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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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夜明けの最初の一秒<4>

朝凪と夕凪に案内されて、長い長い渡り廊下を歩き、
やっと辿りついたりんの目の前には、
一面の金箔に、極彩色で大きな鳳凰が描かれた、絢爛豪華な襖がある。

こんな煌びやかな美しい絵の描かれた襖を見たのは初めてで、
りんは思わず目を見張ってしまった。

その絢爛豪華な襖の前で、朝凪と夕凪が、大きな声で霧姫を呼ぶ。

「霧姫さまー」
「霧姫さまー」

「姫さまのお支度が、整いましてございます!」







夜明けの最初の一秒<4>

 

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「・・・お待ちしておりましたわ。 どうぞ、お入り下さいませ」


部屋の中から霧姫の声が響き、朝凪と夕凪によって、
りんの目の前の豪奢な襖がゆっくりと開かれていく。

りんは、目の前に広がる光景に、思わず息を飲み、言葉を失ってしまった。

朱塗りの雪洞(ぼんぼり)に照らされた広い部屋には、
蔀(しとみ)と御簾が上げられ、庭からも柔らかな月の光が煌々と差し込んでいる。
月の光でほの明るい広縁に、酒杯を手にした殺生丸が、
柔らかな着物と袴だけの姿で座していた。
柔らかな月の光をまとった殺生丸の姿は思わず息をのむほど美しく、
その側に控える、かぐや姫のような十二単の霧姫もまた、見とれるほどに美しい。

りんは、あまりの美しさにぼうっとしてしまった。
殺生丸さまの一族とは、皆、なんと美しいのだろう。
・・・本当に、物語の中の世界のようだ。


「・・・まあ、りんさま、よくお似合いですこと! ねえ、殺生丸さま?」

嬉しそうな霧姫の声に、りんは、はっと我に返る。
慌てて、ぺこり、と頭を下げた。

「あっ、あの、湯殿を使わせていただいて、ありがとうございました・・・!」

湯殿からこの部屋までは、長い長い渡り廊下を歩いてきた。
美しく磨き上げられた渡り廊下はぴかぴかで、
とにかく着物の裾を汚さなくてすんだことに、りんはほっとした。
なんせ、袴も小袿(こうちぎ)も引きずって歩かねばならないほど長い。
それでも、この姿は略装なのだと朝凪と夕凪から聞いて、りんはびっくりしてしまった。

「湯殿での習わし、無事、ご奉仕申し上げましたー」

りんの後ろで、その朝凪と夕凪が嬉しそうに声を揃えて言うと、
かすかに霧姫と殺生丸がうなずいた。

「あ、あの、霧姫さま・・!
 これしか着替えがないと伺って、お着物をお借りしました・・・!
 こんな良い着物を、本当に申し訳ありません・・・!!」

りんが慌てて霧姫にそう言うと、霧姫はにっこりと微笑んだ。

「お気になさる必要はございませんわ。
 ・・・それは、りんさまの為にご用意したお召し物でございますゆえ。
 どうぞ、そのままお召し下さいませ」

「・・・えぇっ!?」

りんは驚いて、あまりのことに、言葉が出てこない。
りんはてっきり、霧姫の着物を借りているのだとばかり思っていた。

「そそ、そ、そんな、りん、こんな着物、いただけません・・・!!
 ど・・・どうしよう・・・!」

りんは泣きそうになって殺生丸を見る。

生まれて初めて美しい衣にその身を包まれて、
泣きそうな顔であたふたする人間の姫の、なんと元気で可愛らしいことか。

りんのあまりの慌てぶりに、霧姫は堪えきれずとうとう笑い出してしまった。
まったく、こんなに笑う夜など、一体どれくらいぶりだろう。
霧姫は笑い涙を檜扇で隠しながら、ちらりと殺生丸を見た。

殺生丸は涼しい顔をしてりんを見ている。

(・・・あの気位の高い殺生丸さまが、ずいぶんと謙虚な姫さまを好きになられたこと)

