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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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夜明けの最初の一秒<5>


殺生丸は、切なげに、その金色の目を細めた。

りんの両頬を包んだ手のひらが、あまりに優しい。

・・・やがて、低い声が、りんに囁いた。

 


「・・・おまえは、私の子を宿せるようになった、ということだ」

 







夜明けの最初の一秒<5>

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大きく目を見開いたりんが、呟いた。


「・・・りん、が・・?」

殺生丸さまの、子を・・・?
りんの潤んだ黒耀石のような瞳が、頼りなげに揺れる。

それは、どういうことなのだろう・・・?
だって、りんは・・・人間なのに・・・?
殺生丸さまは、半妖は、嫌いじゃなかったの・・・?
それに、殺生丸さまは・・・りんで、いいのだろうか・・・?

・・・そもそも、殺生丸さまは、りんを・・・好き・・・なんだろうか・・・?


尋ねたいことがたくさんありすぎて、うまく言葉にできない。
りんはもどかしい思いで、殺生丸を見つめる。
潤んだ瞳が、不安げに揺れた。

りんの両頬を包む、殺生丸の手のひらが、あまりにも優しい。
・・・少し切なげな、その深い金色の眼差しも。


「・・・・選べ、りん」


りんの潤んだ目が、大きく見開かれた。

「おまえが私とではなく人里で生きるのなら、私はもう二度とおまえの前に姿は見せぬ。
 ・・・私のことは、すべて忘れて生きろ。
 ここで飲んだ黄泉の水も、意味を無くすだろう」

さらさらと、銀色の髪が、りんの肩に落ちた。
殺生丸の金色の目は、切なげに細められる。

りんは震える手のひらを、そっと両頬を包んでいる殺生丸の手に重ねた。

「・・・殺生丸、さま・・・」

両頬を包んでいる、殺生丸の手が、暖かい。
・・・りんの黒耀石のような瞳から、涙が溢れだした。

殺生丸の金色の目の色が、深くなる。

「・・・なぜ、泣く・・・?」

頬に触れている殺生丸の指が、りんの涙を、そっと優しく拭った。

その優しさに、りんは、胸がずきん、とした。
切なくて、胸が痛くて、涙が止まらない。

押さえられなくなった気持ちが・・・言葉に、ならない。

「・・・やだ。・・・そんなの、もう、やだ」

りんの瞳から、涙がこぼれる。
だだをこねるような、子供のような言葉しか、りんの口からは出てこない。

「りん、殺生丸さまと、一緒がいい」

「・・・りん」

「・・・りん、ずっと、一緒にいたかったのに・・・
 殺生丸さまのことが、ずっとずっと、大好きだったのに・・・!」

「・・・・りん・・・」

「・・・それなのに、人里に、りんを置いていったのは、殺生丸さまの方だもん・・・!」

涙が、ぼろぼろとこぼれた。
押さえていた気持ちが、溢れだして、止まらない。

「りんは、ずっとずっと、寂しかったのに・・・! どうして、そんなこと言うの・・・?!」

りんの両頬を包んでいた手が離れたかと思うと、再び、強く、その胸の中に抱きしめられた。
あまりに強く抱きしめられて、りんは息が止まりそうになる。

「・・・・っ」

・・・あんなに優しい殺生丸さまを、詰ってしまった。

殺生丸さまは、りんのことを考えて楓さまに・・・人里に預けてくれたのに。
分かっているのに、詰ってしまった。
・・・りんは、どうしようもない、わがままな子だ。
そう思うと、ますます、涙が止まらない。

りんがその暖かな胸の中で、嗚咽を漏らしたとき、
りんの頭の上で、苦しげな殺生丸の声が響いた。

「・・・置いていくのは、おまえの方だ・・・」

「・・・?」

りんは涙目で、殺生丸を見上げる。

「・・・私には、どうすることも・・・できぬ」

人里に一人残されて寂しい思いをしていたのは、りんだ。
どうやって、りんが、殺生丸を置いていくことができるだろう。

「りんに、そんなことできるはず・・・」

言い掛けて、りんは息を飲んだ。
・・・りんの瞳を見て、殺生丸の金色の瞳が、苦しげに揺れた。

 

 


―――――暗闇にパチパチとはぜる焚き火、邪見の声。
 

「どうしてって・・・ワシらは100年くらいどうってことないが、人間のおまえではのー・・・」
「その頃には、とっくに死んでおるだろうからのー・・・」


・・・月のものが始まったときに見た、残酷な、悲しい夢を思い出す。
 

「・・・・いつか、りんが死んでも・・・」
「・・・りんのこと、忘れないでいてくれる・・・?」
 

・・・幼かったあの日、そう口にしたのは、自分だ―――――・・・。

 


「・・・・っ!」

胸が、ずきん、と痛んだ。
りんは、思わずぎゅっと目を閉じて、殺生丸にしがみつく。

・・・・・・そうだ。

置いていくのは・・・りんだ。
殺生丸の永遠に近い生の中で、りんが存在できるのは、ほんの一瞬でしか、ない。

・・・分かっていたはずだ。
生きる世界も、生きる時間も、すべてが違うことなど。

きっと、殺生丸さまは、とても遠くを見ているのだ・・・。
・・・りんが、生きては見ることのできない先の世界を。
300年以上生きてきた妖だからこそ、見えてしまう未来を。

