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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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子供だけが見る景色<4>

 


「嬉しい・・・! 分かりました、喜んでお伺いいたします!」


りんは朝から洗い上げた洗濯物を抱えて、嬉しそうに笑う。

「そっか、ありがとうな。・・・あいつも喜ぶと思うよ」

よく日に焼けた精悍な顔に、優しそうな笑いじわがよく似合う。
あやめによく似た目を細めて、ぽんぽん、と、りんの頭を優しくたたくと、伊織は馬に乗り、仕事に戻っていった。


・・・りんは、笑顔で青い空を仰ぐ。

夏の暑い一日が始まろうとしていた。

 

 


子供だけが見る景色<4>

拍手[44回]





りんは、軽い足取りで、川からの道を楓の小屋へ戻っていく。
小さな声で、歌いながら。

・・・嬉しくて、その気持ちをかみしめながら歩いた。

先日、初めて迎えた月のものは、結局まるまる五日間りんを寝床に縛り付けた。

二日目も起きあがれなかったりんに、楓は紅(もみ)にくるまれた手鏡を手渡し、真夜中に、殺生丸と邪見が、
体調の優れないりんを心配して来ていたと告げた。
りんは寝床で目に涙をためて手鏡を見つめていたが、「次の満月に来る、と言っておったぞ」という楓の言葉に、
かすかに微笑んだ。

三日目には、心配したかごめに犬夜叉、弥勒と珊瑚まで見舞いに来る始末で、皆に心配させてしまい、りんはとても
落ち込んでしまった。
四日目と五日目は、起きあがって何かすると頭がくらくらして、結局横にならざるを得なかった。

・・・が、六日目には嘘のようにけろりと体調が元に戻った。
五日間、食欲が無かったのも初めてのことで、りんはほんの少しだけ、痩せた。

先ほど川に洗濯に行った時も、若い母親たちから声をかけられ、体を思いやる言葉と、おめでとう、という言葉を貰った。
いつも元気に働いているりんが寝付くことなど滅多になかったから、りんが月のものを迎えたことは、皆すぐに分かったようだった。
りんは赤くなって皆に頭を下げた。

毎月、何日にも渡って月のものを迎えると思うとりんはかなり憂鬱になったが、先だって、隣村に嫁に貰われていったあやめが
子供を身ごもったと聞くと、そのうれしそうな家族の表情に、赤飯を炊いてでも喜ぶわけが分かる気もした。

伊織の話では、初めての悪阻に、あやめはずいぶんと悩まされているらしい。
あやめの兄である伊織から頼まれたのは、悪阻を和らげる薬湯の調合と、あやめのお見舞いである。
隣村へは、りんの足で気軽に歩いていける距離ではないが、嫁ぎ先の長者への気遣いもあって、今回のお見舞いには
特別に馬の使用許可がでたらしい。

「村長(ムラオサ)の馬を借りていいってことだから、 ちゃんと一日で行って帰ってこれるし、俺が馬を駆っていくから、
 りんはそれに乗ればいい。 心配しなくても大丈夫だよ」 

伊織は笑顔でそう言った。
伊織は、領主様やその家臣の馬を預かり、育てる仕事の見習いをしている。

・・・戦国の世、馬の数は、その氏豪の兵力にも等しい。

御牧(みまき)と呼ばれる牧場が近くにあるのだが、ここでは戦が起きたときに必要となる馬を育てている。
良質の馬を多く育てることが、領主にとってはその土地と地位を守ることにも直結するわけで、御牧での仕事は誰でも
できるというものでもなく、基本的には武家のものが携わる仕事であった。

伊織は、御牧の頭領に、馬を操れるだけの手足の長さと忍耐強い性格を認められ、百姓の息子ながら召し上げられて
奉公している。
馬への深い愛情と洞察力、そして何より忍耐力を必要とされる仕事だが、穏やかで面倒見のいい伊織の性格はまさに
天職だったようで、そろそろ見習いから上へ上がれそうだ、と、りんは聞いている。

伊織は、奈落の厄災の後、この村にやってきた心細げなりんを、妹のあやめと同じように可愛がってくれた。
人里に馴染めるか不安だったあの頃のりんにとって、何かと優しい声をかけてくれた伊織やあやめの存在は、本当に
かけがえのないものだった。

今回の依頼だって、悪阻を和らげる薬草を伊織に手渡しさえすれば、恐らく十分に事足りるはずだろう。
隣村にも薬師はいるだろうし、何よりあやめが嫁いだのは、長者さまだ。
りんがわざわざ行く必要はないのである。
それでも、せっかくならばあやめとりんが会えるようにと、きっと伊織が気を回して、一緒に連れて行けるよう村長に
交渉してくれたに違いない。
伊織の優しさは、いつもとてもさりげない。
人に甘えるのが下手なりんでも、いつも甘えてしまった後で、それが優しさだったのだと気づく。

