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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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子供だけが見る景色<9> 


注) 血を含む表現があります。









子供だけが見る景色<9>

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真夜中になっても小雨は降り続いていて、
洞窟の奥から夏とは思えない冷たい風が流れてきていた。
きっと、奥の方はどこかに繋がっているのだろう。

(楓さま・・・心配してるだろうな・・・)

横になったりんは、そっとため息をついた。
かなり夜は更けたはずだろうが、まったく眠れなかった。
久しぶりの野宿だからではない。
あまりの身辺の変わりように、気持ちがまったく付いていかないのだ。
眠れるはずが、なかった。

殺生丸との口づけがきっかけで、
まるで堰を切るように、りんの内外で色んなことが変わっていく。
月のものが始まったと思ったら、今度は祝言の話まで。

あやめと久しぶりに会えて話したことで、
せっかく殺生丸に色んなことを尋ねてみようという勇気がでたというのに、
伊織から気持ちを打ち明けられると、また急に怖くなってしまった。

りんは、焚き火の向こうで背を向けて寝ている伊織を思った。
・・・まっすぐりんを見て、共に生きる未来を考えて欲しいと言った伊織。

さっき、夕ご飯に伊織が焼いてくれた大和芋はほくほくしていて、
りんの大好物だったのだが、結局半分も喉を通らなかった。

・・・伊織の気持ちをどうしても受け止められない自分がいる。

その後もぽつりぽつりと伊織と話をしたが、
伊織も、あまりに沈んだ様子のりんに気を使ったのだろう、今晩は早々に休むことにした。

(・・・どうして、りんなんだろう・・・)

横になると、また涙が出てきた。

もしもりんが山の中に一人でいるなら、
真夜中であろうと、きっと犬夜叉さまが迎えにくるに違いない。
楓さまは、帰ってこないりんを、とても心配するだろうから。
その犬夜叉さまがこないということは、
きっと楓さまも伊織さんが一緒だということで安心しているのだろう。

楓からも信頼されて、村の年頃の娘たちからも慕われている、伊織。
皆のあこがれる仕事をしている、伊織。

どうしてよりによって、自分なんだろう。
きっと、もっといい子がいるはずなのに。

りんは横になったまま、そっと唇に指を当てる。
最近では、一人になったときの癖になってしまった。

目を閉じて、りんにたくさん降ってきた、優しいくちびるを思い出す。
あまりに幸せだった、一月前の逢瀬。
・・・それが、たとえ殺生丸にとっては口づけではなかったとしても。

500年も生きている妖なのだ。
ああやって、泣いている誰かを慰めたことくらい、何度もあるのかもしれない。

ずきん・・・と、心が痛んだ。

(・・・やだ・・・)

他の誰かに、あんなに優しくくちびるで触れたことがあるのだろうか・・・?
触れられた誰かは、りんのような幸せな気持ちになったのだろうか・・・?

(・・・そんなの・・・やだ・・・)

身勝手な想いだと分かっていても、一度そう思ってしまうと、
その想いはりんの中を駆けめぐって身の内を焦がしていくようだった。

ずきずきと胸が痛くて、溢れだしそうになる涙をこらえようと、身じろぎしたとき。


――――突然、繋いでいた馬が、興奮した声を上げた。


洞窟に一番近いところにあった大きな杉の木に馬を繋いだ長いひもを括りつけていたのだが、
興奮した馬は、その紐をさらに引っ張って、洞窟の中へ逃げ込もうとしている。


「・・・おい、どうしたんだ?!」

驚いて飛び起きた伊織が、馬のそばに寄っていく。

「どうしたんだ、何か、いたのか? ごめん、りん、起こしちゃったな」

身を起こしたりんはふるふると首を振ったが、あまりに後ずさっていく馬を怪訝に思う。
外に何かいるのかと、洞窟の外を見た途端、りんは恐怖で心臓が止まりそうになった。


「お・・・狼・・・!!」


暗闇の中に蠢く、洞窟の炎に照らされた、たくさんの目が見えた。

今まで気が付かなかったのが不思議なほどだ。
獲物を前にして興奮した荒い息づかいと唸り声が聞こえる。
ざっと見ただけでも、20匹はいるだろう。

りんが思わず後ずさりすると、その声で初めて洞窟の外にいる狼の群に気が付いた伊織は、
すばやく暴れる馬のそばから離れ、正装時に身につけていた刀をもって、りんの前に立った。

「くっそ・・・下がれ、りん!! 早くっ!!」

りんは震える足を叱咤しながら、立ち上がる。
刀を抜いて構えた伊織に、りんは目を見開いた。

「伊織さん・・・?!」

「早く、逃げるんだ、りん!」

「やだ、伊織さんは・・・?!」

りんがそう言った瞬間、先頭にいた一匹の狼が伊織に向かって飛びかかってきた。

――― ギャンッ!!!

鼻先を切りつけられた狼が、血をまき散らしながら、のたうち回った。

洞窟の中に血の臭いが広がり、むせかえるような動物の臭いが充満していく。
後ろにいる狼たちが、じりじりと洞窟の中の伊織とりんに向かって近づいてくる。

後ろは真っ暗な洞窟で、正面からは狼の群。
馬は、狂わんばかりにして首に繋がれた紐から逃れようと暴れている。

(・・・また、死ぬの? このまま・・・?)

