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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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子供だけが見る景色<1>


摘まれた花の続編です。










子供だけが見る景色<1>

拍手[48回]





・・・パチパチと、暗闇のなかで、木がはぜる。

小さなりんは、冷えて赤くなった手を火にあてる。
木の枝に指したキノコは、しゅうしゅうと焼けて水蒸気を出している。
たぶん、もうすぐ食べられる。
だけど、どうしてだろう、とても寒い。

邪見さまは、エッヘン、と妙に胸を反らして言う。
「ワシは、その殺生丸さま帝国で、ゆくゆくはお大臣さまじゃ!」
りんは、首をかしげて聞く。
「・・・ねえ、じゃあ、りんはそこで何をすればいい?」
「ええっ?!おまえ、そんな所まで付いてくるつもりか?!」
「どうして? どうしてだめなの? ねえ、邪見さま!」
「どうしてって・・・ワシらは100年くらいどうってことないが、人間のおまえではのー」

「・・・」

「その頃には、とっくに死んでおるだろうからのー」


・・・邪見さまの、いじわる。


・・・・じゃあ、じゃあ・・・それまでで、いい。 それまでで、いいから。  


ねえ、殺生丸さま、おねがい・・・・

りんは、りんは・・・何をしたらいい・・・? どうしたら、殺生丸さまと一緒にいられるの・・・?



「・・・・・ん!」
「・・・りん!」
「・・・・・・・りん・・・!」

「りん!」


のぞき込む、たくさんの顔。 心配そうな、たくさんの・・・顔。

りんは、重いまぶたをあげた。

「・・・う・・・」

ひどく、吐き気がした。
頭がぐらぐらする。

さっき、心配そうな顔をしていたのは、楓さまと、かごめさまと、あとは・・・

ああ、心配かけちゃいけない。 しっかりしなくちゃ・・・

そう思って起きあがろうとしたとたん、りんは再びぐらりと傾いた。

「・・・りんちゃん!!」


かごめの遠い声が聞こえて、りんは深い深い闇の中に落ちた・・・。







闇の中に、淡く白い光を放ちながら立っているのは、殺生丸さま。
りんは、嬉しくて、嬉しくて、迷いなくその側へと駆け寄っていく。
殺生丸さまは、りんを見て、はっきりと言う。

「りん」

「はい・・・?」

りんは首をかたむけて、殺生丸を見上げる。

殺生丸さまは、とっても背が高いの。 りんは、殺生丸さまを見上げるのが、大好き。
だって、いつも、後ろ姿を見ている方が多いんだもの・・・。

「好きにしろ」

殺生丸さまは、そういってりんへ背を向けた。

「・・・はい!」

りんは、にっこりと笑ってそう答え、殺生丸の後を追おうとする。
・・・だが、足が、鉛のように重い。 まるで、田植えの直後の田んぼに両足が浸かっているよう。

「あれ・・・? あ、あの、待って殺生丸さま、足が・・・」

戸惑いながらりんがそう言って、背を向けた殺生丸を見上げた瞬間、りんの横を、小さな女の子がすばやく駆け抜けていった。

見覚えのある、橙色の市松模様の着物。 
はじけるような笑顔で、迷いなく、殺生丸の後を追う、小さな女の子。


「・・・え・・・?」

りんは、思わず自分の手足を見る。 細く伸びた手足は、もう、子供のものではない。
胸もふくらみ、腰がくびれ、よく見ると着物もやわらかな色合いの大人のものを着ている。

「・・・や・・だ・・・・!」

りんは、重い足を必死にひきずって前へ行こうとした。

「・・・待って・・・!」

殺生丸は、小さな女の子と一緒に、どんどん遠ざかっていく。
女の子は殺生丸に、何かを一生懸命話しかけている。 まるで、じゃれつく子犬のようだ。

「・・・やだ、待って・・・殺生丸さま!」

りんは泣きそうになる。 足が鉛のように、動かない。 このままでは、置いていかれてしまう。
殺生丸さまは、いってしまう。

「いや・・・!」

りんがすがるように殺生丸の背を見ると、小さな女の子が殺生丸の袖を引っ張って、無邪気な大きな声で言った。

「殺生丸さまー、だーーい好き!!」

殺生丸は目尻を少しだけゆるめて、小さな女の子を、抱き上げる。まるで、動けないりんには全く気が付いていないように。

「やだ、まって・・・!お願い、置いていかないで・・・!」

「殺生丸さまーーっ!!!」

必死に叫んでも、りんの口からは声がでない。 まるで、殺生丸に出会う前のりんのように。

やだ・・・・やだ!置いていかないで、お願い・・・

おねがい、殺生丸さま・・・!