それでも、三月ぶりにあやめに会えると思うと、りんはやはり伊織の優しさが、嬉しかった。


「そうか、あやめが身ごもったか・・・。ずいぶん早かったの」

楓は収穫された豆を枝から取り外しながら、驚いたように言った。
りんも、その側で、洗濯物を干しながら言う。

「本当にそうですね・・・。 まだ、向こうの家にも慣れないうちから身ごもって、それが少し心配だって、伊織さんが言ってました」

「そうか・・・確かにの」

「あやめちゃん、今、悪阻がひどいらしくて、 悪阻を和らげる薬湯を作りに行ってほしいって、さっき伊織さんから頼まれたんです。
 明後日、村長の馬を借りて、伊織さんがりんを乗せていってくれるんですって。 馬なら、一日で行って帰ってこれるからって」

楓は、りんの表情を見て、思わず顔が緩んだ。

「そうか、あやめに会えるから、そんなに嬉しそうなんじゃな」

「・・・」

りんは、かすかに赤くなって、頬を押さえた。

「・・・嬉しそう、でしたか?」

楓は、声を出して笑った。

「ああ、とてもな」

最近、沈み込んだりんの表情ばかりを見ていたせいか、嬉しそうなりんの表情を見ると、楓までが明るい気持ちになった。

「・・・私って、けっこう、顔にでてるんですね・・・」

りんは赤くなった顔を隠すように、ぱん、と絞った洗濯物を広げた。
楓ですら一目見て分かるくらいなら、殺生丸ならばどうなのだろう、と思った。
考えられないくらい遠く離れていても、どこで何が起きたか分かるくらいなのだ。
・・・りんの体が、大人へと変化したことにも。
きっと、りんの体調と気持ちを考えて、あの夜は何も言わずに帰ったに違いない、と、りんは思う。

殺生丸が持ってきてくれた柔らかな極上の紅(もみ)にくるまれた手鏡はりんが割ってしまったものと全く同じもので、
わざわざ同じものを誂えてくれたのだと思うと、りんは涙がでるほど嬉しかった。

楓から「次の満月に来る」という伝言を聞いた時は、心からほっとした。
殺生丸様は、りんが大人になったら来なくなってしまうのではないかと、りんは誰にも言えなかったが、ずっと不安に思っていたから。
今度会いに来てくれたとき、「殺生丸さまのおかげで、りんは大人になりました」と、何度も何度も、一人で練習した言葉を、
うまく、りんは言えるだろうか。

・・・りんの気持ちを、伝えられるだろうか。


満月の夜は、四日後だった。


その日から二日間、りんは楓と共に二軒の家でお産をこなし、合間を縫ってはあやめの為に薬の調合をした。
楓は手みやげに、小さい頃からあやめが好きだった、きな粉をまぶしたキビ餅をつくり、りんを喜ばせてくれた。


夏の早い朝、伊織は栗毛の馬に乗り、りんを迎えに来た。

りんは、その出で立ちを見て、大きな目をさらに大きくした。
いつもこざっぱりとした姿の伊織が、烏帽子をつけ、直垂姿でやってきたのである。
まるで偉いお武家さまのようで、りんはびっくりしてしまった。

りんの表情に気が付いたのか、小屋の前まで来ると馬から下り、伊織は顔を赤くして言った。

「やっぱり、似合わないよなあ・・・」

頭に手をやったが、その指先がコツン、と烏帽子に触れ、伊織は改めて烏帽子をかぶっていたことに気が付いたような顔をした。
いかにも、着せられてきましたという感じである。

「ご、ごめんなさい。伊織さんのそういう姿、初めてみたから・・・ りん、びっくりしちゃって・・・」

りんが慌ててそういうと、伊織は困ったように笑った。

「いや、実を言うと、先日、御牧の見習いから正式に職人として、 召し上げられることになったんだ。 で、正式な用事で外に
 でるときには、それなりの格好をしなくちゃいけなくなったんだよ。 今回は、表向きは村長の命令で行くことになってるからね。
 それでこんな堅苦しい格好をしなくちゃいけなくなったんだ」

よほど照れているのか、困ったように言う伊織に、りんは思わず大きな声を出した。

「すごい!正式に召し上げられることになったんですね!おめでとう、伊織さん・・・!」

伊織が御牧で働いていることは、あやめの家族が全員誇りに思っていることだった。
正式な召し上げになれば、家族の生活も大幅に上向くことだろう。
りんは、あやめが気にしていた幼い弟妹たちのことを思うと、それが一番嬉しかった。
伊織はりんを見て、ありがとう、と嬉しそうに微笑んだ。

「さ、行こうか。りん、荷物をかして」

りんが抱えた大きな風呂敷包みは、鞍に結びつけられ、りんは伊織に抱えられて横掛けに馬に乗った。
馬に乗るのは、初めてである。

(あ、なんか、阿吽に乗ってるみたい・・・)

そうりんが思ったとき、りんの後ろに慣れた動作でとん、と伊織が乗った。
横掛けに座った小さなりんは背の高い伊織にすっぽりと抱き抱えられたようになって、思わずどきり、とした。

