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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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無くした片方<4>

 

 


「・・・まあ、諦めたほうが身の為だぜ」


宗之丞は俺の言葉に、がっくりと肩を落とした。

 



無くした片方<4>

拍手[67回]

 



俺の名は、犬夜叉。
今は、かごめと共に、人里で暮らしてる。

奈落を滅して3年後、かごめは俺の元に帰ってきてくれた。
あの時の気持ちは、忘れられねえ。
あっちの世界で、安全に、幸せに暮らしてくれているなら、
それで満足しなくちゃいけねえ、そう必死で思い続けた3年間だった。

けど、どんなに離れていても、かごめを想う気持ちは薄れなかった。
それどころか、好きだという気持ちは、どんどん強くなっていく。
昼間は人里で力仕事を何やかんやと頼まれて、平常心で過ごせても、
夜になると、かごめのことを考えずにはいられなかった。

かごめが帰ってきてくれたあの日。
俺は、本当に本当に、幸せだったんだぜ。
誰かを好きになって、相手からも愛されるってのは、
なんか、胸の中があったかくなるんだな。
そんな気持ちを教えてくれたのは、かごめなんだ。
本当に、感謝してる。

半妖の身に生まれたことで、荒んでた時期もあったけどよ。
今になってみれば、おふくろの気持ちも分かるんだよな。
たとえ妖怪であっても、きっと、親父の事を本当に好きだったんだろうってな。


・・・だからよ。

まあ、何つーか、一応、宗之丞の気持ちも分からなくはないんだぜ。
誰かを好きになるのは、止められるもんじゃねえしよ。

けどなあ、りんの気持ちは、迷いなくあいつの方を向いてるんだよな・・・。
そりゃあ、俺から見たら、りんはあんな奴のどこがいいんだって思うけどよ。

・・・けど殺生丸の野郎、りんにだけには、優しいんだよな。

りんに、「お前、だまされてるぞ」って、何度言おうかと思ったけどよ。
あいつとりんの間に、一体何があったのか、いまだに俺はよく知らねえし、
りんが、「殺生丸さま、本当に優しいんだよ」とか、幸せそうな顔して言っての見てると、
少なくとも、りんにとってはあいつはそういう存在なんだろうと思ってよ。

けど、実際に、村に通ってくるあいつの姿を見ていると、
本当に、初めて会った頃とは、ずいぶん変わったって思うんだよな。

誰かを慈しむ、そんな感情があいつにあるとは思っていなかった。
けど、そういう気持ちのまったく無い奴に、天生牙が使いこなせるはずもねえし、
殺生丸のそういう部分を知っているのは、りんだけなのかもしれねえし。
そこらへんが、俺にはよく分からねえんだよなー。

何せ、殺生丸にとってりんが特別な存在であることは間違いねえし、
りんにとっても、それは同じだ。

それに・・・俺も、半分妖怪の血が混じってるから、なーんとなく分かるんだけどよ。

多分、妖怪は・・・気持ちが揺らぐことがねえんだよな。
永い時間を生きるからかもしれねえけどよ。
人間みたいに、器用に、気持ちを切り替えて生きることができねえ。

だから、殺生丸が大切に想う存在がりんなんだとしたら、
多分・・・この先もずっと変わらずに、そうなんだ。
そういう気持ちは、妖怪にとっては、死ぬまで変わることはねえと思うんだ。

だから、冷酷無比って言われた、あいつにそういう存在がいるんだとしたら、
何となく・・・あいつの味方をしなくちゃいけねえような、そんな気になっちまう。

殺生丸の野郎には、口が裂けても言えねえけどよ。
そんなこと言ったら、多分、俺がぶっ殺されるだけだからな・・・はは。


だから、あからさまに凹む宗之丞の顔を見ていると、少し気の毒な気もするけどよ。
けど、こういうことは下手に未練を残す方が、こいつの為にはならねえだろ。

・・・ま、多分、どう転んでも片想いなんだしよ。

「・・・・そうか・・・りんは、あの妖怪を・・・」

宗之丞は、肩を落として、呟いた。
俺は、びしょびしょになった火鼠の皮衣を絞りながら、言った。

「なんつーか、あいつらの関係は、俺たちもよく分からねえんだけどよ。
 多分、りんの気持ちは、そうなんだと思うぜ。
 りんは小さい頃に、あいつに拾われて育ったようなもんだからな。
 まあ、この先、どうなるかは分からねえけど・・・」