りんの視界が、ぼやけた。
涙が溢れだしてくる。

(・・・もう・・・会えないの・・・?)

「りん!! 下がるんだ、早く・・・!!」

(・・・そんなの、やだ・・・!)

伊織が、刀を青眼に構えた瞬間、数匹の狼が伊織に向かって飛びかかった。


「殺生丸さま―――――――――――――――っっ!!!!」


襲いかかる狼たちの唸り声と、りんの叫び声とが重なった。














ビシャッと、頬にかかったのが、狼の血だと気が付くのに、数秒かかった。

伊織に襲いかかった狼が、伊織の寸前で、まっぷたつに割れた。
視界を覆うほどの血が飛び散り、りんはぺたり、と腰が抜ける。

青白い閃光に狼の群が次々に切り裂かれていくのを、
まるでりんは夢を見ているかのように、ぼんやりと見ていた。

いつの間にか、伊織も刀を持ったままがっくりと膝を折っていた。


・・・視界が、涙でぼやけた。


血に染まり、骸と化した狼の群。

その洞窟の外にいたのは、りんが名を呼んだ、その人で―――――。



「せ・・・しょうまる・・・さま・・・」




その指から伸びた閃光を血を切るように振ると、殺生丸は血の海をふわりと飛び越えて、
腰が抜けて座り込んだりんのそばに降り立ち、膝をついた。

白皙の顰められた眉。
りんを見つめるその目は、言葉はなくとも、案じていた、と告げていた。

ぼろぼろと、りんの大きな目から涙がこぼれた。

「殺生丸さま・・・」

殺生丸は目を細めて、手を伸ばすとそっと血の付いたりんの頬に触れた。

「・・・汚れてしまったな」

りんの両手は迷い無く目の前の大妖に伸ばされ、
その細い体は広い胸の中にすっぽりと収まった。


「うわぁぁ―――――――――――ん!!」


大声で泣き出したりんを、暖かな両腕が、しっかりと抱きしめた。

子供のように泣きじゃくるりんの頭を、ゆっくりと撫でる。
その優しさに、りんはますます泣いた。

「こ・・・怖かった、よ・・・」

「・・・そうか」

「もう、うっ・・・会えないかと、思っ・・・」

「・・・」

りんを抱く力が、強くなった。

「・・・莫迦なことを」

「・・・殺生丸、さま・・・」

りんがその腕の中で殺生丸を見上げると、

・・・涙でぐしゃぐしゃのまぶたに、そっと、くちびるが落ちた。

その優しさに、りんの目からは、また新しい涙が生まれた。
新しい涙も、ほおに流れる涙も、その優しいくちびるが吸い取っていく。







――――どれくらい時が経っただろう。

その胸の中で、りんの震えがやっと治まった頃。
伊織の静かな声が響いた。

「・・・りんを、連れて帰ってください。 りんを守れるのは・・・あなただ」

その声に、りんはその腕の中でぎこちなく強張る。
・・・自分のことを好きだという人の目の前で、ずいぶん酷いことをしている、と思った。

けれど・・・りんにはどうしても止められなかった。
殺生丸に伸ばす、両手を。

泣きそうになりながら振り返り、伊織を見ると、
伊織は狼の死骸の前に佇んだまま、こちらを向いていた。

「い・・・おり、さん・・・」

「・・・感謝いたします。・・・命を救われた」

刀を片手でもったまま、伊織は殺生丸に軽く頭を下げた。

殺生丸は、りんを片手で軽々と抱き上げると、立って伊織と向き合う。

洞窟の奥の方で、怯えきった馬のいななきが響いた。
血の匂いと、大妖の妖気に怯えているのだろう、とりんはぼんやりと思った。

「・・・よく、分かったよ、りん」

伊織は、血まみれの体を持て余しながら、大きなため息をついて、苦笑を浮かべた。

「・・・俺の入り込む隙間なんて、全く、なかったってことが」

りんは、そう言って微かに笑う伊織の顔を見つめた。
どうしようもない申し訳なさに、涙がにじんだ。

「ご・・・めんなさ・・い・・・」

りんが両手で顔を覆うと、殺生丸のりんを抱く腕に、力がこもった。
洞窟に、りんのすすり泣く声が響く。

「・・・悪かったな、りん。余計なことで悩ませてしまった」

「ごめ・・・なさ・・・」

伊織は、まっすぐに殺生丸を見上げた。

「・・・りんを、頼みます。・・・『殺生丸さま』」

殺生丸はしばらく無言で伊織を見ていたが、

「・・・お前と生きる道も、悪くはなかったはずだがな」

と言い、りんを抱いたまま、洞窟から夜の空へとふわりと飛び立った。

遠くから、犬夜叉の赤い衣がとび跳ねるように近づいてきているのが、
殺生丸の妖の目の端にとまった。


「・・・半妖め。 遅い。」




・・・小雨はもうやんでいて、空には星がまたたいていた。






夜明けの最初の一秒へ 



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