自分が乳母として天空の宮にてお育て申し上げた頃は、
あまりの美しさと冷酷さに、氷の君とすら呼ばれていたものだ。

・・・その殺生丸が、まさかこんな陽だまりのような人間の姫を愛したとは。

(・・・まったく、妙なところが、お父上に似たものだわ)


霧姫はくすくすと笑いながら、立ち上がる。

「・・・さあ、朝凪、夕凪、私たちは席をはずしましょう。
 ・・・りんさまには殺生丸さまからお話があるそうですわ」

すれ違いざまに、それでは、と軽く会釈して、
霧姫はくすくすと笑いながら部屋から出ていってしまった。

朝凪と夕凪がその豪奢な襖を閉め、霧姫の衣擦れの音が遠ざかってしまうと、
りんは途方にくれてしまった。
こんな身分違いも甚だしい着物を着たままで、一体どうしたらいいのだろう。
このまま帰ったら、間違いなく楓さまは、りんを見て腰をぬかしてしまうだろう、と思う。

(・・・・困ったなあ・・・どうしよう・・・)

閉じた襖を見て、ため息をつきながら肩を落としていると、
殺生丸の低い声が響いた。

「・・・りん」

「は、はい・・・!」

りんがその声に思わずくるりと振り返ると、金色の目が、まっすぐにりんを見ていた。
誰よりも綺麗な・・・りんの大好きな、妖の金色の目。

まっすぐに見つめられて、囚われて、
・・・りんは金縛りにあったように動けなくなってしまう。

「・・・・座れ」

「・・・は、はい・・・」

部屋の中に殺生丸と二人きりになったことを改めて自覚すると、
りんは、胸が急にどきどきとしてくるのを感じた。
ぎこちなく豪奢な小袿を引きずり縁側まで歩いていくと、
柱にもたれたままの殺生丸の側に座る。

そういえば、部屋を出ていくときに、
霧姫さまは、「殺生丸さまからお話がありますよ」と言っていた。

・・・お話とは、なんだろう。
りんは月明かりをまとった殺生丸を見上げる。


「・・・・」

殺生丸は側に座った小袿姿のりんをしばらく見つめていたが、
ふと切なそうにその金色の目を陰らせると、りんから目を逸らし、
そのまま夜空に浮かぶ月へ視線を移してしまった。

夜空に浮かぶ月は、霧を纏いながらも、煌々と輝いている。
満月までは、あとわずか満ち足りない、小望月。

 


「・・・・・」


・・・二人が口を閉ざしたまま、どれくらい時間がたっただろう。

月を見上げたまま、殺生丸はなかなか口を開かなかった。

考えてみれば、月に一度の逢瀬でも、
いつもりんが、一方的に人里での出来事を話している。
殺生丸は、りんの話を聞いて、かすかに頷いてくれるだけだ。

けれど、時たま頷いてくれるだけでも十分りんは幸せだったし、
そのことを特に気に留めたこともなかった。
りんが知る限り、もともと殺生丸はとても無口だったし、
たとえ言葉には出さなくても、りんのことをちゃんと気に掛けてくれていることは、
旅をしている頃から、よく分かっている。
ましてや、人里に会いに来てくれるようになってからは、
ただ会えるだけでもりんは十分に幸せだった。

・・・りんは、月を見る殺生丸の横顔を、そっと見上げた。
りんが知る限り、この世でもっとも美しい、横顔を。

りんが人里に預けられてから、殺生丸の方から改まって話など、一度もない。

・・・話とは、いったい何だろう・・・?
・・・とても、大切なことなのだろうか・・・?

