あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

ありふれたものの中に、それはありました<10>








ありふれたものの中に、それはありました<10>









 

「父上、母上ーーーーー!!」


甲高い声が響き、皆、一斉に空を見上げる。

ふわりふわりと浮いている桃色の球体は、まさしく七宝の体で、
そこから小さな白い小狐が勢いよく飛び降りてきた。
地面に落ちるやいなや、りんの脇を抜けて石像から抜け出した神狐の方へ走ってゆく。

続いて少年の退治屋が地面に飛び降り、桃色の球体はぽん!と音を立てて変化をといた。

「琥珀・・・!」
「七宝!!」

珊瑚のうわずった声と、弥勒の声が重なった。

琥珀と七宝は、地面に降り立つとびっくりしたように犬夜叉たちの方へ歩いてきた。

「姉上、皆さん、どうしてここへ・・・?!」
「おぬしたち、なんでここにおるんじゃ?温泉に行くと琥珀に聞いておったんじゃが」

二人とも、犬夜叉たち一行がこの社に来ているなど思ってもいなかったらしい。
何から説明しようかと弥勒が口を開きかけた時、小狐の悲痛な声が響いた。

「父上、母上、お姿を現されてはなりませぬ・・・!
お姿を保たれるほどの妖力が残っていらっしゃらないではありませんか・・・!
このままでは、消えてしまいます・・・!」

二匹の神狐は向かい合ったりんからゆっくりと目を離し、
涙目になって言いつのる篠丸を愛おしむようにその頬を寄せた。
篠丸は感極まったのだろう、えぐえぐと泣き出している。

りんは、篠丸の涙につられて思わず涙ぐんでしまった。
両親を失う恐怖と悲しみは、りんにはよく分かる。

「やっぱり、お前は、お狐さんの子ォやったんやなぁ・・・」
呟かれた言葉にりんが振り向くと、
山吹に寄り添われた刀鍛冶の綱丸が、
ひれ伏した顔を上げて、狐の親子を涙を浮かべて見ていた。

琥珀は、座り込んだ綱丸を見て、もしや、と思う。
上下とも白の作務衣を着ているなど、琥珀の知る限り神主か刀鍛冶くらいしかいない。
座り込んだ綱丸のそばへ寄ると、琥珀は片膝をついて尋ねた。
「あの、もしや、あなた様は刀鍛冶の綱丸殿で・・・?」
綱丸が琥珀を見てうなずくと、七宝はあわてて犬夜叉たちの前に立ちふさがって、
篠丸を庇うように言った。

「お、おい、ちょっと待て!
 犬夜叉と弥勒がここにおるということは、
 この刀鍛冶は篠丸を退治してくれと依頼しているということか?!
 やい、犬夜叉っっ!!
 おまえ、こんな親孝行の小狐を退治するなど、妖怪のはしくれとして 心が痛まんのか?!」

犬夜叉はこめかみにぴしっと筋を走らせる。
「七宝、てめー、勝手に決めつけてんじゃねー!」
「いえ、違うんですよ、七宝」
弥勒が口を開きかけた、その時である。

犬夜叉の髪がぞわっと一瞬で逆立った。
「げ・・・」
妖気に敏感な楓も、ぞわりとして全身に緊張を走らせた。
誰一人、言葉を発する間もなく、触れれば切れそうな峻烈で絶大な妖気が社に満ちた。

皆が息をのむ気配を感じたとたん、りんの視界は真っ白になってしまった。

 

