

りんは、神狐の言っている意味が分からず、戸惑ってしまった。
「・・・衣?・・・着物のこと・・・ですか?」

金色の透明な神狐の眼は、あまりにも透き通っていて、りんは不思議な気持ちになる。
殺生丸の眼は同じ金色だったけれども、海の色が深さによって色が変わるように、
殺生丸の目の色も感情によって微かにではあるが変化していたように思う。

だけどこの神狐の眼は、あまりに透明で、
怒っているのか、それとも悲しんでいるのか、
そしてどうしてそんなことを問われるのか、りんには全く分からなかった。

神狐の言う「衣」がりんの身に付けている着物のことならば、
狗神とは、もしかして殺生丸のことだろうか。

りんはまっすぐに神狐を見上げて答える。
「・・・これは、殺生丸さまに頂いたものです」

「・・・殺生丸・・・」

神狐はその半透明の顔をりんのおなかのあたりに近づけると、
動物が匂いをかぐ仕草をした。

「りん・・・!」
思わず前にでようとした珊瑚を、弥勒が手で制止した。
未知のものへの恐れはあるが、目の前の神狐から殺気は感じない。

「・・・これは・・・」

りんから顔を離した神狐が口を開きかけたとき、空から甲高い声がした。


「父上、母上ーーーー!!」

 

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