「・・・殺生丸さま・・・?」

りんがそっとその名を呼ぶと、殺生丸は目を細めて、りんを見た。

「・・・お話って・・・?」

りんの問いに、殺生丸はようやく、その重い口を開く。

 

「・・・この屋敷のことを話しておく。
 この霧の館は、黄泉と現世(うつしよ)のあわいに存在している。
 この屋敷のことは、一族の中でも限られたものしか知らぬ。
 ・・・この屋敷が必要なものしか、知る必要がないからだ」

「・・・あわい・・・?」

「・・・そうだ。 ・・・ここは、黄泉でもあり、現世でもある」

りんは、不思議な気持ちで、庭に漂う、濃い白い霧を見た。
この屋敷にやってきた時に殺生丸とりんを包んだ白い霧は、
風に流されることもなく、まだこの屋敷全体を包んでいる。
いつも霧に包まれているから、霧の館というのだろう。

・・・そういえば、あの世とこの世の間にあるという殺生丸さまのお父上のお墓も、
このような白い霧の世界だと、小さい頃に邪見さまから聞いたことがある。
白い霧の立ちこめる世界の谷底に、
それはそれは大きなお父上が厳かに眠っていらっしゃるのだ、と。

あの世とこの世のあわいとは、こういう霧の立ちこめる場所なのだろうか・・・?


「・・・200年前、ここでおまえと同じように、犬夜叉の母が湯殿を使った」

殺生丸の言葉に、りんは、はっとして目を見開いた。

思い出した・・・!
・・・そうだ、「十六夜」とは、犬夜叉さまの、母君の名前だ・・・!
殺生丸さまのお父上との間に、半妖の犬夜叉さまを産んだ、人間の女の人。
とても美しい貴族の姫君だったと、昔話の好きな蚤のおじいちゃんからも聞いたことがある。

以前、叢雲牙という冥界の剣と殺生丸さまが戦った時、
天生牙を抱えたりんは鬼にさらわれ、かごめさまとともに敵の城に連れて行かれてしまった。
その時、黄泉の国からよみがえったという猛丸という敵の男に、言われたのだ。

「妖怪と行動を共にする女は、皆、あの憎い十六夜なんだ・・・!!」と。

妖と共にいるというだけで、あんなに激しい憎しみをぶつけられたのは初めてで、
とても怖かったことを覚えている。

だが、十六夜さまは、どうしてこの屋敷へきたのだろう。
どこか道行きの途中で、雨にでも降られたのだろうか?
・・・少なくとも、貴族のお姫さまが、
りんのように頭から狼の血をかぶることはないように思われた。

「どうして、犬夜叉さまの母上さまが、ここに・・・?」

りんの問いに、殺生丸は酒杯に視線を落として、言った。

「・・・犬夜叉が生まれる前の話だ」

酒杯の中には、ゆらゆらと月がうつり、あえかな光を放っている。

「・・・おまえが使った湯殿の湯は、黄泉の国から湧いている」

殺生丸の言葉を理解するのに、りんは数秒かかった。

「・・・・・えっ?!」

・・・ということは、りんは黄泉の国の温泉につかったということではないか。
黄泉の国とは、言わずもがな、死者の国だ。
りんは思わず、腕をさすり、自分の手の裏表をまじまじと見てしまう。
けれどあれは、ただの、気持ちのいい温泉としか思えなかった。
事実、朝凪と夕凪が洗ってくれた体は汚れもすっかり落ちて、綺麗なものだ。

「・・・でも、りん、何とも・・・ないよ・・・?」

両手を前に出したまま、おずおずと殺生丸を見上げたりんの、
その右手の手首をそっと殺生丸が掴む。

「・・・殺生丸さま・・・?」

手首を掴まれたまま、りんが首をかしげて殺生丸を見上げると、
・・・殺生丸が、切なげに目を細めた。

「・・・・・りん・・・」

くい、と殺生丸がその手を引くと、
りんの軽い体は簡単に腰から浮き上がり、前のめりに倒れ、
・・・りんは殺生丸の胸の中にぽすっと倒れ込んでしまった。
そのまま、殺生丸の逞しい両腕が、りんを強く優しく、胸の中に抱きしめる。