暖かな、広い胸の、中。
つきん、とした胸の痛みと、耐えがたい懐かしさが、りんを襲った。

・・・阿吽に乗ったりんをいつもこうやって、後ろから支えてくれたのは、殺生丸だ。
包まれるような、絶対的な安心感。 阿吽に乗って旅をした、りんの忘れようもない、思い出の日々。
大きな生き物に乗ることは、りんの体が覚えている、忘れられない記憶だった。
光輝く星の浮かぶ夜空、涙がでそうになるほど美しい夕焼けの空。

・・・言葉少なく、誰よりも強い、優しい優しい妖。

不意にわきだしてくる記憶に翻弄されて、後ろで支えてくれている伊織に対して、全体重を預けて、甘えてしまいそうに
なる衝動に、りんはかろうじて耐えた。

後ろでりんを支えているのは伊織だ、と自分に言い聞かせる。
・・・殺生丸さまじゃ、ない。

りんのガチゴチに強張った体と複雑な表情を、緊張しているのだと思ったらしく、伊織が穏やかな声で言う。

「最初は慣れないかもしれないけど、とばさないから平気だよ。・・・りん、大丈夫?」

「は、はい・・・よろしくお願いします」

りんはやっとのことでそういうと、周りの景色に目をやった。

・・・・ここは、人里だ。 一緒にいるのは、殺生丸じゃなくて、伊織だ。

もう一度、伊織の顔を振り向いて、言った。

「お願い、します」
「うん、じゃあ、行くよ」

伊織が足で馬の腹を蹴ると、馬は一定の早さで歩きだした。
りんが歩くよりもずっと早くて、阿吽が飛ぶよりもずっとずっとゆっくりで。

村をでる頃になって、やっとどきどきする心臓がおさまってきた。
りんはこわごわと腕をのばし、馬の首をなでながら言った。

「・・・ごめんね、挨拶が遅くなって。 今日はよろしくお願いします、お馬さん」

背中から伊織の笑う声が聞こえて、りんもやっと、笑った。



馬に慣れてからの伊織と二人の短い旅は、なかなか楽しかった。

伊織はりんの知らない馬の話をたくさんしてくれて、りんは伊織の知らない、薬草を煎じるときの組み合わせの話をした。
思い返してみれば、今まで、二人きりで長々と話すことなどなかったのだが、よくよく話してみると、色々と共通点が見えてきて、
面白かった。

馬にも毒になる草や、薬になる草があると伊織が言うと、りんは顔を輝かせた。

「伊織さん、馬の薬師さまみたい!」

りんがそう言うと、伊織は首を横に振った。

「馬には、ちゃんと馬医師(ウマノクスシ)がいる。 といってもお役人様だから、うちみたいな田舎の御牧には来たことないけどね」

「へえ~~~~~、馬の医師さまがいるんなんて、りん、知らなかった!」

心底驚いたりんの表情を見て、伊織は嬉しそうにくすくす笑う。

「・・・りんは、本当に素直だな」

「え?」

「いや、何でもないよ」

楽しそうに、伊織はくすくす笑う。
どうして伊織がりんを見て笑うのか、りんには分からなかったが、笑われてもどうしてだかそれはちっとも嫌ではなくて、
そのこともまたりんは不思議に思う。

りんは伊織の顔を振り向いて、しばらく見上げてみる。
伊織は、誰にでも優しい。・・・りんは純粋に、聞いてみたくなる。

「伊織さんは、どうしてそんなに、誰にでも優しいの? ・・・りん、伊織さんとあやめちゃんには、村に来た時からずっと、
 助けてもらってばっかりだった。 妖怪と一緒に旅をしてた女の子って聞いて、りんのこと、怖くなかった・・・?」

尋ねてしまった後で、こんなことを誰かに尋ねるのは初めてだ、とりんは思った。
怖くて、誰にも、そんなことは聞けなかった。
それなのに尋ねてしまったのは、きっと伊織が優しいからなのだろう。 ・・・また甘えてしまった、と、りんは思った。
が、その上から、柔らかい声音が降りる。

「怖くなんかなかったよ。・・・りんはすごく可愛いかったもの」

「・・・そう・・・ですか」

りんは、下を向いた。
そんなことを言われたのは初めてで、何と言ったらいいのか分からない。
それより何より、多分、自分の顔は赤いと思ったから、顔を上げられなかった。
下を向いたまま、火照った頬を、手の甲で抑えた。

そんなりんを見て、伊織はまたくすくす笑った。

「それに、俺は誰にでも優しいわけじゃないよ」

「・・・?」

りんが赤い顔で伊織を見上げると、伊織は前を見たまま馬の胴を軽く蹴り、

「慣れてきたみたいだから、少し走るね」

と言った。




山間の街道の三里の道のりは、小走りの馬に乗ってしまえはあっという間で、りんたちは一刻もたたぬうちに
あやめのすむ里へ着いた。





 

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