 

 







「う・・・」

額に置かれたひやりとした感覚で、りんはうっすらと目を開けた。

「・・・りん!」
「ああ、りんちゃん!!よかった、気がついたのね!」

「・・・?」

柔らかい獣脂ろうそくの光に、りんは目を細めて、楓とかごめの顔を、交互に見る。

「・・・あ」

ぽたぽたぽた、とりんの目から涙がこぼれた。 ひどく悲しくて、とても怖かった。
声も出せず、足も動かせず、ただ一人置いていかれる、恐怖。 涙を拭おうとした指は、細かく震えていた。

「どうした、まだ辛いのか?」

「今、お水をあげるわ。ずっと倒れたきりだったのよ、喉が乾いてるでしょう?」

「・・・え・・・?」

りんが重いからだを起こしてみると、そこは楓の小屋の中で、りんは布団に寝かされて頭の上には冷たい布があった。

「あ・・・の」

しゃべろうとしたが、うまく声がでない。
かごめが差し出した水を、張り付くような口の中にゆっくりと流し込むと、喉が金縛りから解けたように楽になった。

「あ、あの、あたし・・・」

りんが戸惑ったように言うと、楓とかごめは顔を見合わせた。 かごめが、心配そうに言う。

「りんちゃん、あなた、貧血で倒れたのよ」

「ひんけつ・・・?」

「うん、体の中の血が足りなくなっちゃうこと」

楓は明らかにほっとした顔で、りんに言った。

「薬草を川に晒しに行くと言って出ていったんじゃが、真っ青な顔をして戻ってきたんじゃぞ。
 あんなにふらふらして、よくここまで歩いてきたものじゃ。 わたしの顔を見たとたん、気を失ってしもうたんじゃよ。
 全く覚えておらんのか?」

りんは、ようやく覚醒してきた頭で、ぼんやりと思い出した。

「あ・・・そうだ・・・あたし、川に行ってて・・・」

「思い出した?りんちゃん」

かごめがりんの顔をのぞき込む。

「川の中で、急に吐き気がしてきて・・・。 頭が、くらくらして・・・目の前が、チカチカしたんです。
 それで、とにかく、帰らなきゃと思って・・・」

かごめは、優しくりんの背中をさする。

「そうね、典型的な貧血の症状よ。あと、ほかは大丈夫・・・?」

りんは、じんわりとした自分の体の感覚を徐々に取り戻していく。 手足が冷たくて、氷のようだ。
体の内側から、じんわりと重たい痛みが響く。 これが、血が足りないということなのだろうか。