「・・・っ」

りんは、目を見開いた。
予想だにしていなかった殺生丸の行動に、あまりに胸が苦しくて、息がうまくできない。
・・・突然のことに体中の血が、沸騰しているようだった。

この屋敷に来る時、殺生丸に抱えられて、空を飛んで来たように、
鎧越しにりんが抱き抱えられることは今までに何度もあったが、
直接その胸の中に抱きしめれたのは、初めてだ。

広い胸の中に、その両腕に閉じこめられて、身じろぎもできない。
その胸の暖かさに、思わず泣きそうになってしまう。

りんは、思わずぎゅっと目を閉じる。
・・・涙が、にじんだ。

・・・どうしよう。

・・・・好き、だ。 どうしようもなく。

 

「・・・せ、しょう、まる・・・さま・・・?」

りんの声は、みっともないくらいに震えてしまった。
その声に、殺生丸の腕の力がこもり、ますますりんは強く抱きしめられる。

殺生丸はりんを抱きしめたまま、耳の側で、囁くように言う。

「・・・私の体内には、猛毒がある。・・・知っているな?
 一族の中でもまれなほどの、強い毒だ。
  ・・・人間など、たやすく溶かしてしまう」

「・・・は、い・・・」

りんは、やっとの思いで、返事をする。
殺生丸の低い声が、りんの耳のすぐ側で聞こえている。
・・・りんは、朦朧とする意識の中で、耳に触れる殺生丸の吐息こそが、甘い毒だと思った。
耳に殺生丸の吐息が流れ込む度、体の芯が溶けそうになる。
息をするのも、やっとだ。
・・・りんを溶かす、甘い、甘い、猛毒。

「・・・黄泉の源泉の水を、飲んだか・・・?」

「・・・は、い・・・皆、飲むのだ、と、あの子、たちが・・・」

「・・・・・・そうか」

殺生丸の唇が、りんの耳朶に、ゆっくりと触れた。
びくん、と、殺生丸の腕の中で、りんの背がゆれる。

耳朶に落ちた唇は、そのままりんのうなじに落ちた。
一度、二度、三度、と、殺生丸の唇に触れられたところから、甘い痺れが広がっていく。
・・・これは、殺生丸さまの、毒なんだろうか・・・?
堅く閉じられた両腕の中で、りんはどこにも逃れられない。
殺生丸の口づけは、うなじから、りんの首筋へと移る。
体が溶け落ちてしまうような感覚に、涙をにじませたまま、りんは、浅い息を繰り返す。

「・・・・・っ!」

首筋を這うその唇の甘さに耐えられなくなったりんが声にならない声をあげたとき、
殺生丸はその両腕を解き放ち、その手のひらで、りんの両頬を優しくそっと包んだ。
いつの間にか、りんは殺生丸の膝の上に抱え込まれて座っていた。
体の芯が溶かされたように、どうしようもないくらい、力が全く入らない。

「・・・りん」

「・・・せ、しょう、まるさま・・・?」

熱を帯びた金色の眼差しが、戸惑うりんの濡れた黒耀石のような瞳と、絡み合う。

「・・・イザナギとイザナミの伝説は知っていよう?
 黄泉の国の食べ物を口にしたが最後、生きとし生けるものは、黄泉の国でしか生きられぬ。
 ・・・だが、ここは黄泉と現世(うつしよ)のあわいだ。
 このあわいに湧く黄泉の水で身を浄め、その源泉の水を飲んだおまえは、
 生きたまま黄泉をその体の一部と成した。
 あの水が、おまえの体を内から守るだろう。
 ・・・これで、私の毒が、おまえの体内を損なうことはない」

りんは、濡れた目で、殺生丸を見上げる。
かすかに、眉をひそめ、首を傾ける。

「どう、いう・・・こと・・・?」

りんが、熱で溶け落ちそうな体を持て余したまま、やっとの思いで聞くと、
殺生丸は、切なげに、その金色の目を細めた。


りんの両頬を包んだ手のひらが、あまりに優しい。

・・・やがて、低い声が、りんに囁いた。

 


「・・・おまえは、私の子を宿せるようになった、ということだ」

 

 



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