・・・りんは、一瞬自分の身に何が起きたのか分からなかった。
目の前が一瞬にして真っ白になってしまったのだから。

なぜか、宙に浮いている感覚がした。
そして、柔らかい、暖かな、包まれている感覚。

・・・頬に触れる、極上の柔らかさ。

そう、少しでも長く触れていたい。
いつも、離れるときが切なくて・・・

これは・・・


「せ、殺生丸さま・・・?!」

りんはその頬で、極上の肌触りの持ち主を察知すると、
じたばたして何とか殺生丸の白尾から顔を出すことに成功した。

りんは殺生丸の白尾にぐるぐる巻きにされて、宙に浮いていた。
りんの前には、神狐の前に立ちはだかる、殺生丸の背があった。
見上げる長身に、輝くような銀色の髪。

あまりに突然の大妖の出現に、篠丸は涙もとまり、唖然として殺生丸を見上げていたが、
桁違いの妖気に圧倒されて、ぺたん、と腰を抜かしてしまった。

「・・・この娘に何用だ、神狐」

殺生丸の低い声が響く。
小さな篠丸を庇うように体の透けた二匹の神狐は前にでると、
まっすぐに殺生丸を見上げてそれぞれ言った。

「・・・狗神さま・・・では、ないのですね・・・」
「・・・しかし、よく似ていらっしゃる・・・」

「その娘の衣より、狗神さまの気を感じ・・・失礼があってはならぬと姿を顕しましたが・・・」
「・・・なぜ、ヒトの娘が狗神の衣を・・・?」
「・・・あなたさまは・・・?」

神狐の問いに無言で答える殺生丸の背中を、りんはしばらく唖然として見つめていたが、
腰を抜かしてしまっている篠丸の姿が目に入ったとたん、慌ててしまった。

「あ、あの、殺生丸さま、下ろして・・・!」
だが、りんがどんなに手足をじたばたさせてみても、
殺生丸の白尾からは降りることができない。
背を向けている殺生丸に、りんは必死に言い募る。

「あっ、あのね、殺生丸さま、お狐さまはね、悪い妖怪じゃないの!
 殺生丸さま・・・!」

殺生丸は、その言葉に応えるようにちらりと後ろを向き、りんを見た。
りんは殺生丸の美しいかんばせに乗せられた表情を見ると、
はっと胸を突かれて言葉を失ってしまった。
その美しいかんばせに乗せられた感情。

・・・それは。

「・・・りんのこと心配して・・・来てくれたの・・・?」

りんのその問いには答えず、
殺生丸は神狐の方を向き直ってその表情をりんから隠してしまった。

低い抑えた声で、殺生丸は神狐に向かって言う。
「我が父は西国の狗神、闘牙王。
 この娘の着物は、私が命じ、父の毛で誂えたもの。
 父は死んだ。用があるなら私に言え」

りんは息をのんだ。
(この着物は、殺生丸さまのおっとうの・・・?)
信じられない思いで、その後ろ姿を見つめた。

その時、犬夜叉が殺生丸に向けて声を上げた。
「おい、殺生丸!どういうことだ?その狐、親父と知り合いなのかよ?!」
殺生丸はその金色の眼に何の感情も乗せず、弟を見る。
「・・・貴様には関係ない」
「なんだと・・・!」
犬夜叉が気色ばんだその時、殺生丸の前に小さな篠丸が飛び出てきた。

「あ、あなたさまは、あの名高い闘牙王さまのご子息殿でいらっしゃるのですね・・・!?
 私は、この社の神狐を両親に持つ篠丸と申すものでございます。
 父上と母上は、奈落と申す妖怪に放たれたあまたの妖怪と戦い、
 妖としての力が弱ってしまっておるのです・・・!」

殺生丸は、それがどうしたと言わんばかりの表情で、篠丸を見下ろした。
その凍りそうな眼差しに、篠丸は、かたかたと震えながら、続ける。

「い・・・狗神さまは、百の命を救う癒しの刀をお持ちだったと、
 両親より聞いたことがございます・・・!」

殺生丸の柳眉が、ぴくりと動く。
「そ、その刀は、ご子息殿が受け継いでいらっしゃるとも、
 風の噂に聞いたことがございます・・・!
 もしその噂が本当なら、どうか、両親をお助けくださいませんでしょうか・・・!」
そう叫ぶように言って、篠丸は地べたにひれ伏した。
「どうか・・・!」

りんは胸を突かれて、殺生丸の白尾から必死に顔を出して篠丸と神狐を見た。
神狐は、先ほどりんの前に姿を現したときよりも、更に透き通っている気がする。
やはり、妖力が弱まっているのだろう。
このままでは、消えてしまうのかもしれない。