「若君、お考え直しくださいませ!
 妖怪付きの娘など、お館さまがお許しになるはずがありません!!」
「そうですぞ、若君!」

完全に凹んでしまった宗之丞に、二人の家来が唾を飛ばして言う。

まったく、目の前で妖怪はダメだの何だの言いやがって、
少しは半妖の俺にも気を使えってんだ。
まあ、仕方ねえよな。
妖怪ってのは、大概の奴が、人間にとっては悪さする奴だもんな。
七宝や雲母みたく、人間に寄り添って生きていける奴も中にはいるけど、
人間は餌くらいにしか思っていない奴もたくさんいるからな。
「妖怪は怖い」くらいに思っている方が、こいつらの為なんだろう。
まあ、目の前でそう言われると、俺はちょっと腹が立つけどよ。
ま、それも、もう慣れっこだからな。
別に構わねえよ。
今では、ちゃんとした理解者もいてくれるしな。

楓ばばあとかごめが小屋から出てきて、俺たちの姿を見てこっちに歩いてきた。

ってことは、りんの傍には、殺生丸が残ってんのか。
あいつが人間の小娘の看病してるなんて、昔じゃ考えられねえよ。

けど、殺生丸に、守りたいものも大切に思うのも、りんしかいねえんだとしたら、
すっとんでくる気持ちも、分からなくはねえな。
大切に思えば思うほど、失うのは恐ろしくなるもんだ。
毒蛇に咬まれたことを察したときは、さぞ腹立たしかっただろうぜ。
本当はこんな村の中に預けておくより、自分が傍で守ったほうが、よっぽど安全なんだ。
それなのに、敢えてりんの未来を考えて、わざわざ離れているんだもんな。

宗之丞はかごめの姿を見ると、慌てて立ち上がり、駆け寄って行った。

「み、巫女どの・・・! りんは、りんは大丈夫なのか?!」

「わ、若君・・・! いけません!!」
「そ、そうですぞ、若君!! 妖怪付きの娘など!!」

焦ったように宗之丞を止める家臣を見て、かごめは一つため息をついて、にっこりと笑った。

「心配しなくても大丈夫よ。
 さっき、殺生丸が持ってきた毒消しを飲んだの。 すぐに直に元に戻るらしいわ」

笑ってそう言うかごめを見て、俺はホッとすると同時に、心の中があったかくなる。

人間と妖怪との間には、どうしても越えられない溝があることは確かだ。
こいつらみたいな普通の人間には、妖怪と人間との心の繋がりなんか、
理解できなくても、仕方のないことなのかもしれねえ。
けど、そこで明るく笑っていられるかごめの姿を見ると、
俺は本当に、何というか・・・救われたような気持ちになるんだよな。


「心配を掛けたの、宗之丞殿」

楓ばばあはそう言うと、軽く頭を下げたまま、言った。

「・・・りんは、まだまだ子供でしての。
 申し訳ないが、縁談の話は、伺うことはできませぬ」

「・・・・楓どの・・・」

がっくりと肩を落とした宗之丞君に、俺は肩をたたく。

「・・・ま、そういうことだ。
 とりあえず、あいつが小屋から出てくる前に帰った方が身のためだぞ」

その言葉を聞いて、家臣二人は慌てたように、宗之丞を引っ張って帰っていった。

「わ、若君の身に何かあれば、私共が責任を問われますっ!!」
「そうじゃ、若君の御身が第一!!」

そんな慌てて去っていく家臣の様子を見て、かごめが眉を寄せて俺に聞いた。

「何? あの人たち、殺生丸と何かあったの?」

俺はそんな三人を見ながら、頬をさする。
口元が少し切れていて、口の中にはじんわりと血が味が残っている。

「やだ、犬夜叉。それもしかして、殺生丸に殴られたの?」

かごめは俺の傷に気付いて、眉間にしわを寄せた。

「ああ。宗之丞の代わりに殴られた」

「えぇっ?! 何それ!?」

かごめの呆れたような顔を見ながら、俺はがりがりと頭をかいた。
何から話せば、かごめに分かってもらえるかどうか分からねえ。
一発殴らねえと気がすまねえっつーか、こういうのって、女には、分かんねえのかな。