たった一人、残されてしまう未来を・・・・。


「・・・ごめ・・・なさい・・・」

胸が痛くて痛くて、涙が止まらない。
りんは、震える声であやまることしか、できない。

「・・・ご・・めん、なさい・・・殺生丸さま・・・」

殺生丸さまは、きっともう・・・分かっているのだ。
分かった上で、りんを、受け入れようとしてくれているのだ。

・・・たとえ、ほんの僅かの間であっても、りんが、それを望むならば、と・・・。

・・・・・・りんが、それで幸せならば、と・・・。

 

 

 

・・・どれくらい、泣いていただろう。
気がつくと、殺生丸の長い指が、泣いているりんの頭を優しく撫でていた。
・・・何度も、何度も。

こんなふうに、殺生丸さまがりんのことをあやすように撫でてくれるのは、
いったいどれくらいぶりだろう、とりんは思う。
小さな頃は、会いに来てくれる度に抱きついて、
その膝の中に座り込んで、無造作に甘えていた。
行儀が悪いと邪見に叱られて、殺生丸の膝の上に逃げたこともあったくらいだ。

・・・いつからだろう。
無造作に抱きつくことに、躊躇いを覚えるようになったのは。
・・・その手が、当たり前のようにりんに触れなくなったのは、いつだったのだろう。

・・・ずっと、大人になるのは、怖かった。
殺生丸さまが、もう、会いに来てくれなくなるのではないかと思って。

けれど、きっと、一月前のあの日。
殺生丸に口づけされたことで、りんの中の、何かが揺さぶられて、目を覚ましたのだ。

・・・もっと、と望む声がした。
自分の中の、深いところから。

「殺生丸さま、・・・もっと」、と。

怖くて、それにも、聞こえない振りをしていたのかもしれない。
でも、体は目を覚ましてしまったのだ。
月のものが始まり、今は、こうして殺生丸さまの胸の中にいる。

りんを優しく撫でるその手のひらも、りんを支えてくれているもう片方の腕も、
・・・きっと、もう幼い子供を抱いているのでは、ない。

りんは、暖かい胸の中で、涙声で、聞いた。

「・・・殺生丸さまは・・・りんで、いいの・・・?」

おそるおそる、殺生丸を見上げてみる。
りんの、不安げな瞳が揺れた。

「・・・それに、・・・半妖は、嫌いなんでしょう・・・?」

りんの問いに、殺生丸が目元をふと、緩ませる。
頭を撫でていた手が、そっとりんの涙を拭う。

「この手で守りたいと思うものも、この手で触れていたいと思うものも、
 ・・・他の者が触れるのを許せぬほど愛しいものも、
 ・・・私には・・・おまえしかおらぬ」

「殺生丸さま・・・」

その言葉に、また、涙が溢れてくる。
こんなたくさんの愛情を、りんが貰っても、本当にいいのだろうか。
潤む瞳で殺生丸を見上げたりんの額に、優しく殺生丸の口づけが落ちた。

「・・・それに・・・おまえに似た、守らねばならぬ者が増えるのは、悪くない」

「・・・・・・殺生丸、さま・・・」

その言葉の意味に、ぽろぽろと、幸せな涙がこぼれた。
幸せすぎても、人は、泣くのだ。

目の前の妖にも、それは伝わったのだろうか。
・・・優しく、優しく、たくさんの口づけが落ちた。
その涙を、優しい唇が、次々に吸っていく。

「・・・りん・・・」

「殺生丸さま・・・」

「・・・・・・・りん・・」

 

 

・・・もっと。

・・・もっと、呼んで。

りんのことを、もっと、呼んで。

・・・もっと、りんに触れて・・・。

もっと、もっと、たくさん、りんに触れて・・・・。

・・・・・お願い・・・殺生丸さま・・・・・
 


 

 

・・・目を閉じた、りんの上に、たくさんの甘い甘い、口づけが落ちた。

まぶたに、頬に、くちびるに・・・
耳たぶに、うなじに、首筋に、髪に・・・。

殺生丸さまが、触れたところから、甘い熱が広がっていく。
体が、溶け落ちてしまうほどの、甘い毒。
・・・自分を、支えられなくなるほどの。

・・・それでもりんは、もっと、と思ってしまう。
・・・どうしようもなく。

殺生丸がりんの小袿(こうちぎ)を、そっと肩から下ろした。
金銀の糸をふんだんに使った豪奢な小袿は、その重みで簡単に床へ落ちる。
片鍵に結んであった緋袴は、前に垂らしていた紐を引くだけでするすると解け、
りんの腰から落ちていく。

一番下に着ていた着物に手を掛けたところで、殺生丸の動きが止まった。
最後の一枚を手にしたまま、金色の目が、切なげに細められた。

「・・・・・りん・・・おまえは・・・」

怖くはないのか、と、問われている気がした。
殺生丸の目が、りんを案じている。

そして、未来へ踏み込むことを・・・躊躇っている気がした。


りんは、泣きはらした目で、微笑んだ。
小さな手を、そっと、殺生丸の両頬に当てる。

・・・さっき、りんの頬を優しく包んでいてくれたように。
りんの手のひらも、優しく感じていて欲しいと思いながら。

 

怖くない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















「・・・殺生丸さま・・・・・・・・」


 

・・・知っているでしょう? ・・・殺生丸さま。

・・・殺生丸さまと一緒なら・・・りんは、何も怖くない。
 

 

殺生丸の後ろの庭から、茜色の光が差し込んでいるのが見えた。
霧に包まれた、朝日の柔らかな茜色の光。

 
 

夜明けの、最初の一秒。

 



<6>へ

 イラスト・・・psychopomp  ・・・時子さまより

 

 

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