きちんと座り直そうとして体勢を変えたとたん、りんはうめき声をあげた。

「・・うぅ・・・」

しびれるような、腰と腹部の痛み。 まるで、雑巾の中で一緒に絞られているような痛みだった。
どうしたというのだろう。

「お腹と腰が痛いのね? ちょっと待ってて。温石を用意してあるから。 これはね、冷やすとだめなの。
 暖めると楽になるから、ちょっと待っててね」

かごめは、なぜだか少し嬉しそうに言う。
楓も、かごめにかわってりんの背をなでながら、にこやかな顔をしている。

「・・・?」

りんがあまりに不安そうな顔をしていたのだろう。 楓は、優しくりんを寝かしつけながら言った。

「大丈夫じゃ、りん。不安になることはない。これは病気ではないのだからね」

「え・・・?」

「・・・そなたは、大人の仲間入りをしたのじゃよ、りん」

「貧血でくらくらしていたから気がつかなかったのね、りんちゃん」

横向きに寝たりんに、かごめが暖かい温石をお腹と背中にそれぞれあててくれながら言った。
暖かさを感じたところから、じんわりと痛みが和らいでいく。

「あ、あの、それって、・・・」

かごめは、にっこり笑ってりんの頭を撫でる。

「・・・おめでとう、りんちゃん」

楓も嬉しそうに竈を指さした。

「今晩は、赤飯じゃ」

「・・・・・!」

りんは、あまりに驚いて口をぱくぱくさせた。 青白かった顔があっと言う間に真っ赤になっていく。
今度は極度の恥ずかしさで、目の前がチカチカして頭がくらくらした。

「あ、あの、い、いつ・・・」

あわてて腹部を探ってみると、下腹部にあれこれ巻かれているのが分かる。
恐らく、気を失っている間に楓かかごめが処置してくれたのだろう。 年齢的にも、いつこうなってもおかしくないのだから、と、
年頃の女の子が集められて月のものが始まった時の処置は教えてもらっていたが、誰かにやってもらうのと、自分でやるのは大違いだ。

「あああ、あの、あの、ど、どなたが、その・・・」

「大丈夫、あたしよ、りんちゃん。」

かごめがにっこり笑っていうと、りんは泣きそうな顔をしてあやまった。

「す、すみません・・・・」

かごめは、嬉しそうにりんの側に座って言う。

「なに言ってるの、謝ることじゃないわ。 こういうことは、年長者の努めなのよ。ね、楓おばあちゃん?」

楓もにこやかにうなずいた。

「そうじゃな。月のものの始まり方は、人それぞれじゃ。 りんのように血が足りずにふらふらするのもおるし、
 普段と全く変わらずピンピンしてるものもおるしの。 こういうことは、女同士、助け合わねばいかんのじゃぞ、りん」

りんは横になったまま、布団を引き上げて顔を隠してしまった。

「・・・でも、でも・・・恥ずかしい」

楓とかごめは、顔を見合わせてくすり、と笑った。

小屋の中には、先ほどから蒸しあげている、ほこほこした赤飯の匂いが漂っている。
楓は優しい表情で、布団にもぐりこんだりんを見つめた。

あの小さな幼子だったりんが、大人の仲間入りをしたのだ。 この日を迎えて、楓には無事に育てあげたのだという感慨と、安堵感が満ちてくるのを感じていた。
幼い頃に両親を失ったということで、りんのはっきりとした年齢は分からなかったが、村のほかの子供に置き換えて見てみても、おそらく14歳は越えて居ると思う。
そろそろ月のものが始まってもいいのではないかと、楓はずっと思っていた。
現に、りんと仲のよかった同じ年頃のあやめなどは数年前から始まっていたし、先日、隣村に嫁にいったばかりだ。
年頃の娘の中で、りんだけが、その訪れが遅かった。
楓としては、口に出せぬ不安があったのも事実だったのである。

そもそも、月のものの訪れにしても、体の変化にしても、女性として本来あるべき姿へ成長していくことは、年頃の娘には憧れでもあろうに、そういったことに対する憧れを、りんが一切示さないことも、楓にとっては一抹の不安があった。

・・・りんは、成長することを恐れているように、楓には見えていたのである。

ふくよかな胸も、美しくくびれた腰も、若い女性には憧憬であろうに、りんは自分の胸がふくらんでいくのを怯えたように見ていたし、着物の丈が短くなることも決して嬉しそうではなかった。

同じ年頃の娘が美しく着飾り、嫁に貰われていくのを、りんがどのような思いで見送っていたのか、楓はずっと気になっていた。
笑顔で「おめでとう」と言いながら、この娘は一人で先のことを悩んでいやしないだろうか、と。