「・・・仕方ねえだろ。
 普通の人間があいつに殴られたら、死んじまうぜ。
 殺生丸の奴、りんが蛇に咬まれたことにも怒ってたのかもしれねえけど・・・
 あいつの鼻なら、ここ何日間か、宗之丞がりんにべったりくっついていたことも、
 匂いで分かってたはずだし、それにもかなりイライラしてたはずだぜ。
 りんが蛇に咬まれた時のことも、多分あいつの鼻なら、何があったか分かってるはずだ。
 ・・・宗之丞の奴、りんが蛇に咬まれた時、傷から毒を吸い出したって言ってたろ?」

「それが、何?」

「・・・それが何って・・お前、なあ」

俺は、ますますがりがりと頭をかいた。
何で、分からねえんだよ。
りんだって、あいつが出会ったころの小っちゃいガキとは違うんだ。
最近は手足もすんなり伸びて、女っぽくなってきたし、
もう子供とはいえない年頃になってきてるんだぜ。
・・・自分の大事な女の肌に、自分以外の野郎が吸いつくなんて、許せるかよ。
たとえ、毒を吸い出すためでも、だよ。

俺だって、かごめが同じように、他の野郎から吸いつかれたりしてるなんて、
想像するだけで虫唾が走るっての。
そんなの、ぜってーに、許せねえ。
あいつの性格を考えれば、俺以上にそう思うことなんて、簡単に分かりそうなもんだけどな。

「・・・やあね、相変わらず乱暴なんだから」

ため息をついたかごめを見て、
やっぱり、こういうのは女には分からねえのかな、と、俺は思う。

さっき殺生丸は、ものすごい勢いで空からやってきたが、俺のことなんて見ちゃいなかった。
とんでもない殺気を振りまきながら、睨み据えていたのは宗之丞だ。

あいつが不愉快そうに口を開いたのは、たった一言。

「・・・貴様か、りんに纏わりついていた虫は」

それだけだ。
俺が焦って、宗之丞とあいつの間に割り込むと、
あいつは、初めて俺に気がついたような顔をした。

・・・で、俺が口を開く前に、思いっきり殴りやがった。

まったく、八つ当たりもいいところだぜ。
川の中まで吹っ飛んだじゃねえかよ。
けど、多分それで気が済んだのかもしれねえな。

ビリビリと、触れるだけで殺されそうな妖気を纏ったまま、
あいつはりんの眠る小屋の中へと入っていったんだ。

川の中で、慌てて立ち上がった俺が見たのは、腰を抜かして震える宗之丞と家臣だった。

そこに、阿吽に乗った邪見が桃を抱えてやってきて、
殺生丸の後を追って行ったわけだ。

「・・・りんは、大丈夫なのか」

俺がそう聞くと、かごめは小屋を振り返りながら言った。

「大丈夫みたい。殺生丸が、直に元に戻るって、そう言ってたわ。
 けど・・・なんていうか・・・久々にドキドキしちゃったわー・・・」

かごめは顔を赤らめて、胸の前で手を組んで、なんか妙にうっとりしてやがる。
何を言ってんだ、こんな時に。

「どうしたんだよ」

俺は小屋を見て、眉を寄せた。

「・・・すっごく、鮮やかだったわよねえ、楓おばあちゃん」

「・・・ま、まあな」

楓ばばあが、妙に赤くなって、ゲフンゲフンと咳払いをした。

「なんか、ドラマ見てるみたいだったわー」

どらま?!
何だ、それ。


怪訝そうな顔をした俺に、かごめは、ふふふ、と笑った。

「・・・りんちゃんの意識が無かったのが残念だわ」

「・・・?!」

何のことか、ちゃんと分かりやすく言えよ。
何なんだよ。


・・・まあ、りんが助かったんだったら、何でもいいけどよ。

 

 

 

 

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