殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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子供だけが見る景色<2>
かごめと楓が作ってくれたお赤飯は、普段は雑穀を炊いて食べているこの村では贅沢なことに全てもち米で蒸しあげられたもので、噛むほどに甘みが増して、食欲のないりんでも、思わず目を見張るほどにおいしかった。
「じゃあ、あたしは犬夜叉と、弥勒さまと珊瑚ちゃんに持っていってくるわ」
「ああ、頼んだよ。ありがとうな、かごめ」
「本当にありがとうございました、かごめさま」
楓とりんがかごめに礼を言うと、かごめは嬉しそうに微笑んで帰っていった。
こういう日のおめでたい食べ物は、親戚や知り合いに分けて食べるものだという習わしの通り、りんの為に炊かれたお赤飯は、犬夜叉と、弥勒と珊瑚の家に分けられることになった。
「わしにもりんにも親戚はおらぬから、こういう時は、ちと寂しいの」
楓がそういうと、りんは赤くなって言った。
「・・・犬夜叉さまや法師さまにも、私、明日からどんな顔して会えばいいのか・・・」
真っ赤になった両頬を押さえて下を向いてしまったりんは、本当に可憐だと、楓は思う。
(私にも、こんな頃があったんじゃがの)
楓は、くすりと笑うと、優しくりんを見た。
「なに、誰もが通る道なのじゃよ、そんなに恥ずかしがることではない」
「はい・・・」
楓は囲炉裏の灰の中に、取り替えようの温石を入れながら、言う。
「それでも、こうやって血が足りずにふらふらするということは、りんの体の血の道がまだ完全にできあがっておらぬということじゃ。
多少、個人差はあるが、回数を重ねるうちに だんだん辛くなくなっていくものじゃから、あまり心配するでないぞ。
・・・さてさて、体が大人に変わろうとしておる大事なときじゃからの、今日は早めに体を休めることにするかの」
「はい・・・」
りんは、楓が用意してくれた新しい温石を抱えて寝床に横になる。
けして寒い季節でもないのだが、温石の暖かさが身にしみる。
気を失っていた時間を考えても、今日はかなりの間寝ていたはずだが、それでも横になるとあっと言う間にりんは眠くなった。
楓のいうように、体が休息を必要としているのかもしれない。
目をとじると、急に体が重く感じた。
(もう怖い夢は・・・みたくないなぁ・・・)
暖かい温石は、優しい誰かの腕の中の暖かさと似ていた。
楓が、背中に当たるように置いてくれた温石の暖かさは、まるで後ろから抱かれているようだった。
・・・・暖かい、腕の中。
優しいてのひら。
柔らかい銀色の髪の毛。
あの日、ひかりのなかでふれた、やさしい、やさしい、くちびる。
・・・小さい頃は、一月ごとに会う度、会えない寂しさを埋めるように、その腕の中で当たり前のように長い時間を過ごした。
あの人の腕の中で満月の日を過ごさなくなったのは、いつからだろう。
(・・・会いたい・・・な・・・)
そう思ったのを最後に、りんの意識はまどろんでいった・・・。
・・・楓が空から近づいてくるその妖気に目を覚ましたのは、夜もかなり更けてからだった。
一応、誰も起こさぬよう気を使ったのだろう、小屋の外から感じる妖気に、双頭獣のものはなかったが、音も立てずに小屋の前に降り立った気配を感じて、楓はそっとりんの方を見る。
よほど体が休息を求めているのだろう、りんはぴくりとも動かない。
深い眠りに落ちているようだった。
楓は小さなため息をつくと、音を立てないように寝床を抜け出して、そっと小屋の外に出た。
小屋の外には、月明かりを受けて淡く輝く、大妖の姿があった。
その側には、従者の小妖怪の姿も見える。
「・・・どうした、こんな夜更けに」
楓が声を潜めて聞くと、邪見が足を忍ばせて楓の側に寄り、ひそひそ声で尋ねた。
「おお、楓よ、りんはどうしておる?」
楓は小屋を振り返る。
「・・・よく寝ておるよ」
「そ、そうか・・・し、しかし・・・」
あからさまにほっとした邪見は、それでもそわそわと落ち着かずに、主の表情を伺っている。
無言の殺生丸を、楓は見上げた。
・・・夜中に訪ねてくるなど、めったにないことだ。
この村にりんを預けた当初、毎晩、寝床で声を出さずに泣いていたりんを心配して、邪見が様子を伺いに何度か来たことはあったが、それも数度。
大妖自らが足を運んだことはほとんどないし、りんが村に馴染んでからは、夜中に訪ねてくることなど久しくなかった。
「・・・ほ、本当に、りんに何事もあらなんだか? 殺生丸さまは何やら・・・」
邪見は言いかけて、主の表情を伺って言葉を濁した。
恐らく殺生丸は、人間には無いその鋭敏な感覚でりんの体に何が起きたのか察したのだろう。
楓は、落ち着かない邪見の様子から、こちらは何が起こったのか全く分かっていないのだろうと予測をつける。
(言葉少ない主を持つと苦労するの、小妖怪・・・)
思わず、同情のため息がもれそうになった。
月の光を纏った大妖が、その重い口を開く。
「・・・りんの、匂いが変わった」
月光は逆光で、楓からは殺生丸の表情がよく見えない。
「・・・ああ、そうかもしれぬの」
楓は目を細める。
「あ、あの・・・殺生丸さま、それは一体どういう・・・」
邪見がおそるおそる殺生丸に尋ねているのを見て、いい加減邪見が気の毒になった楓はため息をついて教えてやった。
「・・・りんは、今日、大人の仲間入りをしたのじゃよ。 からだが、大人へと変わったのじゃ」
邪見は心底驚いたように、楓へ問いかえした。
「お、大人じゃと?!あの、りんがか?!」
「おお、そうじゃ」
「あいつ、まだまだ子供じゃと思っとったが・・・そうか・・・。 し、しかし、大人になるとは、どういうことじゃ?
匂いが変わったとは・・・? ままま、まさか、あいつ、だ、脱皮でもしおったのかっ?!」
(・・・こやつ、本気で言っておるな・・・)
楓はこめかみを揉んで、深いため息をつく。 本当に、この二人からりんを預かってよかった。
あのまま旅を続けていたら、一体どうなっていたことか。
「お、おい、楓、ちゃんと分かるように説明せんかっ! りんは、一体、どうなってしもうたんじゃっ」
寝ているりんを気遣っているのだろう、潜めた声で邪見が楓に向かって問いただし、まったく、と、楓はため息をついて口を開いた。
「・・・りんは、子供が産める体になった、ということじゃ」
楓がそう言うと、邪見は顎をはずすのではないかというくらい、パカリと口を開けた。
「・・・・あ、あの、りんが・・・?」
「そうじゃよ。人間の感覚で言えば、少し遅いくらいじゃわい」
「そ、そうなのか・・・?」
よほどショックだったのだろう、邪見はペタリと座り込んでしまった。
「そ・・・そうか・・・りんが、大人に、のう・・・」
楓はあきれて邪見をのぞき込む。
「なんじゃ、ずいぶんと脱力してしもうて。 無事に成長したことはめでたいことではないか。少しは喜んだらどうじゃ?」
「・・・頃合い・・・か」
静かな、低い声が、響いた。
「・・・?」
楓は、眉を寄せる。
「・・・あの娘が人と共に生きていくなら、今後、我らの訪れは妨げになろう」
小屋を見ながら静かにそういった殺生丸の、 ・・・その言葉の意味を理解すると、楓は、目を見開いた。
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