「・・・りんちゃん、お夕飯は食べられそう?」

かごめが優しく聞くと、りんはおずおずと布団から顔を出して、小さくこくり、と頷いた。

「・・・すみません、かごめさま」

甘えているばかりではいけないと思ったのだろう、りんは温石を抱えて上半身を起こす。

「あら、まだ寝てていいのよ、りんちゃん」

「いえ、もう、ずいぶん楽になりましたから・・・」

りんは、ほかほかする温石で、じんわりと指先を暖める。
細い、大人になったりんの指。 夢で見たときには、見慣れたはずの自分の指が、なぜだか怖かった。

今日から、大人の仲間入り・・・。
それは、あのひとに近づいたしるしなのだろうか、とりんは思う。

・・・だとしたら、それは、どういうことなのだろう。
もう、ただ待っているだけの子供ではいられないのだろうか。

小さい頃、りんは殺生丸からこの人里・・・楓さまに預けられて、いずれは自分で選びなさい、と聞いて育った。
人里で生きていくか、殺生丸と共に生きていくのか・・・どちらでも選べるように、今は人里で学ばねばならぬ、と。

りんは、指を伸ばして、そっとくちびるに触れる。

先日、りんは幼い頃に殺生丸から貰って大切にしていた鏡を割ってしまった。
ちょうど、殺生丸の訪れを草原で待っているときだった。
背伸びをした途端、手からするりと滑り落ちてしまったのだ。
幼い頃の思い出が詰まった丸い手鏡は高い音を立てて、砕けちってしまった。

割ってしまった手鏡を見て、泣きそうになったところに、殺生丸が空から降り立ったのだ。
りんは、殺生丸の姿をみるなり、泣き出してしまった。
ひどく悲しかったし、殺生丸になんと言って謝ったらいいのか分からなかった。
だから、姿を見た途端、堪えていた涙がぼろぼろとこぼれてしまった。

殺生丸は、しばらく泣きじゃくるりんをあきれたように見ていたが、
りんの前髪をかき分けて、瞳をのぞき込むように「構わぬ」と言った。
何度「構わぬ」と言われても、優しい殺生丸の顔を見ているとりんは涙が止まらなかった。

・・・・その時、どうして殺生丸がそうしたのかは、りんには分からない。

ただ、殺生丸は、いつまでも泣きやまぬりんの頬を両手で優しく包んで、
その頬に、流れる涙に、優しく優しく口づけたのだった。

何度も何度も、りんの頬に、りんのまぶたに、殺生丸のくちびるが優しく触れた。
殺生丸さま、と言おうとしたりんのくちびるにも、優しくそのくちびるは触れた。

何度も、何度も。

・・・りんにはどれだけ時間がたったのか、分からなかった。

ただ、いつの間にか、りんの涙はとまっていて、
ただただ長い間、殺生丸と見つめあっていたように思う。

「口づけ」という行為は、りんも村の娘たちから聞いて、知っている。

・・・愛しいもの同士が、する行為なのだと。

でも、殺生丸のあれがそうだったのか、りんには分からない。
殺生丸は妖怪だし、人間とは違うのだし、りんはまだ子供だし、りんは殺生丸の恋人ではないのだし・・・と。

ただ、目の前の涙をとめようと、そうしてくれただけなのかもしれない。
・・・りんには、分からなかった。

ただ、あれからりんは一日に何度も何度も、殺生丸のことを考えるようになった。
今までよりも、ずっと、ずっと。

そっと唇に触れると、その時のことを鮮明に思い出す。
りんが自分の指で触れるより、殺生丸さまは優しくりんに触れた。
あんなに優しく触れることなど、誰にもできないのではないかと思う。
でも、そんなことができるのも、殺生丸が人間じゃなくて妖怪だからなのかもしれない、とりんは思ってみたりする。

ただ、確かなことは、月のものの訪れを迎えた今日を境に、もうりんは子供ではなくなってしまったということだ。

今まで殺生丸がりんに優しくしてくれていたのは、りんが子供だったからなのかもしれない。
そう思うと、りんは急に悲しくなった。

(大人になんて・・・・・・)

くちびるに指をあてたままぼうっとしているりんを見て、楓が心配そうに声をかけた。

「どうした、りん? まだ吐き気がするか?」

「あ、いえ・・・大丈夫です。・・・大丈夫です、楓さま」

りんは、あわてて笑顔を作る。 楓に心配をかけることはできない、とりんは思う。
大人になりたくない、などと言ったら、この老巫女を一体どれだけ悲しませてしまうだろう。
そう思うと、自分勝手なことばかり考えている自分がすごく恥ずかしかった。

 

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