「オ、オラからも、頼む・・・!」
ひれ伏した篠丸の横に、涙ぐんだ七宝が並んだ。
「このまま両親が消えてしまえば篠丸はこの社に一人ぽっちになってしまう・・・!
 お・・・お願いじゃ!」
七宝も、篠丸に並んで殺生丸に頭を下げた。
その七宝に寄り添うように、琥珀が立って殺生丸を見上げた。
「殺生丸さま・・・お久しぶりです」
琥珀も、頭を垂れる。
「僕からも、お願いします。出来ることなら、どうかこの神狐をお救いください。
 天生牙を使えるのは殺生丸さまだけなのですから・・・」
琥珀の言葉を受けて、弥勒と珊瑚、楓も琥珀に並ぶ。
「我々からも、お頼み申し上げる。
 私たちはこの町の刀鍛冶より相談を受けてここに来た。
 この神狐は町のものにとっても守り神なのです。
 どうか、慈悲の心をもって、この狐をお救いできないものだろうか」
犬夜叉は、弥勒の言葉を聞きながら殺生丸を見据えた。
殺生丸の選択を、確かめるように。

「・・・私からも、お願いしよう」

その声が響いたとたん、神狐と篠丸は驚いたように社を振り向いた。
「稲荷神さま・・・!」

篠丸の言葉に、皆はじかれたように社を振り向いた。
朱塗りの社の前にはぼんやりとした光が集まっていて、
その光はゆるゆると小さな人型へと形を変えた。
りんの掌に乗りそうなくらいの、小さな小さな人型へと。
その姿は、りんが村で暮らしはじめてから初めて見た、
「因幡の白兎」という絵草子に出てくるオオクニヌシの姿と同じだった。
白い貫頭衣に首から曲玉を掛け、髪は左右でみずらに結っている。
神を目にできることなど、めったにあることではない。
皆、目を見張り、くいいるように社に現れた神を見た。

「・・・この社の神か」

殺生丸がその小さな神様に問うと、稲荷神は、頭に手を当ててほほえんだ。

「そうか・・・そなたが闘牙王の息子か。
 もう出雲の神議りで闘牙王と会わなくなってからどれだけ月日が流れたかの」

小さな稲荷神さまは、よっこらしょと社の御扉の前にある小さな階段に腰掛ける。
小さなお社は稲荷神さまにぴったり誂えたかのようだった。

「私はこの通り、戦う力の弱い神でなぁ。
 その私の代わりを努めてくれておったのが、そこにおる番(つがい)の神狐じゃ。
 よく戦い、よそからくる悪しき妖どもをずいぶん退治してくれたものじゃ。
 そなたの父、闘牙王も、各地の神々に頼まれては、よく神助けに飛び回っておったものじゃ。
 ・・・あれは、良い漢じゃったからの」

小さな神様は、社から殺生丸を見上げて続けた。

「その腰にあるは天生牙じゃな。
 闘牙王が出雲で差しておったのを覚えておる。
 どうじゃろう、我が神使の狐を助けてはくれぬか?」

皆が、一斉に殺生丸を見る。

「・・・・・・」

誰一人として、黙ったまま稲荷神を見下ろす殺生丸のかんばせからは、
一切の感情を読みとることができなかった。
この顔ぶれの中で殺生丸の機嫌の善し悪しが分かるのはりんだけなのだが、
殺生丸はりんに背を向けたままだ。

―――時が止まったような沈黙が満ちた。

「・・・殺生丸さま」

りんは白い毛に埋もれながら、ささやくように小さな声で呟いた。
(殺生丸さまなら、どんなに小さな声でも、きっと聞き届けてくれる)
りんは、そう思った。

「りんのこと、心配して来てくれたんでしょう・・・?
 急に、旅にでたから。
 ・・・ごめんなさい、心配かけて」

りんは、殺生丸の白尾に、そっと頬を寄せる。

「・・・どうか、篠丸さんのご両親を助けてあげて。
 ・・・お願い、殺生丸さま」

りんは祈るように眼を閉じて、白いふかふかの毛に顔を埋めた。
(殺生丸さまは、優しいもの)

・・・きっと、助けてくれるもの。



・・・りんは、ふかふかの白尾の中で、殺生丸のかすかなため息を聞いた気がした。

 

 

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